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SPEECH! How Language Made Us Human (English Edition) 作者:Prentis, SimonhogsaloftAmazon 本書は通訳兼翻訳家(何カ国語も扱うが特に日本語通訳としてのキャリアが長い)であるサイモン・プレンティスによる言語が使えることによりヒトは何を成し遂げてきたのかを論じる本になる.プレンティスは言語学や進化生物学の専門家というわけではないが,ドーキンスやピンカーが推薦文を寄せているというので読んでみたものだ.副題は「How Language Made Us Human」 冒頭には「ウクライナのための序文」がおかれている.これは本書脱稿後にロシアのウクライナ侵攻が生じたことを受けているもので,(実は本書ではその最終章で,言語により世界が平和に向かってきたが,それはなお未完であり,国連の改革が必要であることを論じている)どうして
人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する (NewsPicksパブリッシング) 作者:マット・リドレーニューズピックスAmazon 本書はサイエンスライターマット・リドレーによるイノベーションを扱った一冊.リドレーは「赤の女王」,「徳の起源」,「やわらかな遺伝子」のような進化生物学についての啓蒙書で著名になり,最近ではスコープを広げて「繁栄」,「進化は万能である」のような人類史を進化的な視点から考察するような本を書いている.本書もその流れにつながる1冊で,基本的には「進化は万能である」の第7章「技術の進化」の内容を一冊に広げたもので,人類を繁栄に導くのに役立ったイノベーションがテーマになっている.原題は「How Innovation Works」. ここでリドレーが採り上げる「イノベーション」とは単なる発明・発見ではなく,それを安価で信頼性のあるものにし,採算が取れるように
人はどこまで合理的か 上 作者:スティーブン・ピンカー草思社Amazon 人はどこまで合理的か 下 作者:スティーブン・ピンカー草思社Amazon 以前私が書評したスティーヴン・ピンカーの「Rationality」が邦訳出版された.本書はピンカーがハーバードの学部生向けに行った講義がもとになっており,合理性とは何か,しばしばヒトの行動に合理性が乏しいように感じられるのはなぜか,合理性はなぜ重要かを説くものだ.*1 本書の中心になっているのは最初の「合理性とは何か」という部分になる.そこでは合理性を「どのように思考・行動すべきか」についての規範モデルと捉え,それを追求することに失敗する状況,この規範モデルの正当化が可能か,規範としての優先性をまず論じ,そこから具体的な合理性の中身として,演繹的論理,確率・統計,合理的選択と期待効用,統計的意思決定,ゲーム理論,因果と相関が採り上げられている.
なぜヒトだけが言葉を話せるのか: コミュニケーションから探る言語の起源と進化 作者:トム・スコット=フィリップス東京大学出版会Amazon 本書は認知と文化が専門の認知科学者,心理学者であるトム・スコット=フィリップス*1によるヒトの言語の進化と起源に関する一冊.ヒトの言語の進化的起源については,霊長類などの信号システムとの連続性を前提に,再帰的構造を重視する議論*2が主流だが,本書においては,ヒトの言語と霊長類の信号システムとの非連続性を強調し,語用論の重要性を正面から採り上げる独自の議論が説得的に主張されていて,とても興味深い書物になっている.原題は「Speaking Our Minds: Why human communication is different, and how language evolved to make it special」 第1章 コミュニケーションへの2
The Parasitic Mind: How Infectious Ideas Are Killing Common Sense 作者:Saad, GadRegnery PublishingAmazon 本書は進化心理学者ガッド・サードによる一冊.ガッド・サードは消費者心理やマーケティングを進化心理学的に分析考察する業績で知られている.題名は「寄生性の心:どのように感染性のアイデアが常識を殺すのか」という意味であり,一見したところミーム論の本のように見える(私としては進化心理学者の書いたミーム論だと思って手にした一冊になる).しかし実際に読んで見るとこれは現在アメリカのアカデミアで一大勢力を振るうウォークプログレシブによるキャンセルカルチャー告発の書であった.アカデミアのキャンセルカルチャーの問題を扱った心理学者がかかわった本としては以前にルキアノフとハイトの「The Coddling
