「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく…」。故井上ひさしさんの座右の銘はあまりにも有名だ。もっとも世の中には、どうしてもやさしく説明できない「むずかしいこと」が存在する。 ▼望月新一京都大教授(43)がインターネットで公開した論文は、その最たる例だろう。現代の数学で、最も重要な未解明の問題といわれる「ABC予想」を証明する論文だという。「ABC予想」を使えば、解決まで約350年かかった「フェルマーの最終定理」も一気に証明できてしまう。 ▼欧米メディアが「驚異的な偉業」と称(たた)える論文の内容をぜひ知りたいものだが、望月教授は「一般社会向けではない」とにべもない。それどころか英科学誌ネイチャーによると、ほとんどの数学者でさえ理解できない新たな手法を駆使しているため、論文の正しさを精査するのに時間がかかるほどだ。 ▼1922年にニールス・ボーアがノーベル物理学賞に輝いたとき、新聞社