サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
iPhone 16
natgeo.nikkeibp.co.jp
米マイアミのキューバ料理店「ラ・パルマ」では、砂糖をまぶしたチュロスを濃厚なホットチョコレートにつけて食べる。チュロスは古代ペルシャが発祥だという説がある。チュロスのように、世界に広がるうちにさまざまな文化と混ざり合って進化し、変わっていく料理は多い。(Photograph by SCOTT MCINTYRE, The New York Times/Redux) 食べ物の起源を突き止めるのは容易ではないし、論争になりがちな話題だ。ベーグルを例に挙げよう。最初にベーグルが作られたのは1610年のポーランドのクラクフだという説もあれば、17世紀後半のオーストリア、ウィーンが発祥だとする説、さらにはさかのぼって14世紀のドイツで生まれたオブワルザネクではないかとする説もある。(参考記事:「独自の進化を遂げた大人気の朝食パン、ベーグルの知られざる歴史」) ある料理が世界に広がり、進化して名前も変わ
コンマゲネ王国のアンティオコス1世の霊廟でかつて立っていた巨像の頭部は現在、自身の体の前に置かれている。トルコのネムルト山にある遺跡の東側テラスにて。(Yasin Akgul/Getty Images) トルコ東部のネムルト山の頂上には「世界八番目の不思議」がある。もちろん、その候補のひとつということだが、標高2000メートルを超える山の頂にあるのは、古代の王の墓とされる塚(マウンド)を10体の巨大な像が囲む孤高の聖域だ。古代のギリシャとペルシャ両方の遺産を受け継いだ壮大な石の建造物には、その宗教と埋葬の慣習が色濃く表れている。 現在のトルコ南東部の山岳地帯に位置するコンマゲネは、ヘレニズム時代はシリア王国(セレウコス朝)の属州だった。ヘレニズム時代をもたらしたアレクサンドロス大王が紀元前323年に死去すると、マケドニア軍の将軍セレウコス1世ニカトールがこの地域を支配する。(参考記事:「ア
50年生きることもあるイタヤラ(Epinephelus itajara)も、米フロリダ・キーズ諸島で奇妙な円を描いて回転しているところが目撃された。(Photograph By David Doubilet, Nat Geo Image collection) 数カ月にわたる根気強いデータ収集と検査の結果、科学者は米フロリダ沖で魚がぐるぐると回りながら死ぬ原因を突き止めた。有毒な藻類の組み合わせが原因だったのだ。 2023年11月、フロリダ・キーズ諸島の住民が、絶滅危惧種であるノコギリエイ科のスモールトゥース・ソーフィッシュ(Pristis pectinata)などの魚が円を描いて泳ぎ、その後死んでしまうことに気づき始めた。科学者は後に、ブダイの仲間やオオメジロザメ(Carcharhinus leucas)、イタヤラ(Epinephelus itajara)など、80種類以上の魚でこの現象
薬剤師が抗がん剤のドキソルビシンを点滴バッグに注入しているところ。この薬は腫瘍細胞のような急速に分裂する細胞を破壊する有毒な化学物質であるため、薬剤師は防護服を着用し、密閉容器を使って作業を行っている。(PHOTOGRAPH BY COLIN CUTHBERT, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 英ウィリアム皇太子の妻キャサリン妃は2024年3月末、がんを患っていることを公表して世界を驚かせた。がんの種類やステージについては明らかにしなかった一方、キャサリン妃は、自身が「予防化学療法」を受けていると言及した。 ケイト・ミドルトンとの呼称でも知られるキャサリン妃は、2024年1月、事前に録画された動画で、当時はがんではないとされていた症状で腹部の手術を受けたと公表した。しかし、その後の検査によってがんが見つかり、医療チームが「予防化学療法(preventative chemoth
