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アメリカ大統領選
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最前線のウクライナ兵は塹壕に籠もり、厳しい冬の気候に耐えて敵と対峙する(東部ドネツク地方で) JUSTIN YAUーSIPA USAーREUTERS <さながら第1次大戦における塹壕戦の21世紀版。アメリカの軍事支援に世界の未来は懸かっているが、大統領選挙をにらみ、トランプが横やりを入れる> ウクライナ戦争は3年目に入り、同国東部の戦線は実に延長1000キロに及ぶ。 農地も森林も砲弾でえぐられ、破壊された戦車や凍り付いた兵士の遺体があちこちに転がっている。 ロシア大統領のウラジーミル・プーチンはウクライナ国家の完全な解体を目指し、ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは領土の完全な奪還を目指している。 どちらにとっても、妥協という名の選択肢はたぶんない。 そうであれば、無情で無益な殺し合いは今年も続くことになるのだろう。 せいぜい1機1000ドル程度の無人機がイナゴの大群のように飛
AI-GENERATED IMAGE BY SHUTTERSTOCK. AI/SHUTTERSTOCK <市民にできる最も効果的な温暖化対策は電気自動車を選ぶことで、「待った」をかけるのは石油天然ガス業界とその支援を受ける政治家のみ。それなのに日本はなぜFCVに注力するのか?本誌「ISSUES 2024」特集より> 世界は2024年も引き続き、加速度的に進む交通技術革命を目の当たりにすることになる。この革命の主役は電気自動車(EV)だ。 地球温暖化の進行を止めるために市民ができる最も効果的なことを一つ挙げろと言われたら、答えは簡単。EVに乗り換えることである。 世界のエンジン車の販売台数は2017年をピークに下降に転じている。一方、世界のEVの販売台数は22年の1050万台から24年には1900万台に増え、25年には2200万台に達して、世界の自動車販売台数の26%を占める見込みだ。 その
<「原爆の開発に成功すれば多くの日本人が命を失う。だが失敗すれば他国が原爆を手に入れる」──映画『オッペンハイマー』を日本人こそ見るべき理由> 社会も個人と同様、心に深い傷を残す出来事を経験すると、それに関連する物事に対して嫌悪の感情を抱くようになる。そうした心理は世代を超えて続く場合もある。実際、ユダヤ人の中には、ナチスによるユダヤ人大量虐殺から80年たった今でも、ドイツを訪れたり、ドイツ製品を購入したりすることを避けている人たちがいる。 日本の社会も、少なくとも1960年代以降は自分たちを広島と長崎への原爆投下による惨禍の犠牲者と位置付けてきた。心の傷は今も生々しく、核兵器について議論するだけでも気分を害する人たちがいる。 この夏、「原爆の父」と呼ばれる物理学者のロバート・オッペンハイマーに光を当てた映画『オッペンハイマー』がアメリカで公開された。映画館では映画が終わった後、私を含む多
<生成AIを駆使すれば、敵国の世論にひそかに影響を与え社会を揺さぶる宣伝工作が、驚くほど簡単で効果的にできる> 世界がますます混乱した、危険な場所になろうとしている。なにしろ真実を証明することが一層難しくなり、嘘がこれまで以上に多くの人を魅了しようとしているのだから。 政府が転覆し、社会が崩壊する可能性もある。なぜか。各国の情報機関も悪意あるアクターも、対話型AI(人工知能)「チャットGPT」のような大規模言語モデル(LLM)を利用したAIシステムを積極的に利用すると考えられるからだ。 新しい通信技術やソーシャルメディアを駆使した秘密工作は、既にこの10年間にウクライナやイギリス、スウェーデン、フランス、インド、香港、アメリカなどの世論を動かし、世界情勢に影響を与えてきた。 だが生成AIは、これまでになく細かな部分まで高度に調整された文章を作り出すことにより、特定の個人や集団の意見に影響を
