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アベノミクスのキーワードは「期待」です。非経済学者の友人と話していても、ニュースを読んでいても、かみあってないな、と感じるので、少し整理します。経済学者が言うところの「期待」は、学術用語なので、一般的な物とは少し違います。 日本語で一般的な用法きたい【期待】望ましい事態の実現、好機の到来を心から待つこと。「サイコロで相手よりも高い目がでることを期待する。」いんふれきたい【インフレ期待】望ましい状態であるインフレが発生することを待望する 経済学者の用法きたい【期待】現在の情報に基づく予想。「このサイコロの、期待される値は3.5だ。」いんふれきたい【インフレ期待】人々が考える、将来のインフレ率の予想。 経済学者の言う期待は実体経済の状態とか、政策決定者の態度などによって形成され、実体経済に直接の影響を及ぼします。将来予想が変わったら現在の行動を変えますから。単なる願望である、日本語で一般的な期
インフレーションターゲッティングの先輩である英国の状況についてのThe Economistの記事の翻訳を紹介します。記事はThe Economist的に皮肉なトーンで書いてはいますが、過去3年の欧州はかなり特殊な状況にあったので、ターゲットに固執しないことを選択した英国中央銀行の選択は正しいと個人的には思います。 ーーーーーーーーーいつからターゲットはターゲットでなくなったのだろうか?2%のターゲットより高いインフレ率が38ヶ月以上継続していることが、英国中央銀行のインフレーションレポートから明らかになった。今までだったら、ターゲットが達成されてないときは「心配ご無用。中期(=2年)的にはインフレ率はターゲットを達成します。」と言ってきた。でも、今回は違う。インフレ率はこれから2年間、ずっとターゲット以上になると予想されている。つまり、5年以上ターゲットが達成できない状態が続くと見込まれて
日本銀行、FRB、ECBの根本的な考え方の違いの続き。日銀理論が正しくなるような経済学の仮定について少し考えてみました。 貨幣の中立性通常の仮定では、「貨幣の長期的な中立性」が導かれます。これは、金融政策のどのような変化も最終的には物価水準に吸収されてしまうから、貨幣量や金融政策は長期的には実体経済に影響を及ぼさない、という結果です。新古典派、ケインジアン問わず、マクロ経済学者に広く信じられています。これは裏を返せば、貨幣は長期的には物価水準にのみ影響を及ぼす、ということです。これに基づいてECBやバーナンキの主張がでてきているのでしょうし、これに素直に従えば、日銀の主張は間違いということになりそうです。ただ、実証的にはよくわかりません。個人的にはどんなものであれ「マクロ長期XXX」の実証分析は信用しないことにしています。そんなにデータないとおもう。 貨幣の超中立性ただ、ゼロ金利制約下では
目新しい話じゃないけど、ちょっと整理しました。長期のインフレ率が何によって定まると考えているかが全然違います。FRBもECBも金融政策こそが長期インフレ率を決定すると考えているけど、日銀は成長力が長期インフレ率を決定すると考えています。 FRB長期のインフレ率は主に金融政策によって決定される。バーナンキ議長 2012年 ECB長期では、貨幣量の変化が一般物価水準の変化に反映されることは広く同意されている。ECB 金融政策の射程 日銀デフレ傾向を生みだしている根源的な原因である成長力の低下白川総裁 2011年 うーん。日銀って前から思ってたけど自分のロジックで突っ走りすぎだと思う。最近は自分で成長率を高める政策(成長基盤強化の支援)をやっているらしいし。だれか、中央銀行の仕事は金融政策で産業振興じゃないって教えてあげようよ・・・。
アメリカの大学院で、国際金融論で博士論文書いてます。立場上、ユーロ危機についてはしっかりした意見を持ちたいと思い、ウェブ上の記事を100本くらい読んで、学術論文を10本くらい読みました。その中でも、1年前のクルーグマンの記事が(これ)圧倒的にまとまっていました。日本語でまとめ直してみようかと思います。
