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「大人になってから、仕事に追われて、読書や趣味が楽しめなくなった」という悩みを抱えてる人は少なくはないのではないか。かつて自らもこの悩みにぶちあたった、文芸批評家の三宅香帆氏は、労働と読書の歴史をひもときながらその根源を新刊『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で分析した。 本書で提起されている「全身全霊で働く」という労働観の問題をめぐって、三宅氏と人気YouTube番組「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴氏が対談。会社員の傍ら執筆活動をしていた三宅氏と、編集者をしながらYouTuberとしても活躍する水野氏が、現代の「働き方」について考える。 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書) 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は半身で書いた? 水野 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んで面白かったのは、最終的に経済思想について書かれていることですね。三宅さんは「全身全霊
「大人になってから、読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」……多くの現代人が抱えるこの悩みに、文芸批評家の三宅香帆氏が労働と読書の歴史をひもときながら向き合った新書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が刊行された。 本書の刊行を記念して、三宅氏と「ゆるく楽しく言語の話をする」人気YouTube番組「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴氏が対談。 90年代生まれ、地方出身、本好き、という共通点がある2人が、本を読まない人への読書入り口の作り方を語り合う。 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書) 「本を読まない人」から見た「読書論」 水野 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』、とても興味深かったです。こうしたテーマだと、どうしても「本を読まない人はダメだ」という、読書家による「上から目線」の語り方に終始してしまうイメージがあります。でもこの本は、普段、本を
トランスジェンダーへの差別が激化するなか、2023年7月に『トランスジェンダー入門』(集英社新書)、12月に『Q&A多様な性・トランスジェンダー・包括的性教育 バッシングに立ちむかう74問』(大月書店)が刊行された。だが忘れてはならないのは、バックラッシュ(反動、揺り戻し)で攻撃対象にされるのは、トランスの人々だけではないということだ。バックラッシュの現状をどう捉え、立ち向かうべきなのか。 『トランスジェンダー入門』の共著者である高井ゆと里さん、『Q&A多様な性・トランスジェンダー・包括的性教育』の編著者である田代美江子さんと松岡宗嗣さんの3名が、2024年3月8日にマルジナリア書店に集い、過去と現在を語った。 バックラッシュの共通点 教育学を専門とする田代さんは、2000年代初頭のジェンダーフリーや性教育に対するバックラッシュを間近で体験した。とくにバックラッシュが激化したのは、2003