進化政治学と平和 科学と理性に基づいた繁栄 作者:伊藤 隆太芙蓉書房出版Amazon 本書は進化政治学者伊藤隆太による3冊目の進化政治学本になる.伊藤は1冊目の「進化政治学と国際政治理論」では国政政治理論の古典的リアリズムを進化心理学的知見を基礎に進化リアリズム*1として再構築し,(ネオリアリズムの立場から見ると不合理な)戦争開始決定を部族主義,過信,怒りなどの概念を用いて説明してみせた.2冊目の「進化政治学と戦争」においては進化リアリズムの基礎的知見を人間行動モデル*2として提示し,ヒトには戦争することに使われる人間本性が備わっているとする「戦争適応化説(個人レベル,集団レベルの抗争を可能にする心理メカニズムを奇襲と会戦に分けて説明するもの)」を提示した.2冊とも科学哲学的に実在論に立っていることを強調している.そして今回の「進化政治学と平和」においてはやはり実在論を強調しながら新しく進
ヒトは〈家畜化〉して進化した―私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか 作者:ブライアン・ヘア,ヴァネッサ・ウッズ白揚社Amazon 以前私が書評したブライアン・ヘアとヴァネッサ・ウッズ夫妻による「Survival of the Friendliest」が「ヒトは〈家畜化〉して進化した」という邦題で邦訳出版された. 本書はヒトの同種個体に対する友好性そして協調性が「自己家畜化」を経由して進化したものであることを説得力を持って解説している好著だ.特にトマセロやランガムの元での経験談や家畜化について知るためにシベリアのベリァーエフのキツネ飼育実験場まで赴いた話などは臨場感たっぷりで楽しい.後半はそのような同種個体への友好性を持つヒトがなぜ戦争やジェノサイドを引き起こすのかについて,外集団に向けた敵意も自己家畜化の一側面であり,それが相手の<非ヒト化>を通じて強化されるという議論を行っている.
進化と人間行動 第2版 作者:長谷川 寿一,長谷川 眞理子,大槻 久東京大学出版会Amazon 本書は進化心理学,人間行動進化学の(日本語で書かれた)最も優れた入門書として読まれ続けてきた本*1の22年ぶりの改訂版である.著者には初版の長谷川夫妻に大槻久が加わり,この間の様々な知見の進展に合わせた全面的なアプデートを行っている.トピック的には生活史戦略,協力行動の進化(特に間接互恵性),文化の重要性の部分の改訂が大きい.また全体を3部構成にして見通しをつけやすくする工夫も加わっている. 第1部 進化とは何か 第1部は本書のテーマについての序章と進化学についての概説(ダーウィンの進化学,分子進化学,行動生態学)がおかれている*2 第1章 人間の本性の探求 第1章は序章的な部分になる.人間の理解のためにはヒトの進化と適応という観点が有用であること,遺伝と環境の問題(ヒトの行動には遺伝も環境も影
社会科学の哲学入門 作者:吉田敬勁草書房Amazon 本書は科学哲学の中で特に社会科学の哲学についての入門書だ.私は社会科学についても哲学についてもあまり詳しくはない.そして最近読んだ進化政治学の本においては著者が実在論にずいぶんコミットしているものの私が理解している科学哲学の実在論とはややニュアンスが異なるような印象もあってややもやもやしていたので,この際勉強しておこうと手に取った一冊になる.著者は科学哲学者で社会科学の哲学を専門とする吉田敬になる. 序章 社会科学の哲学を学ぶとはどういうことか まず本書の目的について,社会科学の哲学という分野がどのようなものであり,どのような議論が行われているかを紹介するものだとしている. そこから序章における概念整理がある. 科学哲学の問題領域には論理学(推論の方法は正しいかなど),認識論(知識とは何かなど),形而上学(扱う対象は実在するのかなど),
「誤差」「大間違い」「ウソ」を見分ける統計学 作者:デイヴィッド・サルツブルグ共立出版Amazon 本書は「統計学を拓いた異才たち」の著者デイヴィッド・サルツブルグによる一冊.「統計学を拓いた異才たち」は統計学史を中心に一般向けに逸話をたくさん交えて楽しく書かれていて,同じような楽しい本だろうと手を出した.ところが実は本書はもともと「科学と社会のための統計的推論」シリーズの一冊として書かれており,ある程度専門知識がある読者が想定されているようで,統計的論理になじみのない読者にはやや取っつきにくい本になっている.内容的には,統計学全般ではなくいくつかのテーマに絞って書かれている.原題は「Errors, Blunders, and Lies: How to Tell the Difference」 序文では自分は50年以上も統計学の裏庭の泥や汚泥を掘り返すことに喜びを感じてきたと振り返り,その
