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GPT-4o
norishiro7.hatenablog.com
スーツで決めた塾の先生は、いつものように一言も発さずに部屋へ入ってくると、これはいつもと違って、持っていた紙袋から片手で五冊ずつ、四回取り出した。二十冊のマンガが先生用の机に積み上げられた。 僕は小学生だけど、よしマンガが読めるぞなどという悠長なことは思わなかった。みんなもそうは思わなかったに違いない。僕たちは中学受験を半年後に控え、いよいよ気分が出てきたところだったし、大体、先生の言いなりになって勉強してきたこの数年間、「日本の歴史」以外のマンガは頭が悪くなるので読んではいけないことになっていた。だから、今回の件は、きっと何かしら、受験に関係があるのだ。 「ここに、二十冊のマンガがある。全部、一巻だ」先生はそれだけ言うと、僕たちの起立を促すように手を上げた。 僕たちは立ち、先生のカモンという手の動きに従って、前に集まった。マンガが沢山あった。 「一人一冊、選んでごらん。中を見ちゃダメだぞ
小説を書くために必ずしも取材をする必要はないと思うが、世界があんまりよろしいもので、風景が話の犠牲になるのに罪悪感を抱くようになり、最近は実際に取材して目にした風景しか小説に書かないようにしている。 取材といっても、ここを舞台にしようと決めるのではなく、どこを舞台にしようかなと歩いている方が近く、もっと言うと好きだから歩いているのであって、取材のためという感じでもない。だから、ビジネスライクに考えると捨て取材と言えるようなものも山ほどある。この世のいいところをできるだけ多く見たい知りたい、それを書きたいという気持ちで、一応そんなことになっている。 おもしろいもので、目にした風景に登場人物を立ち会わせようとして話をつくると、罪悪感は全くないのだった。私はひとりの人間として、自然の風景をつくることはできないけれど、誰かをそこに連れて来ることはできるのだから、考えたら当たり前だ。 私が好んで歩く
太ったメガネのおばさんが入ってきて、小さな教室のホワイトボードの前に立った。 「さあ、あんた達、今日もレッスン始めるわよ。根暗なんでしょ。人前で喋れるようになりたいんでしょ。そのためにお金払ってるんだから、精一杯やんなさいよ。口を動かしていきなさいよ。じゃあいつものように、発声練習いくよ。『死ねボケナス』からね」 「あ、あの……」おずおずと手を上げたのは、今日からこの教室に入った喉元さんだった。「私……初めて…なんですけど……」 「初めてだからなによ」太ったおばさんは赤い三角形のメガネをしていたが、それを外して目頭を押さえた。 「説明を……」 「じゃあ最初から、私初めてなんですけど説明を、って言えばいいじゃないの。何で区切るのよ。ベしゃりをリボ払いにしてどうすんの。何考えてんの。一人でエレベーターに乗ってる時とか何考えてんの。なんでちょっと上を見んの。あの、階数の、あれを見てんの?」 喉元
今は昔、奈良の女子寮に背の低い一年生がいた。あるとき、先輩の女子大生たちが、宵のつれづれを持て余して「さあ、ロケットを作りましょう」と言ったのを、この一年生は(いいなあ)と思って、うっとり期待して聞いていた。そうかと言って、手伝うのも足手まといになるばかりであるし、(完成するのを待って起きているのも、悪いだろう)と思って、部屋の片隅に寄って、寝たふりをして、ロケットができあがるのを待っていたところ、もう作業を始めた様子で、みんな集まって騒いでいる。 一年生は、(きっと誰か先輩方のお一人が私を起こしてくださるだろう)と思って待っていると、ある先輩が、「やあやあ、一年生。起きなさい。ロケットができましたよ」と言うのを(うれしい)と思ったが、(たったの一ぺんだけで返事をすると、寝たふりして待っていたのかと先輩たちが思うかもしれない)と思って、(もう一ぺん呼ばれたら返事をしよう)とガマンして寝てい
