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ポーランドへ逃れる列車に乗るために列を作るウクライナの避難民(西部の都市リビウ、7日) Marko Djunca-RETERS <ウクライナに国際社会の全面的な支援、同情が向けられていることに、中東のみならず非欧米社会は「ダブル・スタンダード」を見ている> 2月も終わりの頃、レバノンの友人からアラビア語の落書きの写メが送られてきた。「第一次大戦の開戦日1914年7月28日:19+14+7+28=68、第二次大戦の開戦日1939年9月1日:19+39+9+1=68、第三次大戦の開戦日2022年2月24日:20+22+2+24=68」。第三次大戦の開始日、とされたのは、ロシアのウクライナ侵攻の日である。 第三次大戦を想定するほど、ウクライナでの戦争は、中東に深刻な緊迫感をもたらしている。黒海を挟んで北と南にウクライナとトルコが位置していることを見ても、中東が現下の紛争地域に地理的な危機意識を実
<大国の軍事力に代わる有効な「人道的介入」の方策を、国際社会が確立することは結局できなかった> 8月15日、ターリバーンがカーブルを制圧し、アフガニスタンの権力掌握を果たした。バイデン米大統領が米軍を全面撤退させると宣言した期限の9月11日より1カ月近くも早い、カーブル陥落である。これで、2001年のアフガニスタン戦争でターリバーンを追放して以来米国が支えてきたアフガニスタン政権は、露と消えた。 この20年間にアフガニスタンで命を落とした米兵は2452人、英やカナダ、ドイツなどNATO加盟国の犠牲者を含めると3596人にもなるが、アフガニスタン人側の死者数は政府軍・民間人が10万人強、ターリバーンなど反米派側の被害も5万人を超える。米政権が費やした戦費は3兆ドルともいわれ、今年3月までにアフガニスタンの治安部門の再建計画に費やされた資金は8830億ドルとされている。この膨大な人的、資金的コ
今回の衝突は、7日にイスラエルのアルアクサー・モスクから始まった Ammar Awad-REUTERS <イスラエル占領地の住民には、じわじわ悪化していく現実に対するフラストレーションがたまり続けている> イスラエル併合下にある東エルサレムで、5月初めから大規模な衝突が続いている。5月7日、ラマダン月最後の金曜礼拝が実施されたアルアクサー・モスクで、イスラエル警察とパレスチナ住民が衝突、パレスチナ人側に200人以上の負傷者が出た。 9日は預言者ムハンマドに最初の啓示が下された「みいつの夜」に当たっていたが、今年はイスラエルの「東エルサレム併合記念日」と重なり、これを祝うユダヤ人と反発するパレスチナ人の間で衝突が激化、イスラーム教徒にとっての聖地であるアルアクサー・モスク内にイスラエル警察が踏み込んだ。一方で、ハマースがガザでミサイル攻撃を再開するなど、対立は拡大、現在に至っている。 東エル
<教皇の目的は、イラクで見捨てられがちなキリスト教コミュニティーを見舞うだけではない> 3月5〜8日に行われたローマ教皇フランシスコのイラク訪問は、世界中で驚嘆と歓喜、賞賛をもって受け止められた。2年前までIS(「イスラーム国」)によるテロ活動が蔓延し、ちょうど1年前には米軍がイラクおよびイランの治安組織関係者をバグダード空港近くで爆殺するという事件もあり、決して治安が安定したとはいいがたいイラクである。 ましてや、このコロナ禍。イラクでは、1月上旬には新規感染者数を600人台まで抑え込んでいたのに、2月に入った途端に1000人を超え、3月初めには5000人を超えるという、第2波のピークを迎えている。死者数の多さでは、現在世界29位だ。 教皇が訪問したのは、その最中である。84歳という高齢の教皇は、すでに1月中にワクチンを接種した上で、イラク各地を訪問するにあたってマスクを外し、人々と密に
