8月のある夕方、湖に面したインドの地方都市のお祭りで、ぼくは19歳のフランス人の女の子と手回し式の観覧車に乗る。ぼくたちはなにもいわない。観覧車は今まさに頂上に来ようとしている。 ぼくたちはデリーからジャイプールという地方都市への特急列車で知り合った。出来すぎているようだけど、そのとき彼女はフロイトの「夢判断」をフランス語で、ぼくはガルシア=マルケスを英語で読んでいた。 哲学のコースで無意識についてのペーパーを書かなければいけないの。フロイトって難しいね、と彼女は言い、そこでフロイト理論について気の利いたジョークでも言えたらクールなのだけれど、ぼくはへらへらと笑いながら、いやあ本当に、とだけコメントした。本当にぼくはかぼちゃ頭だ。 それからぼくたちは、どこから来たのか、どこへ行くのか、国では何をしているのか、といった旅のお決まりの言葉を交わし、その後の行き先がほとんど同じであることに二人で