ほとんどのEU諸国で、欧州統合の正当性は絶対的な位置を占めている。小さい諸国は独自の道を歩むには規模が足らないし、他の国(=ドイツ)はあまりに大きくて、独自路線を取ると近隣諸国から疑いの目を向けられる。フランスにとっては、欧州連合はドイツを制御するためのものだ。http://www.economist.com/node/21541875まとめ第一部はユーロ危機に至るまでの60年の歴史だ。ユーロ危機は本質的には政治の危機で、経済(学)の危機ではない点がサブプライム危機とは異なる。大多数の経済学者が危機の予測を失敗したサブプライム危機とは異なり、少なくとも経済学的な観点では欧州は共通通貨を導入するためにふさわしい場所ではないことはユーロ導入前にわかっていた(第二部参照)。それでもなぜユーロが導入されたのか、なぜいまユーロにこだわっているのかを理解するためには歴史を見るのがよいだろう。 欧州統合
自分向けのメモです。マクロの数値計算法について。いつもPerturbationの正確な意味を忘れるので、この機会に整理しようと。 DSGEの数値計算は、結局連立微分/差分方程式(ベルマン方程式)の解き方を見つけることに帰着されます。Perturbation method 摂動法政策関数やValue functionを、定常解の周りでテイラー展開して定常解近傍での局所解を見つける方法。いわゆる対数線形化はこれに当たる。テイラー展開は解析的に可能なので、定常解さえ数値的に求めればよく、かなり高速に計算が可能。計算時間が短いということは、モデルの大規模化が容易と言うことなので、かなり大きなメリット。ニューケインジアンモデルはだいたいこれ。デメリットとしては、数値計算の誤差が大きいことと、モデルの非線形性(ゼロ金利制約とか)に対応できないことがあげられる。 Projection method(投影
地震の復興にはお金がかかるわけですが、そのお金の調達方法について検討してみます。大きく分けてお金を見つける方法は三つあります。 支出を減らす 収入を増やす 借りて、返さない 支出を減らす私はどの支出を減らしたらいいかはよくわかりませんが、減らせる支出は減らしたらいいんじゃないでしょうか。ただ、支出を減らすだけでは足りそうにありません。 収入を増やす増税するってことです。増税のタイミングが問題になります。今すぐ増税するか、後で増税するか。復興特別会計とか復興債の発行というのは、償還があとで発生するので、あとで増税することになります。増税のタイミングを考える際にポイントとなるのは、現在必要なお金の支払いを将来に先送りすることが正当と見なせるかどうか、ということです。 一般に、不景気の時は借入による財政拡大は認められるとされています。それには2つの理由があります。まずは、消費の平滑化のため。いき
ハリケーンカトリーナをDSGEモデルで分析したKeen and Pakko(2007)を紹介します。彼らのモデルは名目硬直性を含む標準的なニューケインジアンモデルに、低い確率でランダムに発生する自然災害を加えたものです*1。自然災害は、資本ストックおよびTFPを減少させます。 彼らのモデルでは、中央銀行は以下のように反応します。 テイラールールに基づく場合、彼らのパラメーター設定では、災害のGDPに与える影響よりも、インフレ率に与える影響のほうが金利決定に大きな影響を及ぼし、金利引き上げが予測されます。 価格の硬直性による悪影響を最小にする、という意味での最適政策は、インフレ率を一定にすることで達成されます。この場合、中央銀行はGDPを無視すべきで、災害はインフレ圧力となるので、金利を上げるべきです。 感想「最適」政策の定義がかなり狭くて、彼ら自身も注で述べているように、インフレ/デフレの
Cavallo, E. & Noy, I. " The Economics of Natural Disasters - A Survey "をよみました。自然災害の経済学についての2009年のサーベイです。 いくつか気になったポイントをメモ。 自然災害の成長への長期的影響はプラスを主張する論文(Skidmore and Toya (2002)、Jaramillo (2009) )も、マイナスを主張する論文 Noy and Nualsri (2007) 、もある。プラスを主張する論文は、シュンペーター的な創造的破壊メカニズムによる。マイナスを主張する論文は、創造的破壊は主な自然災害の対象者となる途上国では当てはまらないことを指摘。日本では? Keen and Pakko (2007)は、ハリケーンカトリーナの影響をDSGEモデルで分析した結果、FRBは引き締めを行うのが最適反応であったこ