ベイルート港湾施設の爆発事故の後、政府への不満を表明するデモ隊の人々 Alkis Konstantinidis-REUTERS <先進国の多くの若手研究者が、現地の研究機関に調査費を支払ってデータ収集やアンケート調査を手伝ってもらう> コロナ禍で、その形態ががらっと変わったことのひとつに、学会の開催方法がある。毎年各種学会が開催する年次大会は、各地から同業研究者が集まってきて、最新の発見や議論、手法について意見を交わす場なのだが、今年は軒並み対面会議ができなくなったので、ほとんどがオンライン会議に切り替わった。 慣れない不便さはあるものの、利点もある。海外の学会に移動せずして参加できるので、お得感が大きい。会場の雰囲気に気を取られたり、発表が聞きにくいといった問題もなく、むしろ集中できる。 というわけで、今年の北米中東学会(世界で最大・最難関の中東研究の学会だ)は、渡米する面倒くささもなく
<テロや暴動よりももっと深刻な問題を、イスラエルは抱え込むことになる> 8月13日、UAEがイスラエルと和平合意の締結を発表した。イスラエルと結んだ和平としては、1979年のエジプト、1994年のヨルダンに続き3番目で、湾岸諸国では初めてである。 国際社会はおおむね好意的な反応、というのが、日本のメディア報道の大半の論調だ。だが実際は、好意的な評価は推進役のアメリカはもちろん、ヨーロッパ、国際機関からのものばかりで、オスロ合意の時のように「すわ、ノーベル平和賞?」というほど、全世界が絶賛、というのには程遠い。 中東諸国のなかでも、UAEに先がけてイスラエルとの交渉を積極的に行ってきたオマーンなどの湾岸諸国や、対イスラエル和平の先達であるエジプトが賛同したものの、2番目の和平相手国であるヨルダンは態度を曖昧にしているし、オスロ合意以降比較的対イスラエル関係改善の方向にあったモロッコは、むしろ
イラン革命が湾岸地域に大変動を引き起こした(写真はイラクとの戦争を鼓舞するイランの壁画) Yannis Behrakis-REUTERS <アメリカだけでなく湾岸地域の全ての当事国が、長期的なビジョンを描けないまま迷走を続けている> 2020年は、中東のいろいろな出来事の「〇〇周年」だ。 ちょうど一世紀前は、第一次世界大戦が終わって、ヴェルサイユ条約の発効や国際連盟の発足など、戦後処理にまつわるさまざまなことが起きた年だから、第一次世界大戦を契機に英仏の間接植民地統治を受けることになった中東でも、各地で動乱が起きた。建国前夜のイラクで起きた反英暴動(1920年暴動)はその一例で、暴動100周年を記念して各地でいろいろなイベントが予定されていた。新型コロナウィルスの感染拡大で、どれも軒並みキャンセルである。 もっと近いところだと、イラン・イラク戦争勃発から40年、というのがある。1980年9
アメリカ発のBLMに呼応してパレスチナ人差別への抗議デモを行う人たち(パレスチナ・ガザ) Mohammed Salem-REUTERS <アメリカ発のBLM運動は、中東諸国でも「反差別運動」としての連帯が謳われているが、中東でも近年、アフリカ系への差別への異議申し立てが顕在化している> 5月末、米ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドが警察の暴力的拘束によって殺害された事件をきっかけに、Black Lives Matter (BLM、「黒人の命も重要だ」)と訴える運動が世界中に広がった。それは単なる「黒人」に対する差別だけでなく、あらゆる人種差別に反対する運動につながり、中東でも大きな反響を呼んでいる。 何よりも敏感に呼応したのが、イスラエルのパレスチナ人だ。5月30日、フロイドの事件の5日後に、イスラエル併合下の東エルサレムで、パレスチナ人の若者イヤード・ハッラークがイスラエル警察によ
