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ドラクエ3
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1.教員と保護者との性的関係・性行為 教員の方が起こす性的不祥事というと、児童・生徒を対象とするわいせつな行為を連想される方が多いのではないかと思います。 確かに、そういった事例も相当数あるのですが、実務上、児童・生徒の保護者と性行為に及ぶ例も決して少なくありません。こうした場合、性行為は、しばしば不貞行為としてなされています。 それでは、児童・生徒の保護者と性交渉に及んだ場合、その処分量定は、どのように理解されるのでしょうか? 昨日ご紹介した、東京地判令6.1.26学校法人成城学校事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。 2.学校法人成城学校事件 本件で被告になったのは、中学校・高等学校(本件学校)を設置している学校法人です。 原告になったのは、本件学校の専任教員として勤務していた方です。生徒の保護者と性的な関係を持ったことなどを理由に懲戒解職処分(懲戒解雇処分)を
1.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) 職場におけるパワーハラスメントの代表的な類型の一つに、 「人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)」 があります。 具体的には、 「自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。」 がこれに該当すると理解されています(令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』参照)。 このように仕事外しは、ハラスメントに該当し得ることが一般に承認されています。 しかし、パワーハラスメントに該当するといえるためには、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱している必要があります。誰にどのような仕事を担当させるのかについては、一般に使用者に広範な裁量が認められていることもあり、仕事外しが業務上必要かつ相当な
1.入試不正等に関する大学教員の労働事件 大学教員の方が懲戒処分を受ける類型の一つとして、入学試験や単位認定、成績評価に係る不正行為が挙げられます。 ただ、個人的な経験や観測の範囲で言うと、私的な利益を図るために不正行為を行うといった事例は、あまりありません。概ねの場合、不正行為は、大学や学生の利益に対する配慮から行われています。私利私欲を図ってやったわけでもないのに、懲戒解雇といった予想外に重い処分を受け、その効力を法的に争うことができないかと相談に来られることがパターンが多く見られます。 私的利益が図られていない事案では、経緯を聞いていると気の毒に思うことが少なくありません。しかし、裁判所は、入学試験や単位認定、成績評価に係る不正行為を、重大な非違行為とみる傾向があるように思います。近時公刊物に掲載されていた、横浜地判令6.2.8労働判例ジャーナル145-10 国立大学法人横浜国立大学
1.専門職大学院の実務家教員の整理解雇と解雇回避努力 専門職大学院で行われている教育内容は、学部教育の延長線上にあることも少なくありません。例えば、法科大学院での教育内容は、法学部での教育内容をより高度に発展させた形になっています。 そうであるとするならば、実務家教員を整理解雇するにあたっては、解雇回避努力として、学部での受け入れの可否が模索されるべきだとはいえないのでしょうか? 昨日ご紹介した、福岡地判令6.1.19労働判例ジャーナル145-1 学校法人西南学院事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。 2.学校法人西南学院事件 本件で被告になったのは、西南学院大学を設置する学校法人です。西南学院大学には、法学部と大学院法務研究科(法科大学院)が設置されていました。 原告になったのは、被告との間で無期労働契約を締結し、被告の法科大学院で就労していた弁護士です。元々は有
1.指導教授等による研究業績の剽窃 労働事件におけるハラスメントと構造的に類似することや、大学教員の方の労働事件を比較的多く受けている関係で、アカデミックハラスメントは個人的な興味研究の対象になっています。 アカデミックハラスメントに関する相談の一つに、指導教授や上位の研究者に研究成果を盗用されたというものがあります。 アカデミックハラスメントを対象とする裁判例ではありませんが、近時公刊された判例集に、研究不正の一態様である「盗用」の解釈が示された裁判例が掲載されていました。大阪地判令6.1.11労働経済判例速報2541-18 学校法人関西大学事件です。 2.学校法人関西大学事件 本件で被告になったのは、関西大学等を運営する学校法人です。 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、教授の職位にあった方です。職員研修制度により、大学院の博士課程前期課程の院生となったAの指導教員として、
