子供のときに読んだ『ほらふき男爵の冒険』に、雪の深さにまつわる話があった。ロシアに向かう途中の男爵が雪野原で行き暮れ、突き出た木の先端に馬を繋(つな)ぎ雪の上で寝た。翌朝目を覚ますと雪はすっかり解けていて、馬は教会の高い塔のてっぺんからぶら下がっていた。 ▼よくできた「ほら」だが、こちらの雪の深さは決して「ほら」ではない。青森の八甲田山に近い温泉地、酸ケ湯(すかゆ)で5・5メートルを超す積雪を観測したというのだ。現在観測を続けている地点としては国内の新記録だそうだ。想像を絶する量である。 ▼八甲田山周辺は名だたる豪雪地帯だ。そこへ今世紀最強といわれる寒気が襲ったためだが、実は111年前の明治35年1月末の八甲田山も、大雪に見舞われていた。北海道の旭川で氷点下41度という日本の最低気温を生んだ記録的寒波のせいだった。 ▼その雪の八甲田山で青森の陸軍第5連隊の将兵210人が行軍を行った。しかし