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睡眠の効用この数年、私の睡眠時間は5時間前後を保っています。旅行にでも出ない限り、5時間ぐっすり寝られるので、特に短いと思ったことはありませんでした。ところが最近、睡眠時間が短いとアルツハイマー病のリスクが高まることを示す論文が目に止まり少し気になっています。というのも、もともと睡眠はその前に経験したことをもう一度復習し直して必要なものだけ長期記憶として残す重要な役割がありますが、これに加えて2013年私のブログで紹介したように、睡眠は覚醒時に脳に溜まった様々な老廃物を排出する機能を担っていることが広く認められるようになってきました。これが正しいとすると、アルツハイマー病で脳細胞を障害する重要な原因として考えられているアミロイドβ(Aβ)の脳外へ排出する量も、睡眠が短いと減ることになります。 ただ、これらは長い時間かけて溜まったAβのことで、「チリも積もれば山になる」といった類の話だと思っ
自閉症スペクトラム(ASD)治療薬の可能性が示されたこのブログでも、ASDの症状を軽減する薬剤、例えばオキシトシンについて紹介してきた。他にも、自閉症様症状を示す遺伝病では、さまざまな薬剤の臨床治験が進んでいる。しかし、米国のFDAが認可したASD治療薬はまだ存在しない。ところが先週、ASDの幾つかの症状が改善することを示した科学的な手法に基づく臨床治験論文がScience Translational Medicineに相次いで発表された。FDAもこの結果に注目して、特別に審査することを決めたほどの重要な展開だと思うので、緊急に紹介することを決めた。ただ、論文を読んでみると、背景にあるメカニズムについてはかなり高度の知識が要求される。そのため、少し努力してもらうことを前提としてブログを書くが、エッセンスだけを知りたい人のために、最後に簡単なまとめを残すので、ほとんど読み飛ばしてもらっていい
ウイリアムズ症候群とは?まずほとんどの読者は、ウイリアムズ症候群について聞いたこともないと思う。しかし発症メカニズムも全く異なっているのに、なぜかウイリアムズ症候群は自閉症スペクトラム(ASD)と対比して語られることが多い。この理由は、両者が社会性という点で全く逆の症状を示すからだ。 ウイリアムズ症候群(WS)の原因はよくわかっており、7番染色体の一部が大きく欠損することで起こる遺伝病だ。欠損する領域には、26種類の遺伝子が存在しており、知能だけでなく、実際には様々な身体の発達障害をがおこる。ただWSが注目される最大の理由は、知能発達の遅れにも関わらず(IQの低下がある)、言葉を話す能力が極めて高い。そして「天使のように愛くるしい」と形容される人懐っこさを示し、初めての人でも不安を持つことなく近づく社交性を同時に持っている。 これに対し、ASDは知能発達は正常でも、言葉を話すのが苦手で、他
古代人の遺伝子の機能を調べる研究以前も紹介したが、古代人の遺伝子が現代人ゲノムに残っているおかげで、古代人の遺伝子の機能を現代人のそれと比べることができる。このような研究の結果、例えばうつ病に関わる遺伝変異、日光に対する反応に関わる遺伝変異、そしてウイルスに対する抵抗力などが、ネアンデルタール人からの贈り物として私たちのゲノムの中で活動していることがわかっている。 メラネシア人を除くと、私たちに残っているデニソーワ人遺伝子は少ないため研究が進んでいないが、2014年に中国北京ゲノム研究所からチベット人の高地順応遺伝子がデニソーワ人から由来するという驚くべき論文が発表され、私のブログでも紹介した(http://aasj.jp/news/watch/1786)。 デニソーワ人の開発した高地順応遺伝子の謎私もアンデス山脈に行った時4000mを超えて高山病になったことがあるが、高地で生活する民族は
ASDの消化管症状2017年Autism Speaksから発表された「自閉症の健康」と題されたレポートを紹介した。その中でASDでは高頻度に慢性の消化管症状が(便秘、下痢)みられ、生活の質が著しく低下することが書かれていたが、「本当に困っており、この記事を読んで納得した」と多くのメールをいただいた。 このとき、消化管症状の原因が腸内細菌叢の異常で、治療のために健康人の便を移植する治療が始まっていることも紹介した。もちろんこの治療の主要目的は消化管症状の改善だが、消化管刺激によりASD自体の症状が悪化している可能性も高く、消化管以外の症状を改善できる可能性が期待できる。 この期待を裏付ける2編の論文が今年に入って相次いで発表されたので、自閉症の科学27として簡単に紹介しておくことにした。 ロイテリ菌の力わが国では、多くの企業が乳酸菌やビフィズス菌についてその効能を謳った宣伝を毎日繰り広げてい