1.事前の注意・指導、改善の機会の付与 勤務態度の不良を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、 事前に注意・指導がなされているのか、 改善の機会が付与されていたのか、 が重視されるという言説があります。 これは一面において正しいのですが、必ずしも全ての場合にあてはまるわけではありません。例えば、佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕395-396頁には、次のように記載されています。 「長期雇用システムの下の正規従業員については、一般的に、労働契約上、職務経験や知識の乏しい労働者を若年のうちに雇用し、多様な部署で教育しながら職務を果たさせることが前提とされるから、教育・指導による改善・向上が期待できる限りは、解雇を回避すべきであるということになり、勤務成績・態度不良の該当性や、解雇の相当性は、比較的厳格に判断されることになる。他方、高度の技術能力を評価され
1.僧侶・修行僧の労働者性 一般論としていうと、住職たる地位の確認を求める訴えの提起は認められません。具体的な法律関係に関する問題でなく、法規の適用によって終局的に解決すべき法律上の争訟に当たらないと理解されているからです(芦部信喜 著 , 高橋和之 補訂『憲法』第七版』(岩波書店、第7版、令元)351頁参照)。 しかし、寺に出仕している人と寺との関係性の全てが司法審査の対象にならないのかと言われると、そういうわけでもありません。寺からお金をもらって出仕している僧侶・修行僧の方は多々いますが、こうした寺と僧侶(修行僧)との関係が雇用契約・労働契約に該当するのではないかは、しばしば裁判所でも問題になっています。近時公刊された判例集に掲載されていた、大阪地判令5.9.15如在寺事件も、そうした事案の一つです。 2.如在寺事件 本件で被告になったのは、 日蓮宗の教義を広め、儀式行事を行うこと等を
1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 多くの大学はアカデミックハラスメントをハラスメント防止規程等で禁止しています。しかし、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントとは異なり法令上の概念ではないことから、どのような行為がアカデミックハラスメントに該当するのかは、必ずしも明確ではありません。 職務上、大学教員・大学職員の方の労働問題を取り扱うことが多いことから、何がアカデミックハラスメントに該当するのかには関心を有していたところ、近時公刊された判例集に、長時間にわたり反論の機会をほとんど与えることなく追及し続けたことがアカデミックハラスメントに該当するとされた裁判例が掲載されていました。高松高判令5.9.15労働判例ジャーナル142-56 損害賠償請求(アカデミック・ハラスメント)事件です。 2.損害
1.ハラスメントに冷淡な裁判所 労働者側の代理人弁護士として常日頃問題だと思っていることの一つに、裁判所のハラスメントに対する冷淡さがあります。 裁判所はなかなかハラスメントの成立を認めません。かなり不穏当な言動がとられていても、「業務の範囲を超えているとはいえない」といった理屈でハラスメントの成立を否定します。 また、ハラスメントの成立が認められる場合でも、多くの事案では極めて低額の慰謝料しか認定しません。その慰謝料水準の低さは、弁護士費用を賄うことすらままならないことが多く、法律相談をしている中で説明すると、しばしば相談者からびっくりされます。 強い言葉に響くかも知れませんが、率直に言って、このハラスメントに過度に謙抑的な裁判所の姿勢は、ハラスメントを助長する一因になっていると思います。 近時公刊された判例集にも、裁判所のハラスメントに対する謙抑的すぎる姿勢がうかがえる裁判例が掲載され
1.普通解雇の懲戒解雇への転換 古くからある論点の一つに、 懲戒解雇を普通解雇に転換できるか? という問題があります。 一般論としていうと、普通解雇の方が懲戒解雇よりも有効とされるハードルが低いと理解されています。そのため、懲戒解雇したものの、その効力が争われて裁判所に事件が継続した時、使用者側から 「あの懲戒解雇は、普通解雇する趣旨を含むものだ」 という主張がなされることがあります。これが懲戒解雇の普通解雇への転換と呼ばれる論点です。 この論点に関しては、一般に、次のように理解されています。 「使用者が普通解雇の予備的な意思表示をしていない事案で、裁判所が、懲戒解雇としては無効であるが普通解雇としては有効であると判断することができるかが解釈上問題となりうる(いわゆる『無効行為の転換』の可否の問題)。紛争の一回的解決の要請からすればこれを肯定することも考えられる)が、懲戒解雇と普通解雇では
1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 多くの大学はアカデミックハラスメントをハラスメント防止規程等で禁止しています。しかし、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントとは異なり法令上の概念ではないことから、どのような行為がアカデミックハラスメントに該当するのかは、必ずしも明確ではありません。 職務上、大学教員・大学職員の方の労働問題を取り扱うことが多いことから、何がアカデミックハラスメントに該当するのかには関心を有していたところ、近時公刊された判例集に、学生に不快感を与える冗談を言ったことがアカデミックハラスメントに該当すると判断された裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、東京地判令5.2.22労働経済判例速報2530-22 A大学事件です。 2.A大学事件 本件で被告になったのは