青年はドアの前に立ち、セーターの袖から飛び出した細い指でチャイムを押した。やがて、受話器を取る音がして、部屋の中の空気の震えが聞こえてきた。「開いてるよ」と感じのよさそうな男の声がした。物腰の弱そうな青年は、一瞬身を固くしたが、すぐに取ってつけたような、不機嫌に見えなくもないような無表情でチャイムを睨み付けた。「入ってくれていいんだ。君は訪ねる部屋を間違っちゃいないからね。早く入りたまえよ。開いてるんだ。君のために開けといたんだぜ」 訪問者は、こうした場合に当然考えられる事態を予期しながらも、勇敢にノブを回し、鍵が開いているのか疑っているようにゆっくりドアを引いた。 その玄関はいささか埃っぽい印象である。幾何学模様の床敷きは、新しそうにも見えるが、四隅のうちの三つが端からめくれ上がり、うちの二つは裏側を見せている。その下には、無愛想なコンクリートがのぞいた。床敷きの上に目を移すと、その、奇
みんなSFでごちゃごちゃモメてて楽しそうだな! 俺もまぜてくれよ! SFのこと、よく知らないけどな! 全然知らないけどな! まず、SFを書くにあたり、どういうものを書くかによるけど、基本的な知識はないといけないと思う。俺はこういうのはちゃんとしたい方だからな。まず、今、俺がSFと聞いて浮かぶ単語で、きちんと理解しているものを並べてみよう。 人工知能、宇宙人(異星人)、パラレルワールド、タイムパラドックス、ワープ、NASA、タイムパトロール、戦国自衛隊、太田光 全然ダメだ。知識が無い。やめちまえ! 宇宙人でも異星人でもどっちでもいいよ! だいたい後ろ三つはちょっと怪しいだろ! でも、諦めないで頑張ろうと思う。SFぐらい書けるよ。『ブレードランナー』の原作読んだことあるし、いけるって大丈夫だって。そうだ落ち着け深呼吸。じゃあ今度は、言葉としては知っているけど、意味を知らないもの、多分これSFだ
(結果はともかく予約投稿されるようになっておりま した) 現代の日本の小説で複数人の会話が描かれることは驚くほど少ない。ほとんどが二人、時に三人で話している。四人はあまりなく、五人以上はまず見ない。ましてや長くは続かない。あとは、四人か五人いるらしいところでも、話し始めると一対一がペアを替えながら行われているだけというのもある。 文学の界隈では「人間が書けている」みたいなことを言われるが、人間について書くなら複数人で話す場面など沢山あって然るべきなのにそんな風なのはなぜかと言えば、結局のところ主な理由は、四人以上になると言動を追うのが大変だからである。話題や流れを作り上げるのはもちろん、口調や語彙や性格の違いも考慮しないといけないし、そもそも何か言ったりやったりするたびに誰の言動か示す必要がある。恐ろしいほどテンポが崩れ、異常に重複する「言った」「見た」とかの語には絶えず工夫が求められる。
気をつけて! この文章は、僕の創作です。大して本気で思ってもいないことを、なぜか「お父さんからマンガを送りつけられて、その感想を言うよう強制されている長男」みたいな設定で書き始めた創作です。だから、それ相応に、なんか親父を言い負かしたいみたいな雰囲気になってるんですけど、単なる文章書くための練習です。どれだけそこまで思ってない、他人の意見っぽいことを書けるかな、という思いのもとで書きました。御託並べました。テーマは、「現在の自分よりちょっと進んでないぐらいの人の考えを自分は書けるのか」なんです。深いぜ、これは深い。僕はもともとこういうのケンカになるから、ケンカがとても嫌いだから、ケンカしたことないから、絶対載せたくないタイプだったのですが、これならまぁいいかと思って載せたんですが、ブックマークでいらっしゃる場合に勘違いしてしまうので、ここにことわっておきます。なので、全然気合を入れて書いて
