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ブックレビュー
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新たに発見された恐竜コレケンの復元図。(ILLUSTRATION BY GABRIEL DIAZ YANTÉN) すべてはかぎ爪から始まった。アルゼンチンのラ・コロニア累層で恐竜の化石を探していたとき、古生物学者たちが岩石から突き出た足の指の骨に気付いた。さらに掘り出して調べてみると、鼻の低い肉食恐竜アベリサウルス類の新種と判明した。小惑星の衝突によって白亜紀が終わる数百万年前、太古のパタゴニアを歩いていた肉食恐竜だ。この発見は5月21日付で学術誌「Cladistics」に発表された。 アルゼンチンにあるエジディオ・フェルグリオ古生物博物館の古生物学者ディエゴ・ポル氏らは、この恐竜をコレケン・イナカヤリ(Koleken inakayali)と命名した。パタゴニア東部の先住民族テウェルチェの首長だったイナカヤルにちなむ名前で、テウェルチェ語で「粘土と水から生まれる」という意味だ。
チャバネゴキブリ(Blattella germanica)は、約2100年前、現在のインドとミャンマーにあたる地域でオキナワチャバネゴキブリ(Blattella asahinai)から進化した可能性が高い。(PHOTOGRAPH BY OZGUR KEREM BULUR/SCIENCE PHOTO LIBRARY) 夜食でも食べようとベッドから起き上がり、キッチンの明かりをつけると、冷蔵庫の下にツヤツヤと光る茶色い昆虫の群れがうごめいているのを見つけた経験はないだろうか。その昆虫とはもちろん、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)だ。 この嫌われ者の訪問客は、どのようにして世界に悪名をとどろかせる害虫となったのだろうか。5月20日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された新たな研究によると、その答えはチャバネゴキブリのDNAに記されていた。 いつ、ど
ピックルボールとは、テニス、バドミントン、卓球の要素を組み合わせたラケットスポーツで、心肺機能を高め、減量を助け、バランスや運動協調性、柔軟性を高める全身運動だ。(PHOTOGRAPH BY LINDSEY WASSON, THE NEW YORK TIMES/REDUX) 米ユタ州の会社経営者であるエド・ワーツ氏は、新型コロナウイルスの流行が始まったころに自身が経営するジムを閉めた後、アクティブでいる方法を探していた。ある晩、妻からデートで「ピックルボール」をやってみないかと提案された。「それ以来、妻と週に2〜3回プレーしています」と71歳のワーツ氏は言う。 米国ではこの夫婦を含め3600万人がピックルボールをプレーしており、競技人口の伸び率が3年連続で最も大きいスポーツとなっている。 「比較的短期間で、ピックルボールの人気はすでにランニングやバスケットボール、サイクリング、ゴルフのレベ
エジプトのサッカラにあるジェセル王の階段ピラミッドの近くで、ロバに乗る子どもたち。このピラミッドは、紀元前2650年ごろに建てられたエジプト最古のピラミッドと考えられている。ナイル川が「穏やか」になり、交通に利用されるようになったころに造られた。(PHOTOGRAPH BY KENNETH GARRETT, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 現在、ギザのピラミッドは、砂と岩ばかりの砂漠の景色の中にたたずんでいる。そこは、青々としたナイル川の岸辺から何キロも離れている。 だからこそ、姿を消した王国の壮大な遺跡という印象が強いのだろう。しかし、昔からずっとそうだったわけではないようだ。5月16日付けで学術誌「Communications Earth & Environment」に掲載された新たな研究によると、かつてピラミッドはナイル川の大きな支流沿いにあり、たくさんの船がそこ
