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イオンのウナギ取り扱い方針について 中央大学 海部健三 国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ 2018年6月18日、イオン株式会社がウナギの取り扱い方針を発表しました。この方針には、二つのの画期的な要素があります。一つは、ニホンウナギのトレーサビリティの重要性について、大手小売業が初めて公に言及したこと、もう一つは、世界に先駆けてウナギの持続的利用のモデルを開発しようとすることです。 イオンのウナギ取り扱い方針http://www.aeon.info/news/2018_1/pdf/180618R_1.pdf これまでの状況 「ウナギの資源回復」をうたい自ら取り組みを行うか、または取り組みに対して資金を提供している小売業者や生活協同組合は複数あります。それらの業者が関与する取り組は通常、石倉カゴなどの成育場回復、放流、完全養殖への資金提供であり、業者が利益
投稿日: 2018年4月3日 | 日本初 持続的なウナギ養殖を目指す 岡山県西粟倉村エーゼロ株式会社の挑戦 はコメントを受け付けていません 日本初 持続的なウナギ養殖を目指す 岡山県西粟倉村エーゼロ株式会社の挑戦 2018年4月2日は、ニホンウナギにとって記念すべき日となりました。この日ついに、客観的な指標に基づいて、持続的なニホンウナギの養殖に取り組むことを、ある企業が発表したのです。 持続的なウナギ養殖を目指すのは、岡山県北部の西粟倉村にあるエーゼロ株式会社です。エーゼロ株式会社は、持続的な水産養殖の認証制度を運営する水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council, ASC)の基準に従い、近々認証機関による審査を受けることを予定しています。ASCの審査によってギャップ(解決すべき課題)を明らかにし、「持続的なニホンウナギの養殖」という、遠い遠いゴー
投稿日: 2018年4月2日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その9 まとめ 研究者の責任 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その9 まとめ 研究者の責任 要約 特定の分野については、日本はウナギの研究で世界をリードしている。しかし、持続的利用に直結する研究では、大幅に遅れをとっている。 ニホンウナギに関する研究は基礎研究に偏り、適切な応用研究が進められていなかったことが、その理由。 「ニホンウナギの持続的利用」そのものを明確な目的に設定した、適切な応用研究を押し進めることが必要。 研究者、特に大学所属の研究者には、政治的、経済的に独立した立場より、科学的知見と信念に基づいて、必要と考える対策を提案する責任がある。 日本におけるウナギ研究の現状 3月末をもって、2018年漁期のシラスウナギの採捕はおよそ終了しました。
投稿日: 2018年3月26日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その8 ウナギに関わる業者と消費者の責任 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その8 ウナギに関わる業者と消費者の責任 中央大学 海部健三 国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ 要約 ウナギの生産と流通に関わる種々の業界のうち、最も影響力が強いのは養殖業者である。このため、ウナギ問題に関する養殖業者の責任は大きい。 現在の養殖業者の一部には、シラス密漁への関与や黙認など、無責任な言動が見られる。将来20年、30年と現役を続ける世代が将来像を議論し、業界を牽引すべき。 消費者と直接関わる小売業者と蒲焼商は、養殖業者へ消費者の声を届ける役割を果たすことができる。 消費者の役割は、ウナギに関わる業界と政治に、ウナギの問題を解決す