12時になってしまった。もうパーティーは終わりだ。パーティーどころか、この世界はもともとなかったんだ。夢の洲は全部、幻だった――。 感傷的になっても仕方がないのはわかっている。松本人志氏にまつわる一連の報道で思い知らされたのは、結局のところ自分が信じていたもの、すなわちお笑い、さらには日本の文化というものがパワハラそのもののことを指しているのかもしれないという可能性だった。そのことに思い至った時、足元がガラガラと崩れ去るような気持ちになり、文字通り立っていられなくなった。 いや、実際にはそんなはずはない。問題は文化そのものではなく、単なるコミュニティの話でしかないはずだ……と、わかっているのに日々大きくなる炎の中で燃えているのは、私(たち)の青春と幸せだった思い出のように思えてくる。 被害者のいる行為を肯定はできない。しかしながら行き過ぎたキャンセルカルチャーと正義感も怖い。キャンセルされ
在日外国人の増加に伴い、日本各地に様々な国の信仰施設が作られ始めている。日本における“宗教国際化”を取材してきたルポライターの安田峰俊氏は、埼玉県越谷市にあるベトナム寺院、南和寺でおこなわれたテト(旧正月)の行事を訪れた。そこから見えた、「善き」在日ベトナム人たちのリアルとは。 2010年代以降、訪日中国人観光客が増加したこともあって、いまや日本でも「春節」の存在が広く知られるようになった。これは旧暦の正月(旧正月)で、中国本土や台湾・香港、韓国、ベトナムなど日本以外の漢字文化圏の各国では、西暦の1月1日よりもこちらを盛んに祝う。今年の春節は2月10日だ。 春節はベトナムではテト(Tết)と呼ばれる。基本的に中国の春節と同じ日(25年に1回だけ1日ずれる)で、盛大に爆竹を鳴らすなど中華圏の春節と似た祝われ方をするが、バインチュンというちまきに似た食べ物を食べるなど違った部分もある。 現在、
1月17日に集英社新書から発売された『「おりる」思想 無駄にしんどい世の中だから』(飯田朔・著)。誰かとの競争に勝って生き残ることを要求される現代社会に対して、自分らしくあるために、正しいと思われている人生のレールやモデルから〝おりる〟ことを模索し提案した一冊だ。 その刊行を記念して、本書に帯推薦文を寄せてくれたライターの武田砂鉄さんをお招きし、著者との対談を行なった。 武田砂鉄さん(左)と、著者の飯田朔さん 武田 本書の帯に推薦文を書かれている、ときわ書房志津ステーションビル店の店長・日野剛広さんは、僕が出版社の営業部時代だったころからの知り合いなんです。当時、千葉県の書店担当だったのですが、書店員の日野さんとあまり本の話をせずに音楽談義をして直帰する、なんて日々でした。当時、あまりやる気のなかった二人ですが、今はそれぞれそれなりにやる気が出てきた……そんな日野さんから最初に飯田さんのお
(前編からつづく) 「では、“大阪コリアタウン”の方へ向かってみましょう」と文さんは歩き出す。JR鶴橋駅から南東方面へ15分ほど歩くと、「大阪コリアタウン」というスポットがある。「御幸通商店街」「御幸通中央商店街」「御幸通東商店街」という3つの商店街から成るおよそ500メートルほどの通りに、韓国食材・惣菜を売る店や、韓国コスメ、K-POP関連のグッズのショップ、韓国の人気フードの屋台などが立ち並んでいる。10代~20代の若い人々を中心に多くの人で賑わっているエリアである。 韓国の伝統的なデザインを使ったゲートなども作られ、韓国に旅行に来ているような気分が味わえる(2023年8月撮影) 大阪コリアタウンへと続くルートの一つは地元の人に「千姫ロード」と呼ばれているという。「この通りは、大坂夏の陣で大坂城が落城する時に豊臣側から徳川家に嫁いだ千姫が命を助けられた際に通った道だと伝えられていて、そ
