サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
ノーベル賞
www.webasta.jp
遠慮は「する」もの? 「させられる」もの? いまひとつ釈然としない表現に「遠慮するなよ」がある。 上司や先輩から言われたり、友だち同士でも言い合ったりするありふれた表現だけれど、冷静に考えてみると腑に落ちない。 というのも、「遠慮」というのは自発的に「する」より「させられる」ことの方が多い気がするのだ。 「いったい誰に?」と問われると、むずかしくて返答に困る。「そのとき眼前にいる人」とも言えるし、もっと広く「人は遠慮するのが望ましい」とか「出過ぎた真似ははしたない」といった文化や風潮のようなものとも言えるから、明確な相手を名指しにくい。 それでも「遠慮」はたいてい、積極的に「する」わけではなく、ある種の圧力のようなものによって「させられる」ものだと思うのだ。 あなたは、生きることに「遠慮」したことがあるか 人に遠慮をさせる有形無形の力のことを、ぼくは「遠慮圧力」と呼んでいる。普段はそれほど
「文学者」の仕事って、何だ? 息子が4歳の時のこと。「パパのお仕事ってなに?」と聞かれて、思わず黙り込んでしまったことがある。 そういえば、「文学者の仕事」って何だろう......。 「『文学者の仕事』を言葉にするのは、文学者にもむずかしいのだ」なんてことを言っていても仕方がないので、がんばって説明してみよう。 「文学者がやるべきこと」はたくさんあるけど、その一つに「"ない"言葉を探すこと」があると思う。 以前、「ぼくたちは『励ますための言葉』を持っていない」という話を書いたけど、この社会には「あったら良いはずの言葉がない」ということがある。 そうした言葉を見つけ出して、そこから社会の在り方を問い直すことも、文学者の大事な仕事だ。 この社会には「染みこみにくい言葉」がある 学生時代から悩んでいることの一つに、「なぜ、この社会には『人権』という概念が染みこみにくいのか?」という問題がある。
モヤついたり、イラついたり......。 性格上、あんまり「ブチッ!」とくることはないけど、ここ数年は「モヤモヤ」もしくは「イライラ」することが多くなってきた。 たぶん、子育てしていることが関わっていると思う。「子どもが言うこと聞かずにイラつく」ことがないわけじゃないけど(というか普通にあるけど)、話の中心はそこじゃない。 「次の世代」のことを考えると、政治とか社会とか世の中の仕組みとか、そういったことに「心がざわつく」ことが多くなってきたのだ。 制度よりムード? 確か、息子が1歳になったくらいの頃。少し年下の知人と産休・育休の話題になったことがある。 その人は世間的に「エリート社員」と言われるような人。育児にも積極的に関わっているらしく、周囲からの評判も良い。ぼくも以前から知っている人だけど、その人の口からこんなフレーズが出たのだ。 「産休・育休って、制度そのものより(取得できる)ムード
伝説のデパートマン 実は、祖父母と接した記憶がほとんどない。「じいちゃん、ばあちゃん」というと、ぼくには何だか遠い存在だった。 そのせいか、「祖父母ほど歳の離れた人」に惹かれるところがあって、学生時代に親しくさせてもらった人にも「不思議なおじいさん」が多かった。 某有名デパートの接客係を長く務めた「Tさん」もそうで、これまた素敵なおじいさんだった。何やら業界では伝説的なデパートマンだったみたいで、居酒屋にいくと「もう時効だから」なんて言いつつ、思い出に残るお客さんの話をしてくれた。 三島由紀夫はいつも素肌に革ジャンだったとか、坂本九が亡くなる一週間前にラウンジで一緒にコーヒーを飲んだとか、そんな話がたくさん出てきた。「レコーダー回しとけば良かったな」なんて気もするけど、ぼくの経験上、こういう話はレコーダーを回すと出てこない。世の中には「残そうと思うと、残せないもの」があるのだ。 身体が叫ん