サウジアラビアは3月4日にメッカへの巡礼を禁止した(写真はその前日3日のメッカの巡礼の様子) Ganoo Essa-REUTERS <新型コロナウイルスの感染が広がる今こそ、国際的な協調が求められる時だが、中東では歴史的に国際政治と感染症が密接に関係してきた> 新型コロナウイルスの感染拡大が、世界中を恐怖に陥れている。今やパンデミックの中心は欧米諸国に移った感があるが、東アジアでの発生から欧米へと移行する過程で、中東でも感染拡大が止まらない。 中東で最初に感染者が出たのは2月14日、エジプトにおいてである。これはエジプトを訪問した中国人から感染が広がったものだった(3月19日現在の感染者数210人、死者4人以上)。3月に入ると、ナイル・クルーズで観光客の間に拡大した感染が日本にも広がった。アジア発の感染という点では、イスラエルでの例がはっきりしている。2月21日に「ダイヤモンド・プリンセス
パレスチナ自治政府のアッバース議長は、安保理での拒否決議の提案を取り下げた Raneen Sawafta-REUTERS <パレスチナ自治政府もなすすべがないといった体だが、国連はこの和平案に明確に抵抗を示している> 1月末にトランプ米大統領が発表したイスラエル・パレスチナ中東和平案、「世紀の取引」(正式には「繁栄への和平」)は、世界にざわつきと不安を呼んだ。ユダヤ人入植地の存在を認め、パレスチナ自治区であるヨルダン川西岸地域の多くをイスラエルに編入し、パレスチナ人難民のイスラエル帰還権は否定される。その内容は、オスロ合意以降続いてきた「二国家共存」の原則を実質的に放棄したものであり、発表直後から多くの反発は必至と危惧されてきた。 しかしながら、それから3週間が過ぎ、反発や抵抗が本格化しているとはほど遠い。トランプ案への反対を国連に訴え、安保理での拒否決議を模索していたアッバース・パレスチ
<歴代の米政権が黙認してきたイラクの親イラン化に、トランプ政権がようやく目を向けた途端、自己正当化のための攻撃を開始した> 1月3日、イラン・イスラーム革命防衛隊クドゥス部隊のカーセム・ソライマーニ司令官と、イラク人民動員機構(PMU)のジャマール・ジャアファル・ムハンマド(通称アブー・マフディ・ムハンデス)副司令官が、バグダード国際空港にて米軍の攻撃によって殺害された。イランでもイラクでも、瞬く間に彼らの死を悼み米軍への報復を叫ぶ人々が、道という道に溢れた。ソライマーニやムハンデスに弔意を示さないものは非国民だ、的なムードすら漂っている。8日にはイランがイラク国内の米軍基地を報復攻撃した、と発表した。 アメリカがなぜ今この時期にイランの司令官を攻撃したのか、理由は正直不明だ。イラクで反イラン色の強い反政府デモが続いていたことで、イランを叩くチャンスだと考えたのかもしれない(ポンペオ国務長
<イラクの反政府デモで大活躍するオート三輪トゥクトゥクは、エジプトでも「アラブの春」を支えていた> イラクでの反政府抗議デモは、発生から二カ月半を経て、いまだに沈静化の目途がたっていない。12月1日にはアーディル・アブドゥルマフディ首相が辞意を表明したものの、焼け石に水だ。 それどころか、デモ隊と政府治安部隊の衝突はますます激化している。タハリール広場とその脇のトルコ料理店に座り込みを続けるデモ隊に対して、政府の治安部隊は橋向こうから日々攻撃を続けるが、そこで使用される砲弾には缶ジュース並の大きさのものが使用されることもあり、頭を直撃されて死亡したデモ隊員の頭蓋骨X線写真がSNSで出回っている。催涙弾には毒性のある薬品が使用されているらしく、デモ隊には解毒処理を行うグループが活躍している。 衝突の現場で命を落とすだけでなく、誘拐、暗殺も横行する。デモ開始初期、女性の医療ボランティアが帰途何
