●郡司ペギオ―幸夫さんエッセイ 「内側からみた偶然=仏陀の微笑」 偶然を決定論的力学系という必然によって生成するカオス力学系。それは当初、気象データや、昆虫の個体数変動を記述する方程式など、既存の概念の中に発見された。カオス力学系を、初めてゼロから出発して構成してみせたのが、チュービンゲン大学のオットー・レスラーである。混沌は、こうして「必然と偶然を裏表に持つコイン=或る力学系」をモデルとするに至った。しかし、レスラーはそのような描像に満足したわけでもなかった。その後レスラーは、世界を内側から見た描像、内在物理学(エンドフィジックス)を提唱する。 2010年11月初旬、私はレスラーをチュービンゲンに訪ねた。ホテルまで迎えに来てくれたレスラーの自宅は、部屋のみならず廊下にいたるまで、壁という壁、柱までもが本で覆われていた。我々は、二つの概念が全く異なり、各々がアイデンティティーを主張しな