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南米エクアドル領のガラパゴス諸島の一つ、フェルナンディナ島近くに広がる冷たく澄んだ海。ガラパゴスペンギンが、アオウミガメやウミイグアナと一緒に泳ぐ。(PHOTOGRAPH BY TUI DE ROY, NATURE PICTURE LIBRARY) 地球上でも屈指の過酷な環境に生きるペンギンは進化の奇跡だ。科学は今、その秘密を次々に解き明かそうとしている。環境の激変にしなやかに適応するその驚異的な姿は、急速に変化する世界で生き延びる知恵を私たちに授けてくれる。 1.新しい環境に飛び込むには? ペンギンは6000万年余りも、天性の探究心にかられて生息地の開拓に挑んできた。今も思いがけない場所に姿を見せている。 生物学者のパブロ・ボルボログルが南米パタゴニア地方東岸の人里離れた土地を初めて訪れたのは2008年のこと。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでアルゼンチン出身のボルボログル
ヒッタイトの神々の行進。ヒッタイト帝国の都ハットゥシャ近郊にある、王家の霊廟と思われる建物の壁に刻まれている。現在のトルコ中部に位置したこの古代都市は、紀元前1180年頃に放棄された。今、その理由を探る研究が進んでいる。(PHOTOGRAPH BY EMIN ÖZMEN) *遺跡および遺物はトルコ文化観光省の許可を得て撮影 現在のトルコとその周辺に洗練された都市群を築いたヒッタイト帝国。あるとき歴史から姿を消し、数千年にわたって忘れ去られていた。しかし近年、新たな発見が相次ぎ、謎めいた古代帝国の伝説がよみがえろうとしている。 現在のトルコ中部に位置する険しい丘陵地帯に築かれた、ヒッタイト帝国の都ハットゥシャ。この都市を最盛期に見た人々は、深い畏敬の念を抱いたに違いない。日干しれんがの高い壁に囲まれ、7000人の人口を擁し、広大な神殿群や、数キロ先からも見える立派な石造りの城壁を備えていた。
野生化したラクダは、大きな群れで移動することも多く、脆弱な生態系にダメージを与える。この写真のラクダは、スキンケア用品の原料にするミルクを搾るために飼われている。(PHOTOGRAPH BY MATTHEW ABBOTT) オーストラリア内陸の乾燥地帯では、19世紀に持ち込まれたラクダが野生化し、増加してきた。だが干ばつが頻発する今、ラクダと人間との不幸な衝突が増えている。 オーストラリア内陸部で牧場を経営しているジャック・カーモディー。彼はこれまで、牛の給水設備の修理やフェンスの補強、“不法侵入者”の駆除など、牧場での仕事の様子をユーチューブに投稿し、多くのフォロワーを獲得してきた。牧場には、野生化した馬やロバのほか、とりわけ破壊力の大きい侵略的外来種、ラクダが侵入してくる。 19世紀の植民者によって、広大な内陸部を調査する際の足として連れてこられたラクダは、今では内陸の乾燥地帯に大混乱
新たに報告された「ボーン・コレクター」のイモムシは、体の周りに吐糸で携帯巣を作り、クモの巣から拾い集めた昆虫の死骸のパーツで飾り立てている。この個体は少々飾りすぎたかもしれない。甲虫の翅のような大きなパーツは残っているが、一部は落ちてしまっている。パーツが大きすぎると、携帯巣が蜘蛛の巣に引っかかってしまうこともある。(Photograph By Dr. Daniel Rubinoff) 昆虫の死骸を集める「ボーン・コレクター」のイモムシが発見された。昆虫の死骸から取ったパーツで「携帯巣」を飾るガの幼虫だ。肉食の彼らはクモの巣に掛かった餌を横取りし、不気味な巣のおかげでクモに気づかれずにクモのそばで暮らせると考えられている。この新種の肉食イモムシと不思議な行動についての論文は学術誌「サイエンス」に4月24日付けで発表された。 イモムシの大きさは体長1センチほど。よく見ると、アリの頭部、ハエの
