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アメリカ大統領選
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沖縄基地のもう一つの現実 : 米兵が置き去りにした母子に養育費獲得の道ひらく―元米軍勤務の女性弁護士の30年の戦い 社会 家族・家庭 政治・外交 2023.05.12 在日米軍基地が集中する沖縄で30年近く、米軍人や軍属の父親から置き去りにされ、2つの国の狭間で苦しむ子どもたちを「養育費徴収」という手段で救ってきた米国人女性がいる。弁護士のアネット・キャラゲインさん(70)だ。新型コロナのパンデミックを機に“引退”を決意、2022年6月に帰国したが、今も相談依頼は後を絶たない。「後継者が見つかるまでやめるわけにはいかない」というアネットさんに話を聞いた。 きっかけは嘉手納基地で見た母親の姿 「子どもは生まれてくる場所を選べない。彼らの奪われた権利を取り戻すのは、その手段を知っている私の役目だと思った」とアネットさんは言う。 養育費問題との出会いは30年前にさかのぼる。米空軍の弁護士として沖
日本国内の外国人労働者は4人に1人がベトナム人で最多だが、円安、インフレなどで「稼げなくなった日本」を避け始めた。日本は彼らに新たな魅力を提示できるのか? 日本の外国人労働者は200万人(2023年10月末時点)を超えた。このうちベトナム人は約52万人、国・地域別で最多だが、新規入国に陰りが見え始めた。その理由を探るため2024年6月、首都ハノイを訪れた。 外国人労働者を在留資格別に見ると、開発途上国に技能と知識を移転する国際協力を目的とする「技能実習生」(以下、「実習生」)が最も多い。新型コロナ禍前後で新規入国者数を比較すると、ベトナムが9万9170人(19年)から8万3403人(22年)に減少した一方で、インドネシアは1万5746人(19年)から3万348人(22年)に増加した。 実習生を日本に派遣するハノイ市内の「送り出し機関」6社を回ると、幹部はこう口を揃えた。「日本からの求人が3
パレスチナ・ハマスの越境攻撃から10月7日で1年。イスラエルの過剰な報復攻撃は、おびただしい数の人命を奪い続けている。中東に深く関わってきた筆者は、現地ジャーナリストとの交信をもとに、民衆の怒りは大量虐殺の引き金を引いたハマスにも向いていると告発する。 現地ジャーナリストMとの奇跡的な交信 この1年、イスラエル軍がガザで行ってきたのは、ジェノサイド(大量殺人)そのものである。十数万人のパレスチナ人が死傷し、百数十万人が住居を失った。 同時に、私にはどうしても知りたいことがあった。この大惨事のきっかけを作ったイスラム組織ハマスに対して、ガザの住民がどんな感情を抱いているのか、である。日本のメディアだけでなく、BBCなど海外のメディアも、不思議なほどこの点に触れない。避けているようにさえ思えるからだ。 幸い、私はイスラエル軍の攻撃開始直後の昨年10月下旬から、ガザ地区中部で暮らすジャーナリスト
埼玉県川口市・蕨市に住むクルド人を標的にしたヘイトデモ、SNSに飛び交うデマ情報が激化している。在日クルド人コミュニティーへの取材を踏まえ、ヘイトの実態と背景を解説する。 なぜ日本を目指したのか 「平和のにおいがした」 初めて日本の土を踏んだ時の印象を、イシ・ケマルさん(38歳)はこのように表現した。祖国での差別から逃れて、2004年に来日したトルコ出身のクルド人だ。 クルド人は「国を持たない最大の民族」と呼ばれる。独自の言語や文化を持ち、主にトルコ、シリア、イラン、イラクにまたがる山岳地帯に居住するが、各国で弾圧、差別の対象となり、生まれ育った地を離れる人も少なくない。 トルコ政府は、同化政策の下でクルド人の存在そのものを否定し、長年クルド語も禁止してきた。1980年代から90年代にかけては、クルド人の政治的権利などを求めて武装闘争を展開していたクルディスタン労働者党(PKK)を軍事弾圧
