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第312号 棋譜情報を配信する動画に対し著作権侵害を理由として削除申請をしたことの不競法違反等が問題となった事案 ~大阪地裁令和6年1月16日判決※1~ Ⅰ はじめに 棋譜の著作権法上の保護については諸説あるところ(Ⅲ・1・(2)参照)、これまで裁判所においてこの点が直接判断された事案は存在していないと思われる。本判決は裁判所が直接棋譜の著作物性について判断したものではないものの、問題となっている動画(後述Ⅱ・1の「本件動画」)が棋譜に関する「著作権を侵害するものではない」ことについて当事者間に争いがないとされ、それを前提に判断がなされたが、棋譜の保護について考える上で参考になるものと思われる。以下では、本判決の概要を紹介した上で(Ⅱ)、棋譜の保護(Ⅲ・1)及び動画プラットフォーム事業者の役割(Ⅲ・2)等について簡単にコメントしたい。 Ⅱ 事案の概要と判決要旨 1 事実の概要 原告はYou
Ⅰ 判例のポイント コロナ禍が後押ししたデジタル化の加速はデジタル庁を登場させ、サイバー警察局を新設させようとしている。ただ、デジタル化の進行による社会の変容は、徐々に進んできており、国民の生活基盤としての「公共空間」の中で、サイバーの重みは「圧倒的なもの」といってよいほどになった。 そのような中で、暗号資産(仮想通貨)のテレビコマーシャルがこのところかなり目立ち、社会的にも、その認知が進んでいるように見える。一方で、社会的にシリアスな問題となっている「ワナクライによる身代金」は、通常、暗号資産での支払を要求してくる。より広く、マフィアなどの不法(不当)な収益の洗浄にも、暗号資産は広く利用されており、警察も、それに関連する専門の部署を充実させている。 もとより、暗号資産を利用した犯罪が重大な法益侵害を生ぜしめているからといって、暗号資産そのものに問題があるとするべきではない。盗品を扱う可能
第166号 刑法178条2項の「心理的抗拒不能」の意義 ~名古屋地裁岡崎支部平成31年3月26日判決 準強制性交等被告事件※1~ Ⅰ 判例のポイント 近時の性犯罪に関する実務の流れは、「被害女性の視線」を重視する方向にあったように思われる。最高裁大法廷は、強制わいせつ罪に関し、50年ぶりに判例変更を行い、行為のわいせつ性を認識していれば、必ずしも「性欲を刺激興奮させるとか満足させるという性的意図」がなくても犯罪は成立するとした(最大判平成29年11月29日刑集71-9-467・WestlawJapan文献番号2017WLJPCA11299001)。これは、現に性的羞恥心が害され、法益侵害性が明らかな事案においては、「性的意図の存否」は重要ではないという解釈論が強まってきていたことに沿うものといってよい。 そして、性犯罪に関する裁判例には、複数の強姦や強姦未遂行為が認定された事案に関し、大阪
製本された書籍の裁断機やスキャナーを持ち合わせていないユーザーや、裁断やスキャンにかかる時間や労力を節約したい利用者などのために、(私的)複製(=「自炊」)の代行等を行う業者が台頭しており、著作権者との軋轢を生んでいる。具体的には、ユーザーが私的使用目的(著作権法30条1項によると「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」とされている)で自炊をする場合に、それを何らかの形で支援する自炊関連業者が、私的使用目的の複製について著作権の制限を定める著作権法30条1項を援用することにより侵害の責任を免れることができるのかということが問われている。 ところで、自炊に関連する業者にはいくつかのタイプがあり、① 自炊のための道具や場を提供するに止まる業者、② 裁断済み書籍を提供する業者、③ 自炊代行業者などがいる。最近、東京地判平成25.9.30平成24(ワ)33525[
いよいよAmazon社のKindleが日本語コンテンツ・ビジネスを始めることが決まり、(予想されていたことではあるが)我が国の出版界も電子出版ビジネスへの対応を余儀なくされる時代となっている。 既にインターネットの普及により法学分野においても電子的資料は溢れており、大学や研究機関あるいは研究者個人の発信する学術関連情報であれ、学会誌等のオーソドックスな学術情報であれ、あるいは、政府関係の情報提供であれ、インターネットには公私の主体を問わず様々な情報が日々増加し続けている。 そうした紙や本といったリアルな出版物に依拠しない完全な電子資料の引用については、残念ながら我が国の法学界で突っ込んだ議論がされたことはないように思う。学問の世界の中でも際だって保守的な法学分野であるから、当初、インターネット上の情報に依拠することへの躊躇は相当強かったように感じるが、今やネット上の資料への依拠や引用は珍し
機能 Westlaw Japan は、大学リポジトリ、CiNii にアクセスできるリンク機能を付加いたしました。 Westlaw Japanは、従来、北海道大学大学院法学研究科と提携し※1、評釈情報の充実をして参りましたが、このたび新機能として、判例の評釈情報から、約1,500の学術論文の閲覧が可能な機関リポジトリおよびCiNiiへのリンクを開始いたしました。 このリンク機能により、従来の判例タイムズ、判例タイムズ主要民事判例解説、ジュリスト、別冊ジュリスト、法学教室、新日本法規出版発行の判例解説などに加え、大学紀要などの学術論文の閲覧が可能になり、本文へのアクセスがさらにスムーズになりました。 今後、さらなるリンクの充実を図ります。 Westlaw Japanは、北海道大学大学院法学研究科と2006年より提携しております。 リンク先 国立情報学研究所(CiNii) 北海道大学(HUSCA