<スペースXとテスラの創業者・CEOに、新たに加わったツイッター経営者の肩書。この「リアル・アイアンマン」は何を考えているのか。世界をよりよく変えるのか、それとも...> イーロン・マスクを好きか嫌いかは別にして、「2023年の注目の人」として取り上げるのは礼を失する。少なくとも2008年から超有名人だ。 この年に公開された映画『アイアンマン』の主人公トニー・スタークは、マスクをモデルにしている。ロバート・ダウニーJr.が演じるスタークは、風変わりな天才にして短気な実業家で発明家。社会通念を無視し、規制を軽蔑し、あり得ないほど裕福で、世界を救う装置を発明する。 本物のマスクは世界で最も裕福な1人だ。 宇宙旅行に革命を起こす超大型ロケット、スターシップを開発中のスペースXの創業者でチーフエンジニアを務める。 電気自動車メーカーのテスラを設立して自動車業界に革命を起こし、二酸化炭素排出量がほぼ
「言論の自由絶対主義者」のマスクはツイッターをどうする? PHOTO ILLUSTRATION BY DADO RUVICーREUTERS <マスクによるツイッター買収後、大手企業の広告停止が相次いでいる。「言論の自由」に関して、マスクが信奉するシリコンバレーで人気の「長期主義」とは?> 天才エンジニア兼起業家のイーロン・マスクが、新しいおもちゃを手に入れた。10月27日、マスクは2億5000万人以上の登録ユーザーを抱えるソーシャルメディア企業、ツイッターの買収を完了させオーナーになった。 しかし、マスクは子供っぽいナルシシストで、しばしば幼稚なツイートをする人物。表面的な知識と深い洞察力を混同している可能性がある。数百万人に影響を及ぼす立場の人間は発言を自ら律し、自分が理解しているテーマについてのみ話す(あるいはツイートする)べきだが、マスクにはそれに気付ける成熟度もない。 アメリカでは
<イギリスの君主制と英連邦そのものが存続の危機に直面している。王国の「神話」の力は今後もこの国を支え続けることができるか> エリザベス2世の訃報に接したとき、なぜかMI6(英国情報部国外部門)の元責任者と交わした会話を思い出した。話題はイラン人の妄想について。「自分たちに起こる悪いことは全て英情報機関のせいだとイラン人は思い込んでいる」と私は言った。「ペルシャ湾では今もイギリスが全てを仕切っていると考えているんだ」 「そのとおり」と、彼は答えた。「だからジェームズ・ボンドが重要なんだ。『神話の力』さ。そのおかげで私たちは実際よりずっと大きな影響力を持てる」 イギリスの君主制、そしてエリザベス女王についても同じことが言える。王室は何の権力も持たず、女王は公的問題に一切意見を表明しないように努めてきたことで有名だ。しかし、女王の神秘性と国民からの支持は沈黙に比例して高まった。人々は自分の願望や
ロシア当局は迅速に犯人を特定したが(現場を調べる捜査員) INVESTIGATIVE COMMITTEE OF RUSSIAーHANDOUTーREUTERS <犯行からわずか数時間で犯人と身分証が判明した、謎の暗殺事件。2つの諜報機関の対立とプーチンの寵愛をめぐる争い、ウクライナ侵攻でしくじった責任のなすりつけ合いなど、泥沼の背後> わずか数時間で、ロシア捜査当局は驚くべき法科学能力を獲得したらしい。 プーチン体制を支える極右思想家、アレクサンドル・ドゥーギンの娘ダリヤ・ドゥーギナが、モスクワ郊外で起きた自動車爆弾の爆発で死亡したのは8月20日。事件のほぼ直後、ロシア連邦保安局(FSB)はウクライナ情報機関職員のナタリア・ボブクを犯人と特定した。 FSBが提出した捜査資料には、ボブクがウクライナ南東部マリウポリの製鉄所で戦った「ネオ・ナチ」集団、アゾフ大隊に所属していたことを示す軍の身分証