ここ半年ほど、鶴橋に頻繁に足を運んでいた。鶴橋の近くに住む飲み仲間の案内で、年季を感じる大衆酒場や、ひと手間かかった美味しい料理が驚くほど安く提供されている立ち飲み店などを訪ねたのがきっかけだった。「いい店が他にもまだまだある」という飲み仲間に頼って、その後もよく飲みに行くようになった。 JR鶴橋駅前の交差点をいつも多くの人が行き交っている(2023年8月撮影) 飲み歩くうち、好きな店が増えていく。大阪に移り住んでから何度も歩いては来たものの、私にとって鶴橋はなかなか全容の見えない迷宮のような場所に感じられていた。私の顔をおぼえてくれたお店の方から、「今度新しいスーパーができる」とか「魚介類を食べるならあそこが美味しい」など近隣の話をたまに聞かせてもらうようになると、少しずつだが街のことが身近に思えてくるのだった。 居心地のいい大衆酒場が点在していて、個人的に好きな店も多い(2023年8月
内田樹先生、山本直輝先生との共著『一神教と帝国』を上梓した中田考先生。イスラエル・ハマス紛争をめぐる問題の淵源について、イスラームの観点から深くとらえる論考を寄稿いただきました。 奥行きのあるトルコのイスラエル批判 ガザは旧約聖書にも名前が登場する旧(ふる)い町です。「ヨシュア記」によると預言者ヨシュアがガザの地を奪っていますし、「列王記上」にはソロモン王がガザの地を治めたと記されています。 7世紀にはアラビア半島にイスラーム勢力が勃興すると第二代正統カリフ・ウマルの時代にシリアはイスラーム帝国に組み込まれ、それ以来、ガザのアラブ化、イスラーム化が進みます。そして16世紀にオスマン帝国がマムルーク朝を滅ぼし、シリア、エジプトを支配下に置きスンナ派イスラーム世界の盟主となるとガザも他のパレスチナの地と同じくオスマン帝国の支配下となりました(1516―1917年)。 オスマン帝国の崩壊後、パレ
内田樹先生、中田考先生との共著『一神教と帝国』を上梓した山本直輝先生。イスタンブールで教鞭を執る山本先生に、イスラエル・ハマス紛争をめぐるトルコ国内の言説状況と、従来の国際秩序の危機を打開する文明の再編の様子とその可能性について寄稿いただきました。 日本からだとどうしても遠い国の出来事になってしまうが、トルコにいるとイスラエル・パレスチナ紛争は身近である。先月、私の学生の兄がパレスチナでイスラエル軍の空爆によって亡くなった。トルコのテレビ局で働く私の友人は今、取材のためにイスラエルにいる。 トルコにおける「イスラエル・パレスチナ言説」というと、もっぱらイスラエルやパレスチナに対するエルドアン大統領の外交姿勢やトルコのメディアの反応が紹介されるだろう。 例えば、エルドアン大統領はイスラエルのパレスチナへの空爆を受けてイスラエルを「テロ国家」と批判し、一方でムスリム同胞団系イスラム組織ハマース
近年、日本では在日外国人の数が大きく増えたことにより、さまざまな国の人たちが日本国内に自分たちの信仰施設をつくるようになった。宮城のモスク、茨城県下妻のヒンドゥー寺院、伊香保温泉の台湾寺院……ルポライターの安田峰俊氏は、日本人の知らない“国際化”をレポートしてきた。そんな安田氏が京都の南山城村にある韓国寺院、高麗寺に向かった。韓国寺院設立の背景にある在日の歴史、そして異教社会の現在地とは。 ■忍者の峠 ←伊 賀 童仙坊→ 甲 賀 ↓ つくづく、ものすごい看板だった。このとき、私たちがいた場所は京都府南東部の山中にある三叉路……。だが、行政上の地名はあまり意味がない。このあたりは、三重県・滋賀県・京都府の境界が入り組んで接している、通称「三国越」(みくにごえ)。すなわち、忍者の里である伊賀と甲賀を結ぶ秘境の峠なのだ。 道幅は車両一本分しかなく、しかも歪んでいた。甲賀側の多羅尾集落を出て以
11月17日に発売された集英社新書『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』(西村章・著)。「スポーツウォッシング」とは「為政者に都合の悪い政治や社会の歪みを、スポーツを利用して覆い隠す行為」のことを言い、2020東京オリンピックの頃から広まってきた言葉だ。その刊行を記念し、著者の西村章さんと、以前からスポーツをテーマにした小説を執筆し、昨年『オリンピックを殺す日』を発表した作家の堂場瞬一さんが、オリンピックやそれを報道するメディア、そしてスポーツそのものへの危惧などをテーマに対談を行なった。 西村 堂場さんは、2022年秋刊行の『オリンピックを殺す日』(文藝春秋)という作品で、「巨大になりすぎた恐竜は滅びるしかない」と、オリンピックを批判的に捉えていますよね。世に数あるスポーツ小説の中でも、あのような角度からオリンピックを取り上げた作品は非常に珍しいのではないかと思いま
