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パリ五輪
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試しに「ラストベルト」と検索してみると、次々と検索結果が表示される。「錆びた工業地帯」とも訳されるこの語は、2016年の米大統領選挙を説明するキーワードとして一気に認知度が上がった。トランプ現象の震源地。ラストベルトに住む「忘れられた人々(forgotten people)」の叫びをただ一人聞き取ったのはトランプ候補だったという説明。この言説を説得的に裏づけたのがラストベルトの叙事詩、J・D・ヴァンスの『ヒルビリー・エレジー(Hillbilly Elegy)』(2016年)だった。 同書冒頭には次のような一節がある。「僕は白人かもしれないが、北東部のワスプの一員とは違う。僕は大学をでていない何百万といるアイルランドからきたスコットランド系白人労働者階級のアメリカ人の一員だと感じている。彼らはずっと貧困のうちに暮らしてきた ... 普通のアメリカ人は彼らをヒルビリー、レッドネック、もしくはホ
モディ常勝神話の終焉 ナレンドラ・モディが初めて負けた。しかしモディ率いる与党連合は辛うじて勝利を収めた。2024年6月4日に開票された第18次インド連邦議会議員選挙(総選挙)の結果を端的に表現するならば、こういうことになるだろう。 これまで、選挙におけるモディの強さは折り紙付きのはずだった。2001年に西部グジャラート州の州首相に就任すると、翌2002年の州議会選挙から3回連続で、自らのインド人民党(BJP)を州議会の単独過半数に導いた。2014年総選挙において、国政で10年間野党に甘んじていたBJPの首相候補として登場すると、BJPは党史上最多の282議席を獲得した。2019年に現職首相として戦った総選挙では、その記録をさらに更新する303議席という圧勝ぶりだった。今次総選挙直前の2月の連邦議会でモディは、「BJPだけで370議席、与党連合の国民民主連合(NDA)で400議席を獲得する
緊急提言『核の不使用継続と核秩序維持に向けた緊急提言~2024日米首脳会談を前に~』 笹川平和財団安全保障研究グループの「核の軍備管理に関する研究」(2023-24年度)において設置している「新たな核の軍備管理・軍縮構想研究会」(座長:鈴木達治郎長崎大学教授)は、ウクライナ侵攻に伴うロシアの核による威嚇、急速に核の軍備増強を進める中国の動向、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮の動きなど、核使用のリスクがかつてなく高まる中で、核使用のリスクを低減し、将来の核軍備管理・軍縮への方策を探るべく、緊急提言『核の不使用継続と核秩序維持に向けた緊急提言~2024日米首脳会談を前に~』を公表します。 笹川平和財団
ネットワーク境界機器を狙う中国によるサイバー攻撃 2019年末に中国武漢から始まった新型コロナの流行により、多くの国で緊急事態の宣言やロックダウンが行われ、世界中で働き方が大きく変わることとなった。ロックダウンにより外出制限が行われ、また、緊急事態宣言により外出自粛が促されたため、多くの国でビジネスを継続するためにテレワークが一般化した。テレワークは、組織内部のネットワークをインターネット側にさらすリスクもあるため、政府機関等は導入に慎重であったが、コロナ禍で出勤ができない以上、背に腹はかえられなかった。各企業や行政機関では、テレワークを実施するために、VPN(仮想専用通信網)を構築することによって、家庭や組織外からインターネットを経由して組織内の専用ネットワークにアクセスする場合においても一定の安全性を確保することにした。 このようなIT利用の変化を、サイバー攻撃者も見逃すはずはなく、2