アオザメに乗るタコ。ニュージーランド沖で撮影。(VIDEO: UNIVERSITY OF AUCKLAND) 自然の中で長く過ごしていると、奇妙な光景を目にすることもある。サケを帽子のようにかぶるシャチや、ウォンバットの立方体のふんなどだ。しかし、ロシェル・コンスタンティン氏がニュージーランドのハウラキ湾で調査船に乗っていたとき、これは新たな発見だと確信する出来事があった。目の前を猛スピードで通過した体長約2.75メートルのアオザメの頭に、巨大なオレンジ色のタコがくっ付いていたのだ。 「まさに幸運な一日でした」と、ニュージーランド、オークランド大学の海洋生態学者であるコンスタンティン氏は振り返る。 サメとタコは同じ海の動物だと思うかもしれないが、氏によれば、両者の生息環境は全く異なる。例えば、アオザメはほとんどの時間を海の中層部で過ごすが、この海域にすむマオリタコは生まれてから死ぬまでほぼ
デイノスクスは巨大なワニで、白亜紀後期、湿地の頂点捕食者だった。復元図は、現在の米国ユタ州にある岩石層から発見されたDeinosuchus hatcheri。ハドロサウルスの一種Rhinorex condrupusにかみ付いている。(ILLUSTRATION BY JULIUS T CSOTONYI / SCIENCE PHOTO LIBRARY) 約7500万年前、北米で最も大きくて恐ろしい肉食動物は、恐竜ではなくワニだった。ラテン語で「恐ろしいワニ」を意味するデイノスクスは体長10メートル、体重5トンに達することもあった。骨の化石に残されたかみ跡から、恐竜を捕食していたことは明白だが、デイノスクスがなぜこれほど大きくなり、捕食者として広く君臨したかは謎だった。(参考記事:「恐竜を襲う巨大な古代ワニの生態」) 2025年4月23日付けで学術誌「Communications Biology
2022年のノーベル賞受賞に象徴されるように、いま古代のヒトのDNAの研究が盛んに行われており、新しい事実が次々と明らかになっている。そこで、古代の日本列島に住んでいた人たちについて知りたくて、2025年春に国立科学博物館で開かれている特別展「古代DNA―日本人のきた道―」の監修者である神澤秀明さんの研究室に行ってみた!(文=川端裕人、写真=内海裕之)
教皇フランシスコの横顔。(Photograph by Stefano dal Pozzolo, Contrasto) 2013年3月の就任以来、世界中のカトリック教徒を導いてきたローマ教皇フランシスコ(88歳)が、4月21日、バチカンで死去した。彼の教皇選出は「初」づくしだった。南米の出身者として初、ヨーロッパ以外の生まれとしても過去1200年で初、そしてイエズス会の出身者としても初めての教皇だった。 就任後もさまざまな分野で新たな道を切り開き、バチカンに大きな変化をもたらした。教会指導部のエリート層と一般信徒との間に広がりつつあった深い溝に橋を架けることに注力し、長年受け継がれてきたカトリックの伝統や習慣に新風を吹き込んだ。 ブエノスアイレスでの小学校時代。3列目の左から4人目が、のちに教皇フランシスコとなるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ。(Photograph by Franco Orig
船泊23号の復顔像。目が茶色くて顔色が濃いめだったことは前回紹介したが、酒の強さや現代のどのアジア人と近縁なのかなども判明した。国立科学博物館の特別展「古代DNA―日本人のきた道―」の展示より。(撮影:編集部) 縄文人の人骨としては、異例なほど保存状態がよかった船泊23号からは、現代人なみの精度でゲノムが得られた。そして、いわゆる一塩基多型の違いに基づいた風貌まで再現された。 人の風貌というのは、非常に印象深いものだから、船泊23号の復顔は、国立科学博物館の特別展「古代DNA」においても、まさに「顔」役として起用されている。 しかし、古代ゲノム研究の射程は、それにとどまらない。船泊23号のゲノムからわかる特徴には、容貌といったものだけでなく、3800年前の礼文島での暮らしぶりに直結するものもあった。引き続き、神澤さんに話を聞く。 「船泊23号は、脂肪代謝に関わるCPT1A遺伝子に特別な変異