『トランスジェンダー入門』(集英社新書)の発売を記念し、2023年11月12日に大阪の梅田ラテラルにてトークイベントが開催された。登壇者は、本書の著者である高井ゆと里さんと、長年トランスジェンダーのコミュニティと関わり、現在はきんきトランス・ミーティングの開催に携わる西田彩ゾンビさん。 二人は、2023年3月に同志社大学で開催されたイベント「経験と言葉を取りもどす――トランスジェンダーとノンバイナリーのリアル」でも言葉を交わしている。今回のイベントは、以前も話題になったという「ジェンダーアイデンティティや性自認」の話から始まった。 高井ゆと里さん(左)と西田彩ゾンビさん なぜ「心の性」で説明するのか トランスジェンダーの説明として、「出生時に割り当てられた性別と、ジェンダーアイデンティティが一致しない人」と言われることがある。しかしジェンダーアイデンティティによる説明を、トランスの当事者が
第5回と第6回で、「エビデンスに基づいた確かな医療情報とはどこを探せばいいのか」について、誰もが無料で閲覧できる具体的なウェブサイトを紹介しました。つづいて今回は、医療機関による広告の表現で、禁止されている事項について紹介します。 医療や健康に関する広告には、患者さんや消費者を保護する観点から、法律に基づいたさまざまな規制があります。今回はまず、厚生労働省が作成した「医療広告ガイドライン」を取り上げ、何を広告してはいけないのか、その事例を具体的に取り上げ、一般の人を勘違いさせやすい、不適正な表現を見抜くポイントを見ていきます。 ■2018年にようやくウェブサイトも広告規制の対象に 一般にはあまり知られていないかもしれませんが、日本には1948(昭和23)年に施行された、厚生労働省が管轄する「医療法」という法律があります。病院、診療所、介護老人保健施設、調剤薬局などがどういう機関であるか、そ
芸能事情に明るく、ジャニーズ性加害問題当事者の会ともイベントを開催しているプロインタビュアーの吉田豪さんは、男性が性暴力に遭うことの意味や心身への影響などを一冊にまとめた宮﨑浩一さん、西岡真由美さんの共著『男性の性暴力被害』をどう読んだのでしょうか。 我が家は子供の頃なかなかの貧乏だったのであまり高額なおもちゃを買ってもらえなくて、ウチにあるのはせいぜいミクロマンぐらい。なので、ずっと超合金に憧れがあった。 そんなとき、近所に住んでいる1歳上ぐらいの子がかなりの超合金コレクターだと聞いて、遊びに行くことになった。当時としては珍しい、ガラス棚にズラリと並べられたマジンガーZやゲッターロボ、大空魔竜ガイキングに勇者ライディーンにがんばれロボコンといったコレクションに圧倒されていたら、気がつくとそいつがなぜかフリチンになっていた。何がなんだかまったく理解できないが、ここは初めて来た家だし、どうや
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1.労働で「自己実現」を果たす時代 自己実現の時代 自己実現、という言葉がある。 その言葉の意味を想像してみてほしい。すると、なぜか「仕事で自分の人生を満足させている様子」を思い浮かべてしまうのではないだろうか。 趣味で自己実現してもいい。子育てで自己実現してもいい。いいはずなのに、現代の自己実現という言葉には、どこか「仕事で」というニュアンスがつきまとう。それはなぜか? 2000年代以降、日本社会は「仕事で自己実現すること」を称賛してきたからである。 思えば、本連載冒頭で紹介した『花束みたいな恋をした』も、「自己実現しきれない若者」の物語だった。やりたい仕事であったはずの、イラストレーターで食べていけない。好きなことを仕事に、できない。でもそれは生活のためには仕方がないと思っている。 麦「でもさ、それは生活するためのことだからね。全然大変じゃないよ。(苦笑しながら)好きなこと活かせるとか