魚にも自分がわかる ──動物認知研究の最先端 (ちくま新書) 作者:幸田正典筑摩書房Amazon 本書は最近毎年のように動物行動学会でホンソメワケベラの認知能力(特に鏡像自己認知能力)について驚きの発表を行っている幸田正典の手になる一冊.まさにそれら一連の研究結果がまとめられた書籍になる. 冒頭の「はじめに」において,10年前に「魚が鏡像自己認知できる」ことを発見したが,それは当時常識を逸脱した内容とされ,なかなか受け入れられなかったこと,そして当時はガリレオの心境だったことが述べられている.しかし著者はこれを乗り越えて,追試を含めて次々に驚きの発見を続けていく.本書のその発見と主流への挑戦の物語りになる. 第1章 魚の脳は原始的ではなかった 第1章は物語の前段である,「なぜ『魚などに鏡像自己認知できるはずがない』という『常識』が形成されていたのか」が解説される.それは脊椎動物の脳について
進化政治学と戦争 自然科学と社会科学の統合に向けて 作者:伊藤 隆太芙蓉書房出版Amazon 本書は社会科学と自然科学のコンシリエンスを追求する進化政治学者伊藤隆太の2冊目の著書になり,進化政治学とはどのような営みなのか,そしてそれは戦争についてどう説明するかを扱っている.基本的に政治学の中の古典的リアリズムの立場を進化生物学,進化心理学で基礎づけるという試みで,具体的テーマとしては戦争原因が取り上げられ,ヒトの進化適応から説明する仮説を提示するものになる. 序章 進化政治学と社会科学の科学的発展 序章では進化政治学とは何かが解説される.進化政治学は(それまでの社会科学の暗黙的前提であった)心身二元論,高貴な野蛮人,ブランクスレートによらず,進化生物学*1,進化心理学とのコンシリエンスを目指す政治学ということになる.そして先駆者たち(マクデーモット,ジョンソン,セイヤーなど)の業績*2が簡
NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか? 作者:ダニエル カーネマン,オリヴィエ シボニー,キャス R サンスティーン早川書房AmazonNOISE 下 組織はなぜ判断を誤るのか? 作者:ダニエル カーネマン,オリヴィエ シボニー,キャス R サンスティーン早川書房Amazon 本書はトヴェルスキーと行動経済学の基礎を作ったカーネマンが,ビジネスコンサルタント出身のオリヴィエ・シボニーと法学者で行動経済学関連の著作も多いキャス・サンスティーンと共著したヒトの意思決定のばらつきについての本になる.カーネマンとトヴェルスキーはヒトの意思決定や行動に様々なバイアスがあることを示してきたことで有名だが,本書では偏り(バイアス)ではなくそのばらつき(ノイズ)が取り上げられることになる.原題は「Noise: A Flaw in Human Judgment」 序章 序章では偏り(バイアス)とばらつき
恐竜研究の最前線: 謎はいかにして解き明かされたのか 作者:マイケル・J・ベントン創元社Amazon 本書はマイケル・ベントンによる一般向けの恐竜本である.ベントンは様々な業績のある恐竜学者であり,最近では恐竜化石にメラノソームの痕跡を見いだし,それまで不可能だろうと思われていた証拠に基づくある程度確かな恐竜の色彩復元に成功したことで有名だ.本書では自身の研究も含めて,様々な新しい研究手法や次々に発見される化石が恐竜の姿の理解をどのように変革してきたかを扱っている.原題は「The Dinosaurs Rediscovered: How a Scientific Revolution is Rewriting History」 はじめに 冒頭で恐竜化石におけるメラノソーム発見エピソードが紹介されている.発見時すぐにでも全世界に発表したいという気持ちが湧き上がったが,科学的精査にたえる論証を行
進化の技法――転用と盗用と争いの40億年 作者:ニール・シュービンみすず書房Amazon 本書はティクターリクの発見で有名な古生物学者ニール・シュービンによる生物の革新的形質がどのように進化していくのかを,用途の転用,発生メカニズムと進化拘束,DNA配列,遺伝子の振る舞いなどから詳しく解説した一冊になる.所々で自伝的な回想もあって楽しく読める.原題は「Some Assembly Required: Docoding Four Billion Years of Life, from Ancient Fossils to DNA」 第1章 ダーウィンの5文字の言葉 若き日のシュービンは,「魚類から両生類への進化」を進化史上最大の難問のひとつだと考え,自分の研究テーマに選ぶ.ここでシュービンは魚類から両生類に進化して陸上に上がるためには機能的に絡み合った何百もの発明が必要であることを指摘する.こ
