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中東情勢
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英国人監督ジョナサン・グレイザー(59)の最新作『関心領域』(2024年5月24日より公開)は、アウシュビッツで起きた残虐な行為を映像ではなく、音で表現した驚くべき作品だ。 映画『関心領域』の予告。米アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞した他、カンヌ国際映画祭でグランプリ、英アカデミー賞で英国作品賞などを受賞している グレイザーが取材の場所に選んだのは、ロンドン北部のカムデンにある昔ながらのイタリアンレストランだった。温かい人柄のグレイザーは、魅力的な人物だ。彼はつつましい人でもあるようで、着ている黒のチノパンにはしわが寄り、茶色のレザーブーツは履き古され、青のジャンパーは肘が擦り切れて穴があいている。まるで往年のグランジロッカーのようないで立ちで、実年齢よりずっと若く見えた。 「私はこの辺りの学校に通っていました。ユダヤ・フリー・スクールという学校で、17歳のときにはカムデ
ドキュメンタリーを撮ったマジッド・ハミド監督に「二人の少女は拉致されたとき何歳でしたか」と問われると、アシュワクはこう答えた。 「リハムは9歳、ラハは12歳でした」 そこから怒りが抑えきれなくなって、アシュワクは続ける。「当たり前といえば当たり前ですけれど、アル=バグダディの妻は、私たちが召使いのように使われ、暴力を振るわれていたことを話していません。落ち着きはらってしゃべり、まるで自分は何も悪いことをしておらず、ヤジディ教の女性たちの運命と関係がないと言っているかのようです。でも、そんなわけがありません」 「アル=バグダディは、すべての女性、すべての少女をレイプし、それから高値で別の人に売っていたんです。アル=バグダディにレイプされずに、その家を出られた人はいません。ヤジディ教徒が好きだったというあの女の言葉が本当なら、なぜ私たちを解放するための努力を、あの女は何一つしなかったのでしょう
行方知れずの子供たち 生還者たちはいまもフラッシュバックに悩まされ、その意味において、過去に閉じ込められたままだ。若いシリン・カレフが顔を隠して証言するのは、いつの日か、ISが別の形で復活するのを恐れてのことだ。 彼女の話は、2014年8月4日の恐怖の夜に、ヤジディ教徒たちが暮らす土地がISの手に落ちるところなど、ほかの女性の話と重なる部分が多い。話の脈絡が追えなくなるときもあったが、話の核となる部分は、子供と引き離されたときのトラウマがいまも頭を離れないことだ。 「いちばんつらかったのは、二人の子供と引き離されたときでした。子供たちはイラクへ、私はシリアへ連れていかれました。シリアにはハーレムがあり、女性が売買される市場がありました」 シリンはシンジャール近郊のドメスという場所で、二人の子供とともにISに捕まった。妊娠中だった彼女は、ランブシ村に連れていかれ、そこで3日過ごした後、イラク
進む「大企業化」 先進国で加速する少子高齢化は需要と市場の縮小をもたらすと、政財界は警鐘を鳴らす。それはヨーロッパでも例外ではない。しかし、少子高齢化が好機とみなされ、多額の投資を集めている業界がある。それは、葬儀業界だ。 米メディア「ブルームバーグ」によると、英国のプライベートエクイティ投資会社チャーターハウス・キャピタル・パートナーズやフランスのラトゥール・キャピタルが投資するフューンキャップは、ヨーロッパの300以上の火葬場をおよそ約1700億円を費やして買収した。 また、同社はオランダにある世界有数の火葬設備メーカーを2022年に買収したり、ドイツ最大のライン・タウヌス火葬場と業務提携をしたりと、攻勢を強めている。
