ベトナムのハノイで日本語教師をしている小松みゆきさんは、新潟県に住む母親を呼び寄せて、同居することを決意する。81歳の母親の認知症はかなり進んでいた。 ▼『ベトナムの風に吹かれて』(角川文庫)は、周囲の誰もが無謀だと反対した、海外介護の日常をユーモラスにつづったエッセーである。昨年には、松坂慶子さんの主演で、映画にもなった。松坂さんも、90歳を超えた母親と暮らしている。 ▼「ここはまだ雪が降らねか。あったけぇのぉ」。意外にも母親は、すぐに南国の生活になじんだ。とはいえ、毎日トラブルの連続だった。とりわけ母親が行方不明になると、小松さんは生きた心地がしなくなる。ベトナム、日本双方の知人が大騒ぎをしている最中、当の母親は日系のホテルに保護されて、ロビーでゆっくりお茶を飲んでいたりする。 ▼認知症患者の徘徊は、家族や介護施設にとって最も頭の痛い問題のひとつである。だからこそ、昨日の判決が注目され