発達障害実を言うと、小学校の頃学校から児童相談所に行くよう言われた覚えがある。当時は、児童相談が始まったばかりで、検査の理由は覚えていないが、ひょっとしたら授業に集中しないなどの傾向があったのではと思う。今でも一つのことに集中できず、同時にいくつものことを並行してやる癖があるので、ADHDと言われても仕方がないかもしれない。当時は自閉症スペクトラムやADHDなどの概念がはっきりしていなかったためか、その後特に指導を受けるというまでには至らなかった。 冒頭の図に示すように、発達障害は3つのカテゴリーに分けることができるが、症状は互いに重なり、完全に分けることは難しい。 この中のADHDは、一つのことに集中が難しく、動き回るなど行動を自分でコントロールできないなどの症状を示す時に付けられる診断名で、わが国でもADHD児童の数は増えており、全児童の5%近くに達しているのではないだろうか。 児童の
今我が国では外国で麻疹に感染した患者さんが、帰国した後発病までに多くの人と接触し、新たな患者を発生させていることが社会問題になっている。今年大阪、三重を中心にすでに250人をこす患者さんの発生が報告されており、この10年で最も多かった2014年で通年462人だったことを考えると、これを上回ることは必至の状況になっている。麻疹は感染力が強く、当然と言ってしまえばそれまでなのだが、麻疹感染を国内だけで考えられなくなり、グローバルなレベルで対策を練る必要があるのは間違いない。 麻疹に関しては外国で感染するという問題だけでなく、先進国で今最大の問題は麻疹に対する免疫を持たない集団の増加で、この最大の理由は子供のワクチン接種数が低下していることだ。ワクチンは、個人を感染症から守るだけではなく、集団や弱者を守る公衆衛生上の意義も大きい。麻疹ワクチンについては長い歴史があり、その間改良も重ねられ、その効
今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は大麻の主成分を、ビールと同じように出芽酵母に作らせることができるという研究で、栽培したり所持したりすることが違法な我が国にとってはちょっと物騒な研究だ。ただ、最近は医療用に限らず大麻の使用を解禁する国が出てきており、社会問題になるほどではないと思い紹介することにした。 大麻には様々なアルカロイドが含まれており、全体をカンナビノイドと総称している。その中で最も多く含まれる、テトラヒドロカンナビノール(THCA)やカンナビディオリック酸(CBDA)を、単純な糖から作ることができる酵母を遺伝子工学的に作るのに成功したという研究が今日紹介する論文だ(Luo et al, Complete biosynthesis of cannabinoids and their unnatural analogues in yeast(大麻成分とその自然には
アルツハイマー病(AD)は現在さまざまな角度から研究が進んでおり、新しい治療標的がいくつも見つかってくる可能性は高いと思っているが、今日紹介する米国の創薬ベンチャーCortexymeからの論文は、意外性が大きすぎて真偽を疑いたくなる論文だ。もし示された結果が確認され、仮説が正しいとすると、この分野がひっくり返ると言える。本当なら、Science Advancesではなく、Scienceが掲載しても全く問題ないが、おそらくレフリーとファイトするのを嫌ったのだろう。ひょっとしたら読者の誤解を産むかもしれないと思いつつ、それでもAD病の原因が歯周病菌という大胆な結論なので、紹介することにした。(Dominy et al, Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains: Evidence for disease causation a
遺伝子組み換え食物(GMO)は危険か?遺伝子組み換え技術なしに、今や生命科学はあり得ないし、話題のクリスパーも、遺伝子治療も遺伝子組み換え技術の応用だ。しかし、私達の生活の最も近いところにあるこの技術は、医学への応用ではなく、農業への応用から生まれるGMOだ。 GMOの危険性については、様々な角度から議論がなされ、多くの国でGMOかどうか表示が義務付けられ消費者が選べるようにしている。ただ、生命科学者として過ごしてきた立場から言うと、外来の遺伝子を導入する組み換え自体が食品としての危険性を生み出すとは思わない。 もちろんGMOには多くの問題が伴う。今深刻なのは、殺虫剤グリフォサート耐性のGMO作物が出来た結果、殺虫剤の使用量が増えていることで、例えば米国のホワイトカラーの体内のグリフォサート濃度が上昇していることが報告されている(http://aasj.jp/news/watch/7578