法、その一。「いかなる女も、配偶者あるいは所有物、召使いでないなら、性交は合法でない」 法、その二。「女が召使いや奴隷になるのは戦争を通じてである」 法、その三。「ジハードで戦った男が女性捕虜を手に入れるのは、司令官から与えられたときか、買ったときである」 いまから10世紀前の征服活動のときに書かれたこの中世の文章には、戦利品として獲得した性奴隷の正しい取り扱い方について、もっと具体的な記述もある。たとえば性奴隷の「利用」開始時期は、月経を1回見送ってからだとされている。獲得した性奴隷が妊娠している場合は、出産後だ。いまから見れば鬼畜の所業だが、これがかつてのイスラム帝国における「宗教的な立場から出された見解」だった。 IS(いわゆる「イスラム国」)がイラクとシリアに支配領域を持っていた2014年から2019年までの時期、その支配領域では性奴隷の拉致と酷使が横行したが、それを正当化する拠り
日本のみならず、海外でも孤独の問題が深刻化している。地域コミュニティが減少し、交流の多くが対面からオンラインへと移行した現代では、高齢者にみられるレベルの孤独感を訴える若者が増えているのだ。 最新の研究では、孤独感は年齢に合わせて「Uの字カーブ」を描くことが明らかになっている。“最も注意すべき年齢”と、その対策とは……? 社交力も筋力のように衰える 2024年5月、学術誌「サイコロジカル・サイエンス」に掲載された研究では、孤独感はU字型の曲線を描くと報告されている。 自己評価による孤独感は、若年期から中年期に近づくにつれて減少する傾向にある。だが、60歳を過ぎると孤独を感じる割合がふたたび上昇し、80歳になるころには特に顕著になることがわかったのだ。 中年期の人々は、同僚や配偶者、子供や地域コミュニティの人たちと交流する機会が多いため、ほかの年齢層よりも社会的なつながりを感じやすく、人間関
「寿司ください」 ニューヨーク出身のティックトッカー、デビン・ハルバル(26)はこの4年間、やたらと長いセルフィースティックを片手にヨーロッパの国々を周遊しながら、トランスジェンダー女子をインスパイアするコンテンツをSNSにアップしてきた。自身もトランスジェンダーである彼女は、「はーい、お人形さんたち(ドールズ)」と呼びかけて登場する「ドール・チェックイン」でもお馴染みだ。 ファンを「お人形さんたち(ドールズ)」と呼ぶハルバル そんな親しみやすいキャラクターで多くのファンの心を掴んできた彼女は、2022年に「Wマガジン」誌と「ローリング・ストーン」誌に登場。さらに、スペインの高級ブランド「ロエベ」からイビサ島へ招待されたことで、一躍有名人に。しかし、ハルバルはヨーロッパ旅行を終えニューヨークへ戻ると、ファッションやトランスジェンダーの啓蒙活動以上のものを発信したいと思うようになった。そこで
クーリエ・ジャポンのプレミアム会員になると、「ウォール・ストリート・ジャーナル」のサイトの記事(日・英・中 3言語)もご覧いただけます。詳しくはこちら。 ありふれた朝の一杯のコーヒーが、社会や環境に災難をもたらす。だが近い将来、あなたは害の少ないものを選択できるだろう。それは人工コーヒーだ。 世界中で1日に20億杯のコーヒーが消費される。アラビカ種の樹木1本から採れるコーヒー豆の年間生産量が平均1~2ポンド(約453~907グラム)であることを考えると、コーヒーを1日2杯飲む人のために約20本の樹木から継続的にコーヒー豆を生産することが必要になる。 旺盛なコーヒー需要を背景に、大規模な森林伐採が進み、コーヒー豆の価格上昇とほぼ無縁の農家は低賃金にあえぎ、生産とサプライチェーン(供給網)の移動の両面で相当な量の二酸化炭素(CO2)が排出される。調査によると、コーヒー栽培に適した土地の約半分が
世界の目がイスラエルとハマス、そしてロシアとウクライナの戦争へ向いているなか、2023年4月から続いているスーダンの内戦は状況が悪化し続けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は同国で「大量虐殺がおこなわれている可能性が高い」と警告し、支援の必要性を訴えた。 誰が戦っているの? スーダン政府軍(SAF)と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」の間で衝突が起きている。首都ハルツームで戦いが勃発し、国中へ広がった。 米メディア「ヴォックス」によれば、なかでも西部のダルフールでは「アラブ人が多数派であるRSF戦闘員が、地域の少数民族を標的にした殺人と性的暴力をおこなったとして告発されている」という。