自分史上初めてボウリングにきたカズオミは、パニック状態に陥っていた。今やカズオミは、二歳児ほどの判断力でボールを選んでいた。 嘘だ。なんだこの番号は。何の番号だこれは。あっ、みんな、待って待って。みんな早いよ。球を決めるのがなんて早いんだ。きりさきピエロかよ! ヨウコちゃん、今、「あたしは7って決まってるの」と言ったな。決まっているのか。あらかじめ決められているのか。そうだ、そうじゃなきゃ、みんなあんなに早く選べるはずが無いよ。どういうことだ。俺は何番に決まっているんだ。もしかして、7歳で初めてボウリングをやったってことか? いや、番号は16までしかないぞ! 俺は19歳だもの。適当かな? さては適当でいいのかな? ヒロトは何番なんだ。あの色、何番だ、これか。11番か。確かヒロトは高校のサッカー部で11番を背負っていたと言っていたな。そういうことかな。いや、そしたら帰宅部の俺は何番を背負って
だいぶ前に書いたものを大幅に加筆・修正したものです。しかし、主に盛り上がってくる後半を加筆・修正したため、最初の方が盛り上がりに欠け、マンガの話をしているし、時事ネタも古く、もしかしたら読まなくてもいいのですが、そこを削ると話がつながってこなかったりするので、こんな有様となっております。というか、こんな長いの、みんな読まないと思います。でも、笑いについて語るとなったら、これぐらい書かないとあきまへんのやで。 思えば、このあいだの『よつばと!』に関する記事は、自分より進んでない考えというか、自分に「それは違うよ」と言われちゃう考えをわざわざ書いたものと自分で言っていますが、読む人にすれば、これがお前の精一杯じゃないの、それを、俺はまだ本気出してない、みたいに言ってるだけじゃないの、という勘繰りもあって当然かなと思うので、ちゃんと書いてみることにします。その記事に思ったよりブックマークがつい
こないだ、マク・ド・ナルドで、90歳の霊波乃光おばあちゃんに出会いました。いきなり霊波乃光と言っちゃうのは、今日みなさんにしたい話は、宗教と別に関係ないからです。 こんなマクドナルドでソロ活動している超年配の女性が隣に座ってきた時点で、俺は人より若干そういうことが多いので、同じOLに二回逆ナンパされたり、ボロボロのおばあさんに草を買ってくれ〜買ってくれ〜と頼まれたこともあるので、その時点で気をつけようと思ってた。 そしたらダメだった。 かたくなにイヤホンを耳に詰め込んでいる俺の方に、おばあちゃんが顔を若干寄せてきて、これ見てるよね? 見てるよね? とあせった俺がわざと考え事ありくさく前だけを見ていたら、その時すでにおばあちゃんは話しかけていました。時すでに話しかけていたんだ。 それに気づかない俺は、あんまり見てくるので、耳に流れていた「みなし児のバラード」をそっと外し、おばあちゃんの方を見
迷えるビーバーの歌 ぼくビーバー どうしたってビーバー 外では何が起こってる 巣にしみこんだ雨が 元々濡れてる毛を湿らせるこんな日に 噛み砕いた木々が歯茎に刺さるのに それでも前歯伸び続けるのか 危険を知らせる時はしっぽで水面を叩くから 耳は澄ませておけなんて父さんは言うけれど ほら今日もせっせとダム作ってる 水せき止めてご満悦のぼくらがいるよ 夜行の性が疼いて月夜にそっと巣を抜け出しても 会うのはビーバービーバーばかり ぼくビーバー デイドリームビリーバー ダムと巣は実は一緒なんだ ダムガス スガダム 森では今日もウサギが殺された 大自然のアラスカでもいやなことぐらいある。ぼくはその日、とてもイライラしていたんだった。とは言ってもその日が特別だったわけじゃない。ぼくは毎日、色々なことにうんざりしていた。あんな薄暗い巣の中にいればなおさらだ。 ぼくは、外に遊びに行こうとしたところを父さんに
