兵庫の夜は、どことなく湿った異様な熱気を孕んでいた。 三宮の県庁本館、その一室の天井のファンが重く鈍い音を立てて回っている。窓の外では湿度の高い潮風が神戸港から吹き付けていた。 斎藤元彦は、エアコンの効きが悪い部屋で天井を見上げていた。裸電球の光が、汗に濡れた彼の短く刈り上げた髪を照らし出している。机の上には冷めきったコーヒーと、山積みの行政文書、そして数枚の写真が散らばっていた。 ――知事選。百条委員会。告発文書。不信任決議。そして失職、出直し選、再選。 激流のような政治的泥沼をくぐり抜け、ようやく王座に返り咲いたはずの彼の精神は、すでに摩耗しきっていた。彼は「任務」に飢えていた。ただの事務的な知事業務ではない、もっと根源的な、自分をこの精神の迷宮から救い出すような、途方もない指令に。 ノックの音とともに、二人の総務省幹部が重々しく入室してきた。特命の辞令を手渡された斎藤は、薄暗がりの中