1.成績評価の厳格化 文部科学省は、繰り返し、大学の成績評価を厳格にすべき方針を打ち出しています。 例えば、 ・平成12年度以降の高等教育の将来構想について(答申)(平成9年1月29日 大学審) 「卒業に関しては、教育の内容・方法の一層の充実を図り、教育理念や目標を踏まえて厳格に学習成果を評価し、単位を認定することによって、卒業生の質の確保を図っていくことが強く求められている。」 ・21世紀の大学像と今後の改革方策について(答申)(平成10年10月26日 大学審) 「学生の卒業時における質の確保を図るため、教員は学生に対してあらかじめ各授業における学習目標や目標達成のための授業の方法及び計画とともに、成績評価基準を明示した上で、厳格な成績評価を実施すべき。」 「厳格な成績評価については、例えばGPAと呼ばれる制度を活用した取組を行っている大学もあり、各大学においては、このような例も参考とし
1.退職勧奨/退職強要 「使用者は退職勧奨を原則として自由に行うことができるが、その勧奨行為には限界があり、人選が著しく不公平であったり、執拗、半強制的に行うなど社会的相当性を逸脱した手段・方法による退職勧奨は違法とされる可能性」があります(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会編『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、2023年改訂版、令5〕341頁参照)。 社会的相当性を逸脱したといえるためのハードルは結構高く、私から見るとかなり酷いことをしていると思われるような事案でも、違法性が認定されない例が少なくありません。例えば、複数人に渡る同僚から特定の労働者の退職を求める嘆願書を取り付け、その嘆願書を示しながら、退職勧奨に応じなければ他の従業員から離れたところに席を移すなどと約40分に渡って退職を求めたことについて、裁判所は、違法性を否定しています。 他の従業員から出された退職を求める嘆願
1.配転命令権の濫用 一般論として、配転命令には、使用者の側に広範な裁量が認められます。最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件によると、配転命令が権利濫用として無効になるのは、 ① 業務上の必要性がない場合、 ② 業務上の必要性があっても、他の不当な動機・目的のもとでなされたとき、 ③ 業務上の必要性があっても、著しい不利益を受ける場合 の三類型に限られています。 このうち③の類型について、労働者のキャリア形成への期待を阻害することが、著しい不利益といえるのかという問題があります。 名古屋高判令3.1.20労働判例1240-5 安藤運輸事件の裁判所は、運行管理者⇒倉庫業務への配転命令について、 「原告が被告において運行管理者の資格を活かし、運行管理業務や配車業務に当たっていくことができるとする期待は、合理的なものであって、単なる被控訴人の一方的な期待等にとどまるもので
1.競業避止義務 労働契約の終了後については、「信義則に基づく競業避止義務は消滅し、就業規則や労働契約等の特別の定めがある場合に限り、それらの約定に基づいて競業避止義務が認められうる」と理解されています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕914頁参照)。 しかし、競業行為も「悪質な手段、態様で行われた場合には、これらの行為を禁止する契約上の根拠がないときでも、使用者の営業の利益を侵害する不法行為として損害賠償責任が課されることがある」とされています(前掲『詳解 労働法』917頁参照)。 要するに、競業避止契約を交わしていない労働者は、退職した後、原則として自由に競業することができます。ただし、自由競争の枠を逸脱しているといえるような手段、態様で行われた場合には、例外的に損害賠償責任を負うことがあります。 この退職後の競業行為との関係で、近時公刊された判例集に目を引く裁
1.セクシュアルハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられる」 との経験則を示しました。 この判決が言い渡されて以来、加害者の責任追及にあたり、被害者の迎合的言動をそれほど問題視しない裁判例が多数現れています。 近時公刊された判例集にも、この系統に属する裁判例が掲載されていました。宮崎地判令5.3.22労働判例ジャーナル136-22 慰謝料等請求事件です。 2.慰謝料等請求事件 本件で被告になったのは、宮崎県議会議員の男性です(昭和43年生まれ、既婚で妻子あり)。 原告になったのは
1.状況や脈絡によって性的な意味を帯びる言葉 言語表現には、それ単体では性的な意味を持っていなくても、状況や脈絡によって性的な意味合いを帯びるものがあります。 例えば、「家に来ないか。」という言葉があります。小学生の子どもが珍しい虫を捕まえたことを自慢したくて、友達に対し「家に来ないか。」と言ったところで、それがセクシュアル・ハラスメントに該当すると考える人はいないはずです。しかし、夜、酒の入った席で、大人が異性に対して「家に来ないか。」と言えば、性的な意味合いを感じる方も少なくないのではないかと思います。 また、言葉には、性的な意味が隠されているものもあります。例えば、「尺八」という言葉は、通常、日本の伝統的な木管楽器を指す名詞として使われます。しかし、口淫を表す隠語として使われることもあります。 性的な意味に捉えられかねない状況で、こうした言葉の使用を避けることは、日本語表現に慣れ親し
