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JINSEI STORIES 滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」 Posted on 2024/04/15 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、プチ引退を決めた。 この夏の、東京と大阪のライブを最後に、しばらくぼくは日本での公式な音楽活動をやめようと思った。 話は、2019年のオーチャードホールでの還暦ライブに遡る。 コンサート当日、台風が上陸し、不可抗力で中止になった。 その翌年、コロナが世界的に大流行をし、二回目のオーチャードホールでのライブも中止になった。 その翌年、コロナが長引き、三回目のオーチャードホールのコンサートが中止になった。 その会場の中止にともなう莫大なキャンセル費用、支払いだけが残った。 プロモーターさんが赤字をどうするか、と言ってきた。聞いたら、とんでもない額だった。 そこでぼくは、コロナ禍だったが、知恵を絞って、フランスのミュージシャンを集めて、(相当に
JINSEI STORIES 滞仏日記「漫画家さんの死に心痛を覚える。ドラマが原作者を殺すことに反対する」 Posted on 2024/01/31 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、「セクシー田中さん」という漫画の原作者である芦原妃名子さんが自死をとげたという壮絶なニュースを、さきほど知り、衝撃を覚えている。 彼女が描いた漫画のドラマ化の段階で、テレビ局側とトラブルがあったようだが、そのテレビ局によるニュースをネットで確認したが、「感謝しております」という表現に違和感と憤りを覚えてならなかった。 ぼくは、ちょうど同じタイミングで、韓国ドラマの原作を担当している。 しかし、仲介に入った日韓のエージェントが、ドラマ化の発表を原作者であるぼくに知らせなかった。 そのニュースが世界に配信され、ぼくは知人から、ラインを通じて、知らされたのだ。 信頼できなくなり、この日記で、(原作は引き下げないが)も
欧州最新情報 パリ最新情報「AIアート展、パリで初の開催。世界七不思議を人工知能が描く」 Posted on 2023/01/14 Design Stories パリでは今、AI(人工知能)によって作成された絵画の個展が開かれている。 場所はマレ地区の一角にあるギャラリー、「la galerie Danysz(パリ11区)」だ。 AIによる絵の個展はパリでも初開催となり、昨年12月3日から1月14日までの約40日間にわたって入場無料で公開されている。 展示されているのは7枚の絵、すなわち「世界七不思議」を表現したものである。 世界七不思議とは、古代の地中海地方に存在していたという7つの巨大建造物を指す。 なおこれは現代で言われている新・世界七不思議(万里の長城やタージ・マハルなど)とは異なり、古典古代における元祖7つの建造物を描いたものだ。 ※古典古代における世界七不思議…ギザのピラミッド
欧州最新情報 パリ最新情報「新しいコロナ派生株『BQ.1.1』、欧州で拡大中。まもなくフランスで優勢へと報道」 Posted on 2022/10/20 Design Stories 10月18日(火)、フランスの新規コロナ感染者数は87,666人となり、第8波の開始以来3番目に高い数字を記録した。 なお人口10万人あたりの陽性例は575.8人、感染速度も前週から「ほぼ横ばい」となっているが、入院患者数の合計は19,948人(うち重症患者数は1,069人)と前週より増加傾向にある。 フランスにおける第8波の特徴は、第7波で流行したオミクロン型がほとんどであるということだった。 しかし現在、オミクロン型の新たな派生株BQ.1.1(通称ケルベロス)が欧州で急拡大中だというニュースが駆け巡っており、まもなくフランス国内でBQ.1.1が優勢になるとさえ報道された。 この新たな新型コロナウイルスBQ
PANORAMA STORIES パリの螺旋階段、はじまりとデザイン Posted on 2022/10/08 ルイヤール 聖子 ライター パリ 曲線美が魅力の螺旋階段は、フランスのいたるところで見られます。 首都パリにもたくさんあって、アパルトマンや美術館、何気なく入ったカフェにも、本当に素敵なデザインの螺旋階段が設置されています。 フランス語では螺旋階段のことをescalier en colimaçon(エスカリエ・アン・コリマソン)と言うのですが、これはノルマン語でカタツムリを意味するカリマコン(calimachon)が語源なのだそうです。 フランスで螺旋階段が本格化したのは、中世時代のことです。 当時、石造りの建物ではすきま風がたくさん吹き込むため、階段は居室の外に作られていました。 とはいっても一般の住宅に取り入れられることはなく、主に設置されたのは要塞化されたお城であったそうで