昨年暮れ我が国は国際捕鯨委員会(IWC)から脱退した。これに対して様々な意見が聞かれたが、ほとんどが政治、倫理、食文化、伝統などの観点からの意見で、クジラ保護という科学的視点からの意見はほとんど聞かれない。これに対し、2大国際科学雑誌ScienceとNatureが、先週号に科学の観点から意見を述べており、私も読んで完全に納得したので紹介することにした。 クジラ保護の問題を科学的観点に徹して評価するIWCからの脱退でよく聞かれた意見は もともとクジラの消費は先細りで、漁業として極めて小さな経済活動に過ぎず、将来後継者もままならない捕鯨と引き換えに、わが国が国際協調を破る国であるという汚名を着るのは、あまりにも損失が大きい。 と言った内容が多かったように思う。私はクジラ肉の給食が当たり前だった世代で、自分の経験を振り返ると、このような意見ももっともだと思ってしまう。しかし上に例示した意見にはク
今年も毎月1回をノルマに、「自閉症の科学」と題して、最新の自閉症研究を紹介したいと思っている。自閉症研究といっても、ゲノム、動物モデル、脳科学、行動学、心理学、そして臨床医学まで極めて幅広い。そのため、脳科学やゲノムとなると、よほどの専門家でないとよく理解できないと言われてしまうだろう。それでも、分野を問わずいい研究は紹介していくつもりだ。というのも、自閉症は私たち人間を理解する鏡であると共に、今後多くの治療法が開発できると予想できる分野だからだ。是非今年も期待してほしい。 今年最初は、それでも大変わかりやすい論文紹介から始めたいと思う。 表情は言葉やジェスチャーと並んで、私たちの重要なコミュニケーション手段だ。当然社会性や他人との関係に障害を持つ自閉症スペクトラム(ASD)の人たちは、表情による表現に何らかの問題を持っているのではと直感できる。実際、ASDの様々な表情を典型人と比べた論文
毎月少なくとも1報は自閉症に関する研究を紹介したいと、ノルマを課してきたが、今月はなかなか紹介したいと思う論文に出会えなかった。ゲノム研究などは進んでいるのだが、大筋でこれまでの研究を越えず、ただただ複雑になっている印象が強い。そんな時「自閉症スペクトラムの児童にとって2ヶ国語環境は有害か?」と、私が考えもしなかった問題に疑問を持って調べた論文に出会ったので、紹介することにした。 自閉症スペクトラム(ASD)の症状は多様で個人差も大変大きいが、社会性の障害、反復行動とともに、言語障害の3症状が決め手になって診断される。個人的には、社会性、あるいは他の人とのコミュニケーションの難しさが、全ての症状の原点にあるように思う。実際、言語障害の程度や内容は結構多様で、ASDと診断されている人でも、ほとんど気がつかない場合もある。また重度の言語障害があると診断されても、多くの著書を発表している東田直樹
わが国は論外として、臓器移植症例の多い欧米でも、ドナー不足は深刻だ。複雑な臓器を作るという点では、まだまだ再生医学に出番はない。期待されているのは、完全人工臓器か、動物の臓器を利用する異種移植で、心臓ではどちらも実用化に近づいてきている。 今日の話題は動物の臓器を用いる異種移植だ。特に臓器の大きさから心臓移植ではブタに期待が集まっている。もちろんそのままでは拒絶されるだけなので(異種移植で一番大きな壁は急性の拒絶反応で、慢性については同種移植と同じように対応できると考えられている)、急性拒絶がおこらないように遺伝子が改変されたブタが作成されている。さらに最近では、ブタ内因性レトロウイルスのヒトへの感染を防ぐ目的で、ゲノムから全てのレトロウイルスを取り除かれたブタまで開発されている。このように、実用化へと着実に研究が進んでいたとは把握していたが、おそらく米国が大きくリードしているのかと思って