投稿日: 2018年3月19日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その7 行政と政治の責任 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その7 行政と政治の責任 中央大学 海部健三 国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ 要約 シラスウナギの漁獲枠は過大で実質的には取り放題にもかかわらず、水産庁は『シラスウナギは管理できている』と主張。 科学的な消費上限の算出を困難にしているにもかかわらず、水産庁は『闇流通はシラス高騰につながるものの、資源管理とは別問題』と主張。 水産庁は優先順位が低く、科学的根拠に乏しい「石倉カゴ」の設置を推進。 高知県と鹿児島県は、持続的利用とは正反対の方向に向かう、シラスウナギ漁期の延長を決定。 ウナギ問題は水産行政の対応能力を超えており、政治によるリソースの提供が欠かせ
投稿日: 2018年3月5日 | 2018年漁期シラスウナギ採捕量の減少について その6 新しいシラスウナギ流通 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その6 新しいシラスウナギ流通 中央大学 海部健三 国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ 要約 国内で養殖されているウナギのおよそ半分は、密漁、密売、密輸など、違法行為を経たシラスウナギから育てられている。 違法なウナギと合法のウナギは養殖場で混じり合い、消費者に提供される段階では区別することができない。違法な養殖ウナギを避ける唯一の方法は、ウナギを食べないこと。 密漁や密売には、反社会的集団だけでなく、一般的な個人や業者も関わっている。むしろ、その割合の方が高い可能性もある。 シラスウナギ採捕者に対して、指定業者に市場より安い価格で販売を強制する「受給契約
投稿日: 2018年2月26日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その5より効果的な放流とは はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その5 より効果的な放流とは 中央大学 海部健三 国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ 要約 日本の河川や湖では、漁業法で定められた「増殖義務」の履行として、大量のウナギが放流されている。 ウナギの放流は、外来種の侵入、病原体の拡散、性比の撹乱、低成長個体の選抜などを通じて、ウナギ個体群に悪影響を与えるリスクが想定される。 放流された個体が外洋における再生産を通じて、ウナギ資源量を回復させる効果は、ほとんど明らかにされていない。 リスクを考慮した時、新しくウナギの放流を始めるべきではない。また、環境学習の素材として利用すべきではない。 既存のウナギ放流を改善す
投稿日: 2018年2月19日 | 2018年漁期シラスウナギ採捕量の減少について その4 ニホンウナギの保全と持続的利用を進めるための法的根拠 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その4 ニホンウナギの保全と持続的利用を進めるための法的根拠 海部健三 中央大学法学部 国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ 要約 複数の国に分布する国際資源であるニホンウナギを保全するには、関係各国が国内法を整備するための根拠となる条約が必要 第67条「降河性の種」を含む国連海洋法条約は、ニホンウナギの保全と持続的利用の推進に資する可能性が高い ニホンウナギの漁獲量の管理、および成育場環境回復に関する対策は、国連海洋法条約を遵守しているとは考えにくい 保全の先進国EUと東アジアの違い ウナギの保全に向けた取り組みが最も進んで
2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その3 生息環境の回復 〜「石倉カゴ」はウナギを救うのか?〜 投稿日: 2018年2月12日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その3 生息環境の回復 〜「石倉カゴ」はウナギを救うのか?〜 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その3 生息環境の回復 〜「石倉カゴ」はウナギを救うのか?〜 中央大学 海部健三 要約 ニホンウナギの個体群サイズを回復させるためには、生息環境、特に成育場である河川や沿岸域の環境の回復を通じて、再生産速度を増大させる必要がある。 河川環境について、優先して取り組むべきは局所環境の回復よりも、河川横断工作物による遡上の阻害の解消。 「石倉カゴ」はあくまで採集器具であり、ニホンウナギの再生産速度の増大に貢献するとは考えにくい。 生息環境と再生産速度