1.請求行為、訴訟提起に対する当てつけ ハラスメントの被害に遭った労働者が、在職中に、勤務先に対して損害賠償を請求すると、有形・無形の嫌がらせを受けることがあります。 こうした嫌がらせは、通常、権利行使とは関係のない体を装ってなされます。例えば、勤務態度が悪いから懲戒処分を行うといったようにです。 このように権利行使とは無関係の体が装われるのは、権利行使をしたことそのものを理由に不利益性のある対応をとってしまうと、裁判を受ける権利(憲法32条)の侵害と捉えられかねないからです。 しかし、そうした洗練された手法をとらず、損害賠償を請求したことや、損害賠償請求訴訟を提起したことそれ自体を問題視する対応をとる使用者も、いないわけではありません。 それでは、請求行為や訴訟提起などの権利行使を抑圧してくる使用者に対し、労働者は何等かの対応をとることができないのでしょうか? この問題を考えるうえで参考
1.大学教員の公募は出来レースか? 大学教員の公募に関しては、採用選考が適切に行われていないのではないかという懸念を抱く方が少なくありません。例えば、公募と銘打ってはいるものの、誰を採用するのかは既に決まっていたのではないかといったようにです。 それでは、採用選考過程に疑義がある場合、不合格者は大学に対して採用選考過程や自身への評価についての情報開示や説明を求めることができないのでしょうか? この問題を考えるにあたり、近時公刊された判例集に参考になる裁判例が掲載されていました。東京地判例4.5.12労働判例ジャーナル129-48 学校法人早稲田大学事件です。 2.学校法人早稲田大学事件 本件で被告になったのは、早稲田大学等を設置している学校法人です。 原告になったのは、中国政治及び中国社会論を研究分野とする政治学者の方(原告A)と、その方が加入している労働組合(原告組合)です。 被告は、
1.交際関係が先行していて法律関係が良く分からない問題 交際関係にある人同士が、取引関係を持ったり、共同して事業を営んだりすることがあります。こうした場合、契約書が作成されず、当事者間の法律関係が良く分からないことが少なくありません。 当事者双方の関係が良好である場合には、それでも困りません。しかし、交際関係が上手く行かなくなってくると、しばしば法律関係が明確にされないまま放置されてきたことによる紛争リスクが顕在化します。 これは労働契約においても同様です。近時公刊された判例集にも、交際関係が下地にあって法律関係が不明確であったことが労働者性をめぐる紛争に繋がった裁判例が掲載されていました。名古屋地岡崎支判令3.9.1労働経済判例速報2481-39 TRYNNO事件です。 2.TRYNNO事件 本件で被告になったのは、元々自動車製造設備の製造補修等の事業を行っていた株式会社です。 原告にな
1.セクハラの立証-供述の信用性評価に係る裁判例を検討する意義 一般論として言うと、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、第三者の目に触れない場所・態様で行われる傾向にあります。そのため、セクハラに関しては、主要な証拠が被害者の供述しかないことも少なくありません。 この被害を受けたと主張する方の供述が、加害者とされた人の言い分と真っ向から食い違う場合、法曹実務家は、どちらの言い分が信用できるのかという問題に直面することになります。 客観証拠や第三者証言が乏しい中、供述を対照してどちらの言い分が信用できるのかを判断する作業は、率直に言って、かなり難しいです。しかし、だからといって安易に立証責任論で処理することが許されるテーマではなく、この問題は、法曹実務家の頭を悩ませています。 見通しの立てにくい難しい問題に取り組んでいくにあたり重要なのは、何といっても裁判例の検討です。どのような事案で信
1.組織内弁護士 官公署又は公私の団体において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士のことを組織内弁護士といいます(弁護士職務基本規程50条参照)。この組織内弁護士はインハウス(In-house lawyer)といわれることもあります。 職務基本規程上、組織内弁護士は、 「弁護士の使命及び弁護士の本質であ る自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める」(弁護士職務基本規程50条)、 「その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしていることを知ったときは、その者、自らが 所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない」(弁護士職務基本規程51条) とされています。 つまり、組織からの命令でろうが、職
1.合意原則の修正-自由な意思の法理 労働契約法3条1項は、 「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」 と規定しています。 変更という言葉が明示されていることからも分かるとおり、労働者と使用者の合意により労働契約の内容を変更することは、別段、禁止されているわけではありません。これは労働者の利益になる方向での変更だけではなく、賃金減額のように不利益になる方向での変更にもあてはまります。 しかし、賃金のような重要な労働条件を労働者に不利益に変更するにあたっては、ただ単に合意・同意が成立しているという外形があれば足りるというわけではありません。最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、