【レシピ】Blistered Broccoli Pasta With Walnuts, Pecorino and Mint 爽やかグリーンが目にも鮮やか「焼きブロッコリーとくるみ、ミントのパスタ」 Photo: Andrew Purcell for The New York Times, Food Stylist: Carrie Purcell
米国でも買えるようになった日本の最高級フルーツ 120ドル(約1万8000円)もするメロンの味はどんなものなのか。それを知るには、かつては日本まで行かなければならなかった。しかし、米国人はいまや自宅でそれを味わえる。多くの人が世界最高の果物のひとつだと評するものだ。 日本産の高級イチゴやメロンなどの農産物が「イキガイフルーツ」というオンラインショップを通じて、初めて米国の消費者に直接販売されるようになった。日本各地で小規模農家が生産した果物が売られている。 この試みが示すのは、日本国外に消費者層を拡大し、最終的には国内で農業従事者を増やそうという日本の試みだ。日本の農業は、若い世代の農業離れや廃業によって、衰退し続けている。三菱総合研究所の2023年の報告書では、2020年には農業生産額は8兆9000億円だったが、2050年にはその半分以下になると予想されている。
あなたはとてつもなく忙しい。ビジネスチャットのスラックでやり取りして、メールを書き、ズーム会議も次から次に入っている。これらを同時にこなすこともある。しかし重要な仕事はできているだろうか。 カル・ニューポート氏の答えはノーだ。 「ちょっと待てよ、どれも重要じゃなかった、といったところだ」。ジョージタウン大学でコンピューターサイエンスを教え、注意力散漫の時代における集中力の重要性を訴えるニューポート氏はそう話す。 ニューポート氏によると、私たちは重すぎる負担を減らすことでより多くを達成できるという。同氏が提案する解決策「スローな生産性」──同名の本も出版している──は優れた成果を上げる人々が引き受ける仕事を減らして、仕事の質を上げ、ときどき戦略的に手を抜く一つの方法だ。最高の質こそ目指すところであり、がむしゃらに働くことは敵である。 これこそが、人工知能(AI)や人員削減から私たちの仕事を救
電池最大手CATLの創業者が電池を超えた野望を語った 中国の電池王が語る「トヨタが開発する全固体電池はまだ現実的ではない」 中国の電池王CATLのゼンCEOが開発を急ぐ電池とは? Photo by Paul Zinken / picture alliance / Getty Images
急速に円安が進むなか、国内外で日本の国力低下を懸念する声が高まっている。だが英紙「フィナンシャル・タイムズ」は、これから日本経済が好転する可能性は充分にあるとみているようだ。 4月は日本にとって厳しい1ヵ月だった。 円は対ドルで約34年ぶりの安値を更新し、政府と日本銀行が5兆円を超える円買い介入に踏み切ったとみられている。 民間の有識者グループである人口戦略会議は、「日本の4割の地方自治体が消滅の危機にある」と指摘し、経済産業省の審議会は国の繁栄を阻害する慢性的な脅威に警鐘を鳴らした。 「日本は歴史的転換点にある」と言われはじめてから、すでに1年以上が経過した。日本経済はデフレから脱却しつつあるが、その一方で、金融政策は世界の先進各国の方針や国民の実生活からは乖離しているように見える。4月の一連の動向、とくに円相場の動きをみていると、日本の行く末はかなり不透明だと感じられる。 中期的に、日
伝説の投資家ジム・ロジャーズが「読者の質問」に答えます 北朝鮮には「潜在的な可能性」があるのでしょうか?
