◇『帰還の謎』=ダニー・ラフェリエール著、小倉和子・訳 (藤原書店・3780円) ◇『ハイチ震災日記』=ダニー・ラフェリエール著、立花英裕・訳 (藤原書店・2310円) ◇交錯と混在をたたえた詩文の豊かさ 久し振りに、すごい小説に出会ってしまった。いや、正確に言えば、この『帰還の謎』という作品を小説と呼んでしまっていいのかどうか迷ってしまうのだが。そもそも、こんな詩行で始まる小説というのがありうるのだろうか。 その知らせが夜をふたつに分かつ。 熟年になれば誰しも いつかは受け取る 避けがたい電話。 父が亡くなった。 そう語るのは作者のダニー・ラフェリエールであって、今はカナダのケベックで仕事をしている小説家である(一九五三年生まれ)。父はハイチの独裁政権に抵抗して、ニューヨークに亡命した。母や親戚はハイチに残っている。「ぼくは書いたものの中では/たえず母のもとに戻っている」。実は作者自身も