1.素人によるヘアカット 子どもの頃、親や学校の教師から髪を切られて不本意な思いをした方は、少なくないのではないかと思います。 素人が切るのであるから、当たり前のことです。理容師は理容師法で、美容師は美容師法で、それぞれ国家資格として位置付けられています。素人でもきちんと切れるのであれば、国家資格による規制は必要ありません。 それでは、学校の教師から髪を切られ、変な髪型いされてしまった場合、慰謝料を請求することはできるのでしょうか? この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。甲府地判令3.11.30労働判例ジャーナル121-30 山梨市事件です。 2.山梨市事件 本件で被告になったのは、原告が通っていた中学校(本件中学校)を設置する地方公共団体です。 原告になったのは、本件中学校に在学していた方です。同級生からいじめられていることを認識していたに
1.パワーハラスメント 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、 「事業主が職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」 を職場におけるパワーハラスメントとして定義しています。 同指針はパワーハラスメントの典型として、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の六類型を掲げています。 このうち「精神的な攻撃」には、脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言といったものが該当します。いずれの言動についても、これまで裁判例で問題になってきたのは、乱暴な言葉で罵られている例が多いように思われます。 しかし、敬語が使われていたからといって、不必要に人を傷つける言動
1.コールセンターは大変? 「感情労働」という言葉があります。 これは、 「顧客などの満足を得るために自身の感情をコントロールし、常に模範的で適切な言葉・表情・態度で応対することを求められる労働」 を言い、 「旅客機の客室乗務員をはじめとする接客業、営業職、医療職、介護職、カウンセラー、オペレーター、教職など」 が典型例であるとされています。 感情労働とは - コトバンク 「感情労働」とされている職種は、その精神的な負荷の高さから、敬遠されることが少なくありません。特に、顧客等からの不適切な発言に対しても、怒りや不快感をあらわにすることが禁止されているコールセンターは、特に大変だとされている職種の一つです。 個人的に見聞きする範囲で言うと、コールセンターで働く人たちは、感情をコントロールすることを相当強く意識しています。法律事務所には、しばしばコールセンターで処理できなくなった苦情の処理が
1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、法令上の概念ではありませんが、近時、裁判例等で扱われることが多くなってきています。職務上、大学教員・大学職員の方の労働問題を取り扱うことも多いことから、個人的に関心を持っている領域の一つです。 パワーハラスメントと業務上の指導との区別が問題になるのと同じように、アカデミックハラスメントが不法行為を構成するのか否かの判断にあたっては、しばしば教育的指導との区別が問題になります。近時公刊された判例集に、この境界線を知るうえで参考になった裁判例が掲載されていました。宇都宮地判令3.9.9労働判例ジャーナル117-60 国立大学法人山形大学事件です。 2.国立大学法人山形大学事件 本件で被告にな
1.アカデミックハラスメント 大学等の養育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、アカデミックハラスメントは、法令上の概念ではありません。各大学が独自に定義を定め、その抑止に努めています。 アカデミックハラスメントは、多くの場合、懲戒事由にも該当します。しかし、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントが、それに該当したからといって必ずしも懲戒処分の対象になるわけではないのと同様、アカデミックハラスメントも、該当する行為が認められたからといって、必ずしも懲戒処分の対象になるわけではありません。「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」、懲戒
1.アカデミックハラスメント 大学等の養育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、アカデミックハラスメントは、法令上の概念ではありません。定義についても各大学で独自に定めているのが実情です。 明確な定義がないため、アカデミックハラスメントには、様々な類型が考えられるところ、近時公刊された判例集に、同僚間での国籍を揶揄する発言がハラスメントに該当すると判示した裁判例が掲載されていました。札幌地判令3.8.19労働判例1250-5 A大学ハラスメント防止委員会委員長ら事件です。 これまで公刊物に掲載されてきたアカデミックハラスメント事案の多くは、教授-准教授以下、大学教員-院生・学生の間での出来事でした。この事案は特に上下関係にない同僚教授間でのハラスメントがテーマになっ
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