大事な人を失うのは突然なことも多く、いつが「最後」になるかはわからない。実家に帰ってきた娘は、母である筆者と一緒にアートブックを読み、一緒に写真に写ると、それきり永遠に去ってしまった──。 この記事は、愛をテーマにした米紙「ニューヨーク・タイムズ」の人気コラム「モダン・ラブ」の全訳です。読者が寄稿した物語を、毎週日曜日に独占翻訳でお届けしています。 蘇る明るい思い出が苦しい 2023年12月、クリスマスの数週間前、ジムに水筒を忘れた。家に帰る途中、運転していた夫が「戻ろうか?」と言った。 「ううん。明日取りに行く」 そう言ったけれど、戻らないエリックに私は腹を立てていた。そして1分後、私は泣いていた。 「戻るよ」と言う彼に、「いい!」と答えた。なぜなら、私に不安をもたらしていたのは水筒ではない。それをもたらしたのは娘が亡くなったという事実であり、この喪失感にもう耐えられないと思う日があるの
犬猿の仲であるイスラエルとイランの緊張が、ガザ情勢をめぐり高まっている。だが市民レベルでは、多くのイラン人が同胞のパレスチナよりも、仇敵イスラエルに共感しているのが実情だという。新著 『イランの地下世界』が、周辺の中東諸国に対するイラン人の本音に光を当てる。 先を越された!──中東諸国への屈折した思い イランと歴史的、文化的に近しい関係にある中東諸国との関係も、イスラム革命を境に大きく変容した。 革命後のイランは、イスラムをイデオロギーに中東地域での影響力拡大を図ってきた。とくに、パレスチナや、アサド政権のシリア、レバノンおよびイラクのシーア派組織、そしてイエメンのフーシ派などが、イランの支援を受けていることはよく知られている。 しかし、当のイラン国民はといえば、こうした国々に対して、ほとんど何のシンパシーも感じていない。反体制デモのたびに必ず叫ばれるスローガンのひとつ、「わが命、捧げたい
スラヴォイ・ジジェク(75)にインタビューするのは、筆舌に尽くしがたい体験である。哲学者、精神分析家、文化理論家、政治活動家、ロンドン大学バークベック人文学研究所インターナショナル・ディレクター、そしてスロベニア共和国の元大統領候補である彼との会話では、一つのテーマから別のテーマへ次々と飛んでいく。だから、対談者はなんとかして置いてけぼりにされないようにしなければならない。ジジェクは、ユニークで予想がつかないのだ。 「剰余享楽」とは ──あなたは『為すところを知らざればなり』(※原題副題は「政治的要因としての享楽」)、そして『快楽の転移』をすでに書いています。そして今回、『剰余享楽』を発表しました。なぜ、このテーマに関心があるのですか? 戦争や人種差別、そのほかの多くの恐怖をめぐって何が起きているかを理解するためには、まさに享楽に注意を払わなければなりません。私は、享楽を「喜び」としてのみ
男女雇用機会均等法の施行から約30年。他の先進国に遅れを取りつつも、日本の政府組織や民間企業では、男性優位の職場文化に変化が見られるようになった一方、まだまだ多くの課題が残されてもいる。外務省や大手企業で働く女性たちの現状を、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が取材した。 男女雇用機会均等法が施行された翌年の1987年、のちに日本の皇后となる女性が外務省に入省した。彼女は3人しかいない女性の新人外交官のひとりだった。当時は小和田雅子という名前だったこの女性は深夜まで働き、日米貿易摩擦の対応などにあたった北米二課で、華々しいキャリアを築いていた。 だが、彼女はそれから6年も経たないうちに退職し、当時は皇太子だった現在の天皇、徳仁と結婚した。 その後の30年で、外務省の状況は大きく変わった──そして、女性たちの置かれた状況も。2020年以降、新人外交官の半数近くを女性が占めるようになり、多くの女性
若くして自分を生んだ母 スティーブ・エドセルが子供の頃、彼の養父母は寝室のクローゼットに新聞の切り抜きを集めたスクラップブックを置いていた。彼はときどきそれを取り出して、自分の出生に関する見出しに目を通した。たとえば、次のようなものだ。 「母親が息子を見捨て、病院から逃走」 1973年12月30日、米紙「ウィンストン・セーラム・ジャーナル」 その母親とは、「身長167cm、髪の色は赤みがかった茶色」の14歳の少女だ。朝早くに自分の両親と一緒に病院に来て、出産から数時間後の夜8時にはいなくなっていた。申告されていた名前はすべて偽名だったことが後からわかった。看護婦の回想に基づく白黒の絵では、その母親は丸眼鏡をかけ、前髪を横に流しており、口元は険しい。 捨てられた赤ちゃんは、その地域に住むエドセル夫妻によって養育されることとなった。