赤ら顔のお父さんがニコニコしながらスト2のバイソンを買ってきた金曜日の夜。その半年前にパナポは死んでしまいました。私のことが大好きだと言って死んでしまいました。ハムスターはしゃべれないけれど、きっとそうだと思います。 酔っ払ったときのお父さんは、誰のこともきめ細やかに考えられなくなるから、ぶしつけな愛情だけを家族に与えます。もう寝ていた私は、下の階から響くお父さんの声に無理やり起こされて、パナポがきたときと同じ、ケーキの容れ物に似た小さな箱を渡されました。 中でパンチを撃つ音が聞こえます。私は一応、横に何個か空いている穴をのぞきこもうとしました。パナポが小さな鼻をひくひく動かして、すばらしく小さな前歯をのぞかせていたのと同じ小さな丸い穴です。 そこに押しつけられて盛り上がった赤いボクシンググローブの照りついた面を見て、私はたまらず、その箱をお父さんに投げつけました。お父さんに当たっても、箱
みなさん、ここで去年のM−1について考えてみましょう。一番おもしろかったのは誰か、よーく考えてみましょう。優勝したサンドウィッチマン? 違うだろ。毎度毎度優勝候補なのに初っ端のクジを引き当てて、一番手ボーナスの5点だか10点増ししたところでまずまずの得点を獲得し、後半でどんどん抜かされて、「一歩もここを動かんぞ」と言いながら退場して、最終的に5位だった笑い飯が一番おもしろかった。後から考えてみたら、ネタは全然忘れちゃったけど、やっぱりそうだっただろ。 2006年のM−1でも、他の参加者の皆さんがネタ前に流すVTRでドキュメンタリーをやってしまう中、最終的に4位に終わった笑い飯の西田さんただ一人「優勝して金欲しいですよ」と西武ライオンズの帽子をかぶって言い放ち、日本中を爆笑させたことは記憶に新しい。俺は子供が生まれたら、真っ先にこの話をしてやりたいと思っている。末代まで言い伝えられるべきであ
「さあ、『解決!お助け家族 〜お前らほんっとどうしようもねえな〜』のお時間がやってまいりました。司会は私、高畑順がつとめさせていただきます。今日も悩める家族が、この家族更生最後の砦の門を叩きました。今日は、これは凄いですね、家庭は完全に崩壊しながら、物理的に建っているマイホームがなんとか家族という関係を外側から支えているような……シュークリームでいうと完全に中が腐りきっています。緑色です。そんなドロドロの、家族間で靴を隠しあう、緑沼さんのご家族です、四人家族です。どうぞ!」 おどろおどろしい音楽と人間がゲロを吐くSEが流れる中、少し高いところにある、かなりデスメタルな仕上がりの扉が開かれ、赤い煙が吹き上がった。そこから、一人、父親らしき男性が出てきた。その顔、立ち居振る舞いは、一言で言うならば、卑屈な糞ハゲ。観覧の客は全員、こんな親父いやだ、と思った。 父親が司会者のもとに降りてきたところ
精も根も尽き果て、先輩はパンツ一丁メガネワンフレームの貧相な姿でグーを出して負けた。ネグリジェみたいなものを着た女がパーを出したまま嗤う。先輩の2m後ろでは後輩が二人、拳を畳にたたきつけて悔しがった。 「静かにして、静かにっ……ほんとにっ」 審判がすかさず注意する。深夜だからだ。 「はいこっち、一枚脱いで」 続けて審判は、こしょこしょ話で先輩に指示する。 先輩は覚悟したように、仰向けになり、もはやこれまで。どこで買ったかも知れないパンツに手をかけた。 「おい待て待て待て待て! 落ち着いてください!」 後輩の一人が身を乗り出して叫び、 「終わっちゃうだろ! やめてください!」 もう一人も何がなんだか泣きそうな顔でしきりに手を横に振る。かなり辛そうだ。審判は、だから静かに、の顔で、今度は何も言わなかった。 「メガネを取ればいいんでしょ、先輩」 「でもお前ら……」 先輩は悲しげな天井一点見つめで
森の新聞記者、近鉄バファローズの帽子をかぶったタヌキの亡骸を発見したのは、つらいことに当の母ダヌキでした。帽子はかぶっておりません。 森の新聞記者、近鉄バファローズの帽子をかぶったタヌキは、まるまる太った土手っ腹に一発撃たれたあと、這って這って、巣穴の近くまでやってきて、そこでベロを出して力尽きていました。母ダヌキと奥多摩に行った時にひろったという近鉄バファローズの帽子は、倒れた拍子につばを押されたのでしょう、やっとこ頭に乗っかっているばかりでした。母ダヌキが帽子をしっかりかぶせてやるところを、頭に障害のあるイボイノシシが見ていたそうです。 森の新聞記者、近鉄バファローズの帽子をかぶったタヌキの巣穴へ行くと、一面にばらして並べられた1995年のスポーツ報知の中央に、当の死ダヌキが腹ばいで寝そべっていました。使い古して放っておかれた粘土のように周囲の空気をまとってひっそり硬直しています。 片