投稿日: 2018年2月5日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その2:喫緊の課題は適切な消費量上限の設定 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その2:喫緊の課題は適切な消費量上限の設定 中央大学 海部健三 要約 ニホンウナギを持続的に利用するためには、利用速度を低減し、再生産速度を増大させることが必要。 利用速度の低減は漁獲量制限によって、再生産速度の増大は生息環境の回復によって実現することが可能。より短期的な効果が期待できるのは、漁獲量の制限による利用速度の低減。 養殖に利用するシラスウナギの上限(池入れ量の上限値)は、実際の採捕量と比較して過剰。早急に削減するとともに、科学的知見に基づいて池入れ量上限を設定するシステムを確立するためのロードマップの策定が必要。 完全養殖技術の商業的応用が実現されても、適切な池入れ量の上
中央大学法学部 海部研究室です。水辺の生物多様性と生態系サービスの回復,特にウナギの保全と持続的利用を目指して活動しています。 NEWS 2021年1月14日 日本のシラスウナギ輸出規制緩和の方針を受け、記事「シラスウナギ密輸「香港ルート」問題、解決へ向かう」を公開しました。 2019年7月9日 市民参加型調査「第7回旭川うなぎ探検隊」(岡山県旭川)の参加募集が開始されました。参加申し込みは往復葉書かメールで受け付けています。詳しくは以下のチラシをご覧ください。締め切りは8月19日、希望者多数の場合は先着順となります。旭川うなぎ探検隊については、リンクをご覧ください。 旭川協働調査2019チラシ 2019年7月9日 7月18日に岩波書店より「結局、ウナギは食べていいのか問題」(海部健三 著)が発売されます。ニホンウナギをめぐる様々な質問を想定し、最新の知見をもとにお答えする形になっています
投稿日: 2018年1月22日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について 序:「歴史的不漁」をどのように捉えるべきか はコメントを受け付けていません 2017年末から2018年1月現在までの、シラスウナギの採捕量は前年比1%程度と、極端に低迷しています。この危機的な状況を受け、当研究室では「2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について」と題し、全6回程度の連載で、課題の整理と提言を行うこととにしました。初回は序章「「歴史的不漁」をどのように捉えるべきか」として、不漁の要因の捉え方について考えます。 「シラスウナギ歴史的不漁」報道 2017年末から、ウナギ養殖に利用するシラスウナギの不漁が伝えられています。 「シラスウナギ不漁深刻 県内解禁15日、昨年比0.6%」(宮崎日日新聞 2017年12月27日) 「極度の不漁 平年の100分の1、高騰必至」(毎日新聞 2018年1月1
2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その1:ニホンウナギ個体群の「減少」 〜基本とすべきは予防原則、重要な視点はアリー効果〜 投稿日: 2018年1月29日 | 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その1:ニホンウナギ個体群の「減少」 〜基本とすべきは予防原則、重要な視点はアリー効果〜 はコメントを受け付けていません 2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その1:ニホンウナギ個体群の「減少」 〜基本とすべきは予防原則、重要な視点はアリー効果〜 中央大学 海部健三 ニホンウナギの個体群サイズが現時点でも縮小を続けていることは、「科学的」に証明されていない。ニホンウナギ個体群サイズの縮小の主要因についても、科学的根拠に基づいて、高い確度で特定することはできない。 予防原則に基づき、ニホンウナギの個体群サイズは縮小を続けていると想定し、適切な対策を講じるべ