専門家によれば、市販のトウガラシはより大きく、よりマイルドになっている。他方では、トウガラシの辛さを追求している生産者もいる。(PHOTOGRAPH BY IAN LAKER, GETTY IMAGES) トウガラシはとても刺激的だ。顔や耳が赤くなったり、息が荒くなったり、涙や汗が流れたり、時にはののしり言葉が出てきたり。もともとトウガラシは話題になるが、それにしても、ここ数年は爆発的に存在感を増している。(参考記事:「トウガラシが辛いのは菌類を撃退するためだった」) 例えば、シラチャーソースは2022年、厳しい気候条件が原因で店頭から姿を消したが、2024年も同じ理由で品薄になるかもしれない。2023年には、世界で最も辛いトウガラシ2種を使用したトルティーヤチップスが「念のため」に店頭から撤去された。ちなみに、このトルティーヤチップスを食べた後に14歳の息子が死亡した、と家族は主張してい
また、さまざまな研究からは、電動自転車は血糖値の管理に役立ち、BMI(体格指数)を改善し、さらには「関節にやさしい、すばらしく低衝撃の運動」になると、米テネシー大学ノックスビル校の運動生理学名誉教授デビッド・バセット氏は言う。氏によると、血圧を改善することも示されているという。 実際、心血管系および呼吸器系への恩恵は、電動自転車も従来の自転車もほとんど変わらない。米ブリガムヤング大学公衆衛生学部のグループによる研究で、マウンテンバイクに乗り慣れている参加者を集め、電動自転車と従来の自転車に乗ってコースを走ってもらったところ、どちらの自転車でも大半の人は「高強度の運動の心拍数ゾーン」に入っていたことがわかった。 別の研究でも同様の結論が得られているほか、先に挙げたレビュー論文では、電動自転車に乗ったときの酸素摂取量は最大酸素摂取量の51〜73%、従来の自転車では58~74%とほぼ変わらなかっ
シマスカンク(写真は米国テキサス州で撮影)は妨害を受けると、強烈な刺激物質を噴射する。(PHOTOGRAPH BY ROLF NUSSBAUMER/NATURE PICTURE LIBRARY) ほとんどの人はシマスカンクに遭遇したら、すぐに道を譲らなければ強烈な悪臭を放たれることをわかっている。しかし、野生動物はスカンクの有害さをどのように知るのだろう? クマ、オオカミ、ピューマといった手ごわい捕食者でさえ、白黒のシマスカンクを襲うことはほとんどない。 このたび、その真相が初めて明らかになった。ほとんどの捕食者は、生まれつきシマスカンク(Mephitis mephitis)を恐れているわけではなく、試行錯誤によって避けるべきだと学んでいるという。論文は4月18日付けで学術誌「Animal Behavior」に発表された。 信じられないかもしれないが、シマスカンクの白黒のしま模様が警告色か
私の大学では医学部の4年生に精神科の授業で睡眠について詳しく教えている。睡眠に関心のある学生から素朴な疑問をぶつけられることがあり、その代表とも言えるのが「なぜ睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があるのですか?」というものだ。 素朴な疑問とは言え、これは睡眠に関する質問の中でも難問中の難問で、誰も真の正解は知らない。同じ「睡眠」が付いているとは言え、この2つは全く別モノである。多くの睡眠研究者が信じているのは、レム睡眠とノンレム睡眠は長い進化の過程で形作られたもので、この2つの睡眠状態は進化の異なる時期に、異なる目的で出現したということだ。 地球上の全ての生物が共通祖先からその子孫へ枝分かれしながら進化したとする進化系統樹に沿ってさまざまな動物の睡眠状態を観察すると、系統的に古い順に昆虫、魚類、両生類、爬虫類くらいまではレム睡眠もしくはそれに類似した行動しか認められない。 レム睡眠に類似した行