大半の金は石英の鉱床から採掘されるが、大きな金塊が具体的にどのように石英の中に形成されるのかは、これまで謎のままだった。(PHOTOGRAPH BY COLIN HAWKINS/GETTY IMAGES) 歴史上、人々はいつも懸命に金を追い求めてきた。しかし今では、金塊を探し出すのはそう難しくない。世界中の金塊の多くは、石英(水晶)の天然鉱脈から見つかるからだ。ただし、そもそも金塊がどのようにして石英の中に閉じ込められたのかという地質学的なプロセスは、謎のまま残されていた。 2024年9月2日付けで学術誌「Nature Geoscience」に発表された新たな研究により、この謎に対する驚くべき、かつ説得力のある一つの解答がもたらされた。その答えとは、電気と地震、それも、たくさんの地震だ。 金塊が石英の中に存在するのは、石英が電気的に奇妙な性質をもつためだ。圧縮されたり、揺らされたりすると、
ナイルの港湾都市だったトロニス=ヘラクレイオンの遺跡で見つかった巨大な像。(Christoph Gerigk. © /Franck Goddio/Hilti Foundation) 海に沈んだ古代の都市は、神話の物語ではない。古代の世界では、実際に多くの沿岸の都市が押し寄せる波に飲まれ、家も街路も神殿もすべて道連れにして、海の底に消えていった。だが、海底に沈んだために誰もかつての都市にたどり着けず、何千年もの間に伝説が渦巻き、いつしか幻と化した。 しかし、20世紀に入ると、海洋学や海洋科学の目覚ましい進歩によって、水中考古学への扉が開かれる。現代の考古学者たちは、音波探知機、ロボット工学、3Dスキャン、水中カメラといった最新のテクノロジーを駆使して、古代の海底遺跡を見つけ、調査している。おかげで、海底遺跡の地図が新たに作成され、遺物が回収され、古代の都市の物語が再び現実となった。ここでは、
汚染された肉、特に鶏肉は、尿路感染症を引き起こす大腸菌を広めるおそれがある。畜産での抗生物質の過剰な使用も問題のひとつだ。(PHOTOGRAPH BY WILLIAM WIDMER, THE NEW YORK TIMES/REDUX) 近年、尿の通り道に起こる感染症(尿路感染症)になる人が増えている。研究によれば、世界ではここ数年、毎年4億人以上が尿路感染症にかかり、20万人以上が死亡している。尿路感染症によって失われた健康な年数(障害調整生命年、DALY)は、1990年から2019年の間に68.9%も増えた。 尿路感染症は、健康な人なら治療をしなくてもそのうちに自然に治るが、高齢者や複数の疾患を抱えている人では、抗生物質での治療が必要だ。しかし、尿路感染症を引き起こす細菌は、一般的な抗生物質への耐性を獲得しつつある。 「尿路感染症は米国の医療システムにとって非常に大きな負担となっていて、
水面に立つ孵化したばかりの蚊。蚊はこのような水のある場所で育ち、多くの病気を媒介し、毎年70万人近い死者を出している。この蚊を根絶できたとしたら、人類には利益となるのだろうか?(Photograph By Ingo Arndt/Nature Picture Library) 米国では今、蚊が大きな話題になっている。8月下旬、米国東部で東部ウマ脳炎ウイルスの人への感染が確認され、米マサチューセッツ州オックスフォード一帯に、夜間の外出を控える勧告が出された。米国立アレルギー感染症研究所の元所長であるアンソニー・ファウチ氏も、ウエストナイルウイルスに感染して入院してニュースになった。いずれも蚊が媒介する致死的な感染症の病原体だ。 蚊が媒介する病気が話題になると、決まって注目されることがある。魔法のように蚊を消し去ることができるとしたら、いったいどうなるのだろう? 生態系や私たちにはどんな影響が生
クレーコートでの試合中、サーブするテニス選手。(PHOTOGRAPH BY WUNDERVISUALS, GETTY IMAGES) 今年もテニスの全米オープンが行われ、観客動員数の最高記録が再び塗り替えられた。11世紀から続くこのスポーツに、2024年も多くの人が感嘆した。(参考記事:「全米オープンだけでも10万個、使用済テニスボールの意外な末路」) 「テニスは人間の力、優雅さ、知性、機知、バランス、スピード、喜び、悲しみ、強い意志を見せてくれます」と神経学者のブライアン・ハインライン氏は語る。ハインライン氏は全米テニス協会の会長で、全米大学体育協会(NCAA)の最高医療責任者だった経歴を持つ。 テニスは見る者をくぎ付けにし、プレーするのも楽しいだけでなく、心身の健康にも良い。 「テニスがこれほど長く続いているのは、あえて仲間との交流を楽しむ『ソーシャルダブルス』から競技性の高いシングル