「古代DNA―日本人のきた道―」と題された特別展が、国立科学博物館にて開催されている。 古代DNAとは、古い骨などに残っているわずかなDNAのことで、長い年月の間にバラバラに断片化し、また変性していることが多い。それらをうまく増幅して読み、修復して、つなぎ合わせる技術が、ここ10年〜20年のうちに大きな進歩を遂げた。保存状態のよい古代人骨からDNAを抽出できれば、遺伝情報の全体、つまり「ゲノム」を解明できることもある。 この分野で、もっともよく知られている研究は、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所、スバンテ・ペーボさんらによるネアンデルタール人のゲノム解析だろう。数万年前の骨からネアンデルタール人のゲノムを決定することに成功しただけでなく、現生人類(ホモ・サピエンス)のうちアフリカ以外の人々のゲノムに、ネアンデルタール人から受け継いだ部分が1~4パーセント含まれることを示した。これ
ブラジル、リオデジャネイロにあるメンベカ・ラゴス農園のアカエリシトド(Zonotrichia capensis subtorquata)。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 南米に生息するアカエリシトド(Zonotrichia capensis)は、薄茶色または白っぽい体に黒い斑点がある小さな鳥だ。オスはきわめて特徴的な鳴き方をする。その歌は、親世代から子世代へと受け継がれてきた。しかし、生息地が失われたり、個体数が減ったり、教師役の成鳥がいなくなるなどして学びの糸が断ち切られてしまったらどうなるのだろうか。 2020年から2023年にかけて、アルゼンチン、ブエノスアイレス大学精密・自然科学部の研究者たちは、野生から失われたアカエリシトドの歌を、ロボットを使って再導入するという大胆な仕事に取り組み、成功させた。この研
新しい研究によると、渇望はしばしば記憶に根ざしているようだ。科学者たちは、脳が高カロリー食品のことを記憶していて、私たちが空腹でないときにさえ食べてしまうものに密かに影響を及ぼしている可能性があることを発見した。(PHOTOGRAPH BY HEATHER WILLENSKY, THE NEW YORK TIMES/REDUX) 高カロリーの食べ物への食欲を促すこれまで知られていなかった脳内の回路が、マウスを使った実験で見つかった。1月15日付で学術誌「Nature Metabolism」に発表された研究によると、海馬という記憶をつかさどる脳の部位にある特定のニューロン(神経細胞)集団は、糖分や脂肪分にまつわる感覚や感情を記録していることが分かったという。マウスでは、これらのニューロンが食べ物への渇望を誘発して、食べ過ぎにつながっていた。 渇望は、マウスが空腹でないときにも見られた。しかし
認知機能の低下にはさまざまな原因があることが、認知症の診断を困難にしている。写真のような陽電子放出断層撮影(PET検査)はアミロイドベータのプラークを可視化でき、認知症の診断や種類の判別に役立つ。(PHOTOGRAPH BY ISADORA KOSOFSKY, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 米カリフォルニア大学バークレー校の著名な統計学者スティーブ・セルビン氏は、70代になった頃から彼らしくない言動をするようになった。過去の話はできるのに、現在の話は不思議なほどできなかったのだ。娘のリズ・セルビン氏は、「私たちは、退職後の不安やうつ病のせいだろうと思っていました」と語る。 セルビン氏の行動は徐々に変わっていったため他の精神疾患と間違えられやすかったが、これは認知症の症状だった。氏は認知機能の低下を巧妙にとりつくろっていたが、やがて隠せなくなったとリズ氏は言う。知らない
ヒトの神経系。直観を使って意思決定を行う際に重要な役割を果たす。(ILLUSTRATION BY MAGICMINE, ALAMY STOCK PHOTO) 危機的な状況での一瞬の判断であれ、新しい仕事を引き受けるといった大きな決断であれ、人生には、すべての情報がそろわない状態で意思決定を迫られる場面がよくある。このようなとき私たちは、直観に頼ることが多い。無意識の知識が正しい道を選ぶ助けになるかもと期待して。 直観とは、辞書的に言えば、明白な論理的思考や推論を経ることなく、知識を得たり、決断したりする能力だ。学問的には中身をはっきり説明することも研究も難しいとされ、長い間、神秘的なもののように扱われてきた。だが、科学者たちは、直観をより深く理解しようと取り組んでおり、新たな定義さえも生み出している。 「私なりの(直観の)定義は、身についた無意識の情報を、より良い意思決定や行動の助けとなる