実態が正確に把握されないまま、国内では「やりすぎだ」、逆に「もっとできるはずだ」という印象論が語られることの多い日本のウクライナ支援。その全体像と課題について解説する。 ロシアによるウクライナ全面侵略の開始から2年半以上が経過した。日本はウクライナに対して人道支援や復旧・復興支援を継続的に行ってきた。本稿ではその国際的な位置づけについて概説し(※1)、日本の支援の特徴について紹介する。また、今後のウクライナ支援を考える上での課題についても踏み込んでみたい。 日本の支援総額は世界5位 2024年6月13日に日本とウクライナとのあいだで締結された「日・ウクライナ支援・協力アコード」によると、これまでの日本の支援額は総額120億米ドルを超える(※2)。一方、キール世界経済研究所(ドイツ)の「ウクライナ支援トラッカー(UST)」最新版によれば、24年6月末までの日本の支援総額は91.1億ユーロ(1
いつにも増した大接戦となっている米大統領選挙。勝者次第で対外政策は大きく変わる。日本はどう備えるべきなのか? 2024年の米大統領選挙は近年まれに見る展開を見せている。予備選の段階では現職のバイデン大統領とトランプ前大統領が民主、共和両党それぞれの候補者となったが、6月末に行われた両者のテレビ討論会でバイデン氏が精彩に欠け、高齢に関する不安が高まった。7月の暗殺未遂事件では、強い指導者として振る舞ったトランプ氏に一気に有利な流れができたかにみえた。しかし、民主党内でバイデン氏の撤退を求める声が強まり、ハリス副大統領が民主党の大統領候補になると再び流れが変わった。 各種世論調査では、激戦州で接戦が続いていることがうかがえる。米中西部のラストベルト(さびた工業地帯)を中心とする激戦州では両党への支持は拮抗(きっこう)しており、投票行動を決めかねている無党派の動向が最終結果を左右することになる。
2024年4月、米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に選出された上野千鶴子氏。40年超にわたり日本の女性学・ジェンダー研究をけん引してきた上野氏に、「フェミニズムとは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想」だとする考え方の背景と、若い世代に託す思いを聞いた。 上野 千鶴子 UENO Chizuko 1948年、富山県生まれ。東京大学名誉教授、認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク(WAN)」理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして教育と研究に従事。高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。 「アグネス論争」 上野さんがフェミニズムの論客として注目されるようになったのは、1987年の「アグネス論争」の頃からだ。人気歌手のアグネス・チャンさんが、テレビ番組収録の場に乳児を連れてきたことで賛否両論を巻き起こした。「職場に私生活を持ち込まない」という「美学」を背景
日本初のシリア人医師・メルナ・アイルードさん:「何事もやってみなければ分からないでしょ!」 健康・医療 仕事・労働 暮らし 家族・家庭 2024.08.11 シリア人として初めて、日本の医師免許取得を成し遂げたメルナ・アイルードさん。来日するまで全く日本語を話せなかった彼女が、「絶対に無理」と言われながらも、医師国家試験を突破するまでの苦難の道のりを紹介する。 メルナ・アイルード Merna Airoud 1990年シリア・アレッポ生まれ。アレッポ大学医学部を首席卒業、2014年医師免許取得。2015年10月、夫の留学先の日本に移住。日本語をゼロから学び、わずか4年で日本語能力試験1級にパスし、2022年2月には日本の医師国家試験に合格した。医師国家試験に合格したアラブ人としては、史上2人目。現在、神奈川県内の病院で勤務している。 全く予想もしなかった日本での生活 「日本に来るなんて一度も
