・元 アレゴリイとはいかなるものぞ。曰(いわ)く、仮作物語(つくりものがたり)の一種にして、二様の脚色(きゃくしょく)を含めるものなり。所謂二様の脚色とは、皮相に見えたる物語と隠微の寓意と是れをいふなり。今一例をあげていはば彼の有名なる『西遊記』のごときは、すなはちこの類(るい)の適例なるべし。その皮相なる脚色(すじ)につきて彼の物語を評するときには、奇異荒唐(きいこうとう)、架空無稽(かくうむけい)、只(ただ)よのつねなる奇異譚(ロマンス)と相異(あいこと)なることなきに似たれど、細かに嚼読(しゃくどく) なすにいたれば、頗(すこぶ)る隠微の寓意もしられて、彼の幽玄なる仏道(ぶつどう)をも窺(うかが)ひ見るべき便機(たより)となる一種深妙不可思議なる脚色(しくみ)の、別に存在することを正可(まさか)に穿鑿(せんさく)なすを得べし。 ・訳 アレゴリーとはどのようなものか。曰く、作り物語の一
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