日本に未曽有の地震が起きています。被害にあった方および、愛する人を亡くした方のためにお祈りいたします。 適材適所で日本のお手伝いをすべきだと思うので、私は経済のツールを使って地震について考えてみます。ここでは、「被害乗数」というものを考えてみたいと思います。被害乗数というのは私がさっきおもいついた概念で、定義は以下の通りです。被害乗数 : 外生的な事件で被害額X億円などといわれたとき、GDPへどれだけの影響を及ぼすか。被害額との比率で表す。被害乗数が1のときは、GDPが被害額と同じだけ減少することを表す。 被害乗数という概念を使えば、以下の質問を考えることができます。地震被害は、好景気と不景気でどちらが大きいのか直接被害、つまり地震、津波、火災などによる直接的な人や物への被害は、景気なんてほとんど関係ないです。でも、それがどのようにGDPに影響を及ぼすか、私の言葉でいうと、被害乗数はどのく
経済学にはイェンゼンの不等式という不等式が使われることがしばしばあります。「イェンゼンの不等式より以下が成立する」みたいにさらっと論文や上級テキストでは書いてあります。初学者がイェンゼンの不等式を調べてみると、数学的な説明ばかりで混乱する人もいるかと思います。(学部時代の私)経済学的な解釈を書いておきます。 u(c)が狭義凸関数(strictly concave)の時、 E(u(c)) 期待効用は期待消費の効用より小さい。 リスクがあるときの期待消費は、期待効用と同じだけの効用をあたえるリスクなしの消費より大きい。 期待効用はリスクあるいは分散に依存する。 消費の期待値を一定として、分散を小さくしていくと、確実性等価は消費の期待値に徐々に近づき、期待効用は高くなる。リスクがないときは定義により確実性等価=消費の期待値=実際の消費、である。 テイラー展開との関係通常はuは狭義凸関数ですが、F
世界一シンプルな経済入門 経済は損得で理解しろ! 日頃の疑問からデフレまでに関する極東ブログの書評を見て、経済学の役割について思うところがあったのでメモしておきます。(本は読んでないです。書いてあったらすみません。) 経済学の本質的な要素として、ノーフリーランチとトレードオフについて触れられています。これらのカタカナ語は、外生的な制約条件の存在を示唆します。もっというと、制約条件の内容と取りえる選択肢が既知であることを前提にしています。 マクロ経済学についてマクロ経済学は、制約条件が完全にわかっても、モデルが十分に複雑であるので解が自明ではない、という意味で経済学的アプローチと親和性が高いです。ミクロ経済学についてミクロは制約条件がわかってしまえばほぼ結論は自明です。スマートにエージェントが直面する条件を見抜いたモデルを作ったり(例:力士は勝ち越しか負け越しかで効用が大きく異なり、星の貸し
物価指数の下落だけをとらえてデフレとみなすことは不適当だと思う。藤原副総裁が2000年8月の日銀金融政策決定会合においてhttp://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2000/なんだか、感心してしまいました。上の発言の背景は以下の通りです: 議事録が永久に残る日本の政策決定の場 歴史的な政策転換の会議 金融政策の専門家たちの会議 デフレが悪いことは合意されている デフレとは物価の下落である 物価指数とは物価を計るための統計である 物価指数は物価の下落を示している語句の定義、価値判断、公式統計がそろっているのに、専門家の間で意見の一致が見られないなんて!社会ってこういうものなんだって勉強になります。皮肉じゃなく、素直に。
