はじめに はじめまして.東北大学/株式会社Nospareの石原です.本記事では,計量経済学で研究されている識別(identification)という概念を紹介したいと思います.簡単に紹介すると,識別という概念で議論されるのは,「もし観測される変数(データ)の分布を知ることができたら,興味のあるパラメータをデータの分布から一意に復元することができるのか?」という問題です.本記事では,識別という概念の定義を紹介し,識別という問題が計量経済学の文脈でなぜ重要であるのかについて書きたいと思います. 識別の定義 観測できる変数 $W \in \mathbb{R}^d$ の分布はパラメータ $\theta$ によって特徴づけられるとし,パラメータ $\theta$ の下で生成される $W$ の分布を $P_{\theta}$ で表すとします.さらに,パラメータ $\theta$ はあるパラメータ空間