5月15日にスロバキアのロベルト・フィツォ首相が銃撃された事件は、世界に衝撃を与えた。スロバキア当局によると、フィツォの容態は「安定している」が、回復は「困難な」状態だという。 殺人未遂で逮捕された71歳の年金受給者の名前や詳しい素性は明かされていないが、閣僚は政治的な動機があったと述べている。 「いつ起こってもおかしくなかった」 今回の事件は許されるものではないが、スロバキアの状況を鑑みるに、ある意味では起こるべくして起こったものかもしれない。ある市民は、米紙「ニューヨーク・タイムズ」に対し、「もっと早くにこのようなことが起こってもおかしくなかった」と述べている。 というのも、歴史的に激しいスロバキアの社会や政治の分断は、近年ますます深まっていたからだ。 元政府職員で偽情報対策の責任者を務めていたダニエル・ミロは、ニューヨーク・タイムズに対して、「スロバキアでは前代未聞のレベルの二極化が
フランスの人気哲学者アンドレ・コント=スポンヴィルは、企業のトップにこう質問するという。「御社の従業員が宝くじで6000万ユーロ(約100億円)を当てたとしたら、何%の人がその後も御社で働き続けますか?」 ほとんどの場合、答えは「ゼロ」だ。「従業員のほぼ全員にとって、仕事は天職でもなければ、喜びでもありません。仕事はただ仕方なくしていることなのです」──「ただし」と彼は続ける。 「人間とはどういう存在なのかを理解できれば、人のやる気を引き出すことができます。そこに哲学の出番があります」 どうやったら「働くモチベーション」を維持できるのだろうか。フランスの管理職向けビジネス誌『クーリエ・カードル』がコント=スポンヴィルに聞いた。 そもそも「モチベーション」とは モチベーションは一種の欲望ですが、実に特殊な欲望だと言えます。それはまず、「行動へと駆り立てる欲望」だからです。次にそれは、「役に立
元NHK解説主幹でジャーナリストの池畑修平氏が、世界でいま注目される発言やフレーズを切り口にして国際ニュースを深掘りする連載。今回は国連のハク副報道官の発言「The Charter is intact. Its ideals are intact.」から、国際社会のイスラエルに対する風向きの変化を読み説く。 国連の会見場で起きた笑い イスラエルの敗北が濃厚になってきている。 パレスチナのガザ地区を支配するハマスとの戦闘において、もちろんイスラエルは圧勝している。しかし、いくらイスラエルがハマスを叩いたと戦果を誇示しても、いや、誇示すればするほど、世界はおびただしい民間人の犠牲に怒りを覚え、瓦礫の山と化した街に言葉を失い、ガザの人々を襲う飢餓の報せに胸を痛めている。 イスラエル軍の行為は自国の価値を棄損し続けていて、長期的な国家戦略という視点では敗北であろう。 5月10日、ニューヨークの国連
2019年にノーベル経済学賞を受賞した、世界的に著名な経済学者の一人であるエステル・デュフロ。気候変動によって貧困層が受ける被害は、超富裕層や企業への課税によって補償されるべきだ──そんな提案をしている彼女に、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が取材した。 マサチューセッツ工科大学「アブドゥル・ラティフ・ジャミール貧困行動ラボ」の共同設立者として、エステル・デュフロは主に貧困撲滅に焦点を当ててきた。そのため彼女はいま、世界の貧困層にますます深刻な影響を及ぼしている気候変動の経済的影響に取り組むことを余儀なくされている。 ワシントンで開催された世界銀行と国際通貨基金(IMF)の春季会合で、デュフロは「企業や超富裕層の課税を重くし、それを低所得国や個人に対する、気候変動に関連した被害の支援に充てる」という新たな提案をした。 私の言いたいことはとてもシンプルです。豊かな国に暮らす裕福な人々が、世界