2023年7月14日に『トランスジェンダー入門』(集英社新書)発売後、著者の高井ゆと里さんは「トランスジェンダーとはどういう人たち?」「その人たちがどんなふうに困っているのか教えてください」と尋ねられることが増えたという。しかし、トランスというある種のアイデンティティ集団を尊重していきましょう、と話を回収するだけではなんともやるせない。今後の展開を見込むためにも、9月29日にNHKカルチャーで開講された対談「フェミニズムとアイデンティティの政治」からヒントを得たいところだ。 本イベントは、『トランスジェンダー問題』刊行を記念して2022年12月3日に行われた特別対談「フェミニズムとトランスジェンダー」の盛況を受け、群馬大学准教授の高井ゆと里さんと、フェミニズム/クィア理論を主な専門とする東京大学大学院教授の清水晶子さんによる対談が再び実現したかたちだ。 (左から)高井ゆと里さんと清水晶子さ
『トランスジェンダー入門』刊行記念イベントレポートvol.3~いつまで“洗濯機”の話をしているんだ!?~ 高井ゆと里さんの共著『トランスジェンダー入門』(集英社新書)刊行を記念したトーク企画。プロインタビュアーの吉田豪さん、ライターの武田砂鉄さんと共に、異色の三人で開催しました。 事前の打ち合わせ一切なし。どこへ行くのかわからない、三人のトークの一端をご覧あれ。 ※2023年9月1日、東京・LOFT HEAVENで行われたイベントを採録したものです。 (左から) 武田砂鉄さん、高井ゆと里さん、吉田豪さん トランスジェンダーと聞いて思考が跳ねる謎 吉田 ロフトヘブンには相当出てるんですけど、今日が一番僕が何をしていいのか分からない回です。 武田 われわれ、(席の配置的に)検察みたいな感じですよね。 吉田 取り調べは何も、こっちは全然そんな立場じゃないですよ! 今日は砂鉄さんがいるから大丈夫だ
2023年で生誕から90年を迎えた“アメリカの良心”、批評家スーザン・ソンタグ。『反解釈』や『写真論』、『隠喩としての病い』といった読者を常に挑発し続ける刺激的な著作群を残し、その言葉は今も残り続けている。しかし一方で、徐々にその存在は薄れつつあるのが現状だ。 そんな状況に一石を投じるため、ソンタグの思想と生涯に迫った初の入門書が刊行された。『スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想』(集英社新書)だ。著者は明治大学教授で、ソンタグの『ラディカルな意志のスタイルズ』を訳した波戸岡景太氏。文学研究者の立場から見たソンタグの思想を、昨今のケアの文脈での「脆さ」等のキーワードで、新たな一面にフォーカスしている。 本書についての書評を、武蔵大学教授で、シェイクスピア研究などで知られる北村紗衣氏が寄稿。本書が「入門書」になっていない理由から、ソンタグの“カッコよさ”を解き明かす。 『スーザン・ソン
新型コロナウイルス感染症との戦いは、誤情報との戦いでもあった。 SNSが普及した時代にパンデミックを迎えた新型コロナ感染症は、情報の錯綜に翻弄された感染症でもある。流行初期から「お湯をたくさん飲めば予防できる」「再感染は致死的」などの誤情報が人々を混乱させ、ワクチンが開発されれば「不妊になる」「マイクロチップが入っている」などの誤情報が接種をためらわせた。 そこで立ち上がったのが医師有志で作ったプロジェクト「こびナビ」だ。新型コロナワクチンに関する正確な情報を啓発したこの活動で、誤情報は早い段階で打ち消され、日本のコロナ対策に大きく貢献したと評価されている。 そのこびナビを設立し、前代表としてこの活動を率いてきた医師で行政での勤務経験も有する吉村健佑さんにこれまでの歩みを振り返ってもらった。 聞き手:岩永直子 撮影:露木聡子 医療関係者でさえ「あまりうちたくない」 ——こびナビを始めたきっ