このほど防衛省が公表した「人的基盤の抜本的強化」についての資料によると、2023年度の自衛官などの採用数は9959人。計画数は1万9598人で、達成率は過去最低の51%だった。22年度の実績は66%。防衛力強化の方針を受けて計画数を増やしたものの、実際の採用は前年(1万1758人)より1800人近くも減少した。 採用区分別の内訳をみると、所要の教育を経て3カ月後に2等陸・海・空士(任期制自衛官)に任官する「自衛官候補生」は達成率30%。1万628人の計画数に対し、3221人(うち女性540人)しか採用できなかった。陸・海・空曹自衛官を養成する「一般曹候補生」の達成率は69%で、計画数7230人のうち4969人を採用した。 2023年度版「防衛白書」によると、23年3月末の自衛隊の定員は陸自15万500人、海自4万5293人、空自4万6994人、統合幕僚監部など4367人の合計24万7154
すい星のように現れた米共和党のバンス次期副大統領候補。ベテラン国際ジャーナリストが、その政治思想を解きほぐす。トランプ前大統領と相似形と見られているが、主張が異なる面もあると指摘する。(本文一部敬称略) トランプ前大統領以上にトランプ的。極右。反トランプから寝返った風見鶏──2024年大統領選挙の共和党副大統領候補J・D・バンス上院議員(40)への大方の評価、というより悪評だ。特に女性からは毛嫌いされている。妊娠中絶禁止を求める強硬姿勢や、子どものいない独身女性を批判したことへの反発はとりわけ厳しい。トランプ再選の足を引っ張るのでは、という観測さえある。 貧困からはい上がる ただ、こうした激しい批判は米国の大統領選挙に付き物だ。主流派メディアの民主党寄りの偏向(それに依存しがちな日本の報道)も割り引いて考えないと、選挙戦ばかりか米政治の見通しも見誤りかねない。 アパラチア山系地域の一角にあ
インターネットを通じた虚偽情報の拡散、特定の人や集団への悪意に満ちた攻撃…。誰もが情報を発信できるデジタル社会は、人々が内包する負の部分をさらけ出している。なぜ極端な言動が拡散するのか? その背景を考察する。 インターネット上で他者を誹謗(ひぼう)中傷する事件が絶えない。記憶に新しいところでは、新型コロナウイルス禍で感染対策やワクチン接種を呼びかけた医師らに対し、激しいののしりが交流サイト(SNS)で発信された事案だ。発言内容への批判だけでなく、容姿を中傷し、殺害予告のようなリプライ(投稿への返信)を送りつけたケースもあった。 「正義の味方」を自認する人々 コロナに関する有益な情報をネットで提供し続けながら、すさまじい誹謗中傷を受けた大阪大学の忽那賢志(くつな・さとし)教授や埼玉医科大学の岡秀昭教授らは、発信者についての情報開示を求めて裁判所に申し立てた。開示請求は認められ、一部の投稿者と
憲法に対する態度と安全保障のあり方をめぐる「保革対立」。この対立軸で成り立つ既存の政党政治の枠組みイメージは、40歳代以下の有権者にはもはや理解できなくなっているという。政治における「世代間ギャップ」の焦点を分析・解説する。 世代間で異なるのは「政党のイメージ」 政治に関する世代間ギャップを考えるとき、一般的に注目されるのは投票率の格差であろう。若年層の投票率が低いことはよく知られており、問題視されている。2021年総選挙における20代の投票率は36.50%で、60代の投票率71.43%の半分程度しかない。 政治家は投票に行くことを見込める有権者をより重視すると考えられるため、高齢者の意見が政治に取り入れられやすく若者の意見は軽視されやすいというシルバーデモクラシーが憂慮されている。さらにいえば、この投票率の差の含意は、日本の人口構成(若年層の人口は高齢層より少ない)によって増幅され、ます