さまざまな時事問題に対して独自に分析し、「最も影響力のある経済学者」とされるタイラー・コーエン。思想的にはリバタリアニズム(自由至上主義)の立場をとるコーエンから、経済規制が厳しいフランスの「レクスプレス」誌が話を聞いた。 好調な米国経済 ──2011年、あなたは米国経済が抱える問題について『大停滞』という本を出版し、大きな反響を呼びました。米国の経済成長は1980年代以降で最高となっていますが、大停滞は終わりに近づいているのでしょうか。 そう思います。私はその本の最後の章で、私たちが生きている間にこの不況は終わると書きました。2018〜19年、米国経済は比較的停滞していました。しかし、それ以降、AIの目覚ましい台頭、コロナワクチンの開発、グリーンエネルギー、宇宙探索、生物医学などの分野で並外れた成長を遂げました。 『大停滞』は悲観主義的な本だと勘違いされがちでしたが、全体的に楽観主義的な
写真と手紙を人質にとられて 1976年にジーは18歳になり、何度かの苦悩に満ちた試みの末に、ようやくマツネフの支配から逃れた。その頃には彼女は彼に対してますます批判的になっていた。「批判の気持ちが強くなってきたのです」と、彼女は言う。 だが、彼女の人質状態はその後何十年も続くことになる。今度は彼の作品と、そこで使用される自分の手紙に囚われることになったのだ。 交際していた3年のあいだに、ジーはマツネフに促されて愛やセックスについてあけすけにつづった手紙を何百通も書いた。 マツネフはその一部を1974年に小児性愛を熱烈に擁護した『16歳以下』(Les Moins de Seize Ans)に使用し、彼女の許可なしに出版する。別の著書(『離教的情熱』、Les Passions Schismatiques)によれば、彼はそれらの手紙を「大人と子供の関係は子供にとってもきわめて豊かなもので、その後
元受刑者は犯罪歴が労働市場で不利になるため、出所後に起業を選ぶことが多い。 だが、過去に犯罪を犯した人へのステレオタイプを払拭し、彼らに多くの選択肢を与えることは、経済にもメリットをもたらす。そう語るのは、米ペンシルベニア大学のビジネススクール、ウォートン校のデイモン・フィリップスだ。 労働力不足が深刻化する日本でも、必要とされる問題について考えよう──。 出所後の起業率が高い理由 デイモン・フィリップスは、出所後の元受刑者の起業率が一般人と比べて5%高いことを発見した。起業後の再犯率も低くなることがわかった。 とりわけ、出所後の黒人男性の就職には高い壁が立ちはだかるため、彼らは起業することが多い。彼らにとっては、普通に働くよりも起業するほうが高収入を得るチャンスが高くなるのだ。 これは、犯罪歴のある就職希望者を差別する雇用者にとって、そして刑務所内の囚人たちを救うために予算を割いている政
シリコンバレーへの期待 ──「シリコンバレーで最も読まれている作家の一人」と紹介されることが多いかと思いますが、そう言われることについて、どう考えていますか。 理工系の人がSFを好むのは自然です。SFは想像力を刺激しますし、精神の地平を広げてくれますからね。それは昔から変わりません。 ただ、私の作品が好まれるのは、SFの黄金期だった1930~1960年代の米国で書かれたSF作品に似ているところがあるからなのかもしれません。その頃のSF作品のテーマは、未知の世界への冒険や科学技術の限界と可能性といったものでした。その後、西洋のSFは、社会問題に取り組みだし、いまのSFは、私から見ると、SFなのかどうかもわからないものになっています。 ──イーロン・マスクを高く評価する人たちは、テクノロジー業界に再びSFブームを起こしたのもマスクだと言って褒めたたえています。それについてはどうお考えですか。
人類を「宇宙を理解したサル」と定義してみせたのは、行動生物学者のスティーブ・スチュワート-ウィリアムズだが、中国人SF作家の劉慈欣の小説を読むと、まさにその「宇宙を理解したサル」たちの世界を存分に味わえる。 『三体』三部作が世界的にヒットしたいま、劉慈欣は世界で最も高名な作家の一人となった。ネットフリックスでは、『ゲーム・オブ・スローンズ』の製作陣が手掛けたドラマ版『三体』も視聴できる。劉の短編小説『流浪地球』を原作とする中国映画『流転の地球』が興行的に大成功を収めたことも記憶に新しい。 劉の作品に出てくる人類は、ありとあらゆる可能性に満ちている一方で、「旧石器時代から変わらない感情」、「中世に作られた社会制度」、「神のようなテクノロジー」という三つの特徴を持つ存在として描かれる。 いまでこそバラク・オバマ、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグから絶賛を受けるSF作家となった劉慈欣だが
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