禁酒法時代の1930年代、米メリーランド州でウイスキーを分け合う2人の若者。この時代、飲酒は命にかかわることだった。米国政府は、違法な飲酒を抑制するため、産業用アルコールに有毒物質を添加した。それによる死者数は数万人とも言われている。(Photograph By Kirn Vintage Stock/Corbis, Getty Images) 米ミシシッピ州ジャクソンのブルース歌手、イシュマン・ブレイシーが自分の酒をついだとき、米国じゅうの酒のみならず、自分の運も尽きていたことなど知るよしもなかった。数週間後、彼の脚がうずきはじめた。ポリオが流行っているという噂だったので、病院に駆け込んだが、原因はポリオウイルスではなく、毒だった。 なぜそんなことが起きたのか? 政府が酒を違法とするだけなく、致命的な毒に変えていたからだ。 「高貴な実験」と呼ばれる禁酒法の時代には、すべてのアルコールが禁止
南大西洋の水深約600メートルを泳ぐダイオウホウズキイカ(Mesonychoteuthis hamiltoni)。(解説は英語です) 自然界で最も見ることが難しい動物の一つで、最も重いイカであるダイオウホウズキイカは、マッコウクジラの胃から死骸が発見され、初めて同定された。それから100年がたった今、自然の海洋環境を泳ぐダイオウホウズキイカが初めて動画に収められた。 3月9日、米シュミット海洋研究所の調査船ファルコー2号は、国際的な海洋生物調査の一環として、南大西洋のサウスサンドウィッチ諸島からほど近い極寒の海を調査していた。遠隔操作無人潜水艇(ROV)を水深600メートル地点に送り込んでいたとき、カメラの前をイカが横切った。 調査団と外部の専門家が動画を検証し、驚くべき結論に達した。「これはダイオウホウズキイカを深海の生息地で撮影した初めての動画です」とニュージーランド、オークランド工科
スイッチOTC (オーティーシー)という医薬品をご存じだろうか。読者の方々の中にも、お世話になっている人が多数おられるはずだ。 OTCは「Over The Counter」の略で、OTC医薬品とは薬局やドラッグストアで「カウンター越しに」、つまり処方箋なしで購入できる市販薬のことを指す。OTC医薬品の中には、当初から処方箋不要の医薬品として開発された一般用医薬品のほかに、医師の処方が必要な医療用医薬品として使用された後に、安全性に関する審査を経てOTC医薬品に転用(スイッチ)されるスイッチOTC医薬品がある。 厚生労働省は「自分の健康は自分で守る」をスローガンにセルフメディケーションを推進しており、スイッチOTCはその手段の一つとなっている。現在、約100種類の有効成分がスイッチOTC医薬品として認められており、2000品目以上の商品が市販されている。そのような中、昨年末に開催された厚生労
ビタミンEをサプリメントの形で多く摂取すると、健康被害を引き起こす恐れがあるという。(Photograph by Wolfgang Volz, laif/Redux) ビタミン剤やサプリメントの産業が活況を呈している。特定のビタミンが不足している人や健康上の問題を抱えている人にとってサプリメントはありがたい製品だが、一部の合成ビタミンは肝臓障害、脱毛、関節痛や筋肉痛、視力障害などを引き起こす恐れがあることが研究で示されている。 「誰もが皆、素晴らしい健康を与えてくれる魔法の薬を求めますが、残念ながらサプリメントにそれを期待することはできません。リスクを上回るほどの効果がないことの方が多いのです」と話すのは、米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の予防医学部長を務めるジョアン・マンソン氏だ。(参考記事:「DHAほかオメガ3脂肪酸サプリ、健康な人では心臓に害も、研究」) 「私は一般的に、特別な理由