オランダの街で電動自転車に乗る人。米国とカナダは、自転車のインフラに関して多くのヨーロッパ諸国に大きく後れを取っており、安全なルートの不足が電動自転車の普及を妨げている。(PHOTOGRAPH BY ILVY NJIOKIKTJIEN, THE NEW YORK TIMES/REDUX) やや意外かもしれないが、電動アシスト付き自転車(以下、電動自転車)には、一部の人たちが思う以上に健康上のメリットがある。筋肉が強くなる、寿命が延びる、心臓の健康が改善される、比較的汗をかかずに目的地に到着できる。これらはすべて、すでに証拠が得られているプラスの効果だ。 「身体活動は、心血管疾患、がん、糖尿病を含む複数の病気のリスクを軽くすることがわかっています。そして、電動自転車に乗っているときの運動の強度は、これらの健康効果をもたらすのに十分です」と、西ノルウェー応用科学大学の運動科学インストラクター兼
「印章の神官」が埋葬されたのは紀元前1000年頃。ペルーのパコパンパ遺跡という神殿跡で、数層の灰と黒土の下から発見された。(MINISTRY OF CULTURE OF PERU) 2023年夏、ペルー北部で約3000年前の墓が発見された。埋葬されていたのは、アンデス文明の最初期の神官の1人とみられている。インカ帝国の時代よりもはるか昔に生きていた人物だ。 墓が発見されたのは「パコパンパ遺跡」。紀元前1200年頃から紀元前700年頃にかけて使われていた約16万平方メートルに及ぶ神殿跡だ。
オゼンピックによる急激な減量は、皮膚のたるみや抜け毛の原因となり、欧米のSNSではやつれてしわが増えた「オゼンピック顔」と、たるんで皮が余った「オゼンピック尻」が話題になっている。(PHOTOGRAPH BY JAAP ARRIENS, NURPHOTO/GETTY IMAGES PREMIUM) ここ数カ月、短期間で大幅な減量を可能にする薬としてオゼンピックとウゴービが話題になっている。どちらも「GLP-1受容体作動薬」という種類の薬で一般名は「セマグルチド」といい、使うには処方箋が必要だ。米国や日本などではオゼンピックは2型糖尿病の治療用に、ウゴービは肥満症の治療用に承認されている。 しかし一部の人々は、体重が減り、服のサイズが小さくなるにつれて、外見に予期せぬ変化が起きたことに気づきはじめている。それが、やつれてしわが増えた「オゼンピック顔」と、たるんで皮が余った「オゼンピック尻」だ
数十万あるいは数百万年前、トラバーチン(石灰岩の一種)の中で化石化した古人類のあごの骨。トラバーチンはタイル用に切断され、このあごの骨の断面は床のタイルになった。(PHOTOGRAPH COURTESY KIDIPADELI75) 個人宅の床のタイルに古い人類の骨が埋まっている写真が米国の掲示板型ソーシャルサイト「レディット」に投稿され、大きな話題になっている。科学者が長年にわたり発掘調査を行ってようやく見つかるような発見だ。「またインターネット上のつくり話か」と思うかもしれないが、写真を見て納得しない人はいないだろう。磨かれた石材の表面に埋まっているのは、少なくとも5本の歯が水平方向に切断された下あごの骨だ。 匿名の投稿者はトルコの歯科医で、一目であごの骨とわかったと述べている。トラバーチン(石灰岩の一種で、建材として使われる)に閉じ込められたあごの骨には、まだ名前もなく、正体もわかって
54歳の患者の外反母趾を強調したカラーX線画像。この足の変形は、現代の成人の約4人に1人を悩ませている。(PHOTOGRAPH BY ZEPHYR/SCIENCE PHOTO LIBRARY) 8000年以上前、現在のイングランド北西部の海岸を人類がはだしで歩き、消えない足跡を残した。先史時代の狩猟採集民と私たち現代人はあまり共通点がないかもしれないが、10代の少年が残した足跡が、意外な接点を教えてくれている。足の指の付け根から外側に突き出た腫れ(バニオン)の痕跡だ。 バニオンを引き起こす外反母趾(がいはんぼし)や内反小趾(ないはんしょうし)は、古代から人類を悩ませてきた。しかし、そもそもなぜ私たちは外反母趾になるのだろう? そして、なぜ手術なしで治す方法が見つかっていないのだろう? ここでは、私たちはどのようにこの苦しみを抱えるようになり、なぜいまだに科学者を当惑させているのかを解説する
