「奪還」 [著]城内康伸 敗戦時の外地からの引き揚げで、一般邦人がいかに過酷な体験をしたかは数多く語られてきた。本書もその系列に属するが、類書と異なるのは二つの特徴があるからだ。 ひとつは、松村義士男という一民間人が、北朝鮮からの集団帰国を実現させたという事実。もうひとつは、近代日本の植民地政策の無惨(むざん)な結末が浮かび上がるという歴史的現実。大きく言えば国策の誤りを個人で負うというのがテーマである。 敗戦時、北朝鮮地域にはおよそ25万人の日本人が住んでおり、敗戦前後に旧満州から7万人の避難民がなだれ込んだ。北緯38度線の事実上封鎖、脱出禁止などで、帰還のメドが立たないとき、松村ら個人がソ連などと話をつけ、38度線以南に避難民を送り込んだ。驚くことに、引き揚げが公認された1946年12月、北朝鮮には8千人が残っていただけであった。 この裏には松村だけでなく、日本人協力者がいるわけだが、