DNAが現場で採取できても、これまでは同じDNAの情報が照合できないと、犯人と特定できなかった。DNAが証拠になるには、まず他の方法で犯人を特定して、そのDNAと現場で採取されたDNAが合致する必要があった。ところが今年の春、民間ゲノムデータベースに登録された犯人の親戚から、犯人を割り出し逮捕したという驚くべきニュースが飛び込んできた。これがGolden State Killer事件だ。 Golden State Killer事件1974年から1986年まで、サクラメントからロサンゼルスにかけて、強姦、強姦殺人、および住居侵入が多発し、犯行時期に合わせて、犯人に3人のニックネームが与えられていた。凶悪事件として大掛かりな捜査が行われたにもかかわらず、10年以上全く捜査は進展せず、暗礁に乗り上げていた。その後ゲノム解析が容易になり、被害者に残された犯人ゲノムが詳しく解析され、2016年にFB
自閉症スペクトラム(ASD)はもともと様々な状態を総称しているが、これらの状態を正常・異常と分けないで、ニューロダイバーシティー(脳回路の多様性)として連続的に捉えることの重要性をこれまで強調してきた。だからと言って、ASDに見られる共通の症状を多様性という言葉で片付けるわけにはいかない。少しでもASDの人たちが生きやすいように適応してもらうには、あらゆる医学的検査を駆使して一般人との違いを明らかにし、治療標的を探す必要がある。この時、症状だけでなく、それに対応する脳回路の変化を客観的に捉える画像診断は重要だ。以前紹介したように、脳の構造変化や脳領域間の連結などの解剖学的変化はMRIを用いてかなり詳しく調べることができるようになってきた。しかし、働いている脳の機能的違いの研究には、別の方法が必要になる。 今日紹介する10月号のHuman Brain Mappingと10月3日発行のScie
今年6月、天才ディーラーと呼ばれたジェームス・シモンズとその妻マリリンが設立したシモンズ財団の助成を受けて進められている、目標5万人の自閉症の子供たちの追跡調査(コホート研究と呼ぶ)SPARKについて紹介した。ゲノムも含め、さまざまな項目について調べる意欲的なコホート研究だ。 これに先立ち、3000人の自閉症児を持つ家族についての様々なデータがSimons Simplex Collectionとしてデータベース化されている。この調査項目の中には、睡眠障害についての調査も含まれており、それもアンケートに記入させるのではなく、11の項目について、親に直接、あるいは電話でインタビューするという徹底的な調査だ。 このSimons Simplex Collectionに集められた睡眠障害についての調査をまとめたデータが、ピッツバーグ看護大学の研究者によりResearch in Autism Spec
恐らく高校生の時だと思うが、西ローマ帝国の没落と同時に、多くの民族がヨーロッパに相次いで移動し現在のヨーロッパ人が形成された事を学んだ。この最初がゲルマン人の移動で、ゴート、フランク、ブルグンド、ロンゴバルドなどの王国が形成される。私達がアングロサクソンと呼ぶのはこの系統だ。一方、それ以前の住民には当然ローマ帝国を代表する南の人たちの系統が存在し、私達がラテン系と呼んでいる人と考えればいい(この考えは検証したわけではなく私が勝手に想像していると理解してほしい)。この時代のことは、ローマ側から見た記録と、あとはさまざまな遺物から検証されているが、ゲルマン人側からの詳しい記録はそれほど多くないようだ。従って、特に侵入初期のゲルマン人の生活については、他の資料からの考察が求められていた。 今日紹介する米国ストーニーブルック大学、イタリアフィレンツェ大学、ドイツマックスプランク人類史研究所が合同で
今日は自閉症の遺伝子研究の解説も兼ねて、スペインからの論文を紹介したい。一般の人には難しい箇所も多いと思うが、ぜひ紹介したい重要な論文なので、なんとか読破してほしいと願っている。 自閉症遺伝子研究の難しさ自閉症スペクトラム(ASD)は、一卵性双生児間での発症一致率が高いことから、遺伝的要因が高いと考えられている。しかし病気のゲノム研究が進むにつれ、何か特定の遺伝子がASDの発症を促すというケースはまれで、遺伝性はあっても、たくさんの遺伝子が様々な程度に複雑に絡み合って出来上がった脳の状態であることがわかってきた。こうしてASDリスク遺伝子としてリストされた遺伝子は今や100以上になっている。 もちろんASDの原因として単一の遺伝子変異を特定できる場合もある。しかしこの場合も、特定の分子の変異が多くのASDリスク遺伝子の表現に影響を及ぼし症状が出ることが普通だ。 一般の方は、遺伝子変異による