<宗派を超えて広がり、あらゆる政党の介入を拒否するイラクの反政府デモは、まるで8年前にエジプトでムバラク政権を倒した「アラブの春」の第2幕> IS(自称「イスラム国」)の脅威にようやく終わりを告げたイラクで、今年10月に入って再び世界を驚かせる事態が起きている。それは連日イラクの各地で繰り広げられている、数百万人規模の反政府デモだ。 10月1日、首都バグダードの中心部にあるタハリール広場に、若者中心に数千人のデモ隊が集まり、政府批判を開始した。そこに政府の治安部隊が出動し、デモ隊に向けて高圧水射砲と催涙弾で鎮圧を開始、2人が亡くなった。完全に丸腰のデモ隊で死者が出たことから、デモ隊や市民の間に怒りが爆発、政府に対する反感がさらに高まった結果、デモ隊に合流する支持者の数は日に日に増えた。事態の急速な展開に慌てた政府は外出禁止令を発令、ネットやSNSなどの通信を75%カットし、盛り上がる反政府
<国外からの支援物資に人口の7割が依存する内戦下のイエメンで、サウジアラビア主導の連合軍が海路・空路封鎖を実施。現地の人道支援団体の担当者は悲鳴を上げている> 160億ドルもの資産を持つと言われる大富豪の王子らを「汚職」容疑で逮捕したり、訪問中のレバノンの首相を辞任させ軟禁状態においたりと、なにかとショッキングな事件が続くサウディアラビアだが、先週6日、サウディがイエメンに対して海上・空路封鎖を行ったことは、深刻な人道的被害をもたらすものとして強く危惧されている。 2015年に始まったイエメン内戦は、フーシー派と呼ばれる人々が政権を奪取し、それまでサウディら周辺国が支持するハーディ大統領が辞任に追い込まれた、その新政権派(フーシー)と旧政権派(ハーディ)の間で戦われている内戦である。だが実態は、内戦というより域内戦争だといえよう。なぜならば、フーシー派の政権奪取後、すぐにサウディを中心とし
<クルド人の民族運動を長らくひきいてきた愛国連盟のタラバーニ氏が死去した。クルドの二大政党は歴史的に、アメリカやイラク政府との駆け引きのために対立と共闘を繰り返してきた> 10月3日、イラクのクルド民族運動を長く牽引してきたジャラール・タラバーニ氏が逝去した。83歳。十年前に心臓を患って以降治療が続けられてきたが、5年前に脳卒中を起こしてからは、いつまで持つかと言われてきた。 イラク戦争後、新たに制定された憲法のもとで初めてイラクの大統領となったのが、タラバーニだった。同じクルド民族運動の雄、マスウード・バルザーニ率いるクルディスタン民主党(KDP)と並んで、クルド政界を二分してきたクルディスタン愛国連盟(PUK)の創立者であり、死ぬまで指導的地位にいた。それゆえに、欧米の追悼の記事には「イラク統一に欠かせない政治家」、「中央政府とクルドの仲介役として惜しまれる死」といった表現が並ぶ。 ク
<中東ではISISの存在が次第に小さくなっているが、イラクでは対ISISでまとまっていたたがが外れて、各政党の勢力関係はますます複雑になっている> イラクがモースルのIS(イスラーム国)からの解放を宣言して、1か月半経った。これでISも終わりだ、というムードが漂うなか、果たして「ISの終焉=中東が安定」となるのだろうか。 イラクに関してみれば、逆だといえるだろう。この1か月の間、驚くような新展開が続いているからだ。まず第一に、7月24日、有力シーア派イスラーム主義政党であるイラク・イスラーム最高評議会(ISCI)の党首で現イラク与党連合「国民同盟」の長のアンマール・ハキームが、突然ISCIを辞め、新しい政党を作った。第二に、7月30日、シーア派のなかでも貧困層、若年層を中心に圧倒的な人気を誇ってきた暴れん坊、ムクタダ・サドルが11年振りにサウディアラビアを訪問した。 いったい何が起きている