「トランスジェンダー」という小さな集団の名を聞いて、つい憶測で、あるいは見聞きしたばかりのニュースを元に、意見してしまったことはないだろうか。でも、私たちがふだん取得する情報には偏りがある。では何から知ればいいのか。 『トランスジェンダー入門』の刊行を記念して、2023年8月10日に下北沢の本屋B&Bでトークイベントが開催された。 認定NPO法人 ReBit(リビット)の代表理事である藥師実芳(やくしみか)さんと、『トランスジェンダー入門』著者の1人である高井ゆと里さんが、トランスジェンダーの人々の現状について率直に語り合った。 著者の高井ゆと里さんは会場参加。ゲストの藥師実芳さんとオンラインでつなぎ対談は行われた。 トランスジェンダーへの構造的差別 藥師さんは2009年より、LGBTQ(性的マイノリティ)を含めたすべての子どもがありのままで大人になれる社会を目指す認定NPO法人ReBit
忘れられた非日本人 さらに遠くまで行っちまおう。 坂本龍一は一人の「忘れられた非日本人」である――。 え、なに言ってるの。 忘れられた? 非日本人? 20年のニューヨーク生活でも、中野、白金から世田谷千歳烏山育ち。帰ってきた東京のどこかで眠っているはず。それに彼のことはみんな忘れていない。これからもずっと覚えているでしょ。 それじゃ、こう言い換えてみよう。 あなたが本好きなら、『忘れられた日本人』(岩波文庫)を書いた宮本常一という人の名を聞いたことがあるかな。戦前戦中戦後と細長い列島の村から村へ、島から島へと訪ね歩き、小さな人の小さな声ばかり集めて回った民俗学徒である。「忘れられた日本人」とは山奥の獣道や浜の荒れた納屋で暮らして語る人たちだけじゃない。宮本さん自身でもある。 坂本龍一も電子音響の小舟を一人漕いだ。最初は真夜中のスタジオ、脳内の川で飛び跳ねる稚魚を捕まえる。ニューヨークに住ん
メンバーが互いをよく知っているような小規模で親密な集いには、親密でよく通じ合っているが故に発生してしまう「毒」があります。 その集いは人々の間のミクロな違い、その隙間に巣くうコミュニケーションによって「有害な小集団」と化し、わたしたちを日々毒します。 ロシア由来の小集団「サークル」をさまざまな題材を用いて再考しながら、集団性の解毒法を考察した一冊が『サークル有害論 なぜ小集団は毒されるのか』(集英社新書)です。 本書の刊行を記念し、このたび著者の荒木優太さんとゲストによる対談連載を企画しました。 綿野恵太さん、外山恒一さんに続き、ラスト第三回目のゲストは、人類学者の磯野真穂さん。 小集団の部族を研究対象にすることが多い人類学者として、磯野さんは本書で展開された「サークル」論をどう読んだのでしょうか。 荒木優太さん(左)と磯野真穂さん なぜ今「サークル」を書くのか 磯野 さっそくお伺いしたい
本書は印象的なエピソードから始まります。著者(山本直輝氏)はトルコの国立マルマラ大学でイスラーム学を教えていますが、著者が日本人だと知ったトルコ人の神学生から「心臓を捧げよ」と日本語のアニメ『進撃の巨人』の台詞で挨拶をされました。 現代の日本には「本物の神学生」はいないので、「神学生」と聞いても皆さんの中でもピンとくる人は少ないでしょう。日本史に興味がある人なら、比叡山の延暦寺や高野山の金剛峯寺を思い浮かべてください。子供の頃から、出家して寺に住み込み、朝から仏道の修行に励みながら教学の勉強に明け暮れるのが神学生です。特に修行として学問を深める者を学僧と呼びます。延暦寺を建てた天台宗の開祖最澄、金剛峯寺を建てた真言宗の開祖空海もそうした学僧であり、栄西、法然、親鸞、日蓮ら鎌倉新仏教の開祖たちも延暦寺で学んだ学僧でした。 しかしムスリム世界には、そういう「神学生」が今も世界中で何千万人も学ん
