原発で働く年配の男性がいいます。「戦争中の神風特攻隊と同じようだと思ったな」▼藤林和子さんの小説、『原発の空の下』の一場面です。巨大な船底のようなタンク内の壁にへばりつき、原発の運転中にこびりついたすすを削り落とす作業。狭い足場の上で、道具をもち電気コードをひっぱり、恐る恐る横ばいにすすむ▼目標にたどりつき、壁を削ってはホースの水を注ぎ洗い流す。火の粉とたちこめる水蒸気で、なにもみえない。熱い。息苦しい。殺されそうだ。「そんな仕事のあとは、決まって放射能汚染の赤ランプが三度も四度も点滅するわな」▼『原発の空の下』は、実際の被ばく事件に取材した小説です。テレビや新聞で図解される原発の中の空気やにおい、光、装置の肌ざわりまで感じ取れます。なにより、電力会社の下請け労働者や季節労働者の仕事ぶりが生々しい。放射能まみれのヘドロを管からかき出す作業など、読んでいるだけで息苦しさを覚えます▼福島第1原