2023年10月以降の中東でのテロや紛争の激化などの結果、国際社会におけるウクライナへの関心は顕著に低下したようにみえる[1]。国際世論の支持とそのもとでの支援が頼みの綱だったウクライナにとっては危機的な事態だといえる。 さらに、ウクライナへの武器支援を主導してきた米国では、共和党と民主党の対立により、バイデン政権が提案したウクライナ支援の予算を連邦議会が承認できない状況が続いている。EU(欧州連合)においても、ウクライナ支援パッケージへの合意がハンガリーの反対により難航した。「支援疲れ」が深刻化しているとの指摘も多い[2]。 日本では岸田文雄政権が、特にG7の枠組みにおいて米欧諸国と足並みを揃え、「今日のウクライナは明日の東アジア」[3]かもしれないとの認識のもと、世界のどこであっても力による現状変更は認められないとの立場を明確にし、大規模な対ウクライナ支援と厳しい対ロシア制裁を続けてき
12月10日-14日に行われたニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査で、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の政策については支持が33%、不支持が57%という結果が示された。しかも同世論調査によるバイデンとトランプの比較で、イスラエル・パレスチナ衝突をどちらがうまくやると思うかについて、バイデン38%、トランプ46%とトランプが優位な結果が出た。そして、同世論調査で、大統領候補として投票する先は、トランプ49%、バイデン43%とトランプがリードしている。共和党優位の米国の選挙人団制度の仕組みを考慮すると、全米の世論調査が同じでも共和党候補が優位になる傾向があり、選挙は約1年後とはいえ、バイデン陣営にとっては、厳しい調査結果が示されたといえる。 この世論調査では、回答者の44%が、その時点ですでに2万人を超えるガザの民間人の死者が出ていた状況について、イスラエルはハマスに
台湾は中国にとって重要な戦略的、軍事的価値を有している。多くの信望者により支えられるこの自明の理は、台湾を武力あるいは狡猾な手段で統一するという中国政府の断固たる政策を合理化する大きな構想に資するものである[1]。こうした地政学的教義は、なぜ習近平が中華民族の偉大な復興のための前提条件が「統一」であると信じているのか、という問いにも部分的に答えるものである。これは中国の指導者達が台湾を巡っていかに強固に戦うつもりであるのかを明らかにし、また、万が一台湾が共産主義の手に落ちた場合は、中国がどのように台湾を軍事化するかという示唆を含めた信念でもある。 中国は台湾の民主主義に対する軍事的圧力を強め続けており、また、台湾海峡有事への懸念が増しつつあるため、台湾統治のための中国政府の追求を支える地理空間を理解することがきわめて重要である。これは米国政府やその他の同盟国政府の政策立案者が台湾の地理的重
2024年アメリカ大統領選挙の予備選挙のスタート(共和党アイオワ党員集会:2024年1月)が3ヶ月後に迫っている。本稿では民主党の動向について確認する。なお、民主党の予備選挙改革については「報告①」、共和党の動向については「報告③」をご覧いただきたい。 アメリカの9月第1月曜日は「レイバー・デー(労働者の日)」だ。政治的には「選挙の季節」キックオフの日でもある。本選挙年なら夏の党大会後、11月の投票前の本選挙のスタートを意味する。本選前年なら党員集会や予備選挙のキャンペーンの本格化の節目だ。労働者の祭典なので民主党側でのイベントが多いが、「レイバー・デー」の土日(レイバー・デー・ウィークエンド)は、共和党でも大統領候補だけでなく地方政治の候補者が顔見せをする政治イベントが目白押しになる。 今回、筆者は中西部のイリノイ州、アイオワ州を行脚し、久しぶりにアイオワのシーダーラピッズ空港から南下し