英国の首相として「特殊作戦執行部(SOE)」の結成に尽力したウィンストン・チャーチル。SOEは第2次世界大戦中、枢軸国に対する破壊工作やプロパガンダ活動を行った英国の秘密組織だ。チャーチルは秘密諜報員に「ヨーロッパを燃え上がらせろ」と命じた。(PHOTOGRAPH BY KEYSTONE, GETTY IMAGES) 1942年、スペイン領ギニア(現・赤道ギニア)の港町サンタ・イザベルで、イタリアとドイツの商人がパーティーに誘われたとき、手の込んだ策略だと疑う者はいなかった。しかし、商人たちがグラスを傾けているとき、英国の極秘スパイ集団が船を盗む準備を進めていた。当時は第2次世界大戦中で、枢軸国の武器を積んでいる疑いがあったためだ。 「ポストマスター作戦」として知られるこの大胆な任務は国際的な事件に発展し、破壊工作や騒乱の種まきを専門とする英国の極秘組織「特殊作戦執行部(SOE)」の力が証
この10年間で、人工知能(AI)の力を活用して様々な鳥の鳴き声を識別するアプリがたくさん登場し、科学者やバードウォッチャーに利用されている。さらに、AIが鳥の行動や分布を特定できることを示す研究が増えており、その結果は保護活動にとって極めて重要だ。愛鳥週間によせて、AIが鳥の保護にもたらしている大きな変化と科学者たちの取り組みを紹介しよう。 米西部のシエラネバダ山脈の緑豊かな森林では、毎年春になると、科学者たちが1600個以上の弁当箱サイズのレコーダーを隠す。夏の終わりに回収されるまで、これらの機器は100万時間分の音声を録音する。その中には絶滅危惧種であるニシアメリカフクロウ(Strix occidentalis occidentalis)の鳴き声が含まれていることが多く、この鳥が過ごす場所について貴重な情報を教えてくれる。(参考記事:「北米の鳥が激減、半世紀で約30億羽、3割が消えた」
ラクスの行動は、インドネシア、スマトラ島のグヌンルセル国立公園内にあるスアックバリンビン研究ステーションを取り巻く熱帯雨林で観察された。研究センターは1994年から、周囲の保護林に生息したり、頻繁に姿を見せるオランウータンを観察してきた。動物たちに干渉することなく、あくまで見守る形で、その動きや行動を注意深く追跡、監視、記録している。 「決して彼らの邪魔にならないように数十年間観察を続けてきた結果、向こうも私たちのチームが近くにいることにすっかり慣れてしまいました。人間の存在を無視してもいいのだとわかり、完全に野生のままの姿を見せてくれます」と、ラウマー氏は言う。 研究センターの周辺の熱帯雨林は、スマトラオランウータンが地球上で最も密集している地域だ。オランウータンの生息地は、森林伐採によって年々縮小している。そのため、本来単独行動を好むオランウータンたちが、お互いに近い場所で暮らさなけれ
指の関節を鳴らす行為は、関節内の滑液にたまった気泡が解消し、心地よい感覚をもたらす。しかし、この行為が長期的なダメージを引き起こすことを懸念する人もいる。(PHOTOGRAPH BY SARA SADLER, ALAMY STOCK PHOTO) 指の関節を鳴らす行為は、ゾッとするような不快感から純粋な満足感まで、さまざまな反応を呼び起こす。この習慣は一般に良くないことだと言われているが、背後にあるメカニズムを理解すれば、関節を鳴らす行為がなぜ人にそれほどの充足感を抱かせるのかがわかるかもしれない。 関節鳴らしはなぜ満足感があるのか 関節からポキポキという音がしても、実際に骨にひびが入っているわけではない。関節包(関節を包む袋)の中には滑液(かつえき)が入っており、滑液には主に二酸化炭素と窒素の気泡が含まれている。 「関節包を可動域の限界まで伸ばすと、真空に近い状態が生じます」と、米ルイジ