ササとパンダ、ユーカリとコアラといった具合に、食性がきわめて限られている動物は多いが、悪食とすら言える人間のような多様な雑食性を持つ動物はそう多くないはずだ。ホモ・サピエンスの一人として食を考えると、民族による食の違いはきわめて大きく、食べ物の違いが民族のアイデンティティーになっているとすら言える。しかし各民族でどれほど食が多様化しようと、人間の交流が進むと必ずその壁にチャレンジするアウトサイダーが現れ、最終的に一般的食へと転換する。その結果、今や日本人もカタツムリを食し、外国人がフグを食べる。このあらゆるものにチャレンジする性格と、特殊を極める性格が両立しているのがホモ・サピエンスの特徴で、我々をネアンデルタール人や、デニソーワ人から分けたとする問題提起がドイツ イエナのマックスプランク人類史研究所とミシガン大学考古学博物館の研究者から行われた (Roberts and Stewart
以前、私の個人的ブログで、「神の顔のイメージをモンタージュしようとした論文」を紹介したが、このブログは宗教を敵視しているのではと指摘された。私自身は、進化論をはじめ科学を支える根本思想を教えており、時に反宗教的言動が出てしまうのは避けられないと思っている。例えば、17世紀近代科学の誕生時のカソリック教会について学生さんに講義をしていたとき、当時の教会が「捏造した」概念をガリレオに押し付けたと断定したことに、強く抗議を受けたことがある。今後も同じような経験を繰り返すと思うが、反宗教的と言われても自らの考えを正直に述べていくしかないと思っている。 そんな私でも、宗教が人間の思想に多くの重要な概念を提供してきたことを認めており、個人の信仰を敵視することはないと思っている。例えば、平等や道徳の概念は、神という絶対的基準があると理解されやすい。たしかに現代世界を見れば、宗教が紛争と差別の根源になって
シモンズ財団自閉症スペクトラム(ASD)に関する論文を読んでいて、研究の多くがSimons Foundation(写真は会長のMarilyn Simmons)の助成を受けていることに気づきました。この財団のことは全く知りませんでしたが、Webで調べると、数学者で天才ディーラーと呼ばれたJames Simonsとその妻Marilynにより1994年に設立された財団で、Simons氏の専門だった数学やコンピューターサイエンスを中心に基礎科学を支援している財団のようです。2015年の支出が4.3億ドルという規模は、東大の全収入約2000億円と比べて、かなり大きな財団であることがわかります。 中でもASD研究はこの財団が焦点を当てている分野の3本の柱の一つになっています。おかげで、財団のホームページの論文のリストを見るだけで、ASDの基礎研究の現状がよく分かるようになっており大変重宝です。この財団
CAR-Tガン治療の衝撃キラー細胞がガンの根治を可能にする事を私が実感したのは、オプジーボに代表されるチェックポイント治療ではなく、今日話題にするCAR-Tを用いた白血病の治療成績が発表された時でした。細胞治療と遺伝子治療が合わさったちょっと難しい方法なので、Yahoo!ニュースでは紹介しませんでしたが、私自身のブログでは何回か紹介しています(例)。 手を替え品を替え、さまざまな治療法を試したにもかかわらず、再発してしまった患者さんの実に半数から、がん細胞が消えたという報告には本当に驚きました。ガンの消滅以上に私が驚いたのは、ガンと同じCD19を細胞表面に持つ正常のB細胞も同時に消えたと言う点でした。副作用という観点からは、 B細胞が消えるのですから抗体が作れなくなり由々しき問題です(ガンの進行が止まるとして受け入れられている)。しかし、この激烈な結果はキラー細胞をうまく使うと、多くのガン
トランスポゾン今日はシロアリの寿命についての論文を紹介するつもりですが、この論文を理解してもらうため、まずトランスポゾンから説明しましょう。トランスポゾン(Transposon)は、transpositionが語源で、場所を変えることができるという意味です。ゲノム科学では、一つの場所から他の場所へと動くことのできる遺伝子のことをトランスポゾンと呼んでいます。私たちの遺伝子に入り込んだあと、そこから新しい細胞や個体のゲノムに拡がっていくエイズウイルスや、子宮ガンの原因となるパピローマウイルスに似た遺伝子を私たちがもともと持っていることになります。ゲノムプロジェクトから明らかになった驚きの一つは、私たちのゲノムの実に4割がトランスポゾンで占められていることで、この秘密を解こうと多くの研究者がしのぎを削っています。 トランスポゾンは人間に限らず多くの動物に存在していますが、最近のトピックスは、若