不気味な「予感」 神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」で起きた障害者殺傷事件から、2年が経とうとしています。 あの事件で尊い生命を奪われた方々のご無念を思うと、胸が塞がる思いがします。 また、心身に深い傷を負われた方々、大切な人との別れを理不尽な形で強いられた方々にも、心よりお見舞いを申し上げます。 事件に関心を寄せる人の口からは、すでに「風化」を危惧する言葉が漏れています。「風化」にあらがうために、私に何ができるのか。愚直に考え続けたいと思っています。 事件の直後、私は、ある方とお話させていただく機会を得ました。長らく、神奈川県で脳性マヒの当事者運動に取り組んでいる方です。 その方は、このような気持ちを話してくださいました。 ここのところ、「いつか障害者が無差別殺人の被害にあうのではないか」という予感を持っていた。でも、それは通り魔事件のようなものをイメージしていた。それが、このような
「地域」という名の地域はない ――「地域の絆を見直す」 ――「地域の活力を取り戻す」 ――「学校で地域の事情を学ぶ」 ――「防犯で大切なのは地域の目」 毎日のようにどこかで見聞きする「地域」という言葉。特に出没頻度が高いのは、役所の書類かも知れない。もし仮に「行政関連書類 頻出単語ランキング」みたいなものがあったとしたら、かなり上位に食い込むと思う。 でも、この言葉。あまりにも使われ過ぎていて、最近では意味の輪郭がぼやけてきている気がする。「書類」に好んで使われるということは、実は裏を返すと「都合の良い言葉」でもあるわけで、そういったものには何かしらのカラクリがあることが多い。 試しに「地域」を辞書で引くと、「区画された土地の区域。一定の範囲の土地」(『大辞泉』)と出てくる。つまり「地域」とは「一定の範囲の土地」のことなのだけれど、ぼくらはだれも住んでいない土地のことを指して、わざわざ「地
保活と分断 「保活」が、しんどかった......。 「保活」とは「子どもを保育園に入れるための活動」のこと。いまでもよく話題になっているから、この言葉を知っている人も多いはず。 子どもが生まれた頃、ぼくら夫婦は全国有数の「保活激戦区」にすんでいたから、文字通り「心が折れそう」だった。 「保活の大変さ」を説明するには、たぶん『カラマーゾフの兄弟』くらいのページ数が要る。でも「保活の本当の大変さ」は、「それくらい説明しても、わかってもらえない人にはわかってもらえない」ところにあったりする。 それでも書くのがぼくの仕事だから、涙を呑んで一つだけ書いておこう。 保活はいろいろしんどかった。「分断されること」も、その一つだ。 認可保育園への入園はポイント制になっている。「保育を必要とする度合い」が点数化されて、高い人から入れるシステムになっているのだ。 だから保活中は、このポイントで頭が一杯になる。
言葉には「伝わること」と「つながること」があって、この二つは違う。――「黙らなかった人たち」を連載中の文学者・荒井裕樹さんと、ノンフィクションライター・石戸諭さんとの対談最終回は、荒井さんのこんな指摘から始まりました。石戸さんが感じる「伝える」ブームに対する違和感、「伝える」ことだけを重視することで見落とされる言葉の重要な機能とは。「つながる」という視点から言葉を考えたときに、社会の「分断」を乗り越えるヒントが見えてきました。「言葉」の持つ力を諦めきれないすべての人にこの対談を捧げます。 「伝わる」ではなく「つながる」言葉 荒井裕樹(以下、荒井) 最近考えていることですけど、言葉って「伝わること」と「つながること」の側面があって、この2つは若干違う。 石戸諭(以下、石戸) ほう。 荒井 「伝わる」は、こちらの考えを言葉にして相手に伝えて、僕の考えを相手がわかってくれること。「つながる」はち