仕事上必要になって、説明のためのメモを準備していましたが、せっかくだからアップロードしようかと。「マクロ経済学、特にDSGEモデルの作成におけるカリブレーション(calibration)と推定(estimation)の違い」で検索したときに、ぱっとわかりやすいコンテンツが出たら、誰かの役に立つのではないかと。同じ点統計的推定を一番広い意味で定義すると、「データを用いてモデルのパラメータを決定する*1」となると思います。その意味では、カリブレーションと推定は同じです。違う点結論から言うと、一番違うのは研究者の気持ちだと思います。それに伴って具体的な手順が異なる。推定のときと違って、カリブレーションのときは、モデルが「現実の上手な近似」であると信じていないんじゃないかな。もうちょっと具体的にみてみましょう。 推定一般的な統計的推定の手順を述べます。 未知のパラメータを含むモデルを決定する モデ
おひさしぶりです。岩本教授の提案(「将来のインフレにコミットできるか」についての学界の見方 )に応じて、ボランティアをします。先行して=徒然なる数学な日々さんがやられているようですが、なぜかアクセスできないので、重複覚悟で最初からやります。一つ3分で超(適当)訳。 まとめ基本的に好意的な評価が多いです。5,9,15あたりのEggertson論文の扱いを見ていると、学会でそれなりに受け入れられている、という印象を受けました。もう一つ有力なアプローチとしてLevine & Pearlmanのアプローチがあるようです。訳を見ればわかるでしょうが、PDFで"eggertson"を検索して前後数パラグラフをざっと眺めただけなので、間違い多いと思います。アブストラクトすら見てません。詳しくは原文をあたってください。コメントとかには対応できそうにないので、トラックバックをお願いします。あ、改変および転載
前回の記事には大きな間違いがあったので、改めてやり直します。投機とかムズカシイことはとりあえず無視して、初級ミクロ経済学の範囲で現在の価格変動を説明できるのか検討します。出発点75パーセントの原油価格の下落は、5パーセントの需要の下落で説明できるのか?需要が下落すれば、価格は下がるべきなので、定性的には問題ありません。数字が妥当か検討するためには、供給の価格弾力性について調べる必要があります。5パーセントの量の下落で、75パーセントの価格下落を説明するためには、価格弾力性が0.037*1である必要があります。では、データはどうなんでしょうか?原油供給の価格弾力性供給量は原油の設備投資で決まるので、短期で調整することは困難です。したがって、短期での価格弾力性は低いことが予想されます。いくつか実証結果を見てみましょう。ひとつはIMFのKricheneによる論文で、彼は短期の供給弾力性を0.02
財政政策の効果を勉強しているうちに、そもそも*1どうしていま世界経済は不況に陥ったのか理解していないことに気がつきました。もちろん、ひとことで言うと欧米の住宅価格のバブル崩壊によって生じた金融市場の混乱が実体経済に波及したからなのですが、これでは簡潔すぎてよくわかりません。具体的にどのように波及したのかを少し調べたので、書いておきます。金融市場で起こったことアメリカの住宅市場は、「将来値上がりするから今買っておく。みんながそう考えるから結果として実際に値上がりする。それを見て将来も値上がりするだろうと思ってさらにみんなが高い値段を払う。」っていう典型的なバブルでした。「このペースで永遠に値上がりを続けることはできない。」ということに人々が気がついた時点で、バブルは崩壊します。バブル崩壊によって以下の影響が出ました。バブル崩壊で、住宅ローンを払えない人が予測していなかったほど現れて、大きな損
非自発的失業についてミクロ経済学入門を履修した大学一年生でもわかるような説明が思いつきました。 まず、独占的競争について復習します。以下のグラフは独占的競争があるときの、最終財価格、要素価格(賃金、wage)、それに均衡生産量を表現しています:右下がりのD0という曲線は需要曲線、右下がりのMRという曲線は限界収益曲線、右上がりのMCという曲線は限界費用曲線です。限界費用曲線について少し説明を。このグラフでは、生産のために企業家の労働のみが必要とされ、一単位の労働で一単位の財が生産されると仮定しています。このとき、限界費用は賃金となり、生産量と雇用量が等しくなります。独占的競争では、自分の財の供給によって最終財の価格が下がるので、その効果を考慮した限界収益は需要曲線の下になります。均衡は、限界収益と限界費用が等しくなるところで定められます。詳しくは初級ミクロ経済学のテキストを見てください。