不平等の進化的起源: 性差と差別の進化ゲーム 作者:ケイリン・オコナー大月書店Amazon 本書は,科学哲学者でありかつ進化ゲーム理論家であるケイリン・オコナーによる進化ゲームの均衡解として(差別的偏見がなかったとしても)社会的カテゴリー間の不平等をもたらす慣習や規範が創発しうることを丁寧に論じた本である.社会的カテゴリーとしては特にジェンダーが大きく取り上げられているが,人種や宗教などにも当てはまる議論になっている.原題は「The Origins of Unfairness: Social Categories and Cultural Evolution」. 序章で各章の概略と文化進化の簡単な解説(文化進化の存在は本書において進化ゲームを用いる基礎的な前提になる)をおいた後に本論に入る. 第1部 社会的強調による不平等の進化 第1章 ジェンダー,協調問題,協調ゲーム 最初のジェンダーと
武器を持たないチョウの戦い方: ライバルの見えない世界で (新・動物記 2) 作者:竹内 剛京都大学学術出版会Amazon 本書は京都大学学術出版会の「新・動物記」シリーズの一冊.著者によるチョウの行動の研究物語だが,その中心になるのはこれまでナワバリをめぐるチョウのオスオス闘争だと考えられていた卍巴飛翔(あるいは直線的な追跡を相互に行う飛翔)についての斬新な仮説の提唱とその検証だ.この一連の研究は日本動物行動学会賞を受賞したもので,この界隈では話題の書ということになる. 第1章 ギフチョウはなぜ山頂に集まるのか 第1章は著者が蝶に魅せられたきっかけになったギフチョウの物語.ギフチョウは,アゲハチョウのなかまで黄色と黒の縦のだんだら模様に後翅の赤紋と青紋がひときわ映える美しいチョウであり,春の一時期だけ山に現れる(春の女神と呼ばれることもある). 著者は中学生のころに蝶に夢中になり,やがて
仲直りの理 作者:大坪庸介ちとせプレスAmazon 本書は進化心理学者大坪庸介による仲直りについての本である.仲直りの進化的な意味,究極因と至近因が非常に丁寧に解説されている. 「はじめに」において著者は夏目漱石の「坊ちゃん」における主人公と山嵐の間の対立と和解,シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」におけるモンタギュー家とキャピュレット家の間の対立と和解のストーリーを引きながら,和解せずにいがみ合うことのコストの高さと,それにもかかわらず和解が必ずしも簡単ではないことに注意を促す.そしてそれをヒトの進化の文脈で考えていこうというのが本書のテーマになるのだ. 第1章 動物たちの仲直り 進化の文脈で考えるということで第1章ではヒトに近縁な霊長類の仲直りを描く.有名なドゥ・ヴァールの霊長類の仲直り研究の概要が紹介され,標準的手法となったPC-MC比較法(ケンカ直後の行動とコントロール条件での
Rationality: What It Is, Why It Seems Scarce, Why It Matters 作者:Pinker, StevenAllen LaneAmazon 本書はピンカーによる「合理性」についての一冊.ピンカーは「The Better Angels of Our Nature(邦題:暴力の人類史)」,「Enlightenment Now(邦題:21世紀の啓蒙)」において,世界がより良い方向に向かってきたこと,そしてそのコアには啓蒙運動があることを語ってきた.その啓蒙運動の大きな柱が合理性ということになるが,合理性をめぐって近年様々な懐疑論がはびこっている現状を受けて今回「合理性」を取り上げたということになる.そのあたりの背景は「What it is, Why it seems scarce, Why it matters 」という副題によく表されている.本