2024年7月11日、国際宇宙ステーション(ISS)で撮影されたNASA宇宙飛行士のチーム写真。(下から時計回りに)マシュー・ドミニク氏、ジャネット・エップス氏、スニタ・ウィリアムズ氏、マイク・バラット氏、トレイシー・ダイソン氏、バリー・ウィルモア氏。(Photograph by NASA) ボーイング社の新型宇宙船「スターライナー」の技術的な問題により、宇宙飛行士のスニタ・ウィリアムズ氏とバリー・ウィルモア氏は、予定を大幅に超えて国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在することになった。しかし、宇宙に「取り残された」宇宙飛行士は、この2人が初めてではない。また、同じようなことはこれからも起こりうる。 地政学的な理由や自然がもたらすリスクなど、様々な理由で飛行士の宇宙滞在が予定よりも長引くことはたまにある。そして、宇宙飛行士も宇宙機関も、このような事態を想定して準備をしている。 乗って帰る
グリーンランドのセルメルソークにあるスキョルドゥンゲンの丘。雨の中、大きなバックパックを背負い、登っていく4人のハイカー。軍隊での訓練が元になったラッキングも、ちょうどこんな感じだ。筋力や持久力をつけるエクササイズとして、世界中のフィットネス愛好家から今、注目を集めている。 (Photograph by Andy Mann, Nat Geo Image Collection) ラッキング(英国ではヨンピング、タビングともいう)は、兵士が重いリュックを背負って歩き、持久力や筋力、精神力を鍛える軍事訓練を起源とするエクササイズだ。今、ジムの器具を使わずに効果的にトレーニングしたい人々の間で人気が高まっている。 フィットネス専門家も勧める注目のエクササイズは、手軽に始められて体力を向上でき、メンタルヘルスにもいい。もしかすると、自分ではそうと気づかないうちにラッキングを実践して、すでに効果を得て
1824年に日本で制作された孫悟空の浮世絵版画。DCコミックスやマーベル・コミックスといったアメリカン・コミックスも孫悟空に大きな影響を受けた。日本では孫悟空からヒントを得た漫画『ドラゴンボール』が生まれている。(PHOTOGRAPH COURTESY THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART, NEW YORK, H. O. HAVEMEYER COLLECTION, BEQUEST OF MRS. H. O. HAVEMEYER, 1929) 孫悟空は、中国で16世紀に完成した小説『西遊記』に登場する、人間の性質と能力を持つサルだ。如意棒を武器に活躍し、中国文学の中で最も愛される息の長いキャラクターのひとつになっている。 誕生以来、洋の東西を問わず数々の映画、テレビドラマ、漫画、アニメ、ゲームなどで取り上げられてきた孫悟空。そして、中国製ビデオゲーム「黒神話:悟空」
私たちの脳のニューロンが手足を動かすのと同じように、エリンギの菌糸体が光の合図に反応して電気インパルスを発し、ロボットを動かす指示を出す。(VIDEO BY ANAND MISHRA) ヒトデのような形をしたロボットが、5本の脚を開いたり閉じたりしながら木の床の上をぴょこぴょこと移動してゆく。ロボットを制御しているのは真菌からの信号だ。2024年8月28日付けで学術誌「Science Robotics」に発表されたこの新しいロボットは、米コーネル大学の研究チームが開発した。 彼らは生物をヒントにし、生物と融合したロボットを作ることを目標にしていて、今回の研究では真菌が制御する車輪付きロボットも開発している。 植物、動物、真菌の細胞を合成素材と組み合わせてロボットを作る「バイオハイブリッドロボティクス」は、比較的新しい研究分野だ。これまでに、マウスのニューロン(神経細胞)を使って歩いたり泳い
アリストフィル社の展示会で披露された、サド自筆の『ソドムの百二十日』手稿。(Mcleclat / Wikimedia Commons / Public Domain) 書籍『サド侯爵の呪い 伝説の手稿『ソドムの百二十日』がたどった数奇な運命』(日経ナショナル ジオグラフィック)には主題となったサドの『ソドムの百二十日』を筆頭に、『ファニー・ヒル』(ジョン・クレランド著、18世紀英国のエロティカ小説)や『我が秘密の生涯』(19世紀の匿名作家による性愛遍歴を赤裸々に描いた自伝風の小説)など、かつては公然と読むことができなかった作品がいくつも出てくる。当時は秘密裏に出回り、読んだら捨ててしまう人までいたが、『サド侯爵の呪い』はこうした作品の存在なくしては語れない。 というわけで、第3回は、禁書の烙印を押された作品についてお話しさせてください。 フランスでは、サドの本は禁書の扱いを受けており、暗黒
