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アメリカ大統領選
ibaibabaibai-h.hatenablog.com
最後に,麻疹のサイエンスを面白がっていたら,自分が罹ってしまった,というお話.麻疹の発症数はその後急激に減っているので,いまでは珍しい体験ということになるかもしれません.長くなったので前後編に分けます. 初夏6月,謎の病気になる 最初の兆候は筋肉痛だった.いや腰痛だったかもしれない. 体を使った覚えがなかったし,以前にインフルエンザになったときのことを思い出したので,ジムに行く前に体温を測ったら熱があった.これが,謎の病気のはじまりだった. その後のことは,もう15年も前のことで記憶がはっきりしないが,症状ごとに思い出すことを書いてみる. 熱はいったん下がるかのように思えて,他の症状が出たあとで,また上がった.再度上がったあとも上下が激しく,解熱するときは奇妙な快癒感があって,ふわりふわりと体が浮くような気がする. 厄介なことに季節が6月だった.ずっと以前に夏型過敏性肺炎というカビのアレル
最初に戻って,麻疹の流行を非線形力学系の視点から眺める.ここに書いたようなことはいろいろな伝染病にあてはまる可能性があるが,(1)感染力が強く,(2)感染して症状の出ない人がほとんどおらず,(3)多くの人が比較的すみやかに回復し,(4)回復後は相当の期間にわたって強い免疫が保たれる,といった性質が,麻疹を特に興味深いものにしている. 麻疹のダイナミクス再び 最初の回では患者の数の変動をあらわす確率モデルの例を考えた.伝染病が「自滅」しては再生する様子を示すにはよいが,実際の麻疹のモデルと考えると,いろいろ問題がある. まず,ロンドンのような大きな都市では,麻疹は毎年流行するので,流行の周期は1年に固定されていることになる.大きい都市での変動は,最初の回で青い線で書いたグラフに相当するが,モデルでは流行の周期は都市の大きさ(あるいは新しく出生して入れ替わる数)によって連続的に変わるので,明ら
直前の回に内容を移動してまとめ(1+2)としました. ibaibabaibai-h.hatenablog.com
今回のシリーズは麻疹(はしか)の話. 修士課程で氷の研究をしたあと,博士課程のはじめくらいに,伝染病のシミュレーションを格子の上で走らせて遊んでいたことがある.和文論文をひとつ書いたのだが,いま読むと何をやっているのかよくわからない内容なので,引用するのはやめておく.セル・オートマトンとかepidemic processとかが流行っていたころで,「物理」のセンスとそうでないものの間でなにか模索していたのだと思う. それから10年以上たって,自分が成人麻疹に罹ってしまい,危ないところだった.2015年で国内由来のはしかは3年連続でゼロになり「排除宣言」がされた由で,輸入される麻疹はあるにしても,発症数は激減している.いまや成人麻疹は貴重な体験かもしれないので,最後の回はその話を書くことにしよう. (1+2),3【改訂版】,(4+5)の全3回にまとめ直しました. 振動したり絶滅したり 伝染病の
先週末にようやく岩波データサイエンス3巻が発売になり,少しほっとしています. サイエンスブログもそろそろ新ネタを投入したいところですが,もう何年もずっと書いている著書(確率統計の入門書)のほうもやらないといけないので,次はまた番外編になりそうです.持ちネタの半分くらいはもう出してしまいましたが,残りの半分はゆっくりと行きます. サイエンスブログの本題とはちょっとずれるかもしれませんが,今回の特集の「因果推論」の前半は読みやすい内容なので,再度ご紹介します.ツイッターのほうをごらんの方はすでにいっぱい宣伝をしているので,読み飽きていると思いますが,すみません. 表紙はこんな感じ.小さくてハンディな判型です.芥川賞作家の円城塔さんに毎回見開き2ページの小説を書いて頂いています(今回のはブラックというか自虐ネタすぎて笑えます) 中身のほうは目次や特集の前書きがここで無料で読めます(登録不要,PD
ここまでの話 前回は,氷の中の水素原子(正確には水素イオン=プロトン)がice ruleという制約条件の範囲でランダムに動いていることを説明した.また,それから順列組み合わせの式で求めたエントロピ―の計算が温度計や魔法瓶を使った実験とぴったり合う,という話をした.「目に見えない小さな要素で世界が組み立てられていると仮定すると,簡単な計算で実験と比較できる答えが出てくる」という統計力学の面白さが凝縮された話だと思う*1. さて,そうしたことがわかったのは,もう80年も前である.しかし,そこから先の「うんと低い温度で長い長い時間がたったときに一体なにが起こるのか」は,実験家にとっても理論家にとっても難問だった.そして,その探究の道は統計力学という楽園からの旅立ちでもあったのだ*2. 相転移の発見 まず,実験のほうである.低い温度で,何日という単位で観測すると,じわじわと熱が放出されることは19