暖かい岩の上で日光浴をするムラリスカベカナヘビ。米国オハイオ州シンシナティの公園バーネット・ウッズで撮影。(Photograph By Jordan West) 米国オハイオ州シンシナティには、ヨーロッパ原産のムラリスカベカナヘビ(Podarcis muralis)が何万匹も暮らしている。記録的な低温と降雪にも負けず、ムラリスカベカナヘビは生き延び、そして増殖した。州の野生生物局から「永住者」とみなされた彼らは、歩道をはい回り、れんがの壁にしがみ付き、原産地とは大違いの環境で繁栄している。(参考記事:「早熟で短命なトカゲ ミヤコカナヘビ」) なぜ地中海地域生まれの爬虫類がシンシナティに根を下ろしたのだろう? すべてはある少年のカナヘビを詰め込んだ靴下から始まった。 1951年、10歳のジョージ・ラウ・ジュニアは家族旅行でイタリアのガルダ湖を訪れ、そこにいた10匹のカナヘビを持ち帰って自宅の
家の中のほこりを掃除するのは健康にとって想像以上に重要だが、はたきは使わない方が良い。専門家によると、溜まっていたほこりを空気中に再び舞い上がらせ、ほこりに含まれる化学物質を吸い込んでしまうことになるという。(PHOTOGRAPH BY STEVEN PUETZER, GETTY IMAGES) 室内に浮遊したり、ソファの下や窓辺に溜まったりしているほこりは、単なる目障りな汚れではなさそうだ。2016年9月に学術誌「Environmental Science & Technology」に発表されたレビュー論文では、家の中のほこりのサンプルから、「永遠の化学物質」と呼ばれる有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)や、フタル酸エステル類、フェノール類、難燃剤など、有害なおそれのある化学物質が45種類も特定されている。 2024年12月に学術誌「Environment International」
フォークの登場によって食事のあり方が変わり、食卓の上に個人の境界がつくられることになった。(Photograph By Rebecca Hale, Nat Geo Image Colleciton) フォークは世界の食卓で広く使われている道具のひとつだ。普段、このありふれた日用品を意識することはほとんどない。しかしこのフォークには、実は何世紀にもわたって退廃、不道徳、傲慢の象徴だったという歴史がある。 歴史の大半においては、指こそが自然の食器だった。肉はナイフで切り、汁はスプーンですくうが、栄養を取るという行為は手を使うことなしに終えることはできなかった。しかし、フォークはそれをすっかり変えてしまった。 「フォークが登場したことで、食文化や食卓の大変革が始まったのです」と述べるのは、ローマの食人類学者ルチア・ガラッソ氏だ。フォークの登場によって、食事が秩序ある洗練された行為になったが、すべ
透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影後、着色した水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)。ヘルペスウイルスの一種で、主に子どもの頃に初めて感染すると水痘(水ぼうそう)、加齢などで免疫力が落ちると帯状疱疹を引き起こす。(MICROGRAPH BY JAMES CAVALLINI, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 帯状疱疹(たいじょうほうしん)のワクチンには、認知症の予防という利点もある可能性が新たな研究によって示されている。4月2日付けで学術誌「Nature」に発表された研究では、帯状疱疹ワクチンを接種した成人は、接種していない成人に比べ、認知症の発症率が20%低かったことがわかった。 帯状疱疹、インフルエンザ、肺炎などの感染症に対するワクチン接種と認知症リスクの低下を関連付ける研究結果が次々と発表されており、今回の研究はその新たな証拠だと、米テキサス大学ヒューストン健康科学センターの神経
2つのグループを比較した結果、1933年9月2日以降に生まれ、帯状疱疹のワクチン接種を受けた人は、認知症の発症率が20%低かった。研究チームはそのほかの要因を排除するため、インフルエンザのワクチン接種率、コレステロールの薬の使用など、医療の利用状況についても調査した。 「彼らの発見が本物であることは疑いようがありません」と、英オックスフォード大学で精神医学を研究するポール・ハリソン氏は述べている。氏は今回の研究に参加していないが、同様の研究を行っている。 研究結果は私たちに何を伝えているのか 研究者たちは、帯状疱疹ワクチンが認知症リスクの低下につながる理由を解き明かそうとしている。 「(1つの)可能性として、ワクチンそのものが免疫反応を引き起こし、体が認知症のメカニズムをかわしたり、さらには逆転させたりする助けになっていることが考えられます」とオックスフォード大学の精神医学臨床講師マキシム