お笑い芸人を目指して東京に来て半年、僕は色々なことを知った。当初の予定では来年にでも吉本のNSCに入ろうと思っていたが、今になって僕の心は揺らぎに揺らいでいた。 僕はこの半年間、バイトでためたお金でお笑いライブを見まくるという体に負荷をかけないトレーニングを積んできたが、その過程で、お笑い芸人がお笑いライブをやってどうすると思ったのだった。よく考えたら、全然おもしろくないよ。お笑い芸人がお笑いライブをやるって、何のひねりもない。ひねらなきゃ。マカロニだってなんだって、ひねってる方がおもしろいじゃないか。食欲はそそらないけど、おもしろいじゃないか。まずそのスタートから狙いにいくのがほんまのお笑い戦士ちゃうんか、と。トータルで考えれば、その空間はおもしろいかと聞いてるんだ。お笑い芸人がお笑いライブをやってるその空間は果たしておもしろいのか。何年この世界いるんだよ。 というわけで、僕はお笑いライ
博士 「ユキオくん、こんにちは。性病の調子はどうかな? 今日は治安の悪化について考えてみよう」 ユキオ 「ありがとう博士。治療は順調に進んでいるよ。膿も減ってきた」 博士(不愉快そうな顔をしてから) 「ところでユキオくんは、『割れ窓理論』って知ってるかな」 ユキオ 「うん、知っているよ。通りに面した建物の窓やとめてある車の窓を一枚でも割ったまま放置していると、その地域が監視の行き届いていないものと判断され、まず他の窓が全て割られ、さらには軽犯罪が頻発するなどして治安と環境が悪化する。そして挙句の果てにはより殺人など大きな犯罪も起こるようになってしまう。つまり、軽犯罪の徹底的な取り締まりが重大犯罪の防止につながるという環境犯罪学の理論だね。94年にニューヨーク市長に就任したジュリアーニが、この理論を楯にとって大々的に犯罪率の減少に取り組んで成功を収めたんだ」 博士 「知っていたのか」 ユキオ
家族で集まるなんて、ずいぶん久しぶりだ。家族っていってもたったの二人ぽっちだけど、お母さんが久しぶりに帰ってきたのだ。 お母さんが腕によりをかけた、ぼくがいちばん好きな麻婆茄子の夕食を食べ終わると、ぼくたちは家にあるものだけで自衛隊の戦車に勝つというテーマで話し合った。 ぼくが「エアガンがあるよ」と提案すると、お母さんは「バカか」と言った。 「バカか。向こうさんに本物があるのに、オモチャを使ってどう…バカか」 勇気のくじけたぼくが黙っていると、お母さんは助言してくれた。 「もっと、アイディア主婦目線で自衛隊と戦うんだ。家に転がってるありとあらゆるものに戦闘能力を想定しな。まず、戦車の自由を奪わなくては、我々に勝ち目はないよ」 「動けなくするの?」 「そうさ。それに実際の戦闘じゃ、いきなり戦車の前に立って『ファイト!』とはならないだろう。リアルに考えなくちゃ。リアルに考えてこそ人生はおもしろ
蒸っしの暑っい終戦記念日、俺たち平成のズッコケ三人組はファミレスで自分のナオンを紹介しあっていた。人の付き合っているナオンは俺のナオンと比べてどうなのかホント超気になる。友達ならなおさらなんだ。 運良く、デルタの一辺に二人ずつ座る席に案内されたので、俺は俺のナオンを隣に座(はべ)らせた。野崎のナオンも野崎の隣に座(はべ)り、土井のナオンはまだ来ていない。 「このハンバーグセットを俺と、俺のナオンに」と俺は店員を指さした。 「セットの方、ライスとパンとナンと頭頭と選べますけど」 「頭頭? 松っちゃんの? 感心な店だな」と俺はメニューの中にツバを吐いて閉じた。俺のナオンがこういうの好きだから。 手早く注文をすませ、まずは俺からナオンを紹介することにした。先制攻撃だ。 「これが俺のナオン、ユキ」と俺は言って足を組み直し、指をナオンに向けて首を反対側向けた。「23歳で、アパレル関係に勤めてるぜ」