シラスウナギ密輸「香港ルート」問題、解決へ向かう 中央大学 海部健三 国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ 要約 日本と台湾はウナギの稚魚(シラスウナギ)の輸出を規制している。 台湾などから輸出規制をかいくぐったシラスウナギが香港へ密輸され、その後香港から日本へ合法的に輸入されている。 日本と台湾相互の輸出規制の緩和を目指し、日本が先行してシラスウナギの輸出規制を緩和する予定。 日本と台湾の輸出規制が緩和されることによって、不必要な違法行為が減少し、シラスウナギの国際取引が適切に記録される可能性が高まる。 日本におけるシラスウナギ輸出規制緩和 2021年1月13日未明、日本がウナギの稚魚の国際取引規制を緩和するというニュースがNHKより報じられました。食用とされるウナギのほとんどは養殖されたものですが、ウナギの養殖では、海で生まれた天然の稚魚(シラスウナギ
投稿日: 2016年12月5日 | シラスウナギ密輸の裏にあるのは「無意味な規制」 −NHKクローズアップ現在+を見て− はコメントを受け付けていません 2016年12月1日、NHKのクローズアップ現代+で「”白いダイヤ”ウナギ密輸ルートを追え!」が放映されました。番組では、養殖に用いるシラスウナギが、輸出を制限している台湾から香港を経由して日本へと輸出されている状況を指摘しています。シラスウナギ密輸が横行している理由としては、日本における土用の丑の日の集中的な消費との関連が、番組内で強く示唆されました。しかし、実際は輸出制限の存在自体に問題があり、さっさと撤廃してしまうのが最善の選択のようです。 香港「密輸」ルート 番組で紹介されている通り、毎年日本には香港から大量のシラスウナギ(子どものウナギ)が養殖のために輸入されます。香港ではシラスウナギの漁獲は行われていないと考えられており、その
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将来もウナギと人間が仲良く付き合っていくためには、一人ひとりの行動が重要です。意思決定に役立ててもらうため、ニホンウナギに関する基礎的な情報を整理しました。
投稿日: 2016年9月26日 投稿者: 海部 健三 | ワシントン条約CoP17にてウナギ調査提案が採択されたことに寄せて はコメントを受け付けていません 中央大学の海部健三です。2016年9月25日、南アフリカで開催されているCITES(通称ワシントン条約)の第17回締約国会議(CoP17)において、ニホンウナギを含む全ウナギ属魚類の資源管理や流通に関する調査を行うEUの提案が、全会一致で採択されました(NHK「おはよう日本」)。この件について、考えを記します。 なお、EU提案の内容やワシントン条約の意味、ニホンウナギの置かれている状況については、過去の記事をご覧下さい。 調査提案の意味 今回、すでに附属書IIに掲載されているヨーロッパウナギをのぞく15種のウナギ属魚類を、附属書に追加する提案はありませんでした。提案され、採決されたのは、あくまで個体群サイズや消費、流通の現状に関する調
個体数の減少が問題となっているニホンウナギですが、養殖に用いるシラスウナギは高値で取引されるため、密漁・密輸が後を絶たないことが指摘されています。それでは、どの程度の割合が密漁・密輸されたもので、街の鰻屋さんや、スーパーや、牛丼店のウナギを食べたとき、密漁されたウナギ、密輸されたウナギを食べてしまう確率は、どの程度あるのでしょうか。情報が限られたなか、正確な推測を行うことは困難ですが、重要な問題なので、入手可能な数値を用いて考えてみました。 水産庁の数値と都府県行政の数値 用いる数値は二つあります。一つは、水産庁が利用している国内のシラスウナギ漁獲量(行政用語としては「採捕量」ですが、ここでは「漁獲量」と表記します)。もう一つは、業界紙である日本養殖新聞が、シラスウナギ漁を行っている25都府県の行政に問い合わせてまとめた、国内のシラスウナギの漁獲量です。本来同じものを指している二つの数値で
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レトリックは,古典的には (1) 発想,(2) 配置,(3) 修辞(文体),(4) 記憶,(5) 発表の5部門に分けられてきた.狭義のレトリックは (3) の修辞(文体)を指し,そこでは様々な技法が命名され,分類されてきた.近年,古典的レトリックは認知言語学の視点から見直されてきており,単なる技術を超えて,人間の認識を反映するもの,言語の機能について再考させるものとして注目を浴びてきている. 瀬戸の読みやすい『日本語のレトリック』では,数ある修辞的技法を30個に限定して丁寧な解説が加えられている.技法の名称,別名(英語名),説明,具体例について,瀬戸 (200--05) の「レトリック三〇早見表」を以下に再現したい. 名称別名説明例