欧州最新情報 パリ最新情報「フランスで流行が懸念されるインフルエンザ。第8波と同時進行する恐れも」 Posted on 2022/10/09 Design Stories コロナ第8波が押し寄せるフランスでは、10月7日(金)、新たに61,121人の新規陽性者が報告された。 国内では東部と北部で流行が広がっており、年齢層では70歳以上の感染が顕著だという。 しかし気になるのは、感染性胃腸炎・インフルエンザといった季節性の感染症が、フランスでコロナウィルスと同時に増加していることである。 特に仏保健当局は、この冬にインフルエンザが大流行することを懸念している。 過去2年間、人々はマスクをし、手洗いやうがいなどを徹底していたためインフルエンザが流行することはなかった。 ところが南半球のオーストラリアでは今年に大流行が起こったといい、件数にしておよそ3万件もの報告があった。 オーストラリア冬期の
欧州最新情報 パリ最新情報「とうとうパリにも干ばつの危機が。フランス全土で歴史的な水不足に」 Posted on 2022/08/04 Design Stories 8月2日、パリに干ばつ警報が発令された。 度重なる熱波に加え、7月からほとんど雨が降らなかったフランス。 そのため南部では早くから干ばつ警報が発令されていたのだが、それがじわじわと北上し、とうとう首都パリも警報下に置かれるようになった。 これはフランス96県のうち、全ての地域が「水不足」の危機にさらされていることを意味している。 なおフランスにおける干ばつ警報のレベルは4段階あり、最も低いレベルが1、最も高いレベルが4となる。 レベル4では危機警報となり、水の使用は飲料、医療・衛生、安全面に限られるほか、農業を含む分野で50%以上の使用制限がかかる。 現在ではフランス中央部を中心に多くの県でレベル4が設定されており、パリはレベ
PANORAMA STORIES 日本とこんなに違う、フランスのアイスコーヒー事情 Posted on 2022/07/03 ルイヤール 聖子 ライター パリ フランスのコーヒーは秀逸です。 こちらでコーヒー(カフェ)を頼むと、サーブされるのは決まってエスプレッソ。 最初の頃こそ「小さいな」「苦いな」と思っていたのですが、今ではそれなしでは一日が始まらないというほど、フランスのエスプレッソが好きになりました。 あんなに小さいのに飲めば満足感と達成感に満たされる。 そんなエスプレッソのある風景そのものが、パリのカフェを形作っているんだなとしみじみ思います。 ただ、こうも暑いと身体がアイスコーヒーを欲してしまいます。 ところがフランスのアイスコーヒー、実は日本と少し様子が違うのです。 私は今まで、夏のパリでアイスコーヒーを数えきれないほど頼みました。 しかし、一つとして同じものは出てこなかった
PANORAMA STORIES 日本とこんなに違う、フランスのシャンプー&リンス Posted on 2023/04/14 ルイヤール 聖子 ライター パリ 在仏日本人のあいだで話題になることの一つに、シャンプー問題があります。 スキンケア編でもご紹介しましたが、フランスは硬水のため髪を洗う時にもそれなりの苦労を伴います。 日本では、季節を問わずほとんどの方が毎日髪を洗っているのではないでしょうか。私は渡仏してからも毎日洗髪していたのですが、それを続けていたら肌と同様、頭周りがかなり酷いことになりました。どのくらい酷いかというと、抜け毛がごっそり増える、毛先が尋常じゃないほど痛む、頭皮が乾燥によって真っ赤っかになる、などです。 もちろん、悪さをしているのは硬水です。クレンジングと同じように、硬水と洗浄成分が混ざることで肌や髪を痛めてしまうのです。 ではフランス人はどうしているのかというと
JINSEI STORIES 滞仏日記「今日の日記は特に面白くありませんよ。はい、人生と一緒です」 Posted on 2022/05/28 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、腹筋のし過ぎで腰が痛くなった。 調子にのって毎晩腹筋500回とかやっていたら、(確かにちょっとお腹が割れてきたけれど)同時に、すこーし腹痛になった。 何事もほどほどが大事である。 田舎からパリまで、長時間の運転のせいもあるだろう。 家に戻ったら戻ったで家事が待ち受けていた。 米が切れていたのでアジア食材店まで歩き、重たい米を抱えて運んだのがいけなかったのかしら。朝からくたくたである。 日曜日に迫った文章教室に向けて、準備もあり、気が付いたらベッドの上がその資料でいっぱいに。 腰が痛いので、ごろごろ寝転びながら今日は一日中、文章教室の予行練習に追われた。 おしゃべりなぼくだけど、ライブ講義前は一応毎回、受講生に感動(笑)