自分の修論は氷の誘電率を統計力学で計算する話だった.その研究はうまく行かなかったが,もとになった話はなかなか面白く,その後も発展しているので,2回のシリーズで紹介したい.今回はまず80年前にはじまる基本の話を説明し,次回はそれから現代までの探究を扱う.今回の分は「ベイズ統計と統計物理」という小冊子で「統計物理の典型的問題」として説明したものと重なるが,気持ちを新たにしてできるだけ分かりやすく書いてみた. 「氷」ってどんなもの? 「水の固体を氷という」のは誰でも知っているが,その中身はどうなっているのだろうか.「水分子が規則的に並んで結晶になっている」には違いないが,実はかなり面白い様子になっている. まずは図を見てもらいたい.白いのが酸素原子で,黒いのが水素原子である. もっと詳しく見たければ,たとえばこのリンク先を見て頂きたい(本当は立体模型を見るのが一番である).Hexagonal i
「配偶子の対称性の破れ」だけが「なぜ雌と雄があるか」の生物学だと思われるとバランスを欠くので,もう少し全体像について書いておくことにする. こんな受験勉強は嫌だ 前回のブログを書くために検索していたら,こんなのをみつけた. center.miggy.jp 生物で受験したことがないのだが,うむむと思った.授業や教科書では,後で述べるようなことが説明されているのかもしれないが,ここだけ聞くとちょっと勘弁である.「アオミドロ」と「ネンジュモ」と「クラミドモナス」についての細かな事実を覚えさせられたら,みどろが沼から念仏しながら坊さんが出てくる夢をみそうな気がする. まあ,いろいろ過ぎ去ったあとの眼からみると,暗記モノというのは妙に懐かしいものでもある.内田百閒は酒席で芸をやらされそうになると,直立不動でマレー半島の産物を連ねた口上を演じたそうだ.自分も片づけをしていると「クリボイログ!クリボイロ
「性をめぐる生物学の理論」について,特論(この回)と一般的な話(次回)の2回に分けて書く.自分が大学院生の頃は「社会生物学」とか「進化とゲーム理論」という言葉が新鮮な響きを持っていた時代で,そういう話題を普通の教養の一部として耳にする機会があったが,いまはどうだろう.そもそも生物学に,こういう感じの「理論」があることを知らない人も結構いるのかもしれない.一方で,このブログには本職の生態学の読者も多そうなので,恥ずかしい気もするが,自分の中ではそれなりの重みのある話題なので,あえて取り上げてみることにした. 雌と雄の違いを突き詰めると 雌と雄はどこが違うのか.種によっていろいろな性差があるが,哺乳類にこだわらずに広く考えると,生物として基本的なのは「雌は卵子を作るが,雄は精子を作る」という違いになる. では,卵子と精子はどこが違うのか.基本的には,ひとつの個体から生まれる数が 少なくてデカい
そろそろ平常運転に戻りますが,沢山の方に読んで頂いたので,少し補足をします. Q 記事へのコメントで意外だったのは? 「頭を打ってTGAのような症状になったことがある」という方が複数いらっしゃいましたが,それはあまり考えたことがありませんでした.「脳振盪」というのは受傷直前のことを忘れるのだろうと思っていましたが「外傷後健忘」という言葉があるのですね. http://www.nayaclinic.com/bias/factsheets/post_traumatic_amnesia.pdf スキー場で発症されてTGAと診断された方々の多くには頭部の打撲のエピソードはなさそうですが,軽い打撲でしかも発症まで数分空いていれば気づかないことはあるかもしれません. 自分の場合は,問診で頭部の打撲について聞かれた記憶があまりないのですが,忘れているだけで,実際には確認されたのかもしれません.ジムですか
だいぶ固い話題が続いたので,気分を変えて.3年ちょっと前に経験した奇妙な出来事についての報告を書くことにする.簡単にいうと,ある日突然海馬が故障して記憶にまったく書きこみができなくなり,数時間で治った.という話である.途中から科学者魂というか,何としてでも画像を手に入れてやる,みたいなモードになるのだが,さてその結果はどうなったか.症状のほうはそのまま回復して,その後再発もしていないので,心配せずに読んでいただきたい.あと,文中にも出てくるが,筆者は医療関係者でも脳の専門家でもないので念のため. 「これで5回目だと思う」 その日は10月の土曜日で,午後は自宅で科研費の書類を作っていた.それにも飽きて,いつものようにバスで最寄り駅まで行き,ジムに入った.着替えて,軽い筋トレをはじめたが,途中からなにか考えがうまく回らなくなって,ジムの中でうろうろしていたような気がする. そのあとしばらくたっ