近年、安全保障のフィールドで陰謀論が一つの脅威として注目を集めている。本稿では、海外および日本の陰謀論の情勢を概観し、陰謀論がなぜわれわれの安全保障を脅かす運動とみなされているのか、なぜ対策を講じねばならないのかを認知戦の観点から分析する。 相次ぐ体制破壊的事案 2022年の末から2023年の年明けにかけて、陰謀論の影響を受けたと考えられる体制破壊的な事案がドイツとブラジルで連続して起こっている。 2022年12月7日、ドイツ連邦検察庁は、テロ組織のメンバー22名と支援者3名の容疑者を逮捕した。この組織は複合的なグループから構成されていたが、主に極右組織ライヒスビュルガー(Reichsbürger:ドイツ語で帝国臣民を意味する)や反コロナ政策運動グループのクエルデンカー(Querdenker:英訳するとLateral thinkerとなる。ドイツ語で、型にはまらない考え方をし、それによって
米国防長官が2022年に米議会に提出した「中国をめぐる軍事力と安全保障の進展に関する年次報告書(以下、「年次報告書」)」は、それ以前の年次報告書に比べ、中国人民解放軍(中国軍)の着上陸侵攻能力に関する評価について警戒感を高めた。数年にわたって固定化していた評価(用語の使用)に変化の兆しが現れたのは2021年版であったが、2022年版では行数は少ないものの、大きな変化を読み取ることができる。 本稿では中国の水陸両用作戦能力(両用戦能力)の最近の進化について、1990年代以降の中国海軍の艦隊編成の変化を軸に考察していく。 中国軍の台湾侵攻能力は向上している 後に第3次台湾危機と呼ばれる1995年7月と1996年3月の中国軍による一連の軍事演習の後も、クリントン政権が中国への関与方針を維持した一方で[1]、米国議会は中国軍事力強化への関心を高めた。米国議会が国防長官に中国の大戦略、安全保障戦略、
[KEYWORDS]人類の原器/最古の栽培植物/ポリネシア (財)進化生物学研究所主任研究員◆湯浅浩史ヒョウタンを知らない人はいない。ところが、ヒョウタンは人類の歴史に関わる重要な植物でもあるのだ。世界最古の栽培植物の一つで、原産地のアフリカから日本には9,600年前にもたらされ、さらにアメリカ大陸へも1万年をさかのぼって伝播している。人が海洋を通り移住するには飲料水の確保が最も重要である。史前その役目をはたしたのが、人類の原器と言えるヒョウタンで、古代の海洋民族の島々ポリネシアにも色濃くその文化が残されている。 古代の航海は飲水をどうしたか有史前から人は海を渡った。敵に追われたり、人口の増加、環境変動、あるいは冒険心から新しい土地を求めて海に乗り出した。理由はさまざまであれ、舟出に際し、必要なものは何だったろうか。舟はもちろん、当座の食料、農作物、家畜などいろいろ考えられる。しかし、目的
鹿児島県大浦町役場 経済課長◆村田敏雄平成14年1月、鹿児島県大浦町の海岸に14頭のクジラが座礁、13頭が死亡した。1頭あたり20トンを越える巨体は、ただ動かすだけの作業でさえ想像を超える困難がともない、町にとってはまるで天災に見舞われたような、大変な苦労を強いられることになった。 1. ことの発端 私の町大浦町は、薩摩半島の南西部、県都鹿児島市から約50km、車で約1時間の所にあり、東は加世田市、南は坊津町、西は笠沙町に接し、北は東シナ海に面しています。冬の期間は特に北西の季節風が強いところで、北に面している東シナ海はいつも「大しけ」の状況にあります。 平成14年1月22日午前8時頃、大浦町小湊干拓の堤防を散歩中の住民より「クジラみたいな物が座礁している」との通報があり、経済課担当職員を現場へ確認に行かせました。担当職員から「クジラ14頭、しかも今まで見たこともない巨大なものだ」との連絡