サウジ、UAEを軸にカタール包囲網はみるみる広がった(写真はカタールの首都ドーハ中心部の遠景) Naseem Zeitoon-REUTERS <イラン対サウジの対立を「シーア派対スンニ派」の宗派対立と表現するメディアもあるが、実際の構図は「イスラム主義対保守的権威主義」の思想対立> サウディアラビアの皇太子交代のニュースは、衝撃をもって世界を駆け巡った。サルマン国王の息子、ムハンマド・ビン・サルマンが副皇太子の地位でありながら、実質的にサウディの若き指導者であることは、誰しもわかっていた。だが、従弟たるムハンマド・ビン・ナーイフをわざわざ皇太子の地位から外してまで、今、次期国王の名乗りを挙げる必要は、何だったのだろう。そこにニュースに接した筆者たちの驚きがあった。 なによりもカタールと断交し、イランとの間に緊張が高まる現状での出来事である。ムハンマド・ビン・サルマン(一般にMbSと略されて
サウジアラビアでの演説で、トランプはイスラム諸国にテロ対策での団結を求めたが Jonathan Ernst-REUTERS <イランとその味方のシーア派勢力を封じ込めたいサウジの思惑に乗ったトランプ。イスラム社会の宗派間、宗派内対立の火種を再燃させるおそれが> 5月20-21日に実施されたトランプ大統領のサウディアラビア訪問は、サウディアラビアとトランプ側の報道を見る限りでは、大成功のうちに終わった。アラブのみならず、南アジアや中央アジア、東南アジアのイスラーム諸国からも参加を得て、サウディ主導のイスラーム諸国サミットは、大盛況。米国側も、1100億ドルの武器輸出契約をサウディと結んで、商売繁盛にご満悦の様子だ。 だが、結集したイスラーム諸国の首脳を前に、トランプ大統領が「テロに対して一致団結を」と演説をぶち上げたのに水を差すような出来事が、その後続いている。英マンチェスターでのコンサート
<現地社会へのインパクトを無視して実施された米軍のミサイル攻撃。シリアではアサド政権の支持派、反対派の双方に軍事介入への反発を残すだけ> トランプ米大統領の突然のシリア空爆には、驚いた。トランプ政権の対中東政策は、ビジネス優先で得にならないことはやらない、というのが基本だと、誰もが思っていたからだ。 シリア内戦に関して、「ISを叩く」との方針は別にして、トランプ政権は明確な方針を示してきたわけではない。とはいえ、その底流には、反アサド勢力に肩入れしても先行き展望はない、といった認識があっただろう。 ロシアとトルコが足並みを揃えており、アサド政権を支えるロシアとトランプ政権の関係が蜜月にある以上、シリア内戦でアサド政権を否定するのは勝馬に乗る行動とは言えない。化学兵器の非人道性、などというオバマ的「人道主義」は、トランプ大統領が一番考えそうもないことだ。 などなどを考えれば、空爆を決断したと
<中東諸国を見境なく敵視するトランプ政権の中東外交に対して、日本にはかつてのようにアメリカと中東の橋渡しをする役割が求められている>(写真:トランプ政権の入国制限にアメリカ各地の空港で抗議行動が) アメリカにいる友人たちから、悲鳴のような訴えが届く。トランプの「中東・アフリカ諸国7カ国からの入国禁止」令を受けてのことだ。 昨年結婚したばかりのイラク人の友人は、ご主人がアメリカにいる。クリスマスに会いに行ったばかりだが、再会はいつになるのか。アメリカにいるシリア出身の友人は、家族、親族を呼び寄せることができない。例を挙げればきりがないが、引き裂かれる家族、友人の人生がこれからどうなるのか、胸が痛む。 とりわけ腑に落ちないのが、入国禁止の対象となった7カ国のなかにイラクが入っていることだ。ブッシュ元大統領が2003年のイラク戦争で「民主化」を謳い、議会と選挙と新生イラク政府を導入して、アメリカ
