昨年「塩の道」で林芙美子文学賞を受けた朝比奈秋(あさひなあき)さん(40)。デビュー作『私の盲端(もうたん)』(朝日新聞出版)は、身体のままならない残酷さを描きながら、生命力に満ちた作品集だ。 朝比奈さんは消化器内科の現役の医師。青森の病院でひと月ほど働いた経験は、へき地の高齢者医療を描いた「塩の道」にいかされている。患者の戸惑いや医師の諦念(ていねん)が的確に物語に挿入されるが、ふいにタブーに突き進む大胆さに驚かされる。 表題作は、直腸の腫瘍(しゅよう)を取る手術で人工肛門(こうもん)になった女子大学生が主人公。全編を通して便の気配が漂う。バイト先の飲食店での描写が秀逸だ。食べることと排泄(はいせつ)が同時に起こり、チャーハンと便の臭いは混然一体となり、さらにエロスが混ざりあう。絶妙なさじ加減で、下品でも露悪的でもない。 「胃カメラや大腸カメラもやりますが、口と肛門が1本でつながっている