本論稿では、「2022年中間選挙最大の勝者ロン・デサンティスとは何者か?」、「ロン・デサンティスと文化戦争―ディズニーとの対決は収束するのか?」に引き続き、フロリダ州知事選挙で再選を果たしたロン・デサンティスに注目する。本論稿では、2022年中間選挙の出口調査から見て取ることのできるデサンティスの強さと、2024年大統領選挙の可能性について検討する。 フロリダ州は29人の大統領選挙人を抱える州である(大統領選挙人の総数は538人)。また、2000年大統領選挙で共和党のジョージ・W・ブッシュと民主党のアル・ゴアが大接戦を繰り広げたことに象徴されるように、二大政党の双方が勝利する可能性のある接戦州だと考えられてきた。両党は、フロリダ州での勝利を目指して積極的に有権者の動員を図ってきた。ともに大統領選挙の際にフロリダ州で勝てる候補を擁立したいと考えるのは当然であり、2016年大統領選挙に際しては
本論稿では、前回の「2022年中間選挙最大の勝者ロン・デサンティスとは何者か?」に引き続き、フロリダ州知事選挙で再選を果たしたロン・デサンティスに注目をする。本論稿が詳しく取り上げるのは、米国の二大政党の間で大きな争点となっている文化戦争に対するデサンティスの態度である(なお、次回の原稿では、2022年中間選挙の出口調査から見て取ることのできるデサンティスの強さと、2024年大統領選挙の可能性について検討する)。 フロリダ州は2022年4月に54冊の算数の教科書の使用を許可しないと宣言した。米国には全国的な教科書検定制度は存在しておらず、公立学校での基礎教育のテキストは学校区単位で決定されるのが一般的だが、州政府が教科書の検定を行うことは可能である1。そしてフロリダ州が算数の教科書を不採用とする根拠としたのは、批判的人種理論(CRT)とコモン・コア、社会的・情動的学習(SEL)が組み込まれ
今年5月に急逝された中山俊宏慶應義塾大学教授を偲ぶ会が、関係者を招いて9月11日にしめやかに行われた。「中山俊宏とアメリカ」と題された記念シンポジウムでは、中山教授のお仕事やお人柄に親しんできた関係者から、中山先生の広範かつ奥の深い業績が多角的に共有され、貴重な機会となった。中山教授が座長として牽引された本プロジェクト「アメリカ現状モニター」のメンバーも複数登壇した。モデレーターとして森聡慶應義塾大学教授、パネリストとして渡部恒雄笹川平和財団上席研究員および筆者が登壇した。 本稿は、渡部恒雄著「故中山俊宏教授が示した日米同盟における価値観とは?」(『アメリカ現状モニター』No.123)に続く、中山先生を偲ぶ追悼の寄稿であるが、非公開式典の性格と諸般の事情により関係者へのプライバシー等に配慮する形で、筆者のシンポジウム報告に一部修正を加え改稿した。 ****** 中山教授はご専門のアメリカ政
本稿では、IINAへの坂根宏治氏の2022年3月11日の寄稿[1]でも触れていたロシアの民間軍事会社ワグネル・グループ(Wagner Group、以下ワグネル)のアフリカ展開を更に掘り下げる。ウクライナ侵攻に対する欧米諸国の経済制裁等でロシアの孤立が深まる一方で、アフリカにおけるワグネルの進出が続いている。ウクライナ戦の長期化で世界的な不況・食料不足が懸念される中で、ワグネルの活動範囲の拡大はアフリカの政治経済にどの様な影響を及ぼしていくのか。本稿では、近世西欧に始まる中央主権国家体制は武力行使・資本蓄積・行政の一元化を経て誕生したというティリー(Charles Tilly)の論点に基づき、アフリカ諸国でのワグネルによる治安維持と天然資源支配を検証し、それが統治に及ぼす中長期的展望を考える[2]。 ワグネルは2017年頃から軍事訓練・武器供与・要人保護・対テロなどの契約でアフリカ諸国に進出
笹川平和財団「アメリカ現状モニター」の寄稿者で、今年5月1日に急逝した中山俊宏慶應義塾大学教授を偲ぶ会が、9月11日に国際文化会館で開催された。その中で「中山俊宏とアメリカ」と題して中山俊宏記念シンポジウムが行われた。同じくアメリカ現状モニターの寄稿者でもある森聡慶應義塾大学教授がモデレーターを務め、やはり寄稿者の渡辺将人北海道大学大学院准教授らとともに、筆者にも中山氏の功績を議論する機会が与えられた。他のパネリストと意見が一致したことは、アメリカの思想史や日本のあるべき姿も深く考えた上で、米国政治を論じた中山氏の業績の深さと多様性だった。本稿は、そのパネルで筆者が発表した内容であり、中山氏の米国の民主主義の価値観への深い洞察に基づいた日本のあるべき外交政策への重要な示唆を共有したい。日米同盟を支えてきたものは、単なる地政学上の利害関係だけではなく、民主主義の価値観の共有であり、今後も我々