クルーグマンによると、ニューケインジアンの財政刺激策ではObstfeldとRogoffの90年代前半の仕事が一番大切だということです。(Fiscal policy formalities (wonkish))国際金融を専門にしている人にとって90年代前半の彼らの仕事はNew Open Economy Macroeconomicsと呼ばれるきわめて大事な仕事なので、一通り勉強しました。さすが超有名な仕事だけあって、たった一日の勉強で、目からうろこがぽろぽろ取れました。感動です。 モデルの仮定ごく一般的なニューケインジアンモデルに、開放経済での要素をくわえたものです。独占的競争、名目価格の硬直性、それに自国および他国の二カ国一般均衡モデル。特に、このモデルではリカード等価性が成立し、政府支出の増大は、同じだけの家計の収入の減少をもたらします。リカード等価性が成立すると財政刺激策は無効になる、と
海外にいる日本人でかつ経済学を研究していると、周りの人から「日本経済の専門家」とみなされます。そのなかでもよく聞かれるのが、「なぜ日本人はカロウシするまで働くのか?」っていうこと。その疑問に対する答えらしきものが思いついたので、書いておきます。簡単に結論から書くと、日本はクビになったときのペナルティが高いから、会社に服従するしかなくて、労働時間が延びる、ということです。 このアイディアは野村正寛 雇用不安 (岩波新書)を読んでいるときに思いつきました。この本そのものはあまりクリアな議論が行われているわけではないです。でも、部分で引用される日本の労働経済学の議論やデータは有益だと思います。 日本の労働市場は二重構造だ。石川および出島による80年および90年のデータを使った実証分析では、日本の労働市場は第一次労働市場と第二次労働市場に分かれていると判定されました。 第一次労働市場: 高賃金であ
1. 名目賃金の変化についてもっと早く論じることができたらよかった。 2. 名目賃金の変化は複雑だから、それを論じるには準備が必要だった。 3. 一般的な説明は、賃金の下落は、最終財価格の下落を通じて需要を増加させることで、生産量が増加して失業が減少する、というものだ。 4. この説明は、少なくともある程度は正しいと考えられる。 5. 私の説明は、これらとぜんぜん違う。 6. 一般的な説明では、一企業の賃金を変えても需要曲線に影響が出ないように、経済全体の賃金の変化も需要曲線に影響がでないと考えている。 7. 賃金を変えても需要曲線に変化がないのなら、賃金の下落で生産量が増加するのは当たり前だ。賃金の変化に応じてどのように需要が変化するかを考える必要がある。 8. われわれの手法を次の2つの質問に適用してみよう。: (1) 消費性向、資本の限界効率、それに金利を一定にしたままで、名目賃
今日は資産格差を明示的にモデルに取り込んだマクロモデルのレビュー論文を紹介します。資産格差は所得格差と似ていますが、マクロ経済学者は資産格差のほうが気になります。所得は資産を決めるための(もちろん大事な)要素の一つでしかないし、貯蓄も投資も消費も資産の関数であって、所得の関数ではありません。資産格差のはいったモデルの解き方は前にちょっと触れましたが、今日はCagettiとDe Nardiによる資産分布の動向についてのレビュー論文を紹介します。 資産分布の動向まず、データを見てみましょう。 アメリカ21世紀初頭の資産分布が、20世紀初頭と比べてより不平等になったか、それともほぼ変わっていないかについての議論には決着がついていません。大恐慌とニューディール政策によって、1920年から1970年まで不平等度が減少したことについてはおおむねコンセンサスが得られています。ニューディールで、金持ちに対
ふと、これからの日本経済の潜在成長率が気になりました。僕は長期の関係に興味があるので、過去15年のデータを使って景気変動部分を取り除く、とかは望み薄そうに思います(めんどくさいし)。バブルもバブル崩壊も繰り返されないでしょ?なお、GDPデータはすべて実質です。 GDP成長率 = 一人当たりGDP成長率 + 人口成長率 なので、別々に見てみることにします。一人当たりGDP成長率の過去データとりあえずOECD諸国のデータをあたってみました。このグラフは1950年から2004年までの一人当たりGDPの成長率です。日本すごい!Japan's miracle!注目すべきはアメリカとイギリス(United Kingdom)の位置です。1950当時で世界のトップを走っていた経済大国は、せいぜい2パーセント強の成長しか遂げていません。世界のトップグループに入ると、技術移転ができなくなるので、成長が鈍化しま