発端となったカメラの絞り値の話はかなり雰囲気も違うので,後日掲載ということで,光学編はこれでひとまず終わりです. 日常の中で光が波だと気づかないのはなぜ? 前回触れたような面白い現象がいろいろあるのに.ふだん光が波であることをあまり意識しないのはなぜだろうか.ひとつの理由としては単に気付かなかったり,見過ごしたり,ということがある.前回の光の波(上)でちょっとだけ触れた「指の間を狭めたときに見えるしましま」 *1 などはその例だろう. また,今回は説明しなかったが,油膜やシャボン玉の膜に色が見えるのも実は光が波である証拠である.この場合,現象自体は誰でも知っていても,知らないとそういう風には考えないわけだ. 「ポアソンの斑点」を日ごろの生活で目にしている人はいないだろう*2.そのひとつの理由としては,遮蔽物がかなり完璧な円板または球である必要があることが挙げられる.かなり微妙な現象なので,
光シリーズの実質最終回ですが,なんか伸びちゃったので上下に分割です. 光と電波は仲間 ときどき思うのだが「光も電波もX線も同じ種類のもの」(電磁波)だというのはどのくらい一般的な知識なのだろうか.日本に住んでいる人の8~9割が普通にそう思っている,という気がする一方で,いや違うのかも,という気もする.実際には,こういうのは「知っている」「知らない」の2択ではなくて「そう言われたらそうかもしれないが,割とどうでもいいと思っている」人たちが多数派なのかもしれない. 自分はというと,小学生のころは科学少年だったから,下のリンクにあるような図がお気に入りで,しょっちゅう眺めては悦に入っていた.こういう図をみると,電磁波の世界は隅々までわかっていて使われているという印象を受ける.しかし,最近よく聞く「テラヘルツ波」はまさにこの図のなかの未探査領域に属する.光と波長の短い電波の中間地帯に十分使いこなせ
今回はレンズ4部作(?)のうちで,いちばん数式の多い回かも.今後こういうのがずっと続く訳ではなくて,数式レスのネタも各種予定しているのでよろしく. ガウスとレンズのつながり 数学者のガウスとレンズの繋がりというと,カメラが好きな人は「ガウス型のレンズ」を思い浮かべるのではないか.しかし,実はガウスとガウス型のレンズの繋がりは存外薄いようだ.ガウス型の特徴である「前後対称にレンズを並べる」というのもガウスの考案ではないらしい. それでは,ガウスとレンズはあんまり関係ないか,というと,それは全然違う.レンズの集まりについて,いちばん簡単な近似で議論することを「近軸理論」という.「レンズの中心軸に近い光線(近軸光線)を議論する理論」という意味だが,他の分野の用語でいえば,線形近似(1次近似)である.三角関数が好きな人なら「中心軸との角度をラジアンで測ったものをとしたときに,となる範囲」を扱う理論
なんでこんなことになったのだぁ これから数回続けて光学ネタになるが,レンズブログになったわけではないし,特別にこの方面が得意というわけでもない.もとはといえば,友人にカメラの絞りと被写界深度の関係について聞かれたのが発端である.「せっかく図をかくのだから裏ブログに載せるよ」というわで,2,3日でさくっと済ます予定だった. しかし・・ 良い意味で,はまってしまったのだった.「レンズの公式ってどうやって出すんだっけ? そういやファインマン物理に秀逸な説明あったよな」とか「<レンズを沢山組み合わせても1次近似(近軸光線)の範囲では1枚のレンズに等価になる>ってガウスが証明したのか~.で,どうやるの?」とか言ってるうちに,みるみる拡散して,もとの質問はもはや何だかわからんという状態に. いや,やっぱり光って面白いよね.ゾーンプレートとかアラゴの斑点(ポアソンの斑点)のような光の波の性質が絡むアダル
ワトソン君よりアントン君 「アントン」の話を初めて聞いたときには,これはもう世間で有名なもので,自分は話題に出遅れているのだと思った.ところが科学や技術に興味がありそうな人に話してみると,意外とみんな知らない.その代わりに話題に出てくるのは,なんとなく響きの似た「ワトソン」のほうである.ワトソンとは何か聞いてみると,IBMの作った人工知能だそうだ.そんなの面白くないじゃん! ということで,コンピュータ関係では最近イチ押しのアントン君なのだが,その正体はタンパク質の分子シミュレーション専用機Antonである.特徴は比較的小さいサイズのタンパク質に対象を絞った代わりに,画期的な長時間,現実の時間にしてミリ秒のオーダーのシミュレーションを実現したことだ.ミリ? 千分の一秒? たったそれだけ? と思うかもしれないが,それが業界的にどのくらいすごいかは,あとのほうで説明する. アントン君については,
