今回はΔΣ変調が考案された成り立ちをたどってみましょう。ΔΣ変調の生みの親である、早稲田大学理工学部教授の安田靖彦さんは、当時を振り返って次のようにお話しされています(郵政研究所月報 2001.7)。短い言葉の中にΔΣ変調の決定的な核心部が語られており、非常にリアリティが感じられる味わい深い文章です。 「私事になって恐縮ではあるが、このデルタ・シグマ変調は今から40年も前、昨年秋に逝去された猪瀬博先生の研究室に私が大学院学生として在籍中、あるきっかけで創案し命名したものである。 (中略) 当時は真空管からトランジスタへの移行期で、デジタル回路は現在からは想像できないほど高価であった。そこでこの試作交換機では通話方式として、PCMではなく回路が簡単なデルタ(Δ)変調を用いることになり、私がその担当者となった。 昭和35年の秋、先生から我々大学院学生に新しい卒論生に与える研究テーマを考えるよう