リスク論批判:なぜリスク論はリスク対策に対し過度に否定的な結論を導くか Too risky risk analysis 市村正也 1 はじめに 人間の生命、健康、安全にとってなんらかのリスクが存在するとき、直ちにそのリスクを低減する対策を実施するのではなく、リスク対策が持つマイナス面を考慮して実施するかどうかを判断すべきとする考え方がある。対策のマイナス面とは、具体的には、対策にかかるコストおよび対策によって引き起こされる新たなリスクである。リスク対策は、そのようなマイナス面と、プラス面つまり対象になるリスクの減少とをはかりにかけ、プラス面が大きいと考えられるときにのみ実施されるべきである。この文章では、そのような考え方をリスク論とよぶ。また一般にもそのような考え方がリスク論と総称されていると考えられる。 リスク論の一般的な合理性は疑い得ない。あるリスクへの対策が別のより大きなリスクを