読む・打つ・書く: 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々 作者:三中 信宏東京大学出版会Amazon 本書は三中信宏による理系研究者のための読書論,書評論,そして執筆論の本だ.一気呵成に迸るように書かれた文章は迫力十分で,そしてすべては自分の(研究の)ためというポリシーが圧倒的に壮快だ. 第1楽章 読む:本読みのアンテナを張る*1 冒頭は「本との出会い」から始まる.本との出会いは一期一会でこれはと思う本は逃してはいけないこと,探書アンテナを張ることの重要性,ランダムな出会いもまたよいこと,多言語蔵書の深みなどが語られている. そこからいかに深く本を読むかというテーマになる.読むにはまず本を読みきって何が書いてあるかを理解するという段階,そして次になぜこの本が書かれなければならなかったかを問いかける段階があるという.そして本を学べばより世界は広がり,得られた知識ネットワークは信頼するにた
人間の本質にせまる科学: 自然人類学の挑戦 東京大学出版会Amazon 本書は若手研究者たちにより執筆された自然人類学の総説・入門書になる.内容的には東京大学の駒場の1,2年生向けのオムニバス講義がもとになっているようだ.自然人類学は「人間とは何か」という問いを自然科学的に探究する営みであり,時系列的にはチンパンジーとの分岐から未来まで,対象のスケールとしてはゲノムレベルから地球生態系までを視野に入れた広大な学問領域になる.本書ではそれぞれの専門家から人類進化の軌跡,ゲノム科学,ヒトの生物としての特徴,文化とのかかわりが解説されている. 第1部 人類進化の歩み 第1部は,霊長類の行動と社会,チンパンジーとの分岐から猿人*1まで,ホモ属,ネアンデルタールという4章構成になっていて,人類進化の最新の知見が要領良くまとめられている.各部において内容的に興味深かったところを紹介しておこう. 霊長類
最後通牒ゲームの謎---進化心理学からみた行動ゲーム理論入門 作者:小林 佳世子日本評論社Amazon 本書は最後通牒ゲーム(および独裁者ゲーム)の謎についての本である.著者はミクロ経済学から学問の世界に入り,ゲーム理論の魅力にはまり,行動経済学,進化心理学と視野を広げてきたという経歴を持つ小林佳世子.経歴通りにこの面白い現象を多面的な視野から捉え,さまざまなトピックについてきわめて明晰かつ分かりやすく網羅的に解説されている好著である. 冒頭「はじめに」で最後通牒ゲームとは何かについて解説がある.このゲームで多くの参加者が経済的短期的合理解を選ばないことが大きな謎であること,そのため人間を対象とした実験の中で最も頻繁に行われてきたものであること,これが「ヒトの持つ合理性とは何か」という大きな問いにつながっていくものであることが簡単に紹介されている. 第1章 謎解きの道具 ここではこれからの
なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学 作者:ランドルフ・M・ネシー草思社Amazon 以前私が書評したランドルフ・ネシーの「Good Reasons for Bad Feelings」が邦訳出版されるようだ.本書は現役の精神科医であり,かつ「Why We Get Sick?(邦題:病気はなぜあるのか)」をかつてジョージ・ウィリアムズと共著したこともある進化的理論に理解のある著者によるさまざまな精神病理の進化的な解説を行う本である. 冒頭第1部で通常の疾病と精神疾患の違いが強調され(通常の疾病は何らかの身体の機能的な問題が病気の本質で,それが症状として目に見える形で現れると考えられるのに対して,精神疾患は脳の器質的異常を感知できないために症状からのみ記述される),なぜ心はこうも脆いのかが説明されるべき進化的な謎であるとする.邦題はこの本書の中心的テーマを提示するものであり適切
When Men Behave Badly: The Hidden Roots of Sexual Deception, Harassment, and Assault (English Edition) 作者:Buss, DavidLittle, Brown SparkAmazon 本書は進化心理学者デイヴィッド・バスによるヒトにおける性的コンフリクト,特に男性の配偶戦略が引き起こす問題点(あるいは性をめぐる男性の悪行)についての一般向けの本である.バスは進化心理学の勃興時の立て役者の一人であり,配偶者選好に大きな性差があることを本格的なリサーチで明らかにしたこと,進化心理学の最も有名な教科書の執筆者であることで有名だ. そしてバスはこれまでにヒトの配偶選択についての一般向けの科学啓蒙書を3冊書いている.最初の一冊「The Evolution of Desire」はヒトの配偶者選択全般を