ドミニカ共和国近海を泳ぐマッコウクジラの親子。(PHOTOGRAPH BY AMANDA COTTON) マッコウクジラの「会話」がどれほど複雑であるかを明らかにする全く新しい方法が、5月7日付で学術誌「Nature Communications」に発表された。マッコウクジラの発するクリック音には、コーダと呼ばれる通常2秒以内の反復可能なパターンが少なくとも150あることが知られている。これまではコーダを一つひとつ分析していたが、追加の音やコーダとコーダの関連性、リズムやテンポなど新たな要素に着目したところ、「マッコウクジラの音声のイロハ(アルファベット)」を初めて明らかにした。クジラたちが何を話しているのかまではまだわからないが、この発見がそれを知る足がかりになる可能性がある。 「マッコウクジラのコミュニケーションシステムの基礎的な構成要素を理解するうえで、極めて重要な第一歩です」と、米
サイトカインストームに関わる免疫細胞の走査電子顕微鏡カラー合成画像。1個のマクロファージと2個の樹状細胞と多数の白血球が見える。サイトカインは通常の免疫反応にとって重要だが、過剰に放出されるサイトカインストームは害になりうる。(COMPOSITE MICROGRAPH BY STEVE GSCHMEISSNER, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 新型コロナウイルス感染症の後遺症で特徴的に見られる免疫系の異常な活性化は、感染から2年でおおむね鎮まることを示した論文が、4月17日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された。長く続く症状に悩む患者たちに、緩やかな回復がありうるという希望をもたらす研究結果だ。 新型コロナにかかった人のおよそ10人に1人は、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする症状)、息切れ、動悸、抑うつなどの幅広い症状
遺伝子操作されたマウスは、がん細胞を移植して、その増殖を研究するのによく使われる。(PHOTOGRAPH BY MASSIMO BREGA, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 体内でがんが増えるのを抑えたいとき、私たちの免疫系は最大の味方になってくれるが、そのためには少しばかり後押しが必要な場合がある。4月25日付で学術誌「Science」に発表された論文によると、腸の組織に含まれるビタミンDが、ある腸内細菌を増やし、それがリンパ球の一種であるT細胞を刺激してがん細胞を攻撃させている可能性があるという。 がん治療の効き方に患者の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が関係しているらしいことは、2018年に発表された一連の研究で示されていた。T細胞のブレーキを外し、がんへの攻撃力を高める「チェックポイント阻害薬」が効く人とそうでない人では、腸内でよく見られる細菌に一貫した違いがあること
2型糖尿病の治療薬であるオゼンピック(セマグルチドの商品名のひとつ)を使用する患者たちには、炎症の改善など、さまざまな健康効果が見られている。(PHOTOGRAPH BY RICARDO RUBIO, EUROPA PRESS/GETTY IMAGES) 米ヒューストン郊外在住のケーシー・アーノルドさんは、2023年の冬に55歳で完全にたばこをやめるまで40年間にわたって喫煙を続け、多い時は1日に2箱吸っていた。そんな彼女の禁煙を助けてくれたのは、「GLP-1受容体作動薬」という新しいタイプの減量薬だった。 GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、インスリン(血糖値を下げるホルモン)の生成と放出を促し、消化のスピードを遅くし、食欲を抑える働きをもつホルモンだ。元は糖尿病の治療薬として開発されたエキセナチド、チルゼパチド、セマグルチドといったGLP-1受容体作動薬は、このGLP-1をまねて