現代英語には,原則として <u> の文字で終わる単語がない.実際には借用語など周辺的な単語ではありうるが,通常用いられる語彙にはみられない.これはなぜだろうか. 重要な背景の1つとして,英語史において長らく <u> と <v> が同一の文字として扱われてきた事実がある.この2つの文字は中英語以降用いられてきたし,単語内での位置によって使い分けがあったことは事実である.しかし,「#373. <u> と <v> の分化 (1)」 ([2010-05-05-1]),「#374. <u> と <v> の分化 (2)」 ([2010-05-06-1]) でみてきたように,分化した異なる文字としてとらえられるようになったのは近代英語期であり,辞書などでは19世紀に入ってまでも同じ文字素として扱われていたほどだった.<u> と <v> は,長い間ともに母音も子音も表わし得たのである. この状況におい
標題の趣旨の質問が寄せられたので,この問題について歴史的な観点から考えてみたい.現代英語の動詞には,過去の出来事を表わすのに典型的に用いられる過去形がある.同様に,現在(あるいは普遍)の習慣的出来事を表わすには,動詞は典型的に現在形で活用する.しかし,未来の出来事に関しては,動詞を未来形として屈折させるような方法は存在しない.代わりに will, shall, be going to などの(準)助動詞を用いるという統語的な方法がとられている.つまり,現代英語には統語的な未来形はあるにせよ,形態的な未来形はないといってよい.単に「未来形」という用語では,統語,形態のいずれのレベルにおける「形」かについて誤解を招く可能性があることから,現代英語の文法書ではこの用語が避けられる傾向があるのではないか. (準)助動詞を用いる統語的,あるいは迂言的な未来表現は,おそらく後期古英語以降に will
[2009-07-09-1]で,日本語話者ならずとも [r] と [l] の交替は起こり得たのだから,両者を間違えるのは当然ことだと述べた.今回は,まったく同じ理屈で [b] と [v] も間違えて当然であることを示したい. まず第一に,[b] と [v] は音声学的に非常に近い.[2009-05-29-1]の子音表で確かめてみると,両音とも有声で唇を使う音であることがわかる.唯一の違いは調音様式で,[b] は閉鎖音,[v] は摩擦音である.つまり,唇の閉じが堅ければ [b],緩ければ [v] ということになる. 第二に,語源的に関連する形態の間で,[b] と [v] が交替する例がある.古英語の habban ( PDE to have ) の屈折を見てみよう. のべ20個ある屈折形のうち,8個が [b] をもち,12個が [v] をもつ(綴り字では <f> ).現代英語で hav
日本語ひらがなの五十音図といえば,言わずと知れた下表を指す. * わらやまはなたさかあ (ゐ)り みひにちしきい るゆむふぬつすくう (ゑ)れ めへねてせけえ をろよもほのとそこお 旧仮名遣いの「ゐ」と「ゑ」を含めても実際には50の異なる音(モーラ)を表してはおらず,表の中に穴もある.だが,5×10の表におよそまとめられるという意味で,五十音図と呼び習わされている.五十音図は,ひらがなの学習に活躍するのみならず,上一段活用や下二段活用など現代日本語や歴史日本語の文法記述にもなくてはならない存在であり,日本語のなかに占める位置は大きい.にもかかわらず,なぜこの並び順なのかが広く問われることはない. 実は,この見慣れた五十音図の背後には,調音音声学の原理が隠されている.この話題について大名 (2--12) が丁寧かつ易しく解きほぐしているので,是非そちらを参照してもらいたいが,原理の概要
「#1537. 「母語」にまつわる3つの問題」 ([2013-07-12-1]) や「#1926. 日本人≠日本語母語話者」 ([2014-08-05-1]) で「母語」という用語についてあれこれと考えた.一般に言語(学)のディスコースには,「母」がよく顔を出す.「母語」や「母方言」はもとより,比較言語学では諸言語の系統的な関係を「母言語」「娘言語」「姉妹言語」と表現することが多い.なぜ「父」や「息子」や「兄弟」ではないのかと考えると,派生関係を表わす系統図では生む・生まれる(産む・産まれる)の関係が重視されるからだろうと思われる.言語の派生においては,男女のペアから子が生まれるという前提はなく,いわば「単為生殖」(より近似した比喩としてはセイヨウタンポポなどに代表される「産雌単為生殖」)である.これに関連しては「#807. 言語系統図と生物系統図の類似点と相違点」 ([2011-07-1
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