部屋の中は静まり返っていた。 放課後のまだ明るい陽射しがカーテンの隙間から漏れ、床に柔らかな影を落としている。 制服姿の少年――悠斗(ゆうと)は、自室の姿見の前に立っていた。 鏡の中には、セーラー服を着た一人の「少女」が、にっこりと微笑んでいる。 もちろん、それは現実ではなかった。 「……俺じゃないか、これ」 鏡の前に立つ自分が、まるで“誰か別の存在”であるかのように感じる。 黒髪のポニーテール、紺色のセーラー服、膝上のスカート、そして控えめに指でピースサインを作る仕草。 完全に「女の子」だった。 しかしそれは確かに、自分だった。 自分の目線、自分の表情、自分の身体……けれども、どこか「自分ではない」ような不思議な感覚。 ――こんな姿、誰にも見せられない。 心の奥で何度もそう繰り返しながら、悠斗は逃げるように視線を逸らす。 しかし気づけばまた、鏡の中の自分を見つめてしまっている。 女装願望