今日の体育は願いを叶える授業だということで、みんなずっと楽しみにしていた。 グラウンドを二周ほどして、準備体操。体育係の小宮祐介も、こころなしか早いペースで屈伸し、一番めんどうな体をまわす体操を先生にばれないように省略した。 「先生、体操終わりました」 「よし、じゃあ各自ボール取ってこい」 クラスの中心的存在をはじめ、活発な方の生徒が、ボールを入れた鉄かごに殺到し、その他の生徒が後に続いた。最終的には、カゴに頭を突っ込んでまともなボールを押して探している生徒たちが残った。 先生はそれを横目で見ながら指示を出す。 「そしたら、ボールに書いてある番号そろえて班をつくれー」 次々と班が、結局はいつも仲がいい同士のグループで作られた。さっそくボールをもって校庭に散らばっていく生徒たちの足取りは軽い。 各班、輪になってドラゴンボールを取り囲むと、少しして空が暗くなり、校庭がシェンロンだらけになった。
僕がこしらえた「天狗が鼻をTENGAに突っ込んで動かす爆笑動画」(6秒)の再生回数が200回を突破した夏、父さんが軽自動車につけるドリンクホルダーのドンピシャのやつを買い、妹が遅い初潮をむかえた。つまり、うちの家族はノリにのっていた。 でも正直、人より倍ぐらいは輝けているかどうか、今どのあたりのポジションにいるのか、精神面で人より余裕を保てているか、自分はどれだけ高見にいて他人はどれだけ低いところにいるのかを気にする僕としては、この状況を見ると母さんが弱い。これでは、母親が外務省でセックスレスAランクの中町くんと比べるとさすがに弱い。 考えていたら、なんだか胃がムカムカしてきた。母さん一人、この波にのりきれていない。母さんが家族の足を引っ張っている。歯ぎしりが止まらない。ドアとか引き出しを強めに閉めてしまう。 そんなある日、食卓で父さんが嬉しそうに言った。 「お母さんの義足が二段階バージョ
なんか飽きたというか、ブックマークがいくつあろうと人が百人こようと結局自分のことで自分はおもしろいことが書ければそれでよかったのだからもう公開しておく意味もないし公開しない意味もないのだけれど、公開しておけるようにしておくとやっぱり俺は公開しちゃう、責任感とかけっこうあるタイプだからな。ただ、何か不満があるとすれば、生身の人間とかこの世界ってのがおもしれえな、あおいだら風がきて涼しいのかよおもしれえな、とか思ったりしている俺は、言うまでも無くそこで生きているわけだし、最終的にそこに戻ってこなければいけない気がして、やっぱこっちかなあ、とか言って戻っていくような気がして、というか今がその時だ。つまり、俺は、キーボードをぱちぱち打ってクリックしてネット上に文章がアップされるのを見るよりは、キーボードがぱちぱち言ってる方がおもしろい、俺の手の動きの方がおもしろいような気がしている。この文章を世界
もう一つは、独創と模倣の関係についてのものである。人間が一切がっさい自分で創作したものよりも、他人から借りたものを用いて創作したものの方に遙かに優れた独創性がみられるということである。もしこれが正しいとすれば、模倣の容易さから、一流よりも二流の作家や芸術家の方が独創性を刺激する可能性が明らかに大きい。 エリック・ホッファー『波止場日記』 ぼく脳さんが褒められる時、「狂ってる」「カオス」「キチガイ」果ては「シュール」などという言葉がよく使われるのは、ホッファーのこの荒削りな思索と無関係ではないでしょう。 物珍しいものが芸術だとは言いませんが、稀少性が一つの魅力となりうることは間違いがありません。そうしたものたちがなぜ稀少なままでいるかと言えば、模倣が難しいからです。そして「模倣の難しさ」こそが一流の条件だという考えがホッファーの前提にはある。これが独創性です。 一流の創作者の技術は、精神に根