欧州最新情報 パリ最新情報「フランスで魚の消費量が上昇中。しかし偏りを指摘するメディアも」 Posted on 2022/05/12 Design Stories 肉食大国のイメージが強いフランスだが、実は魚も、負けず劣らず消費されている。 フランス人は一人当たり年間34kgの魚介類を消費しており、ヨーロッパ平均の21.6kgを大きく上回っているという。 ヴィーガン人口が増えているとはいえ、フランス全体では肉も魚も、まんべんなく食している人の方が圧倒的に多い。 ところが魚に関しては、無脂肪タンパク質やオメガ3に注目が集まっており、ダイエットに関心のある女性の間でどんどん人気が増しているそうだ。 増え続ける魚の消費に対して、仏各紙は興味深い内容を報じた。 「もし、フランス人が国内で獲れた魚しか食べなかったら、スーパーの棚は…5月2日から空っぽになってしまうでしょう」 これは一年間で例えたもの
PANORAMA STORIES 家庭フレンチの定番を「チキンのソテー、クリームマスタードソース」 Posted on 2023/10/12 セギュール ちえみ(DS編集部) 料理好き パリ このお料理は、私がパリに暮らし始めた頃、初めてフランス人の友人宅に招かれご馳走になった思い出の一皿。 すっごく美味しいのにレシピを聞いたらとても簡単で驚きました。その後、日本から遊びに来た友人に振る舞ってみたところ、友人たちは帰国後もこの料理を作り続けているとのこと。 一体どんなお料理なの?と期待をもたせてしまいますが、これが、めちゃくちゃシンプルなのに、想像の上をいく美味しさ!なのです。 10分もあればできてしまうので、ぜひ作ってみて欲しい一品です。 チキンのクリームマスタードとしましたが、フランスではターキー(七面鳥)で作ることが多いです。ターキーはチキンよりも味が淡白でパサパサしているので、ちょ
JINSEI STORIES リサイクル料理教室「世界一美味しい焦がしバター、ブール・ノアゼットの簡単な作り方」 Posted on 2022/11/23 辻 仁成 作家 パリ 日本のフレンチレストランでも、魚料理などに、ブール・ノアゼット・ソースというのがかかって出てきます。 でも、それは透明のソースで、とっても香ばしくて、美味しいのですけど、これの先に行くと、クリーム状の焦がしバターが出来るのご存じでしたか? 「ブール」とは仏語でバターのこと、ヘーゼルナッツはノアゼットです。ヘーゼルナッツ・バターのことなんです。 これが解けたものがソースになりますが、実は、辻家では、もうひと手間かけて、とろけるバターにしちゃっています。最高ですよ。 日本のネットで調べたら、あまり、載ってないので、ここは父ちゃんがめっちゃ美味しいヘーゼルナッツ・バターの作り方をご教授しますので、ぜひ、お試しください。
JINSEI STORIES 父ちゃんの料理教室「これは便利で美味い!!! 辻家特製、オレンジ塩」 Posted on 2021/11/21 辻 仁成 作家 パリ ぼくは父子はお肉よりも、どちらかというと魚を食べることの方が多い。 特に、ポワレ系が多い、鯛とか鱸(すずき)とかの。 皮パリに焼いて、食べるのだけど、本当においしい魚はとくに、ソースでごまかさないでも、美味しい。 醤油をかけると、全部、醤油味になってしまうので、いい魚の時にはもったいない。 そこで、フラー・ド・セル(塩の華)をかけるだけで、済ませることが多い。 しかし、一工夫し、辻家では、オレンジ風味のフラー・ド・セルをつかう。 今日は、その作り方をご指南したい。 これ、お肉にもあうし、サラダにも最適なので、作ってみてほしい。 ※ いくつかの重要な注意点があるので、それだけは、ぜひ、守っていただきたい。 さて、父ちゃんのオレンジ
JINSEI STORIES 滞仏日記「グリーズマンとデンべレのこと」 Posted on 2021/07/08 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、グリーズマンとデンべレのことを日記に書いてから多くの批判、なかには「日本に帰って来るな」という誹謗中傷まであり、この件、一言だけ言わせてもらいたい。 まず、ぼくはね、「擁護はできない」「大バカ者」「クソガキ」「ホテルの人にすぐに謝りなさい」と書いた。 差別は断じて許さない。彼らがやったことは決して許されることではない。 でも、冷静になってください、ともツイートした。 というのは、「ゲキサカ」に、下記写真のようなセンセーショナルな文面が踊って、「マジか、くそ野郎、日本に二度と来るな」と思ったのだけど、確認のために、彼らの動画を見たら、彼らが言ってない表現があった。 かなり聞き取りにくいのは事実だが、確実に言える部分は「後進国の言葉」とは誰も言ってな