米国は現在、民主党が大統領職と上下両院の多数派を占める統一政府の状態に事実上あるため1、民主党が望む政策を展開して、共和党に対し有利な状況を作り出していてもおかしくない。だが民主党はコロナ対策や銃規制法案などの立法上の成果は出しているものの、むしろ共和党と保守派が求めるアジェンダの方がより実現している、という印象が持たれている。米国史上最多の得票を得て大統領選挙に勝利し、実質的に上下両院を抑えた状態で就任したジョー・バイデン大統領は、ニューディール規模の成果を出すとの意気込みを示していた。だが実際は、ニューディール以後、民主党とリベラル派が築き上げてきた大きな成果のいくつかが、バイデン政権期に否定されてしまっている。 民主党が大きな成果を出すことができない理由としては、党内に多様な立場の議員を抱えて主導権争いが展開されており、団結できていないことがある。米国では政党本部が候補者決定権を持っ
1.加速する「ロシア除外」とその代償 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアの主要な収入源であるエネルギーをめぐって「ロシア除外」の動きが加速している。とりわけ、西側諸国における「ロシア除外」は厳しい。米国がいち早くロシアの天然ガス、石油の禁輸を打ち出したほか、同国とEU、日本はロシアからの石炭の禁輸、輸入の段階停止を決めた[1]。 しかしながら、一時ドルに対して価値が半減したルーブルが、侵攻前の水準まで値を戻すなど、エネルギーを標的にした「ロシア除外」に即効性はないように映る。5月9日の対ドイツ戦勝記念日に向け、侵攻の正統性と戦果を誇示したいプーチン大統領は「(西側諸国の)経済に関する戦略は失敗した」と強調している[2]。 プーチン氏が強弁するように、原子力を含むエネルギー分野におけるロシアの供給国としての実力は世界屈指であり、西側諸国をはじめ世界全体でエネルギー価格の高騰
2月24日のロシアによるウクライナ侵略開始以降、軍事作戦に関しては明確な段階分けが存在する。ロシアは当初、首都キーウを標的にし、ゼレンスキー政権の転覆を目指していた。数日で首都を陥落させられると考えていたようだ。 侵略開始からほぼ1ヶ月の3月25日になり、ロシア軍は、第1段階の目標が概ね達成されたとして、第2段階では東部ドンバス地方での作戦に注力すると表明した。キーウ陥落の失敗を認めたわけではないが、実際には方針転換の言い訳だったのだろう。その後、ウクライナ東部さらには南部での戦闘が激しさを増している。 そうしたなかで強く印象付けられるのは、ウクライナによる激しい抵抗である。ロシアがウクライナの抵抗を過小評価していたことは明らかだ。加えて、米国を含むNATO(北大西洋条約機構)諸国も、ウクライナのここまでの抵抗を予測できていなかった。ロシアの侵略意図については正確な分析を行っていた米英の情
国連安全保障理事会と国連総会での動き 2022年2月24日、ロシアによる「特別軍事作戦」と称するウクライナ侵攻が始まった。ロシアは、その3日前の同月21日、親ロシア派がドネツク州とルハンシク州の一部を実効支配する地域の国家承認を行った。 2月25日、国連安全保障理事会(安保理)において、米国とアルバニアによって共同提案された、ロシアの侵略はいかなる国の領土保全又は政治的独立に対する武力による威嚇又は武力の行使を禁止する国連憲章第2条4項に違反すること、ロシアはウクライナに対する武力行使を即時に停止し、すべての軍隊を即時、完全、無条件に撤退させること、2月21日のロシアの決定はウクライナの主権及び領土保全に違反し、即時かつ無条件に同決定を撤回することを内容とする決議案は、ロシアの拒否権行使によって否決された。ロシア以外の理事国は11カ国が賛成し、3カ国(中国、インド、アラブ首長国連邦)が棄権