安倍はアメリカやその他のインド太平洋諸国と連携して地域覇権を狙う中国に対抗した KEVIN LAMARQUEーREUTERS <自分が屈辱的に見えることを犠牲にしてもトランプとうまく付き合い、クアッドやアベノミクスなど功績がある一方で、「ナショナリズムの歴史」とは一線を画すことができなかった。元首相が歴史に残したことは何か?> 安倍晋三元首相は、第2次大戦後の日本で最も重要な政治指導者として名を残すはずだ。安倍は他国との連携強化を推進したナショナリストであり、日本経済の最も深刻な構造的問題に大胆に切り込んだ。 1960年代初め以降、経済大国だが政治的には弱腰だった日本を再び世界的な外交・軍事・経済大国に押し上げたのも安倍の功績だ。「ジャパン・イズ・バック(日本が帰ってきた)!」と、安倍は何度も繰り返した。ほとんどの面で安倍が正しかったことは、反対派も認めざるを得ないだろう。 安倍は「保守」
<KCIAとアメリカが後ろ盾となった、旧統一教会。そこから派生した「サンクチュアリ教会」はトランプと銃所持を熱烈に支持するなど、今やコントロール不能で、アメリカ社会にも刃向かうという皮肉> ※正確を期すため文章中の表現を一部改めました(2022年7月28日午前10時47分)。 安倍晋三元首相の銃撃事件で逮捕された山上徹也容疑者のゆがんだ心理を読み解こうとすると、アメリカと日本の民主主義および個人の自由に深刻な脅威を及ぼすアメリカ社会の暗部に行き着く。 山上は、母親が旧統一教会(現在は「世界平和統一家庭連合」に改称)に寄付を続けたために一家が経済的に破綻したことを恨んでいて、安倍が同教団を支援してきたと考えて犯行に及んだとしている。 実は、山上が語った犯行動機と、昨年1月6日に米連邦議会議事堂襲撃事件を起こしたトランプ支持派が抱く社会への不満、アメリカのリバタリアニズム(自由意思論)と狂信的
<製品の供給不足など不安材料を抱えつつも、好景気に沸くアメリカ。人手不足が賃上げと物価上昇を起こし、「インフレスパイラル」に。今後2年以内に予想される景気後退に備えて、政策はどうあるべきか?> 私たち家族の日々の暮らしでモノの値段が急激に上昇していることを最初に察知したのは、同居している86歳の義母だった。 第2次大戦中の子供時代に香港で生活していたとき、自宅のすぐそばでイギリス軍と日本軍の戦闘を目の当たりにした経験を持つ義母は、用心深い倹約家の女性に育った。昨年終盤くらいから肉と野菜の値段が大きく値上がりし始めると、すぐに目に留めるようになり、「高すぎる!」と、家族で近所の食料品店に買い物に行ったときに不満を述べた。 義母にとって、肉と野菜の値段は、世界で何が起きているかを映す鏡だ。そしてこの数カ月、義母は食材の価格が高くなっていると感じている。 その感覚は正しい。アメリカではこの1年間
レニングラードは第2次大戦中にドイツ軍の包囲を耐え抜いた(1941年) BERLINER VERLAGーARCHIVEーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES <ヒトラーを蹴散らした歴史を誇るロシア軍がなぜ? 失敗の原因は軍事ドクトリンと経験にある> ウクライナではロシア軍が苦戦を続け、逆にウクライナ軍が見事な応戦を見せている。軍事専門家の目にも驚きの展開だ。 この流れは、侵攻開始当初から見られた。2月24日、ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の空港を急襲したが、明らかな戦術ミスによって失敗に終わった。ウクライナ軍は少なくとも輸送機1機を撃墜し、ロシアが誇る空挺部隊を退けた。 以来、ロシア軍は苦しんでいる。民間人の居住区域を空爆し、いくつかの都市を破壊したが制圧できた所は一つもない。侵攻開始から2カ月半が過ぎた今も、ロシア軍は大量の装甲車両と兵力を維持してい
<各国の議会で行う演説によって確実に支援に結び付けてきたウクライナのゼレンスキー大統領。その影響力はチャーチルやルーズベルトに匹敵する> ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻後1カ月で国家統合の象徴となり、各国の議会での演説を通じて自国をロシア軍から救うため、世界を結集させた歴史的名弁士となった。 その言葉は何千人ものシニカルな政治家の涙を誘い、ウクライナに武器と政治的支援を提供させるきっかけになった。ゼレンスキーの演説はチャーチルやフランクリン・ルーズベルトに匹敵するものだ。 ルーズベルトは大恐慌に立ち向かい、孤立主義的な世論を第2次大戦への参戦に導くため、アメリカ人を結集させようとした。そのために用いた最も効果的な手法の1つが「炉辺談話」だった。 当時のラジオはまだ誕生から10年もたっていなかったが、彼は大恐慌と第2次大戦の間に30回もラジオで国民に語り掛けた。アメリカが直面