フォーラーネグレリア(Naegleria fowleri)というアメーバは、多くの場合、鼻に淡水が入ったときに人間に感染する。脳の炎症を引き起こして頭痛や嘔吐をもたらし、治療をしなければ、患者は昏睡状態から死に至る。(LONDON SCHOOL OF HYGIENE & TROPICAL MEDICINE, SCIENCE SOURCE) 猛暑の中、池で泳いだ14歳の少年。学校の遠足でプールに入った13歳の少女。自宅近くの川で水浴びをした5歳の少女。インド南部ケララ州の異なる地域に住んでいた3人の子どもたちは「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」で死亡した。温かい淡水や管理の不十分なプールに生息する微生物が引き起こす脳の感染症だ。また、27歳の男性も命を落としている。 「この3カ月間で、ケララ州では15件のPAMが報告されています。これまでは年に1件程度でしたから、大幅な増加です」と、ケラ
配偶者を亡くした隣人に食事を運ぶ女性。こうした親切な行いは社会的な絆を強め、親切にする側とされる側の双方の心身の健康の向上につながることが、研究によって示された。(Photograph by Danielle Amy) 近頃では、隣の家に砂糖を借りに行く時代は過ぎ去ったように見える。便利なアプリは、友人に頼らなくても小さな問題を解決してくれる。ライドシェアサービスを利用すれば空港まで送ってもらえるし、ギグワーク・アプリ(単発・短期の仕事を発注するアプリ)を利用すれば重要な会議中に愛犬を散歩に連れて行ってもらえる。 しかし、これらのツールは便利な反面、「人間関係を犠牲にする」おそれもあると指摘するのは、米スタンフォード大学の心理学研究者で、人工知能(AI)を利用したメンタルヘルスケアを提供する新興企業フローリッシュの共同創業者シュアン・ジャオ氏だ。 最近のさまざまな研究によると、コロナ禍の間
新約聖書の黙示録に登場する7つの頭を持った竜。19世紀のフレスコ画。(PHOTOGRAPH BY NPL - DEA PICTURE LIBRARY/W. BUSS, BRIDGEMAN IMAGES) 竜は、地球上のほぼすべての文化に存在し、昔から様々な大陸の民話、文学、芸術に登場してきた。鋭い爪に硬い鱗、尖った歯といった恐ろしい特徴をあわせ持つ竜は、人間の最も原始的な恐怖心から生まれ、現実世界で直面する危険について互いに警告するために用いられたと、研究者たちは考えている。 しかし現代になっても、竜はなぜこれほどまでに人々の想像力をかきたててやまないのだろうか。その秘密を解くカギとなりそうな6つの壮大な神話を紹介しよう。 ングウィ――世界最古の竜伝説 ヘビのような神ングウィは、様々な神話に影響を与えた。この16世紀の絵画に描かれているミズガルズの大蛇ヨルムンガンド伝説(北欧神話)もその一
スペインのカディス港にある灯台と要塞は、かつてフェニキア人の世界の西の限界を示していた。伝説によると紀元前1100年頃に「ガディル」(フェニキア語で「城壁」の意味)として建設されたカディスは、フェニキア人にとって重要な植民地となった。ここで、彼らは現地の人々と定期的に接触した。(CAVAN IMAGES/AGE FOTOSTOCK) 歴史家たちは、紀元前に繁栄していた古代社会タルテッソスがなぜ消えたのかを、今日に至るまで完全には説明できていない。発掘調査により、一夜にして消滅したかのようなこの先進的な多文化文明のことがより詳しく明らかになるにつれ、新たな疑問が生じている。 ヨーロッパ南西部のイベリア半島の南海岸沿いで勢力を拡大したタルテッソスは、紀元前10世紀に同半島に初めて到達した航海商人の集団であるフェニキア人と強いつながりがあったと考えられている。 フェニキア人は、現在のレバノン、シ