閉ざされた王国はいかにサイバー攻撃能力を得たのか 北朝鮮が関与するサイバー攻撃の数が増えている[1]。北朝鮮がサイバー攻撃をしかける理由としては、米国を中心とする北朝鮮に対する経済包囲網が効果を発揮しており、「サイバー活動を通じた外貨獲得のインセンティブの高まり」があることがすでに指摘されている[2]。 北朝鮮のサイバー攻撃能力はどのような水準にあり、日本や周辺国にとってどれほどの脅威なのだろうか。一部の識者はその能力を高く評価する。例えば、イギリスのシンクタンクは北朝鮮のサイバー能力は日本やインドなどと肩を並べるとしている[3]。 現代の高度なサイバー攻撃は、ソフトウェア・ハードウェアに長けた技術者、高速で安定したネットワーク接続、データ保存のための施設、24時間365日活動を継続するだけの組織力など、様々なリソースを必要とする。映画に描かれたような、数人の天才ハッカーが屋根裏部屋から行
近年の中露による現状変更行動は、相手の大規模な対抗行動を引き起こさないような漸進性という特徴を有していたが、プーチンはこれとは対照的なアプローチでウクライナを侵略した。おそらく短期決戦でキエフを制圧し、ゼレンスキー政権を電光石火で排除して、ウクライナ支配を既成事実化しようと企んだのであろうが、出鼻をくじかれた。その結果、国連総会決議にみられたように、いまや西側諸国による制裁のみならず、世界の大多数の国による非難に直面している。 ウクライナの軍と市民はロシア軍に果敢に抵抗し、諸外国の支援を受けている。アメリカは、①ウクライナに派兵していないが、②各種の軍事援助や人道支援をウクライナに提供して同国を支えているほか、③他のNATO諸国や日本などとともに、大規模な金融・経済制裁を実施して、プーチンに圧力をかけている。本シリーズでは、ウクライナ戦争へのバイデン政権の対応について検討する。第1回では、
サイバーセキュリティの領域は、インターネット空間の安全確保にとどまらず、インターネット情報に影響を受ける民主主義プロセスの安全確保や社会の信頼・統合・安定の安全保障までを含むようになっており、それらが世界的な課題となっています。2016年の米国大統領選挙を端緒に、欧米やアジア各国・地域の選挙等において、ディスインフォメーションを用いた情報操作によって外国勢力が民主主義プロセスに干渉し、広範な影響工作を行う事案が頻発しています。このような国家の意思決定プロセスに対するサイバー攻撃は、民主主義社会を危機に陥らせかねない重大な脅威であり、国家安全保障上の課題として対処することが急務です。 このような民主主義プロセスに対するディスインフォメーションの脅威は、日本にとって決して遠い国の話ではなく、社会の安心・安全の課題として対応策を検討する必要があります。諸外国では、立法による規制やSNSプラットフ
ラーム・エマニュエル駐日大使には2冊の自著がある。ブッシュ政権2期目の中間選挙年、下院議員時代に出版したThe Plan: Big Ideas for America(2006年8月)は、当時、民主党内で退潮し始めていた中道派(ニューデモクラット)の巻き返しの戦略提言だ。共著者はバイデン大統領の右腕の一人ブルース・リードである。また、シカゴ市長退任後に出版した2冊目The Nation City: Why Mayors Are Now Running the World(2020年2月)は シカゴ愛溢れる都市論にして全米や世界の市長を比較する市長論だ1。 これらの本に日本や中国は出てくるのか。1冊目The PlanではJapanは4ヶ所言及される。日本の経済や技術とりわけ自動車産業を称えている。トヨタ「プリウス」、ホンダ「インサイト」を挙げ、ハイブリットカーでの出遅れに関してデトロイト自動