「黙らなかった人たち」を連載中の文学者・荒井裕樹さんと、『リスクと生きる、死者と生きる』の著者でノンフィクションライター・石戸諭さんとの対談第2回。第1回では、これまでのニュースでは取り上げられてこなかった「断片的な言葉」の持つ価値や魅力について確認しました。今回は、一人ひとりの苦しみや悲しみに寄り添うことの意味を再考し、自分で自分を追い込まないための言葉のあり方を模索します。キーワードは「黙らせる圧力」と「ゴースト」です。 日常に潜む「黙らせる圧力」 石戸諭(以下、石戸) 荒井さんに聞きたかったんですが、連載の第1回で「黙らせる圧力」を問題として設定したじゃないですか。これはどこから出てきたものなんですか? 荒井裕樹(以下、荒井) 冒頭にうつ病になったAさんの話がありますが、実は似たような状況になった人が周りに複数名いるんです。個人に配慮して、それを「Aさん」という形で最大公約数的にデフ
言葉が降り積もるとすれば、あなたは、どんな言葉が降り積もった社会を次の世代に引き継ぎたいですか?――2018年2月から始まった、文学者・荒井裕樹さんの連載「黙らなかった人たち」。理不尽な事態に直面したとき、社会に対して黙らなかった「普通の人」が残した名言を毎回紹介しています。このたびの対談は、この春BuzzFeedから独立し、フリーのノンフィクションライターとなった石戸諭さんからのオファーで実現しました。今「待つ」という態度がジャーナリズムにおいて重要なのではないか、という話に始まり、ニュースにならない言葉の価値や社会の分断についてなど、話題は多岐にわたりました。全3回に分けてその様子をお送りします。 「うまいこと」を言わないとニュースにならない 石戸諭(以下、石戸) 今日、どうして荒井さんとお話ししたかったかというと、「黙らなかった人たち」の第2回でお書きになっていたような「励ます言葉」
荒井裕樹 1980年東京都生まれ。2009年東京大学大学院人文社会系研究科終了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院人文社会系研究科付属次世代人文学開発センター特任研究員を経て、現在、二松學舍大学文学部専任講師。専門は障害者文化論・日本近現代文学。著書に『差別されてる自覚はあるか――横田弘と青い芝の会「行動綱領」』(現代書館)、『生きていく絵――アートが人を〈癒す〉とき』(亜紀書房)、『隔離の文学――ハンセン病療養所の自己表現史』(書肆アルス)、『障害と文学――「しののめ」から「青い芝の会」へ』(現代書館)がある。
ぼくたちは誰も「励ませない」? 「がんばって」 「負けないで」 「だいじょうぶだよ」 あなたは、どんな言葉に励まされますか? 中途半端に励まされて、むしろイラッとしたり、傷ついたりしたことってありませんか? 「人を励ます言葉」って何だろう......こんなことを考えたのは、東日本大震災のとき。被災された人たちに、どんな言葉をかけたらいいのかがまったくわからなくて、モヤモヤと悩む日々を過ごした。 震災直後は、テレビのコメンテーターも、公共のCMも、いろんな「励まし表現」を探っていたような気がする。被災者を励ましたくて、でも傷つけたくなくて、みんな慎重に言葉を選んでいた。ぼくもいろいろ考えたけど、どれもしっくり来なかった。 あれから7年、ぐるぐると考えて続けてわかったのは、ぼくらが使う日本語には「"純粋に人を励ます言葉"が存在しない」ということだった。 というわけで、今回は「励ます言葉」につい
「つらい」とか「苦しい」ってはっきり言えますか? この文章を読んでくれているあなたは、「つらい」とか「苦しい」とかって、はっきり言えますか? わざわざ「はっきり」なんて強調したのは、単なる愚痴とか弱音とかいうより、もうちょっと踏み込んで、怒りとか憤りとか、そういう要素を込めてということなのだけれど。 もう少し言うと、会社とか学校とか友だち付き合いで「理不尽だ」と感じることがあったとき、「それはおかしい」って、はっきり言えますか? 簡単に自己紹介をさせてもらうと、ぼくは「自己表現」を研究テーマにする文学者。とらえどころのない肩書きだけれど、簡単に言うと、読んだり・書いたり・聞いたりと、とにかく言葉のことばかり考えて、日々生活している人間だ。 そんなぼくは、いま強い危機感を覚えている。ぼくたちが生きるこの社会に、「言うのは簡単だけれど、言えば言うほど息苦しくなる言葉」があふれていることに。 著