2023年3月28日、一人の音楽家が世を去った。 坂本龍一、71歳。 彼は誰なのだろう? 世界のサカモト。リベラル左派の聖人。テクノ音楽機械。それとも高学歴コメディアンのはしり? つまるところ「教授」なのか。 1968年の夏、新宿通りに面したピットイン・ティールームのいちばん奥の席。 16歳の私が17歳の坂本に初めて会ったとき、ダウンライトの下で黒い塊に見えた。 眉も眼も、鼻や唇もみんな太く大きい。無造作な長髪、ほどよく着くずした制服。低い鼻声で好奇心に満ちた目の動き。 じきに互いの本をやりとりするようになった。 たぎるものを秘めた先輩と後輩。それぞれに「牙」を感じていたと思う。騒乱の街はすぐ窓の下だ。 彼はすでに伝説だったのである。 前衛ジャズの轟音の中で、けれど言葉はいつも途切れてしまう。 8年ほど前から2人とも悪性新生物と親しくなって、深夜にメールが来るようになった。 ポツリ、ポツリ
8月第1週の週末、真夏の風物詩〈8耐〉こと鈴鹿8時間耐久ロードレースが三重県の鈴鹿サーキットで開催された。今年で44回目を数えるこのレースで、29回の最多優勝回数を誇る陣営がホンダだ。 勝利数は、圧倒的である。鈴鹿8耐はホンダにとって最重要レースのひとつ、と位置づけられているだけに、レース活動を担うHRC(Honda Racing Corporation:ホンダレーシング)の首脳陣も揃って鈴鹿入りする。HRC社長渡辺康治氏も、土曜午前から鈴鹿のレース現場へ入った。日曜の決勝レースではファクトリーチームのTeam HRC with日本郵便が勝利し、2年連続優勝を達成した。 しかし、問題はMotoGPである。この世界最高峰の二輪ロードレース選手権で、ホンダは現在、かつてないほどの苦況に陥っている。 第9戦イギリスGP終了段階で、決勝レースの表彰台獲得は1回のみ。ライダーランキングの最上位選手は
メンバーが互いをよく知っているような小規模で親密な集いには、親密でよく通じ合っているが故に発生してしまう「毒」があります。 その集いは人々の間のミクロな違い、その隙間に巣くうコミュニケーションによって「有害な小集団」と化し、わたしたちを日々毒します。 ロシア由来の小集団「サークル」をさまざまな題材を用いて再考しながら、集団性の解毒法を考察した一冊が『サークル有害論 なぜ小集団は毒されるのか』(集英社新書)です。 本書の刊行を記念し、このたび著者の荒木優太さんとゲストによる対談連載を企画しました。 第二弾ゲストは、革命家の外山恒一さん。都知事選の過激な政見放送でも知られる外山さんは、現在、学生たちを合宿という形式で政治思想の基本知識を叩き込む「サークル」を年に数回主宰しています。その外山さんは、本書をどう読んだのでしょうか。 荒木優太さん(左)と外山恒一さん 原理論的な記述が魅力的な本 外山
大学生や転職を目指す若手会社員にとってのメジャーな就職先としてここ数年で一気に定着した「コンサル」。この職業が、若者に限らず「キャリアアップ」を目指すビジネスパーソンにとっての重要な選択肢となったのはなぜか?その背景にある時代の流れは、誰のどんな動きによって作られてきたのか?『ファスト教養』の著者が、「成長」に憑りつかれた現代社会の実像を明らかにする。 第2回に取り上げるのは、2023年上半期にヒットした高松智史『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト 知らないと一生後悔する99のスキルと5の挑戦』(ソシム)とメン獄『コンサルティング会社サバイバルマニュアル』(文藝春秋)。どちらも「コンサル本」として話題を呼んだ。この2冊が支持される背景にある、ビジネスパーソンの欲望とは? 「仕事ができること」の象徴 「成長」できる場所として多くの東大生が「コンサル」という仕事を選ぶ傾向が年々強まっているこ
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