<プーチンを場当たり主義者と見なしてはならない。その世界観、信奉する反欧米的哲学、戦略的アプローチ......。バルト3国で緊張が高まれば、NATOとの間で第3次大戦が始まる危険性が高まる> 気の毒なウクライナ。この国は、地理的条件とプーチンの世界観によって悲劇を運命付けられていた。 互いに対立する超大国の勢力圏に挟まれた国々は、その目的やパワーバランスの変化に翻弄され、常に不安定な存在であり続ける。 世界第2の軍事力を持つロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自国の国境に迫るNATOの拡大を存立の危機と見なした。ウクライナの西側陣営入りを断固阻止する決意を固め、ウクライナ侵攻は許容範囲内のコストで実行可能と判断した。 ウクライナにとってロシアは強大すぎる相手だ。アメリカとNATOはウクライナのために戦うことはないと明言している。 多くの命が失われた後、ウクライナは全体主義国家ロシアの傀
ジョコビッチはコロナに関してルール無視の行動を繰り返してきた Diego Fedele-AAP IMAGE-REUTERS <厳格な水際対策を取るオーストラリアのルールに従えないのなら、追い出されて当然> 男子テニスの世界ランキングで頂点に立つノバク・ジョコビッチがオーストラリアに到着したのは、1月5日のこと。17日に始まる全豪オープンで史上単独最多の21回目の4大大会制覇が懸かっていた。 しかし、オーストラリアの法律では、入国者に対して事前に新型コロナウイルスのワクチン接種を受けることを求めている。ワクチン未接種のジョコビッチは、空港で身柄を拘束された。10日には裁判所が政府の入国拒否の決定を覆す判断を下し、ジョコビッチはひとまず解放されたが、政府が再びビザを取り消し、強制送還を行う可能性がある。(編集部注:ジョコビッチは14日、豪政府によって再度ビザを取り消され、翌日身柄を拘束された)
<東京オリンピックは行き場のない「不安」がうごめく現代社会の隠喩だった。国全体が「引きこもり」になった。だがこれは、日本だけにとどまらない歴史的な傾向だ> 日本ならではの洗練と現代性で世界を魅了するチャンスであり、また世界最高のアスリートに圧倒されつつ、誇りが胸にあふれる2週間の祭典――東京オリンピックはそんな場になるはずだった。 今回の五輪には十分、夢中になった。日本が2対0でアメリカに勝利した野球の決勝戦では、日本代表を応援すらした。ほんの少し、そしてほんの一瞬目をつぶれば、そこには純粋なヒーローがいて、おとぎ話は本物だった。 だが、日本での五輪体験は違ったようだ。野球日本代表が金メダルを獲得した試合も、もちろん観客席は空っぽ。東京五輪では、観客は姿の見えないバーチャルな存在だった。 デジタル化された世界は、果たしてリアルなのか。 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、五
G7サミットの記念撮影に臨んだ菅(2列目左端)と文(前列右端、6月12日) YONHAP NEWS/AFLO <日本側からすれば、韓国政府が慰安婦問題と元徴用工問題を解決する行動を取らない限り、日韓関係の進展はあり得ない。それに、そもそも日韓では戦略上の優先事項が異なる> 先日イギリスで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で日本の菅義偉首相と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の首脳会談が見送られた背景には、最近再び日韓両国間で挑発と対立が続いていたという事情があった。 G7サミット前に、韓国側は日本を刺激するような行動を少なくとも2つ取った。 1つは、東京五輪聖火リレーの地図に、韓国が領有権を主張する竹島(韓国名「独島」)が日本領として描かれていることに抗議したこと。もう1つは、その竹島の周辺で定例の軍事訓練を計画したことだ(その後、実際に訓練を実施)。 韓国政府が慰安婦問題と元徴