訪日外国人にも人気がある和食のウナギ。ウナギの稚魚を人工的に大量生産する技術にめどがついた。「高嶺の花」が身近になる日が来るかも? 天然資源に頼っているニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)を人工的に大量生産する技術が確立された。年間4万~5万匹のシラスウナギの生産が可能になる。水産庁と同庁の研究機関「水産研究・教育機構」(横浜市)が発表した。今後民間企業などに技術を提供し、商業化を進める。 日本国内で流通しているウナギのほとんどは、天然のシラスウナギを養鰻(ようまん)場で育てたもの。シラスウナギの国内漁獲量は1980年代以降、低水準が続き、価格は高騰している。また、国内のウナギ流通量(2023年)の約65%が輸入だ。 同機構を中心とした研究グループは、母ウナギから毎週200万粒ほどの受精卵を安定して採取することに成功した。これを水槽に入れてふ化させ、「レプトセファルス」と呼ばれる仔魚(しぎょ
独立行政法人の日本学生支援機構(JASSO)が、2023年5月1日時点で海外からの留学生の状況を調査したところ、日本語学校に在籍する留学生は11年の調査開始以来、過去最多の9万719人だった。前年から約4万人増(83.6%増)となった。 大学や専門学校などを含めた留学生の総数は、前年比約4万8000人増(20.8%増)の27万9274人だった。留学生総数は19年の31万2214人をピークに減少が続いていたが、コロナ禍以後で初めて増加に転じた。 JASSOの担当者は「コロナ禍での水際対策などが緩和され、日本への留学を思いとどまっていた学生が戻ってきたのではないか」と話している。 留学生の出身国は、中国が最も多く11万5493人で全体の41.4%だった。ネパール3万7878人(13.6%)、ベトナム3万6339人(13%)、韓国1万4946人(5.4%)、ミャンマー7773人(2.8%)が続い
日本の農業総産出額は9兆円前後。これに対し農産物の輸入額は近年急増し、この金額を超える水準になっている。 農林水産省がこのほど公表した食料・農業・農村白書(2023年版)によると、22年の日本の農業総産出額は前年比1.8%増加し、9兆15億円となった。総産出額は、1990年代は10兆円前後あったが、近年は9兆円前後で推移している。 部門別の産出額内訳は、下図の通り。トップは畜産の3.5兆円(38.5%)、次いで野菜の2.2兆円(24.8%)、米は1.4兆円(15.5%)、果実が0.9兆円(10.3%)だった。米の産出額は主食用米から他作物への転換が進んだことで民間在庫量が減少し、取引価格が回復したことで、前年比1.8%の増加となった。 都道府県別の農業産出額をみると、1位は北海道で1兆2919億円、2位が鹿児島県で5114億円、3位は茨城県で4409億円、4位は千葉県で3676億円、5位は
イスラエルのネタニヤフ首相らに対し、国際刑事裁判所(ICC)の検察局が5月20日、逮捕状を請求したとのニュースは世界を揺るがした。ホロコーストを経て誕生した国家に、国際人道法違反の嫌疑がかかる事態をどう考えるべきか。ICCと日本をつなぐ活動に取り組んできた菅野志桜里・国際人道プラットフォーム代表は「法の支配」の貫徹を強く訴える。 現代の国際社会は、民主主義国と権威主義国の分断が進むとともに、米中主導の二項対立から距離を置こうとする国家群も少なくない。その結果、世界には幾つもの「ミシン目」が生まれ、放置すれば裂けてしまう危うさをはらんでいる。 「法の支配」が担うのは、こうしたミシン目を包摂し、再び結びつける役割だ。とりわけ国際法違反のコアクライムを処罰・抑止するICCは、「法の支配」における最後の砦と呼ぶべき存在である。 ホロコースト根絶が出発点 ICCとは、ジェノサイド(集団殺害)・戦争犯