気づくと教師になっていた俺は、どうやらジャージを学校内で着こなすタイプの教師のようだった。俺が今いる部屋の外のプレートには、体育教官室と書かれていた。 「お前らさ、全然反省の態度が見られないんだよ」 俺はちょうど持っていた竹刀を、床にたたきつけた。俺の前に立っているしょぼくれた三人は、揃いもそろってビクッとなった。一番隅っこのトマス・ホッブズを俺は見た。 「ホッブズ、お前、授業中に何書いてたんだよ。俺様の保健の授業中によ」 「……『リヴァイアサン』という本を書いていました」 ホッブズは蚊の鳴くような声で言った。 「聞こえねーよ!」 「僕は、『リヴァイアサン』という本を書いていました」 「わけのわからないことを言うな。なんだ、何かのモンスターが出てくる話か。ポケモンの話を書いていたのか」 「違います。国家を巨大な怪物――リヴァイアサン――にたとえ、社会契約に国家の起源を求めつつも、国家主権へ
三浦と渡辺のケンカだケンカだ。17にもなって、休み時間に口論だ。周りのみんなは、机三個分の遠巻きから見て見ぬふり、そこに現れたクラス委員長のメガネは薄作り。 「やめないか君達。ケンカなんかして」 二人は委員長の方を見もしない。 「黙っておいてくれないか、クラス委員。三浦くん、このパリサイ人め。君は神を冒涜した」 「それはこっちの台詞だぜ渡辺ぇ!」 学級委員長は、わかった、二人の言い分はわかった、というように両手を下に向けてうなずき、左手でメガネを外し、右手で目頭を押さえると、そのまま動かなくなった。 ヒソヒソ「クラス委員長、宗教がからんでいるとわかった途端にあの有様だ」「意外に学がないぜ」「該博な知識で、この場をいさめてくれると思ったのに、がっくしだわ」「白髪が多いし」 委員長はぴくりとも動かない。だが、何か言った。今口動いた。 「え!?」と三浦が声をあげる。「何か言った!?」 「神様も、
「なんでトートバッグでくるんだよ!」 メールを頼りに集合場所に来て初めて会うパーティーの格好を見た途端、遊び人が叫んだ。勇者と戦士が、トートバッグを肩からさげていたのである。紅一点の女僧侶は、物がまったく入らなさそうな森泉デザイン、THE GINZAのバッグを肩にかけていた。この瞬間に遊び人は、おふざけでみんなを和ませるひょうきんなボクチンに別れを告げ、ギャグマンガでいえば一番よく喋るポジションへと変貌をとげたのである。 「大冒険って言ってたじゃないか!」遊び人が勇者のトートバッグをつかんで言った。「魔王を倒すんだろ!」 「ちょ……止めてよ。僕の……に、触らないで……」勇者が口ごもって体をひねった。 「バッグぐらい自分の気に入ってるのを持ってきてもいいだろ」これもトートバッグをさげた戦士が遊び人の肩をつかんだ。「そういう楽しみがなくなったらおしまいだろ」 「それに、勇者のトートはいいやつな
歴史を変えた!?奇想天外な科学実験ファイル 作者:アレックス・バーザ発売日: 2009/08/25メディア: 単行本 一時期のことなんだけど「まじめにバカをやるんだ」っていう子たちがいっぱい出たよね。あれはなんだったのかな。キャンパスで缶蹴りしたり、よく覚えてるよ。確かに、俺も前そんな気分になったこともあった。でも、誰しも大人になるよね。俺もなったんだ。そしたら、なんかムカついたよね。そんなこと言うなよ、ってムカついたよね。おもしろいものってのはそんなところを通ってくるんじゃねえだろ、って思った。大学時代は一人で本を読んでたよ。 おもしろいものってのは、必死で取り組んだ時に、ふと後ろを振り向いたらいました。そういうものだと思うよ。そういう意味ではシャンプーのオバケに近いものがある。全力で髪と頭皮を洗うじゃん。ふと、あ怖い、ってなる瞬間、その時後ろにオバケがいるよね。一つ目がステキに濡れてい
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