作詞家で、「おニャン子クラブ」、「AKB48」などの仕掛け人である秋元康氏ほど時代を的確に読むことができる人も少ないと思うが、彼の最近のアイデアで感心したのはAKB選抜「総選挙」である。新発売のCDには投票券が同封されており、自分の支持する候補者(主にAKB48のメンバー)に投票するためにはCDの購入等の方法によって「選挙権」を得る必要がある。※1 しかも、熱意の程度が大きければCDを何枚も購入してよいわけで、人気の程度が投下された資金量で計られる仕組みとなっている。これは、ビジネスとして極めて合理的である。 このAKB選抜総選挙に倣って、日経ビジネス2011年7月11日号では、「エネルギー”総選挙”」という特集を組んでいた。各種のエネルギーが政党になっており、「原子力党」は「もう事故は起こしません」、「風力党」は「日本の追い風」など、それぞれの政党の選挙ポスターには気が利いたキャッチフレ
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本年2月7日の第138回のコラムで、「原子炉メーカーの製造物責任」について書いた。もちろん今日の状況を予想していたはずもなく、20年間以上にわたって原子力法制に関係してきた者として、再び訪れようとしていた原子力発電所建設ラッシュとその市場への日本の原子炉メーカーの参入を前提にした話であった。 そのような前途洋々たる「原子力ルネサンス」と呼ばれていた時代は3月11日に終わったように見える。これから先のことは予想はつかないが、少なくとも原子力発電のコスト計算はやり直さざるを得ないであろう。 さて、現在、東京電力は世間の逆風を一身に受けている。確かに、今回の津波後の措置は、少なくとも報道による限り、後手後手に回った感が否めない。しかし、法律家たるもの、事実認定には慎重であるべきである。特に本件では明らかになっていない点があまりにも多い。そこで、以下では、事実への法の具体的な当てはめではなく、やや
メーカーにとって製造物責任は大きなリスクである。しかし、原子力損害の賠償に関する法律4条3項は、「原子炉の運転等により生じた原子力損害については、・・・製造物責任法 (平成六年法律第八十五号)の規定は、適用しない。」と定めている。原子力事故の場合の責任主体は原子力事業者(電力会社等)だけであって、原子炉メーカーは責任を負わないのである。 これは責任集中と呼ばれる。 なぜ、原子炉メーカーは製造物責任法の適用除外を受けているのであろうか。それは、日本がアメリカから原子力関連技術の供与を受け、原子力発電事業を始める際にアメリカから提示された条件のひとつだったからである。アメリカの原子炉メーカーとしては、原子炉設備の瑕疵による事故が万一起これば巨額の賠償責任を負うことになりかねず、そのようなリスクを負うことはできないというビジネス判断をしたのである。 アメリカの技術をもとにして原子力発電を始めた国
現在、法制審議会の民法(債権関係)部会において、民法の債権関係の規定を見直すための審議が行われている。それに呼応するかのように、「債権法改正が〇〇に与える影響」などと題する有料のセミナーが開催されているようである。 しかし、このようなタイトルの有料のセミナーの募集広告を見かけるたびに、一体全体、料金を取ってどのような話をしているのであろうか、一体全体、料金を支払ってまでどのような話を聞いている(聞かされている)のであろうか、と疑問を感じている。 民法(債権関係)部会における審議は、2009年11月に始まり、これまでに18回の会議が開催された。法制審議会の民事法系の部会の中には、これくらいの会議の開催回数で要綱案を取りまとめたものもあるから、既に相当な回数の会議が開催されていることになる。 ただ、今回の見直し作業における検討の対象は、その範囲が膨大であり、論点も多岐にわたる。実際に見直すこと
最近、パロディ商標が話題になっている。というのも、つい先月、PUMAのパロディ商標について、知財高裁で2回目の判決が下されたからだ。特許庁の取消決定が知財高裁で2回も取消されるという、珍しい事案である。 本件商標※1は、審査段階では、引用商標A及びBに類似する(4条1項11号)として拒絶査定を受けたものの、拒絶査定不服審判を経て登録に至った※2。しかし、PUMA社からの異議申立てにより、本件商標は引用商標Cと類似する(4条1項11号)として、取消されてしまった(第1次異議決定※3)。本件商標の権利者は、かかる特許庁による本件商標の取消決定に対し、その取消を求めたところ、知財高裁第2部は、本件商標と引用商標Cは非類似 であるとして、特許庁の取消決定を取消す判決を下したのが、第1次知財高裁判決である※4。 かかる第1次知財高裁判決を受けて、特許庁は審理をやり直したものの、再度本件商標を取消す決
TMI総合法律事務所※ 弁護士・弁理士 升永 英俊 筆者は、「一票の格差」の問題は、日本のかかえる大きな問題と考えていた。しかし、あくまで自らは、“清き1票”を持っていることを前提として、この「一票の格差」の問題を考えていた。しかし、2009年4月、大学時代の友人の某氏から「得をしている選挙区の有権者の選挙権を1票とすると、都民は、0.何票になるの?1票の格差と言っても、素人にはよくわからん。0.何票と言ってもらった方が分かりやすいよ。」と言われた。計算してみると、筆者の選挙権は、高知3区の選挙権を1票とすると、0.5票しかない。「0.5票!これでは、まるで二流市民じゃないか。」その瞬間、「一票の不平等」の問題は、“他人事”から“自分事”に変わった。 住所の差別による「一票の不平等」のため、現在、衆議院で言えば、人口の42%が、小選挙区選出衆議院議員(定員300人)の過半数(151人)を
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