日本の財政事情は、世界で最も深刻な状況にある。これに対し、国家は家計とは異なるのだから、心配する必要はないと論陣を張る政治家やエコノミストも存在する。財務省の前事務次官で神奈川大学特別招聘教授の矢野康治氏に話を聞いた。(聞き手 : ニッポンドットコム常務理事 谷定文) 矢野 康治 YANO Kōji 1962年生まれ。山口県出身。一橋大学卒。大蔵省入省、小樽税務署長、国家戦略室参事官、社会保障改革担当室参事官、内閣官房長官秘書官、主税局長、主計局長、財務事務次官など重要ポストを歴任する。退官後、神奈川大学特別招聘教授、日本生命保険特別顧問。 矢野氏は財務省きっての財政規律論者として知られ、歴代の政権幹部にも臆することなく直言してきた。次官在任中の2021年10月、月刊『文芸春秋』に寄稿した『財務次官、モノ申す「このままでは国家財政は破綻する」』では、自民党総裁選や衆院選をめぐる政策論争を「
脱炭素社会の実現に向け、EV(電気自動車)普及に大きくかじを切った欧州諸国。いまや中国による輸出車の半数近くを受け入れるようになり、対抗策も論じられるなど既存の政策は曲がり角を迎えている。 EVブームの終えん? マスクの品薄や外出自粛、半導体供給の逼迫(ひっぱく)などわれわれの日常を大きく変えたCOVID19がようやく去り、コロナ禍以前のようなにぎわいが街中に戻った2023年末から24年初めにかけ、EV(電動車)ブームの終えんを伝える報道が増えた。結論を先取りすれば、筆者はEVブームが終わったとは見ておらず、米欧における補助金由来の焼け太り的な需要が一服したのであり、EVは世界各地で堅調に売れ行きを伸ばし続けている認識だ。本稿では、中国製EVのグローバルな生産・販売に門戸を「開いてしまった」欧州諸国の経緯と現状、問題点を論じる。 「EVブーム」という言葉は、例えばウォール・ストリート・ジャ
世界各地の古書店街の中でも、東京・神田神保町は世界最大級といわれる。和本や浮世絵を扱う老舗からマンガ・アニメなどのサブカル系まで、さまざまな古本屋が軒を連ねる街を訪ねた。 パリのカルチエ・ラタン、ロンドンのチャリング・クロス・ロード、英ウェールズのヘイ・オン・ワイなど世界各地に古書街があるが、中でも神保町は世界一の規模といわれる。靖国通りと白山通りが交わる交差点を中心とした地域に、130軒もの古書店が集まっているからだ。 カレーと喫茶の街としても知られるが、カレーを食べるついでに、気軽に古本屋をのぞく本好きは、どれだけいるだろうか。特に老舗古書店は、店内に入るのに多少勇気を要するかもしれない。 春と秋の「古本まつり」は、古書街に親しむ良い機会だ。3月に開催された「春の古本まつり」に足を運び、靖国通り沿いの気になる書店を訪ねた。 「春の古本まつり」の光景。靖国通り沿いの歩道にさまざまな古本や
現在の中国から東ヨーロッパまで、ユーラシア大陸にまたがる版図を誇ったモンゴル帝国。13世紀にチンギス・ハンが創始者となった巨大帝国は、5代皇帝フビライ・ハンの治世になると、海を越え極東の島国・日本に攻め込んできた。今から750年前、日本は史上初めて海外から本格的な侵攻を受けたのである。 南下を迫られたフビライ 1206年、チンギス・ハンは武力でモンゴルの諸部族を統一。中央アジアの草原に大帝国がこつぜんと姿を現わした。2代皇帝オゴタイ以降も領土の拡大意欲は、とどまるところを知らず、最強の騎馬軍団が万里の長城を越えて華北の金を滅ぼした。さらに、ヨーロッパに手を伸ばしロシア諸侯国を支配下に入れたほか、41年には「ワールシュタットの戦い」でドイツ・ポーランド連合軍を撃破。間近に迫られた西欧キリスト教社会は大きな衝撃を受けた。 領土の広がりを今に伝えるのが、長崎県北部の鷹島(たかしま)沖海底で見つか
日本の日常にすっかり溶け込んだ異国の料理店。だが、そもそも彼らはなぜ、極東の島国で商いをしているのか──。東京・東十条にはバングラデシュ出身者が集まるコミュニティ「リトル・ダッカ」がある。この街のムスリムたちに人気の店「プリンスフードコーナー」の店主は、祖国では5つ星ホテルで腕を磨いた本格派。そんな凄腕が来日した理由とは。 知られざるエスニックフードの名店 東京都北区、万国旗がはためく昔ながらの東十条駅前商店街。この商店街には毎週金曜日になると、見慣れない服装に身を包んだ男たちがどこからともなく集まってくる。 頭にちょこんと載せた白い帽子と、首から手首、足首までを覆ったふっくらとした服装。あごひげをたくわえた人も少なくない。彼らはムスリムと称されるイスラム教徒たちで、駅から徒歩3分の小さなモスク「マディナ・マスジド東京」に吸い込まれていく。金曜日はイスラム教の礼拝が行われる、大切な一日だ。