数世紀前に作られたイースター島のモアイ像は、ラパヌイの人々が岩から彫りだしたヒト形の石像だ。近年、山火事がこの世界遺産の島を襲い、多くのモアイ像が修復不可能な被害を受けた。(PHOTOGRAPH BY ONFOKUS, GETTY IMAGES) 立石(りっせき)、得体のしれないマウンド(塚)、地上に描かれた線。古代文明は、その存在の痕跡を残して滅びた。当時の人々にとっては深い意味があったに違いないこのような遺跡に込められた思いを、現代の私たちが知ることは難しい。その後の地球に生きる私たちは、「誰が? 正体は? いつ? なぜ?」と思いを巡らせるしかない。 考古学者たちは、こうした重要な意味がありそうな遺跡の調査を進めてきたが、いまだにその謎が解明されていないものもある。ここではその一部を紹介しよう。 イースター島の石像と文字に秘められた謎とは? イースター島(現地語では「ラパヌイ」)は、地
老化は誰もが避けられないが、その速さは人によって異なる。未解明なことは多いものの、具体的な原因物質を示す研究成果が発表されるなど、老化の謎は次第に明らかになりつつある。 研究グループは、名古屋大学環境医学研究所発生遺伝分野の岡泰由、中沢由華の両講師や嶋田繭子技術員、荻朋男教授らがメンバー。 老化の原因の一つとして体をつくる細胞やタンパク質の「酸化」や「糖化」があり、酸化をもたらす活性酸素などが注目されてきた。しかし、研究グループによると、アルコールの代謝でできるアルデヒド類由来の物質が老化の原因になる、と実験結果に基づいて提唱されたことはなかったという。 アルデヒド分解酵素「ALDH2」は有害物質のアルデヒドを無毒化するために重要な働きをし、同グループによると、日本人の約4割はこのALDH2の活性を低下させる「一塩基多型」と呼ばれる遺伝子の特徴を持っている。 研究グループは、お酒を少量飲む
研究により、生物発光は暗い深海のサンゴのような生物から始まった可能性が明らかになった。写真のミズクラゲ(Aurelia aurita)などが登場するずっと前のことだ。(PHOTOGRAPH BY SHANE GROSS, NATURE PICTURE LIBRARY) ホタル、藻類、イカなど、光を発する不思議な生きものは数多く存在する。生物発光というこの仕組みは、ただ謎めいた美しさを醸し出すだけではない。自然界で少なくとも100回は独自の進化を遂げてきた能力で、獲物をおびき寄せる、敵を驚かせる、求愛行動に用いるなど、さまざまな使いみちがある。では、生物がはじめて闇の中で輝く能力を獲得したのは、いったいいつなのだろうか? これまで、生物発光したもっとも古い生きものは2億6700万年前に生息していた貝虫(かいむし、小型の海洋甲殻類)の一種とされてきた。ところが、2024年4月24日付けの学術誌
マッソスポラ菌(Massospora cicadina)に感染した周期ゼミ。お腹だったところが黄色っぽい胞子で覆われている。菌はセミをゾンビ化し、求愛行動を操って、胞子の拡大を助けるような行動を取らせる。(PHOTOGRAPH BY CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES) 米国でこの春、セミが大量発生する。今年は南東部から中西部までの17州で、13年ゼミと17年ゼミの大集団の周期が221年ぶりに重なるからだ。長い地中生活のあとセミたちが地上に出てくる目的は、交尾相手を見つけ、死ぬこと。ただそれだけだが、そのセミたちを食い物にしようと待ち構えている菌がいる。セミの体を内側から食い荒らし、宿主を性行為に取り憑かれたゾンビにしてしまうマッソスポラ菌だ。(参考記事:「221年ぶりに周期ゼミの2集団が同時に大量発生、江戸時代以来」) 過去に発生した周期ゼミを観察した科学者たちは