JINSEI STORIES 退屈日記「仏サッカー代表選手が日本人大差別の報道を分析。くそ野郎は誰だ!」 Posted on 2021/07/04 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、ヤフーニュース開いたら、トップニュース欄に「フランス代表FW、日本人侮辱か」という見出しがあって、覗いてみたら、サッカーニュースサイト「ゲキサカ」に「デンべレとグリーズマンが日本人を侮辱か、・・・『醜い顔』『後進国の言葉』『技術的に進んでないのか』というタイトルが踊っていた。うわ、なんだこれ・・・。 ぼくもこれを読んだ後、「グリーズマン、応援していたのに、このくそ野郎、差別主義者メ、二度と日本の土を踏ませるものか」と思った。←大げさですね。えへへ。 多くの日本のサッカーファンがそう感じたはずだ。 でも、61才の父ちゃん、ちょっと待てよ、と冷静になってみた。 こういう差別発言って、ちゃんと本当に誰が何を言ったか調べ
JINSEI STORIES リサイクル・父ちゃんの料理教室「子供も野菜好きになる。ラタトゥイユのカッペリーニ添え」 Posted on 2023/02/04 辻 仁成 作家 パリ 野菜を食べられなかった息子を「野菜好き少年」にさせたくて、父ちゃんが苦心して作ったのは、辻家の定番「ラタトゥイユのカッペリーニ添え」なんだけど、・・・。 特徴としては、ちょっこっとだけカッペリーニが入っているという点なのである。☜それだけ? 子供はトマトソースのスパゲッティが大好物だから、ラタトゥイユに冷静カッペリーニが載っていたら絶対食べるに違いない、自分も食べたいし、と思ってやってみたら、おおお、案の定、10歳の息子君はペロっと完食! 「これ、もうないの?」と言いだした。笑。 それ以来、息子はだんだん野菜が大好きになっていく。今では、いつか野菜園を田舎に作りたい、などと言い出している。 実は、いきなりラタト
欧州最新情報 速報・パリ最新情報「19歳のハイジさんが、マクロン大統領にあてた衝撃の手紙」 Posted on 2021/01/17 Design Stories フランスでは、高校生までが学校に行くことが許可されている。しかし、大学に関しては感染拡大に影響を与えるとし、閉鎖の対象となっていて、大学生は自宅待機が続いている。 欧州では勉学を続けられず学校をやめる学生たちが相次いでいるだけでなく、学校に行けない子たちの精神不安が問題視されている。 中には自殺を試みる学生たちも出てきた。 ストラスブールに住む19歳の学生ハイジは「もう限界です」とマクロン大統領に長文の手紙を送りつけた。 これに対し、マクロン大統領もすぐさま長文の返事を認めた。 この19歳のハイジさんの訴えはフランスの、いや、全世界の大学生を代弁する心の叫びであろうと思う。ハイジの言葉がフランスを今、すさまじく揺さぶっている。
JINSEI STORIES 父ちゃんの料理教室「いろんな料理に飽きたら、中華風蒸し鯛、であっさりごはんにすべし」 Posted on 2024/07/05 辻 仁成 作家 パリ バター系の重たいものが食べられない、食べたくない日というのがある。 献立に毎日、悩んでいる皆さんに、父ちゃんが、やる気をそこまで出さずに、美味しい一皿を作るコツをお教えしましょう!! 必要なのは、蒸し器、ふふふ。 フランス料理に飽きた時に、あっさり胃に優しい中華風蒸し魚をよく作る。バターや、ソースを使わないので、こってりしておらず、胃に優しい。 蒸し器で魚を蒸すだけだが、一工夫で、驚くほど、美味しくなる!!!! これが息子に大好評で「ポワソン・ア・ラ・ヴァパー」が食べたい、と言い出すまでになった。ヴァパーとは蒸し料理という意味のフランス語である。 じつに超絶、美味しいのであーる。 ということで今回は贅沢に、マルシ
地球カレッジ DS EDUCATION 「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」 Posted on 2020/12/05 辻 仁成 作家 パリ 結局、言葉の使い方を間違えると、人間は極端な話し殺されることもあるし、間違えなければ、ずっと幸せに生きることもできる。 言葉って誰もが一番使う自分を他人に伝えるための元の元だから、どの言葉を選ぶかで、人間関係を悪化させたり、好転させることもできる。 ぼくは、若い頃、作家のくせに、言葉のコミュニケーションに対して、疎かだった。ちょっと軽々しかった。 だから、もめ事も言葉から起きたし、言葉でずいぶんと損をしてきた。 で、ある日、ぼくは使う言葉に慎重になったのだ。 たとえば、好き、でも、嫌い、でも、方法はこの二つしかないわけじゃない。 実施には、無限の好きを伝える言葉が存在し、無限の嫌いを届ける言葉がある。 ストレートに言わないとならない