アメリカン・ベースボール革命: データ・テクノロジーが野球の常識を変える 作者:ベン・リンドバーグ,トラビス・ソーチック化学同人Amazon 本書は「マネー・ボール」に始まるメジャーリーグにおける数理統計やデータサイエンスの応用の最新動向を扱った本になる.著者はベン・リンドバーグとトラビス・ソーチック.いずれもジャーナリストで,ソーチックは「ビッグデータ・ベースボール」の著者でもある. メジャーリーグにおける本格的な数理統計の応用は「マネー・ボール」で紹介されたセイバーメトリクスの利用から始まる.これは選手の能力や貢献を測るためには伝統的な成績指標(打率,打点など)よりも有効な指標(長打率,出塁率など)があることを理解し,フリーエージェント市場で割安に選手を調達し,強いチームをつくることを目指したものだ.しかしこの手法の有効性が多くの球団に認められると優位性はなくなる.次に現れたのは「ビッ
進化でわかる人間行動の事典 朝倉書店Amazon 本書は進化視点にたったヒトの行動の事典になる.さまざまなヒトの行動のなかから「遊ぶ」「争う」「歩く」から「恋愛する」「笑う」まで(50音順)43項目を選び出し,それぞれの行動について機能(究極因)と進化史に焦点を当てながら(事項によっては至近的メカニズムや発達についてもカバーされている)現時点での知見を解説するものだ.編者は小田亮,橋彌和秀,大坪庸介,平石界という日本の進化心理学界の中心メンバー,執筆陣はそれぞれの項目に関連するリサーチを行っている研究者39名が担当するという豪華なものになっている. どこから読んでも良いし,必要に応じて参照するという使い方が基本的に想定される種類の書物だが,もちろん頭から通読しても大変面白い.多くの執筆者が総説的な叙述スタンスをとっていて大変勉強になる. 全体的な感想としては,まだまだ特定の行動についてそれ
peatix.com 標記の第2回研究会がオンラインで開かれたので参加してきた.発表者は進化生態学者の深野祐也.テーマは「嫌悪の進化と社会の問題:虫嫌いから差別まで」となる.この虫嫌いの進化心理学リサーチはプレスリリースが一時話題になったもので,あらためて研究者から直々にきちんと聞けるのはうれしいところだ. www.a.u-tokyo.ac.jp 嫌悪の進化と社会の問題 深野祐也 冒頭に自己紹介.福岡県出身で,東京農工大農学部から九州大の理学部の院に進み,現在東京大学大学院農学生命科学研究科生態調和農学機構に所属.専門は生態学,進化生態学で外来種の急速な進化や生態学を農業に応用するような研究を主としているとのこと.ヒトについては動物園や動物のアニメ*1が保全にどう役立ちうるかなどを調べた.その際にヒトにはさまざまな動植物への好みがあることがわかり,それがなぜなのかに興味を持ち,今回の虫嫌い
善と悪のパラドックス 作者:リチャード・ランガム,依田卓巳発売日: 2020/10/21メディア: Kindle版 本書はリチャード・ランガムによるヒトの本性(特にその他者への寛容性と攻撃性)に関する本だ.本書のキーワードは「反応的攻撃性」と「能動的攻撃性」の区別,そして「自己家畜化」になる.ヒトが自己家畜化した動物であるという議論については先日ブライアン・ヘアとヴァネッサ・ウッズによる「Survival of the Friendliest」を読んだばかりでもあり,いろいろ深く楽しめた.ランガムはヘアと共同研究したこともあり基本的に同じ立場に立っているが,そのスコープと進化的なストーリーはより深く詰められている.原題は「The Goodness Paradox」. はじめに 人間進化における善と悪 序章ではヒトにはジェノサイドを引き起こすような邪悪さと見知らぬ他人に親切にする善良さの両方
Why the Law Is So Perverse (English Edition) 作者:Katz, LeoUniversity of Chicago PressAmazon 本書は法学者レオ・カッツによる「なぜ法律はあんなにヘンテコなのか」を意思決定論の視点から説明する本になる.カッツは少し前に刑法の原則にかかる様々に難しい論点を認知科学,分析哲学,実験心理学的視点を取り入れて説明する興味深い本を書いている.そこでは大きな論点は「ヒトの処罰感情を明文化することの困難さ」と「連続する状況に対して有罪無罪という離散的な結論を与えなければならない」という2点が主に取り扱われていた.カッツはこれらの問題について思索を続け,なぜ法律はそもそもああいう構造になっているのかを意思決定論の視点を取り入れて説明しようとする.私がそもそもカッツの前著を読もうとしたのはピンカーの本で紹介されていたからだ
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