「びっくりするような性能は必要ない。むしろ、自分でも思いついたかもしれない、と感じさせる方が大切です」。以前にマーケティングの専門家から、ヒット商品についてこんな話を聞いた。101歳の大往生を遂げた柴田トヨさんの詩にも、同じことがいえるだろう。 ▼90歳をすぎてから、小紙「朝の詩」に投稿を始めた作品には、難しい言葉はひとつも使われていない。題材も、亡くなった母親や息子、お嫁さんのほか、ポットや電話、扇風機など身近な情景が目立つ。私にも書けるかもしれない。そう思って、詩作を始めた人も少なくないはずだ。 ▼もちろん、トヨさんの詩は、トヨさんにしか書けない。「時は流れない、それは積み重なる」。サントリーの名作コピーのいう通りだ。明治、大正、昭和、平成の1世紀、空襲やイジメ、うらぎり、さびしさから「死のうと思ったこともあった」という。そんな人生が積み重なって、初めて生まれた。 ▼もうひとつ、処女詩