PANORAMA STORIES パリ最新情報「パリでアジア人狩りが頻発、在仏日本人は最大限の注意を!」改訂版 Posted on 2020/11/06 Design Stories DSパリ編集部にこの数日寄せられる情報に「日本人を含むアジア人への中傷のみならず暴行まで増えている」というものが目立つようになった。 ことの発端は、何者かがTwitterで「フランスにいるすべての黒人、アラブ系移民に、パリ郊外(91,92,93,94,95県)の道を歩く全ての中国人を襲うよう呼びかける(原文のまま)」とツイートしたことである。現在は通報され、そのアカウントごと削除されている。 男性には暴力を、女性には性的虐待をという内容のものあったようで、非常に恐ろしい。 3月、4月のコロナ第一波の時も、「アジア人はパリから立ち去れ」「コロナの責任をとれ」と、スーパーや交通機関の中などで罵られる事件が増えてい
JINSEI STORIES 自主隔離日記「SOSの電話をかけてきた息子と向き合う」 Posted on 2020/10/18 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、夕食でも食べようかな、と思ってキッチンにいたら、不意に携帯が鳴りだした。誰からだろうと覗くと息子からだった。 これは本当に珍しいことだった。 親友のアンナの母校の先生が18歳のテロリストに首を切り落とされた事件、だんだんわかってきたことがあり、胸を痛めていた。 先生はアンナの家からすぐ目と鼻の先の路上で殺されたのだ。 ショックを受けているだろう息子からの、これはいわばSOSの電話であろう。 頼られたことは嬉しかったが、どう、彼と向き合うべきか悩みながら、携帯を掴んだ。 「お前が今しなければならないことは、彼女らの心の支えになることだよ」 「うん」 「そのためには君が誰よりもしっかりとしなきゃだめだ。わかるかい」 「うん」 返事なんか
JINSEI STORIES 滞仏日記「最後まで日本人であったケンゾーさんのこと」 Posted on 2020/10/05 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、訃報の知らせは突然、飛び込んでくる。 だから、予期せぬところで予期せぬことが常に動いていたということになる。 それが人生なのだから、受け止めるしかない。 ケンゾーさんはぼくにとって高田賢三でもKENZOでもなく「ケンゾーさん」だった。 ちょうど20歳年上のケンゾーさんもぼくのことを辻さんと呼んでくれていた。 礼儀のある、物静かな、人の悪口を決して言わないし、そういう話しには参加してこない大きな方であった。 いつも笑顔で、寛容のある人で、よく人間のことを見抜いていた。 はじめてお会いしたのは2001年に「辻仁成の貌」という特集雑誌の対談で、パリのケンゾーさんのご自宅で対談をした時…。19年も前のことである。 パリ中心部を一区画も占有する
JINSEI STORIES 滞仏日記「息子は、ロックダウンをやる意味はない、と言い切った」 Posted on 2020/10/02 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、朝から息子がぴりぴりしている。「おはよう」といっても返事が戻って来ないのはいつものことだけど、 「どうよ、調子は」 と肩を叩いても、返事がない。 「なんかあったん?」と訊くと、「なんかあったのかじゃないよ、パパ、コロナの影響もあるんじゃないかな」と言って出て行った。 3月中旬から今日までロックダウンがあったり、いろいろとあったし、感染者数が急増している。 フランスは予定よりも早く第二波に飲み込まれつつある。 オリヴィエ・ヴェラン健康相が今日、 「このまま週末感染者数が下がらなければ、パリは月曜日からマルセイユと同じ措置をとる」 と宣言した。 同じ措置というのはレストランやカフェを閉鎖するということ。 そうなったら、倒産する店
JINSEI STORIES 滞仏日記「中村江里子とシャルル・エドワード・バルトの愛」 Posted on 2020/09/29 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、突然だが、幸せな方々の話しを訊くのは苦手なタイプである。 幸せそうなカップルとか見るとむかむかする陰湿なオヤジなのである。 ここんところ、ぼくは気分が塞ぎがちで、コロナで精神も疲弊しきっている上、家事から逃げ出したい。 もう、そういう時に眩しいくらい幸福そうな夫婦をみると辛い、はずだった…。 でも、今日、中村江里子さんとご主人のシャルル・エドワード・バルトさんと食事をする機会があり、二人を前にしたら、なんでか、その幸福がぼくにじわじわと押し寄せてきた。こういう夫婦がいるんだな、と思って、好奇心が沸いた。 オシドリ夫婦と言うが、実は超仲の悪い、仮面夫婦のようなカップルもいるので、バルトさんに会うまで、きっと陰湿なぼくは彼のことを違っ
