日本のプロ野球で最も多くヒットを打った張本勲さんには、六つ上のお姉さんがいました。色白で背が高く、やさしかった自慢の姉。その点子(てんこ)さんを原爆で奪われます▼あの日。5歳だった張本さんは、遊びに行こうと広島の家を出た瞬間、閃光(せんこう)とともにすさまじい衝撃に襲われました。気がつくと、目の前は真っ赤。爆風で飛んできたガラスの破片で傷つきながら、かばってくれた母親の血でした▼勤労奉仕に出ていた点子さんが見つかったのは2日後。担架で運ばれてきたその姿に言葉を失いました。全身が焼けただれて赤くはれあがり、顔を見ても姉とは信じられない。「熱い、痛い」とうめき苦しみつづけて亡くなりました▼いまも記憶に残る大切な人の思い出。手元に遺品は一つもありません。悲しんだ母親がすべて処分してしまったからです。ところが、69年の歳月をへて奇跡が起きます。その姉と女学校で同級生だった人とつながったのです▼数年