ハンドウイルカのオス(フランス領ポリネシアのランギロア海峡で撮影)はメスを積極的に守る。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 水族館でおなじみのハンドウイルカと聞けば、多くの人は遊び好きで好奇心旺盛な動物をイメージするだろう。実際、映画や水族館では、イルカの人懐っこさが強調されている。 だが、2024年の夏には福井県でイルカが人間を噛むニュースが話題となった。ハンドウイルカの邪悪な一面なのだろうか? そう思ってTikTokやYouTubeを見回せば、イルカの「知られざるダークサイド」を紹介する動画があったりする。 しかし、動物を悪者にすれば、憂慮すべき結果を招くことがある。例えば、映画『ジョーズ』をきっかけに、人々はホホジロザメを恐れるようになり、この頂点捕食者のトロフィーハンティング(娯楽としての狩猟)がブームになっ
土壌中に存在する放線菌が産生する「プラディミシンA」という天然物質が、新型コロナウイルスの感染を抑えることを、名古屋大学などの研究グループが発見した。ウイルス表面のスパイクタンパク質に存在する糖鎖に選択的に結合し、ヒトの細胞に刺さるのを防いでいるという。変異株に有効な感染阻害剤としての新薬開発を期待している。 プラディミシンAは日本人が1980年代に微生物の放線菌から発見した低分子化合物。100ミリリットルの放線菌を培養すると30ミリグラムが採れる高収率の天然物質だ。このプラディミシンAは糖の中でもマンノースにだけ水中で結合する特徴を持つ。同じ糖のグルコースやグルコサミン、ガラクトースには一切結合しない。 名古屋大学糖鎖生命コア研究所の中川優(ゆう)准教授(天然物化学)らの研究グループは、プラディミシンAがマンノースのみに結合する理由や、その選択性を生かした使い方ができないかといった研究を
「日本人の祖先はどこからやってきたのか」。このロマンに満ちた問いに対しては、祖先は縄文人と大陸から渡来した弥生人が混血したとする「二重構造モデル」が長くほぼ定説となっていた。そこに日本人のゲノム(全遺伝情報)を解析する技術を駆使した研究が盛んになり、最近の、また近年の研究がその説を修正しつつある。 日本人3000人以上のゲノムを解析した結果、日本人の祖先は3つの系統に分けられる可能性が高いことが分かったと理化学研究所(理研)などの研究グループが4月に発表した。この研究とは別に金沢大学などの研究グループは遺跡から出土した人骨のゲノム解析から「現代日本人は大陸から渡ってきた3つの集団を祖先に持つ」と発表し、「三重構造モデル」を提唱している。 理研グループの「3つの祖先系統」説は「三重構造モデル」と見方が重なり、従来の「二重構造モデル」の修正を迫るものだ。日本人の祖先を探究する進化人類学はDNA
祖先集団の移動や複雑な混血の実相明らかに 今春発表された理研の研究成果も、それに先立つ金沢大学や東京大学の研究成果も、DNA、ゲノム解析の技術が進化人類学と融合した賜物(たまもの)と言える。日本人のルーツだけでなく、人類のさまざまな集団が持つ遺伝的変異の系統が明らかになって人類がどのように世界中に広まっていったかが分かってきた。 人類進化の研究に新たな視点を提供したデニソワ人の名を命名したのは、2022年のノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツ・マックスプランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授だ。教授は約4万年前に絶滅したネアンデルタール人の骨片のゲノム解析を行ってゲノム配列を2010年に発表。欧州やアジアに住む現代人のゲノムの1~4%がネアンデルタール人に由来し、ネアンデルタール人が現生人類と交雑していた証拠を示した。 ペーボ教授はまた、2008年にロシア・シベリアのデニソワ洞窟か
ラムセス3世は古代エジプトの最後の偉大なファラオだった。しかし、ラムセス3世は本当に自分の妃が企てた陰謀で暗殺されたのかどうか、何世紀にもわたって謎に包まれていた。ラムセス3世のミイラが発見されても、現代の技術が古代のこの未解決事件を解決するまで、謎は深まるばかりだった。(Photograph by Brugsch Pasha, The Royal Mummies, University of Chicago) 陰謀を企む妻たち。叫び声を上げるミイラ。何世紀にもわたる憶測。紀元前1155年ごろ、古代エジプトのファラオであるラムセス3世を暗殺しようと企てた、いわゆる「後宮の陰謀」にまつわる疑問は3000年以上も続いてきた。後継者争いによる陰謀はまるで現実の『ゲーム・オブ・スローンズ』のようだが、現代の考古学者たちがこの謎を解き明かした方法は探偵番組顔負けだ。 歴史家たちは、この陰謀がラムセス