北海道の知床半島でヒグマがカラマツの人工林の地面を掘り返してセミの幼虫を食べており、掘り返しのために樹木の成長が低下していることが、高知大学などの調査で明らかになった。人の手が入った生態系で動物が新しい行動をし、これまでなかった影響を環境にもたらす事例として注目される。 ヒグマは夏に天然林で草本を食べていた(左)が、2000年以降は人工林でセミ幼虫を掘って食べ、樹木の成長に影響をもたらしている(イラスト・イスキュルの小泉絢花氏、高知大学の富田幹次助教提供) 開拓で天然林を伐採した地域で調査 高知大学農林海洋科学部の富田幹次助教(動物生態学)は北海道大学生だった2019年~20年、ヒグマの行動が樹木へ与える影響を、知床半島でも観光客が多く訪れる幌別‐岩尾別地域で調査した。 幌別‐岩尾別地域はもともと天然林が広がっていたが、明治時代以降に開拓が進み、森林が伐採された。1970年ごろから森林を取
最新の研究で、スパイクトゥースサーモン(Oncorhynchus rastrosus)の復元図が示された。以前はセイバートゥースサーモンと呼ばれていたサケの仲間だ。(ILLUSTRATION BY RAY TROLL) 1972年、体長約2.5メートルにもなる史上最大のサケを発表した古生物学者たちは、この魚は陸を歩いていたサーベルタイガー(剣歯虎)の水中版だと考えた。サケの上顎(あご)から、2本の湾曲した歯が下向きに突き出ているとされたからだ。(参考記事:「絶滅動物サーベルタイガー、驚きの暮らしが判明」) しかし今、新たな研究により、1200万〜500万年前に生きていたこのサケ(Oncorhynchus rastrosus)の象徴的な顔が覆された。2本の印象的な歯が「鼻先」から、キョンやイボイノシシのように、横向きに突き出ていたと実証されたのだ。論文は4月24日付けで「PLOS ONE」に
ムラサキダコの雌の腕と腕の間には「傘膜」と呼ばれる膜があり、広げると体が大きく見える。雌の重さは、最大で雄の4万倍もある。(PHOTOGRAPH BY STEVEN KOVACS, BLUE PLANET ARCHIVE) 変幻自在に姿を変え、道具を使い、献身的に子の世話をするタコ。その驚きの能力や知性の秘密を探る。 視点を変える 賢く適応力に優れたタコ。最近の研究が、私たちの見方を変えつつある。 丸い袋のような体に付いた8本の腕をくねらせ、墨を吐く生き物。そんなイメージのあるタコが、北欧の海の怪物クラーケンからアニメ映画『リトル・マーメイド』の魔女アースラまで、さまざまな物語に着想を与えてきたのも不思議ではない。だが本当のタコは、賢く、好奇心旺盛で、個性あふれる生き物だ。写真家のデビッド・リトシュワガーは、米ウッズホール海洋生物学研究所のロジャー・ハンロンの研究室や、イタリアのフェデリコ
わざわざカジノに出掛けなくても、スマートフォンさえあればギャンブルできる時代になった。米国のギャンブル事情はこの数年で様変わりし、オンラインでギャンブルを始めて続けることがどんどん容易になっている。(PHOTOGRAPH BY GEORGE ROSE /GETTY) ギャンブルは歴史を通じて定期的に大流行してきたが、最新のピークは今かもしれない。きっかけは2018年、米連邦最高裁判所が「プロ・アマスポーツ保護法(PASPA)」を覆したことだ。この連邦法が存在したことで、米国ではほとんどの州がスポーツ賭博を禁止していた。(参考記事:「中国で競馬が復活、建国以来初」) 米連邦最高裁の判決をきっかけに、一夜にして、スポーツ賭博の広告がちまたにあふれた。今や、スポーツ中継だけでなく、スポーツ以外の番組やオンラインのあらゆる場所で広告を目にする。 この判決が下されてからの5年間で米国民はスポーツに2
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