今日は所得分布のマクロ経済学について軽く。ケインズ経済学と違って、だいぶ専門的になります。 僕の論文のためには、開放経済・非完備市場での所得分布の動学が必要になります。所得分布関数は無限次元なので、解析的に解くのはきわめて限られた場合を除いて不可能ですし、計算機に乗せるのも大変です。でも、代表的個人のように所得分布がないモデルでは、貧困の問題や再分配の問題を論じることができません。モンテカルロシミュレーションと経済モデルの特性を生かして所得分布関数の動学を数値的に解いたのがKrusell and Smith (1998)です。Krusell は僕のアドバイザーのアドバイザーでもあります。彼らのアイディアのポイントとなる洞察は、多くのモデルで、消費者の貯蓄性向はあまり所得に依存しない、ということです。したがって、経済全体での貯蓄率は所得分布関数の平均がわかれば求められることになります。彼らは
このエントリーは先日のエントリーの続きで、「世界で一番シンプルなマクロモデル」を解いていきます。 何らかの理由で、完全雇用を実現する価格より高い水準で価格が固定されていると仮定します。つまり、実質貨幣需要が貨幣供給を上回るのでとなります。ワルラス法則から、財市場で上記と同値な条件を表現ることができます。財市場では、完全雇用下の供給量が需要量を上回るので、(1-s)¥Large(L+¥frac{M}{P}¥Large)" class="tex" src="http://d.hatena.ne.jp/cgi-bin/mimetex.cgi?L>(1-s)\Large(L+\frac{M}{P}\Large)" />となります。このとき、生産量は需要によって制約されます。したがって、生産=需要=Cとなりますが、生産量が減少することによって労働需要量も減って、消費者の収入も減ります。財需要関数のな
今日からマクロ経済学のモデルに入ります。最初は「世界で一番シンプルなマクロモデル」です。クルーグマンによると、もし、マクロ経済学がいつもまじないのように聞こえるなら、セイの法則にとらわれているなら、総需要の不足という事態がどうして起こるのかすらわからないなら、この「世界で一番シンプルなマクロモデル」は理解へいたる最初の一歩としていいアイディアだ。とのことなので、まさしく僕にぴったりです。数式に入る前に、このモデルの特徴を説明しておきます。 このモデルはミクロ的基礎付けからはじまります。つまり、先日のエントリーのフレームワークにのっとって、個人の最適化から需要曲線を導くことから始まります。このモデルは経済の需要サイドに着目したモデルなので、供給曲線は単純化されます。貨幣は効用関数のなかに直接入り、貨幣のみが貯蓄の手段です。ケインジアンのモデルとしては、貨幣の扱いは比較的きっちりしています。清
このお勉強エントリーシリーズは、経済学に興味があるひとなら数式を飛ばして読むことでなんとなく理解できるように、高校レベルの微分を覚えていて多少手を動かすことを厭わない人はきちんと理解できるように書きたいと思います。ケインズ経済学は僕もほぼ白紙からのスタートなので、そのくらいでちょうどいい。 今日は、クルーグマンの授業ノートに入る前に、古典派経済学のアウトラインをおさらいしておきます。経済学では、大きく分けて二種類の等式を使います。ひとつは、個々人や企業の最適行動から導き出される式です。これは、一階条件と呼ばれることが多いですが、オイラー方程式と呼ばれたり、限界効用均等の法則と呼ばれたり、いろいろ名前はあります。個人の最適化は、効用関数(消費者がどのくらいハッピーかをあらわす関数)を最大化することによってあらわされます。「一階」条件というのは、最大化のための必要条件として効用関数の一階微分が
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