マイナス18℃に保たれた冷凍庫は食品を永久的に保存できるが、保存方法によっては、味や食感が落ちる可能性はある。(PHOTOGRAPH BY REBECCA HALE, NATIONAL GEOGRAPHIC) 多くの人にとって、冷凍庫は食べ残しや雑多な食品を保管するブラックホールのような役割を果たしている。食べかけのアイスクリームから感謝祭の残りものまで、あらゆるものが冷凍庫に置かれがちだ――ときには永久に。 冷凍庫は余分な食品を収納するのに便利な場所だが、混乱のもとになりがちで、使い方を誤ると、食中毒の原因にもなる。 例えば、熱々の残りものをそのまま冷凍庫に入れていいのかと気になっている人もいるだろう。また、部分的に結晶化したマフィンはまだ食べても大丈夫かといった疑問もあるだろう。さらに、解凍と再冷凍を何度か繰り返した正体不明のレッドソースはどうするべきかと悩んでいる人もいるはずだ。 冷
政府の地震調査委員会は、兵庫県沖から新潟県沖にかけての日本海にマグニチュード(M)7以上、最大M8級の地震が想定される海域活断層や断層帯が25カ所ある、としてそれぞれの位置や長さ、推定地震規模を公表した。 2024年1月に起きた能登半島地震後に作業を急いだ評価結果で、自治体などの大地震への備えに活用してもらうために発生確率の算出を待たずに前倒しで公表した。調査委は今後30年以内の発生確率を2025年前半にも公表するとしている。 調査委のこの作業は、宮崎県沖を震源とする最大震度6弱の地震が起きて初の南海トラフ臨時情報「巨大地震注意」が出される前に行われた。プレート境界で起きた宮崎県沖の地震と日本海側の活断層型地震は発生のメカニズムが異なる。気象庁などは直接の関係はないとの見方だが、連動する可能性は完全には否定できないと指摘する専門家もいる。日本海側も引き続き注意が必要だ。
ザトウクジラ(画像は南極半島の沿岸海域で撮影)が気泡の円を作って獲物を囲い込む行動は、かなり以前から観察されてきた。(PHOTOGRAPH BY WHALE RESEARCH SOLUTIONS) チンパンジーは棒を使ってシロアリを釣り、ラッコは石で貝を割り、イルカはカイメンで口先を保護しながら海底で餌を探す。新たな研究により、人間以外で道具を使うこうした種の仲間に、ザトウクジラがあらためて加えられることになった。しかも彼らは道具を使うだけでなく、周囲の環境から道具を作り出しているという。2024年8月21日付けで学術誌「Proceedings of the Royal Society Open Science」に論文が掲載された。 世界各地のザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)は、オキアミ、ニシン、サケの稚魚などの特定の獲物を捕らえる際、気泡でできたバブルネットを
マッコウクジラは最長で1時間息を止めて、2000メートルを超える深さまで潜水できる。それほどの深海でどのように獲物を捕るのか、オーシャンXの科学者たちは関心を寄せている。(写真:BRIAN SKERRY) 深海には地球上で最も多くの謎に包まれた生命が潜んでいる。その謎を解明するための最新機器を満載した船に乗り込んだ。 6月の暖かな朝、全長87メートルの調査船が、北大西洋に位置するアゾレス諸島を出航した。 陽光を浴びて白く輝く「オーシャンXプローラー号」は、船首にヘリコプターの発着場があり、船尾の近くには2艇の潜水艇を搭載。海面下に沈んだ船体には海底地形のデータを収集する高解像度ソナーがずらりと並ぶ。 この民間の調査船は特殊な任務を帯びている。野生のカグラザメをその生息域で追跡し、データを得ることだ。カグラザメは非常に深い水域に潜んでいるため、その行動は多くの謎に包まれている。2億年前に出現
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『ナショナルジオグラフィック日本版サイト』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く