ペロシ下院議長の招きで、今年のバイデン大統領による一般教書演説は3月1日に決まった。3月に実施されるのは記録上、初めてのことである。ビルド・バック・ベター(BBB)法案をめぐる雲行きが怪しく、オミクロン株によるコロナウイルス感染急拡大の真っ只中で、「連邦の状態(state of the union)」を議会に対して報告するタイミングとして、例年通りの1月後半は、むしろバイデン政権の行き詰まり具合を際立たせてしまうという判断からだろう。バイデン政権が発足してちょうど一年。いまバイデン政権はきわめて厳しい局面に立たされている。支持率は低迷し、過去の政権の同時期の支持率と比較すると、トランプ政権を除けば、かなり低い。FiveThirtyEight平均(2022年1月11日)によれば、支持が43.0パーセント、不支持が51.6パーセントと、不支持が支持をはっきりと上回っている1。国の向かっている方
はじめに 「中国が6年以内に台湾へ侵攻する可能性が高まっている」[1]とフィリップ デービッドソン(Philip Davidson)前米国インド太平洋軍司令官が、今年(2021年)3月上旬の米国連邦議会上院軍事委員会公聴会で述べたことで、世界に衝撃が走った。その衝撃は、10月4日、中国が一日のうちに軍用機56機を台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入させた[2]ことで、現実を帯びているとの認識に至り、米、仏、欧州連合(EU)及びバルト3国の各議員団などによる台湾訪問が相次いでいる。また、日米を中心とする各シンクタンクなどが、台湾海峡有事を想定した事例研究やシミュレーションを行うなど議論が活発化している[3]。その事例研究、シミュレーション及び議論の軍事的安全保障に係る具体的な兵力分析は、ミサイル、空母、フリゲート、水陸両用艦艇、戦闘機・爆撃機、海兵隊などであり、機雷戦が登場する議論はほとんどな
2020年1月20日COIVD-19患者が韓国国内で初めて確認されて以降、韓国におけるCOVID-19政策の実質的な始発点は、東南部に位置する大邱市にて発生した新興宗教団体「新天地」を中心とする大規模クラスターが発生した2月中旬であった。礼拝を通じた信者間でのクラスター発生を受け、それまで日本の厚生省に該当する保健福祉部内の中央事故収拾本部および疾病管理本部に設置された中央防疫対策本部が担っていたCOVID-19対策は、2020年2月23日以降、国務総理を本部長とする中央災難安全対策本部をトップとして行われることとなった1。「新天地」を発端とした爆発的な感染拡大の流れは4月の末には収束し、その後7月末から9月上旬にかけてナイトクラブや遊興施設、宗教関連施設を中心として感染が拡大した第2波以降、2021年1月現在、11月からはじまった第3波の最中にある。 文在寅政府は当初よりCOVID-19
現実的な対中戦略構築プロジェクトのワーキングペーパー掲載のお知らせ この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「現実的な対中戦略構築プロジェクト」と提携して、日米専門家による対中戦略構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の国際関係の潮流の要因である米中関係について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。 事業ページはこちら はじめに[1] 急成長しつつあるデジタル経済は、日米にとって多くの機会と課題をもたらしている。自由で安全なデータ流通を維持する国際的なルールを策定し、先端移動通信のインフラを保護し、半導体産業のサプライチェーンにおける不足を解消することは、両国の政策立案者にとって最優先事項である。日米両国が技術的転換、パンデミックによる衝撃や地政学的競争がもたらす潮流に適応する中、これらの目的を実現するために協力する上で、日米にはパートナーシップを現代化
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