火星の古い火山の上空を、水氷の雲が漂っている。しかし数十億年前には、火星の表面はより温暖な環境だった。岩石のサンプルからは、かつて火星に生命が存在したかどうかが判明するかもしれない。(Photograph by NASA) NASAの火星探査車「パーシビアランス」は2021年から火星の上を動き回り、岩石の収集を続けてきた。いずれはこうして集められた岩石によって、火星の歴史、火星と地球との違い、そして生命の起源についての理解が塗り替えられる日が来るかもしれない。「この探査車に積まれたサンプルの一つひとつが、火星に関する極めて重要な問いへの答えを持っている可能性があります」と、米アリゾナ州立大学の惑星科学者ミーナクシ・ワドワ氏は言う。 「火星サンプルリターン(MSR)」と名付けられたこのミッションにおいて、ワドワ氏は主任科学者として、これらの岩石を1億キロ以上離れた地球に輸送する計画の立案に携
集中力の低下、物忘れ、混乱、認知機能の低下、頭のぼんやり感などはどれもブレインフォグに関連する症状だ。ブレインフォグにはいくつもの異なる潜在的な原因がある可能性が高い。(Photograph by simarik, Getty Images) 新型コロナウイルスへの感染後、まるで頭が霧に包まれたような感覚を覚える患者は少なくない。これはブレインフォグと呼ばれ、新型コロナ後遺症(罹患後症状)の患者の20〜65%に見られる。推定値にこれだけ広い幅があるのは、この症状の理解がいかに進んでいないかを物語っている。 ブレインフォグを抱える人は、注意力が散漫になり、記憶力が低下する。体はだるく、考えがまとまらず、ごく簡単な家事さえも難しく感じる。新型コロナとの関連で広く知られるようになったものの、ブレインフォグという言葉は、もともとは慢性疾患を抱える人々の間で使われ始めた。 ブレインフォグの症状は線維
プラスチック製の積み木を積み重ねる幼児。靴ひもを結ぶ、ハサミを使うといった作業に必要な動きの練習になる。専門家によると、タブレットなどの画面や便利なグッズの登場で、幼児期の体験が変わり、こうした遊びが少なくなっているという。(Photograph by Alvils Strikeris, Shutterstock) エイミー・ホーンベック氏は、今の生徒たちの様子に違和感を覚えている。子どもたちは上着のファスナーを開け閉めしたり、本のページをめくったりができない。スプーンすらちゃんと持てない。こうした変化に気づいているのはホーンベック氏だけではない。米教育関連メディアのエデュケーションウイークによる2024年の調査によると、教師の77%が、低学年の子どもは5年前の同学年の子どもに比べて鉛筆やペンやハサミをうまく扱えないと報告している。また69%が、靴のひもをうまく結べない子どもが増えていると
2025年4月2日、ミャンマーの古都アバで撮影した、損傷したパゴダの写真。パゴダは、ミャンマー全土で仏教寺院および神聖な建造物として機能している。(Photograph by Myo Kyaw Soe Xinhua, Eyevine, Redux) 2025年3月28日、ミャンマー北部で壊滅的な地震が起こり、国内各地の歴史的・宗教的遺跡が崩壊した。現地からの報道によると、マグニチュード7.7のこの地震で3000人以上が死亡し、4500人以上が負傷した。その影響は甚大で、2025年4月2日、ミャンマーは4年前の軍事クーデターから続く内戦を3週間停戦することにした。(参考記事:「ミャンマー大地震の断層、400km以上にわたり最大6m横ずれ」) また、この地震はミャンマーの社会が機能するのに不可欠な100の仏教寺院と50のモスクを破壊した。震源地が歴史的な都市のザガインとマンダレーに近く、専門家
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