現役を退いてすでに5年を超えたが、分野を問わず論文を読んでいて実感するのが、自閉症スペクトラム(ASD)についての研究の進展だ。私が門外漢であるためより興味を惹かれることもあるが、最新のテクノロジーが集められて研究が進んでいる領域であることは間違いない。ただ、実際の治療に携わる医師や心理士、教育者は、なかなか最新の研究をフォローするだけの余裕がないと思う。そんな人たちにわかりやすく最近の研究を紹介したのが今日紹介する総説だ。もちろん、一般の研究者にとっても、あるいはASDの子供を持つ家族の方にとっても、神経科学から浮き上がってくるASDの輪郭を掴むには良い総説だと思い紹介することにした(Muhle et al, The emerging clinical neuroscience of autism spectrum disorder (新しく現れてきた自閉症スペクトラムの臨床神経科学)
考古学から自閉症を考える今日のタイトルを見て、「自閉症と考古学?」と驚かれる読者も多いと思います。私も、Penny Spikinsさんの本や論文を読むまで、考古学と自閉症が関係するなんて考えたこともありませんでした。 Penny Spikinsさんは現在ヨーク大学考古学の講師で、石器時代の遺物から人間の優しさや道徳性といった「美しい心の存在」を読み解くという、大変ユニークな研究にチャレンジしています。私自身は、最初彼女が2015年に出版した「How compassion made us human(どのように思いやりの心が私たちを人間にしたのか?)」という著書を読んで以来、彼女の考えに魅せられました。 最近彼女は、現代の自閉症スペクトラム(ASD)の人たちを、石器時代の遺物を通して考える研究を精力的に行なっています。2016年にTime and Mindに掲載された論文では、自閉症をneu
ハンス・アスペルガーアスペルガー症候群という名称は、一般の方にもかなりポピュラーになっているのではないでしょうか。何か一つのことにこだわりがあって優秀なのだが、社会性がなくコミュニケーションのとりにくい人がいると、「彼(男性が多い)はアスペルガーとちがう?」などと門外漢でも簡単に診断を下しているのをしばしば耳にします。 このアスペルガーという名前は、ウィーン大学小児病院で自閉症概念の成立に力を尽くしたHans Aspergerのことで、症候群に名前が付いているだけではなく、フィラデルフィアのカナー医師とともに、自閉症概念の成立にも大きな貢献があった医師だとされています。彼の業績は、長い間カナー博士の業績に隠れて忘れられていたのですが、1944年に彼が発表した学位論文を読んだ英国の精神科医Lorna Wingにより再発見され、アスペルガー症候群という名前とともに世界的に有名になります。 もち
磁場刺激による脳操作の歴史頭に磁場を発生するコイルを当てて(冒頭の写真参照)脳内に磁場照射を繰り返し与えると、脳神経を刺激して様々な神経疾患に利用できることが明らかになっています。もともと、電流のような物理的刺激を使って脳の機能を変える治療は、いわゆる電気ショック療法と呼ばれて1930年代ぐらいから行われてきました。驚くことに、症例によってはこのような治療が現在も行われています。ただ、ショックとか電撃療法という名前から分かるように、患者さんへの負担は大きすぎます。 これを改善するために1980年代から開発されたのが今日話題にする磁場による刺激法、経頭蓋磁場刺激(Transcranial magnetic stimulation:TMS)法です。様々な間隔で磁場を脳内に照射するのですが、例えば運動領域への照射で手や足を動かすことができる、すなわち運動を支配している神経を刺激できることがわかり
自閉症の科学シリーズとタイトルをつけましたが、今日紹介したい論文は、胎児期に治療できる可能性がある遺伝病があることを示した研究で、自閉症とは直接関わりがないことをお断りしておいたほうがいいでしょう。しかし、自閉症の多くは胎児期・発達期の神経ネットワーク形成過程の問題に由来しています。すぐに関係がなくても、胎児期、発達期の治療法の研究は、将来の自閉症治療にもつながる可能性があると考え、シリーズとして紹介することにしました。 XLHED日本語でも、英語でも、読もうとすると舌を噛みそうな名前、X-linked hypohidrotic ectodermal dysplasia (X染色体連載低発汗性外胚葉異形成症:XLHED)、のついた病気があります。X染色体上に位置するEDAと名前がついた分子をコードする遺伝子の突然変異が原因の病気で、突然変異を持つ男性のみに、1)汗腺の形成不全による発汗障害
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