<イラク軍による、ISISの拠点都市モースルの奪回作戦が始まった。その一方で、シーア派民兵を支援するイランと、北部スンニ派を支援するトルコとの代理戦争が過熱している>(写真は、モースル攻勢に向けて準備する「ペシュメルガ(クルド系軍事組織)」) イラク治安部隊によるモースルのISからの奪回作戦が、秒読み状態だ(*イラクのアバーディ首相は日本時間17日朝に作戦開始を発表)。 6月に西部のファッルージャをISから解放して以来、人民動員機構(シーア派民兵を中心としたイラク内務省管轄の治安部隊)などイラクの対IS部隊は、残されたIS占領地、モースルにすぐにでも向かおうと、意気軒高だった。実際早いうちから北進し、いつでもモースルは奪回できるのだけれど政治的に最も効果的なタイミングを見計らっているのだ、と言われていた。 米大統領選直前に「勝利宣言」を持っていけるように調整しているのだなどと、囁かれていた
<現在公開中の映画『歌声にのった少年』はパレスチナの少年を主人公に夢と希望を描いているが、監督のハニ・アブ・アサドはイスラエル国籍のパレスチナ人として深い闇を抱えている>(写真は14年1月のアブ・アサド監督) 先週、某民放のバラエティ番組を見ていて驚いた。パレスチナ人監督のハニ・アブ・アサドがゲストで出演していたのだ。 監督の最新作『歌声にのった少年』の日本公開に合わせた、「宣伝」のための出演だったのだろうが、長年中東研究に携わってきた筆者からすれば、びっくりだ。パレスチナ映画がゴールデン・タイムの民放で紹介されるなんて! しかも監督自らが出演して、日本の芸能人相手にガザのパレスチナ人社会の現状を語るなんて! 「テロリストの親玉」視されてきたPLOのリーダー、アラファトがノーベル平和賞を受賞した、というまでの大転換とはいかないけれど、パレスチナ映画なんて説教臭いメッセージ性ばかり強くて悲惨
<今回の事件では、軍の政治介入に対する市民の忌避感が強く強調されたが、最近のエジプトやタイの政情不安の事例を考慮すると、これが市民社会の二極分化、対立へと発展するおそれを感じさせる>(写真はエルドアン政権を支持して集まったトルコ市民) 先週末、トルコでクーデター未遂事件が発生したとき、筆者は頭を抱えた。 ほんの3カ月前、筆者は『途上国における軍・政治権力・市民社会』(晃陽書房)という研究書(編書)を出版したのだが、そこでトルコは扱わなかったからだ。 理由はちゃんとある。建国の父ムスタファ・ケマル(アタテュルク)が軍主導で国家建設を進めたトルコ共和国は、90年代後半まで政局が揺らぐと軍が出てきて安定化を図るという、クーデター「常連」国だった。一定期間をおいて民政移管するなど、ある意味「模範的」なクーデターであり、多くのアラブ諸国で見られたように、特定政党や個人が軍を私物化するといったことも、
<イラクとシリアで劣勢に陥ったISISが、戦線を各国に拡大しているという見方もあるが、実際には各地の不満分子がISISの「ジハード」によって活動を正当化しているのが実態のようだ。有効な解決策はないものの、各地域の社会問題を解決することがまず重要となる>(写真は自爆テロで破壊されたバグダッドの商業地区) 通常は、盆と大晦日と正月を一緒にしたようなお祭り騒ぎのはずのラマダン明けの「イード(犠牲祭)」だが、今年は暗く沈んでいる。 ラマダン月が明ける4日前にイラクのバグダードで起きた商店街カッラーダでの爆破事件は、292人もの死者を出したし、その翌日にはサウディアラビアのジェッダ、メディーナ、カティーフで爆破事件が発生した。ダッカのカフェ襲撃事件で日本人も含めて痛ましい犠牲者を出したバングラディシュでは7日、ラマダン明けのお祝いの最中に首都郊外の町で警察襲撃事件が起きた。インドネシアでもバイクで警
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