動的平衡 福岡伸一の「動的平衡」という本が話題になったのは,もうだいぶ前のような気がする. 「あれ~なんかおかしいなあ,動的平衡って別に生物に限らない筈だよねー」とか思ってるうちにブームになり,「文句いおうかどうしようか」と空気を読んでいるうちに話題から去ってしまった,という方も多いのではないだろうか. 「動的平衡」をウィキペディアで見ると,普通の説明を読むことができるが,べつだん生物に限らないことは明らかである.動的平衡 - Wikipedia 統計物理の観点からすると,動的平衡といっても,熱平衡状態やその近傍で見られるものと「非平衡」のものがあるが,前者は釣り合いの状態にある化学反応ならいつでもみられる.たとえば,生物実験で使う緩衝液の中でも起きているが,そのことから「緩衝液は生きている」などと考える生物学者はいないだろう. 非平衡の動的平衡も生物絡みとは限らないが,「非平衡のシステム
科学は常識の延長ではない. たぶん,そのいちばん身近な例はニュートン力学だろう.摩擦だらけのこの地上の世界で,力が加速度に比例し,力の加わっていない物体はそのままの速度で直進するのが本来の姿,などどはゆめゆめ思い付くことではない. ニュートン力学を体で感じてもらうにはどうすればいいか.大昔に看護学校で物理の授業をしたときは,ドライアイスを配ってみた.ご存知の通り,ドライアイスは摩擦がなくてよく滑る.これで「力の加わっていない物体は等速直線運動をする」を実感してもらおうというのである.結果は,みんなで遊びだして大騒ぎになり,収拾がつかなくなったけれどorz いまいちばんお気に入りの例は,傘回しである.雨の日に,傘を柄の回りにぐるぐる回したときに,骨の先端についた水滴の飛ぶ様子を観察してみる.さて,飛ぶ方向はA,B,Cのどれか,というのが設問である. かなり多くの人が間違えるみたいで,やってみ
生物の話もいろいろあるが「群淘汰は起こりにくい」という原理は知っておいて損はないと思う.これによって,ずいぶん多くの疑わしい説明から逃れることができる. 具体例として猛毒キノコを考えてみよう.毒で受動的に身を守ることの問題点は,毒が廻ったころには,キノコは食べられてしまってあとかたもなくなっている,ということである.毒キノコでいちばん危ないのは,環状ペプチドを毒性物質として持つタイプのものだが,この場合には,初期症状のあといったん症状が治まる.すこし間隔をあけて強烈な肝障害が発現するが,食べた動物が斃れたころには,食べられたキノコは思い出の中にしか存在しないことになる.それでは毒はいったい何の役に立つのか. 夕食にキノコが出たら,この話を振ってみるといい.「食事中に毒キノコの話をするな」などと怒り出す無粋な相手でなければ,おそらくは次のような説明が帰ってくる. 食べられたキノコは助からない
はじめはプリオンなんて信じなかった. だって話が出来過ぎではないか.たんぱく質の1次元配列は同じでも,その折りたたみの形状が複数ある.みんながAという折りたたみ方をしているときに,それよりちょっとだけ安定なBという形状のものを入れると,それが自己触媒的に伝わっていき,とうとう全部がBになってしまう. これだけで,統計物理だの非線形科学だのに興味を持っている人間にはツボとしかいいようがない.たとえば,結晶を作るときに「種」を入れると,それまで「偽りの安定状態」にあった過飽和溶液から急速に固体が出現する.こうした正のフィードバック現象は,こうした学問に携わる者の心の底に棲みついている.それが突然思ってもみなかったふうに登場したのである. しかも,プリオンには「ストレイン」という系統のようなものがいくつもあって,たとえば系統Bに感染すると全部が系統Bに,系統Cに感染すると全部が系統C,という風に
前の回に内容を移動して合併し(4+5)としました. ibaibabaibai-h.hatenablog.com 最後に,麻疹のサイエンスを面白がっていたら,自分が罹ってしまった,というお話.麻疹の発症数はその後急激に減っているので,いまでは珍しい体験ということになるかもしれません.長くなったので前後編に分けます. 初夏6月,謎の病気になる 最初の兆候は筋肉痛だった.いや腰痛だったかもしれない. 体を使った覚えがなかったし,以前にインフルエンザになったときのことを思い出したので,ジムに行く前に体温を測ったら熱があった.これが,謎の病気のはじまりだった. その後のことは,もう15年も前のことで記憶がはっきりしないが,症状ごとに思い出すことを書いてみる. 熱はいったん下がるかのように思えて,他の症状が出たあとで,また上がった.再度上がったあとも上下が激しく,解熱するときは奇妙な快癒感があって,ふ
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