山形県酒田市にあるフランス料理店「ル・ポットフー」の名前を聞いてまず思い浮かべたのは、吉田健一・山口瞳の二人だった。 山口さんの場合、『酔いどれ紀行』*1(新潮文庫、旧読前読後2003/2/13条)がある。当地に宿泊した4日間のディナーがすべてここだった。メニューが逐一紹介され、口を極めて絶賛されている。山口さんらしいのは、食前酒に出た地元酒田の名酒「初孫」が口に合わなかったのを正直に書いていること。 吉田健一の場合、たとえば手近にある『酒肴酒』*2(光文社文庫)をめくってみると、「山海の味・酒田」「羽越瓶子行」といった名篇を見つけたが、ル・ポットフーの名前はなかった。このなかで賛辞が寄せられているのは、山口さんの口に合わなかった初孫と、酒田きっての割烹相馬屋である。 フランス料理店ル・ポットフーの名前を日本に知らしめたのは、支配人佐藤久一という人物である。このほど彼の評伝が出た。岡田芳郎