2017年12月7日、厚生労働省は来年度の生活保護費を見直し、最低限の生活費をまかなうための生活扶助を、最大で1割ほど引き下げる検討に入ったようです。生活扶助の支給水準は5年に1度見直されており、2013年度にも「引き下げ」となりました。つまり、2回連続での引き下げとなる見通しです。でも、そもそも「生活保護」って何でしょうか。ニュースではよく見るけれど、実感をもちづらいこの言葉。今回は2015年に出版された『すぐそばにある「貧困」』(ポプラ社)から、「生活保護」について考えるヒントになるような箇所をほぼ全文公開させていただきます。著者の大西連さんは、日本の貧困問題に取り組む認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長です。 2012年からはじまった「生活保護バッシング」 「自分の母親が生活保護を受けているということについてどんな気持ちですか?」 テレビの生放送の記者会見で、レポー
小山健 イラストレーター・マンガ家。会社員時代に趣味でブログに描いていたマンガ「手足をのばしてパタパタする」が話題となり多方面で仕事をするようになる。 http://koyamaken.com
千葉リョウコ 漫画家。千葉県在住。家族は夫と高校生の長男、中学生の長女、小学生の次男とトイプードルの5人+1匹。 長男が小学6年生のとき、「発達性読み書き障害」と判定され、以来、ともにトレーニングや受験に取り組んできた。2017年現在も二人三脚で奮闘中。 エッセイは本作が初となる。 監修:宇野彰 筑波大学教授、NPO法人「LD・Dyslexiaセンター」理事長。 著書に『ことばとこころの発達と障害』(永井書店)、 『小学生の読み書きスクリーニング検査―発達性読み書き障害(発達性dyslexia)検出のために』(インテルナ出版)などがある。
日本の公衆トイレは世界トップ水準だと思う。 いたるところに設置されているうえ、清潔だ。来日する前まで、ぼくは公衆トイレ恐怖症で、学校などでもよっぽど切羽詰まらないかぎり行かないことにしていた。ところが日本に来ると、尋常でない頻度でトイレへ行くようになった。 こんなにトイレが近くなったのは、スーダンに比べて発汗の少ない、日本の穏やかな気候のせいもあるだろう。あるいは、大の甘党だったぼくの体に異変が起きたのかもしれない。 しかし、なんといっても一番の理由は、世界トップ水準の清潔さのおかげだと思う。どんな経緯で日本の公衆トイレがここまでの水準に到達したのかについて、リサーチして論文を書きたいぐらいだ。2015年、閣僚のどなたかが「私をトイレ大臣と呼んでください」と名言を残したことも記憶に新しい。 ただ、日本におけるトイレへの強いこだわりの弊害もあることをぼくは身をもって体験している。 それは、肢
王谷 晶 東京都生まれ。小説家。著書に『探偵小説(ミステリー)には向かない探偵』『あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト』(ともに集英社オレンジ文庫)などがある。@tori7810
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * これまで「お父さんクエスト」をご愛読いただきありがとうございました。 このたび、連載された29話に大幅に描きおろしを加えて 2017年10月13日発売予定で単行本化することになりました。 つきましては、このウェブサイトでは試し読みとして5話分を公開しています。 amazon 予約画面 → https://goo.gl/VpoJmL 小山健 イラストレーター・マンガ家。会社員時代に趣味でブログに描いていたマンガ「手足をのばしてパタパタする」が話題となり多方面で仕事をするようになる。 http://koyamaken.com
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『WEB asta - ポプラ社がお届けするストーリー&エッセイマガジン』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く