サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
アメリカ大統領選
homepage2.nifty.com/~islands
タイトルからはじめよう.「母たち」とは,ゲーテの『ファウスト』の有名な一シーンで,恐れおののくファウストがメフィストフェレスに導かれてゆく,「そこには場所も時間もない」ような「母たちの国」からとられている.これは現在もっとも注目すべきイタリアの歴史家カルロ・ギンズブルグが,その問題作『夜の歴史』(竹山博英訳『闇の歴史』せりか書房,1992年)のエピグラフに掲げたものである.一方,上村忠男はギンズブルグとの批判的対話を試みた本書『歴史家と母たち』の冒頭でこの「母たちの国」に触れながら,場所と時間こそが歴史学が成立するための必要不可欠の条件であると述べている.「歴史家」と「母たちの国」.「と」で無雑作につながれたこの関係は,むろん穏やかなものではあるまい.上村が『夜の歴史』の批判的読解を試みた本書の第1論文「歴史家と母たち」をそのまま本書のタイトルに掲げるとき,それは本書の全体を貫く問題がどこ
1.クレオールな国民 1962年にイギリス領から独立したトリニダード・トバゴ(1976年に共和国)は,その石油資源によって比較的豊かな経済水準を実現し,カリブの「モデル・ネイション」としての名誉ある地位を目指しつづけてきた。トリニダード・トバゴの観光客向けの自画像は,ふりそそぐ陽光,トロピカルなビーチ……といったカリブの島々の観光イメージとはいささか異なっている。そこは何よりもカーニヴァルの島であり,カリプソやスティール・バンドが生まれた島であり,また世界的な作家や多くの優れた才能を輩出しつづけてきた「文化」の国である。この「文化」を支えているのが,世界のあらゆる地域からやってきた多民族・多人種の平和的共存であるとされる。それは共和国の国是であり,国民の誇りでもある。 他者を排除しない国民的な誇りというものがありうるとしたら,トリニダードの公式ナショナリズムはそれを自覚的に追求してきた点で
エスニシティ 「エスニシティの定義は,研究者の数だけある」と言われるが,本稿は「エスニシティとは何か」を説明しようとするものではない。ただ「エスニシティ」が論じられる際の理論的な関心について,いくつかの注意を促すことだけが目的である。 エスニシティ研究とナショナリズム研究とは,多くの場合重なっていない。この研究上の分断は興味深い現象だが,これは両者の関心の方向がそもそもかなりの程度異なっていることを予想させる。ナショナリズム研究は「過去」をいかに相対化するかという点に理論的な関心を寄せるが,「エスニシティ」の研究は,おそらくより同時代的な関心に基づくものだ。まず,「民族」を論じるのは主に人類学の領域だろうが,「エスニシティ」はむしろ政治学の用語であることを押さえておきたい。さらに,「エスニシティ」は「民族性」(national character)ではない。むしろ古典的な「民族」論が通用し
Ver. 1.43, 2008.07.18. islands (at) mbe.nifty.com
Ver. 1.40, 2008.09.30. islands (at) mbe.nifty.com
エドゥアール・グリッサン 『<関係>の詩学』管啓次郎訳,インスクリプト,2000年. 『全-世界論』恒川邦夫訳,みすず書房,2000年. 待望の翻訳が2冊,ほぼ同時に刊行された.エドゥアール・グリッサン.いまやいたるところで聞かれる「クレオール」の議論の震源地になったのは,間違いなくこの人である.1928年,マルチニック生まれ.フランツ・ファノンとはほぼ同世代であり,セゼールの洗礼を受け,ともにパリで学んでいる.詩人・小説家として,第二次大戦後のフランス語圏アンティル文学に大きな足跡を刻んできた.『<関係>の詩学』と『全‐世界論』は,1990年代に上梓された第3,第4評論集である. 幾度も反復され独自に練り上げられた,その思考と想像力の巨きさは,誰もが認めることができるだろう.グリッサンとともに,「クレオール化(クレオリザシオン)」は一つの思想となったと言っていい.「思想は過去の想像域
カリブ海の英語圏の島々からは多くの世界的な作家が出ているが,その多くはロンドンやニューヨークなどの中心都市(メトロポリス)で活動をはじめている.アメリカ合州国の黒人文化の少なからぬ部分はこうした西インド諸島出身者によって担われてきたのだが,イギリスではジョージ・ラミングやサム・セルヴォンら,1950年代のBBCのラジオ番組「カリビアン・ヴォイス」に集まった若い作家たちの世代があり,そこから出発したV. S. ナイポールは,英語圏ではもっとも広く読まれている作家の一人である.またこうした作家たちと重なるようにして,C. L. R. ジェイムズ,ステュアート・ホール,デヴィッド・ダビディーンのような,学術と政治・文化を橋渡ししていくような知識人の活動がある.本稿ではこれら西インド諸島出身の作家や知識人を,「エグザイル」や「ディアスポラ」の知識人という観点から見てみたい. 「エグザイル」とは追放
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『islands』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く