台湾では1月の総統選挙で与党民進党の頼清徳氏が当選を果たし、政権継続が決まった。日台関係は非公式ながらも関係強化が近年進んできたが、先行きに不安がないわけでは決してない。最大の懸案事項は、日本政界で「親台湾」の立場を貫いてきた自民党の旧清和政策研究会(安倍派)勢力の弱体化である。 1月下旬、日本の国会議員でつくる台湾友好グループ「日華友好議員懇談会(日華懇)」が臨時総会を開き、台湾選挙の最新情勢について報告が行われた。総統選挙の際には日華懇の古屋圭司会長が訪台し、当選直後の頼清徳氏や蔡英文総統と会談している。その場で、古屋は蔡総統に「退任後の訪日」を呼びかけたという。 蔡英文総統は明確な回答はしなかったが「日本は大好きなのでいつか必ず訪れたい」と話したという。総統経験者の訪日といえば、思い出すのは2001年の李登輝訪日だ。当時、中国は大反対。日本政府も賛否両論割れて大騒ぎになった。当時朝日
キリシタン拷問の地として知られる「雲仙地獄温泉」。だが、熱湯漬けのほかに拷問方法はいくつもあった。こうした幕府の弾圧に耐えかねて蜂起したのが島原・天草一揆(島原の乱)。舞台となった原城(はらじょう)跡を訪ねると、古戦場を見下ろす丘に“名もなき殉教者”たちを悼む木彫りのマリア観音が立っていた。 歓迎から禁止、そして弾圧へ 小説『沈黙』の中で衝撃的なのはキリシタン拷問の場面だ。「雲仙地獄の熱湯漬け」「水磔(すいたく)」「穴吊り」と3つの方法が登場する。 いったいどうして、こうした拷問をしてまで、犯罪者でもない貧しい農民たちに棄教を迫ったのか。為政者を禁教に踏み切らせた動機は何だったのか。 フランシスコ・ザビエルが薩摩(鹿児島県)に上陸し、日本にキリスト教を伝えたのは1549年。時の権力者・織田信長はキリシタンを庇護し、京都や安土に南蛮寺(教会堂)やセミナリヨ(神学校)を設立する。強大な仏教勢力
世界最強の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)が2月24日、日本初の生産拠点となる熊本工場(熊本県菊陽町)で開所式を開いた。その直前には第2工場の建設計画が明らかになるなど、相次ぐ日本進出の背景には何があるのか。 日本に活路を求める台湾の事情 台湾の半導体メーカーが日本で次々と工場を建設している。最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が2月に熊本県で第2工場を建設すると発表したほか、宮城県でも別のメーカーが計画を進めている。一連の工場計画では半導体産業の再興など日本側の思惑ばかりに焦点が当たるが、これは台湾メーカーにとって副産物でしかない。もちろん、台湾海峡有事とも直接関係ない。せっかくの工場を有効活用するには、日本に活路を求める台湾側の事情を理解しておく必要がある。 熊本工場の開所式であいさつしたTSMC創業者の張忠謀氏(2024年2月24日、筆者提供) 「あなたは日本の歩留ま
「ビーフンをふるまってやっと辞去した」 1973年の初めての訪台でお会いした台湾本省人の知識人の中に葉榮鐘(1900-1978)さんという方がいた。これも台湾文学研究者の河原功さんが同道してくださって、3月6日、台中市内のご自宅にうかがったのである。写真はその時に撮らせていただいた奥様の施繊繊さんとのツーショットである。もう40年以上前の写真なのですっかり変色してしまった。 葉榮鐘・施繊繊さん夫妻(筆者撮影、1973年3月6日) 日付まで分かるのは、河原さんが旅日記を付けていたからであるが、実は葉榮鐘さんの日記に私たち二人の訪問についての記載があるからでもある。葉さんの遺稿は、既刊の著書や未公刊の日記、書簡、漢詩などを含めて、没後かなりの時間をかけて遺族が整理して、『葉榮鐘全集』(全9集11冊、台中:晨星出版、2002年)として刊行された。また、これらの遺稿の原本や蔵書は新竹にある清華大学