JINSEI STORIES 滞仏日記「人間なんだから、と息子に言われて、号泣しそうになった真夏に」 Posted on 2020/08/07 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、「パパ。ちょっと最近、変だよ」 とすれ違いざまに息子に呼び止められた。ちょっとどころかかなり変なのはよくわかってるだろ、と返したら、うつむきながら笑っていた。 「そうじゃなく、ここ最近、一人でピリピリしてるよ」 「そりゃあ、そうだよ。車のせいで毎日大変なんだから。このあいだ説明した通り、このままだと裁判をすることになるかもしれん」 すると、息子がぼくの腕をぎゅっと掴んで、まっすぐにぼくを見つめて、こう言ったのだ。 「パパ、ぼくの話しをちょっとだけ聞いてくれる?」 ぼくはうつろな目で息子を見つめ返した。 「パパが意地になる気もちはわかるけど、そのメーカーにも、エミールさんたちにも、みんなに振り回されているけど、いい?
JINSEI STORIES 滞仏日記「天罰が下った夜、ブルース・ウイルスに救われる」 Posted on 2020/07/25 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、息子に対する怒りはおさまることがなかった。なので、朝から口もきかない。昼ごはん前に、キッチンで料理をしていると息子がやってきた。もちろん、言葉などかけない。向こうも黙ってるのに、こちらからかけていては示しがつかない。すると、背後に息子の気配。ふりかえると、「ちょっといい」と洗濯機を指さして言った。どうやら、洗濯をしていたようだ。場所を譲ると、全自動洗濯機の扉をあけて、洗濯ものをとりだしながら、「今日はなに」と聞いてきたので、「知らない」と言ってやった。だいたい、「今日はなに」という聞き方がいかに無礼な訊き方か分かってない。せめて、「昼食は何ですか」と訊くべきだ。今まで、バカ丁寧に応えていた自分の責任を反省した。スパゲッティを作った
JINSEI STORIES リサイクル父ちゃんの料理教室「週末に超便利な、辻家の定番もうひとつの意外なポテサラ・レシピ付き」 Posted on 2023/04/22 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、ずいぶんと前に、日本で話題になった言葉があった。 「ポテサラじじい」というのが日本のトレンドになったことがあったでしょ? あったんですよ。「ポテサラじじい」・・・。 ポテサラが好きなおじいさんの話しかな、と思ってネットを覗いてみたら、スーパーのお惣菜コーナーでポテサラのパックを手にした幼児連れの女性に対して、「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言い放ってどこかへ消えたおじいさんのことだと知った。 あはは・・・。 ありましたよね? 思い出しました? ・・・そういう話しがあったでしょ・・・。 このおじいさんに対して主婦の皆さんが激怒しているということだった。 うんうん。 もっともなこと
JINSEI STORIES 滞仏日記「死にたいと思ってもいいから、生きなさい」 Posted on 2020/07/20 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、ある日、不意に誰かがが自らの手でその人生を終わらせたという知らせを聞く時、しかもその人がまだ若く輝いていて、その死の理由も思い当たらない場合、残された多くの人たちの心の中にぽっかりと穴があき、電源が落ちるように不意に力が消えうせたりすることがある。それは、きっと同時代的にこの星の上で生きているという連帯感に穴があくからなのだろう。寂しいを通り越して、得体の知れない心の不安を覚えるのだ、それはつかみどころのない不快なもので、その不快はもちろんその死んだ人に向けられたものじゃなく、生きることのあまりの不条理な状態への混乱が引き連れてくるささくれだつ気持ちに他ならない。 病気や事故ならばまだなんとか仕方ないと自分に言い聞かせることも出来るかも
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