1月29日、漫画家の芦原妃名子(あしはら・ひなこ)さんの訃報が伝えられた。自身の漫画が原作の日本テレビ系ドラマ『セクシー田中さん』を巡って、同局側の内容改変への不信感から終盤の脚本を自ら執筆する異例の事態になった経緯を公表した直後のことだった。ネット上ではドラマ関係者への批判の声が高まり、日テレや原作を出版した小学館はそれぞれ事実関係を調査中だ。クリエイターが作品を守るために行動を取らざるを得なかった悲劇の背景には、どのような問題があるのか。 芦原さんは日テレに「必ず漫画に忠実に」と要請 日本テレビ系列で2023年10~12月にドラマ化された漫画『セクシー田中さん』の原作者、芦原妃名子さん(50)が1月29日、栃木県日光市内で亡くなっているのが発見された。報道によると、自宅からは遺書が見つかっており、警察は自死とみて調べを進めているという。 芦原さんはドラマ化を許可する際、原作の版元で著作
ウクライナ戦争では対ロシアで一致結束した欧州諸国。イスラエル・ハマスの戦闘を巡っては、各国の世論は分裂し、足並みの乱れが目立つ。 ロシア・ウクライナ戦争は、ウクライナに甚大な被害を与えるとともに、これまでにない結束を欧州にもたらすことにもなった。ロシアの軍事的脅威を前にして、欧州27カ国が集まる欧州連合(EU)や英国、ノルウェーなど各国の団結と連帯意識は、侵攻開始から2年近くを経ても、大枠では揺らいでいない。ハンガリーがウクライナ批判を繰り返すなど多少の脱線や確執があるとはいえ、欧州が一致して危機に立ち向かう態勢は、曲がりなりにも維持されている。 それだけに、昨年突如勃発したイスラエルとイスラム主義勢力ハマスとの軍事衝突では、欧州各国の足並みの乱れが、逆に目立つ。どちらの立場を支持するか、それほどの危機感を抱くか。各国の世論は分裂し、それぞれの政府の対応も定まらない。 欧州は今後、この紛争
ニューヨーク在住のノンフクション作家・譚璐美(たん・ろみ)氏が、このほど早稲田大学の公開講座で自著『帝都東京を中国革命で歩く』の講義を行った。20世紀初頭、中国人の日本留学がブームになった時代があったという。辛亥革命、さらには中国共産党の創設に際し、彼ら日本留学組が果たした役割は大きかった。来日中の譚氏に話を聞いた。 譚 璐美 TAN Romi ノンフィクション作家。東京生まれ、本籍は中国広東省。戦前、国共内戦の動乱で、日本に逃亡して早稲田大学で学んだ共産党員だった父親と、日本女性を母親に持つ。慶應義塾大学文学部卒、元慶應義塾大学文学部訪問教授。著書に『中国共産党を作った13人』『革命いまだ成らず』『中国「国恥地図」の謎を解く』等多数。 「強い日本」の秘訣を学ぼう 公開講座のテーマは、譚璐美氏の著書『帝都東京を中国革命で歩く』(2016年7月、白水社刊)を題材にしたものである。20世紀初頭
安定的な皇位継承に関し、岸田首相が10月の所信表明演説で国会での積極的な議論を呼びかけ、自民党は総裁直轄の検討組織を新設。国会でも約2年間棚上げされていた論議が動き出した。最大の焦点は「男系男子」に限定した皇位継承を維持するか、改正して「女性・女系」天皇を認めるのか。本格論戦を前に「男系男子」継承は金科玉条なのか、わが国本来の皇位継承について皇室研究者の高森明勅(あきのり)氏に聞いた。 高森 明勅 TAKAMORI Akinori 神道学者、歴史家、皇室研究者。1957年、岡山県倉敷市生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。専攻は神道学・日本古代史。大嘗祭の研究で神道宗教学会奨励賞を受ける。小泉純一郎内閣当時、「皇室典範に関する有識者会議」において8名の識者、皇室研究の専門家の一人としてヒアリングに応じる。著書に『「女性天皇」の成立』など。 女性だから天皇になれない 皇室典範
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