<日本政府は五輪への投資を回収しようと躍起になり、虚栄心を満たそうとし、楽観的過ぎる期待を抱いているが、開催で失われる人命の「損害額」は経済的な波及効果を大きく上回る> 陸上の100メートル走は、何人分の命の価値があるのか。あるいは、ブルガリアとマレーシアの選手のレスリングの試合は? 日本政府は今のところ、東京五輪開催による経済的・社会的利益は、そのせいで失われる人命より価値があると考えているらしい。だが1984年のロサンゼルス大会を除けば、過去の五輪の多くは赤字だった。 新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)の最中に五輪を開催することの経済的・人的コストは、政府が想定する長期的利益を上回ると予測されている。 五輪開催は日本の医療システムに負荷をかけ、場合によっては崩壊させる可能性すらある。そうなれば、本来なら生きられるはずの人々を数多く死なせることになる。 開催国の政府は常
<ヘイトクライム全体は減っているのに、アジア人への暴力は150%も増加。黒人差別の影に隠れてきたアジア差別の歴史> 子供の頃、私と兄が決して行かない通りがあった。アメリカの一角では、アイルランド系カトリック教徒と「WASP」──アメリカの建国者であるアングロサクソン系プロテスタントの白人──の間に社会的な力学が働いていた。アイルランド系の子供が、私や兄に石を投げることもあった。 私たちの先祖は、アメリカに旧世界の民族的、宗教的分断を持ち込んだ。しかし一方で、彼らは部族的な帰属を否定する人間主義的な啓蒙主義を追求する社会を築いた。 私は自分に石を投げた少年たちとアメフトやホッケーをして、彼らの姉妹とデートをし、私の先祖の裏切りを糾弾するようなアイルランドの民族音楽に傾倒した。それがアメリカで育つということだった。 そして60年後の今、民族的な多様性と経済的な格差が、ポピュリズムと白人至上主義
<バイデンはトランプ流と決別し、同盟国と協調して中国に対峙する> マサチューセッツ州の私が住む地域でも、新型コロナウイルス・ワクチンの予防接種が始まった。それが東アジア情勢と何の関係があるのかと思うかもしれない。しかし、コロナ危機に対するバイデン政権の大規模で一貫した対応は、今後4年間に米政府がどのような政治を行うかを明確に映し出している。 バイデン政権は、一時的な衝動やかたくななイデオロギーではなく、専門家の助言と事実に基づいた実務的な政治を行うことが予想できる。状況の変化や新しい課題にもしっかり向き合おうとするだろう。その点については、私たち家族を含めワクチン接種を受けた米国民と同じように、アジアの国々も安心していい。 ジョー・バイデン大統領に対して最もよく聞かれる批判は、長い政治キャリアを通して中国への融和路線を推進してきたというものだろう。民主主義とルールに基づく国際秩序を受け入れ
接種初日の1月18日、ジレット・スタジアムに集まった人々 Jessica Rinald-The Boston Globe/GETTY IMAGES <トランプ政権は全くの無計画だったが、バイデン政権で接種は急ピッチで進んでいる> 84歳の義母は今年2月、米プロフットボールNFLの地元チーム、ニューイングランド・ペイトリオッツの本拠地である6万人収容のジレット・スタジアムを初めて訪れた。といっても、試合はなく、フィールドは雪に覆われていた。義母は緊張していた。ここで新型コロナウイルスワクチンの接種の1回目を受けるからだ。 私が住むマサチューセッツ州の計画では、義母はワクチン接種の対象者だ。バイデン米政権は政権発足後最初の100日間で1億回という大規模なワクチン接種プログラムを打ち出している。 トランプ前政権はワクチン接種について、全くの無計画だった。バイデン大統領が就任した1月20日の時点で
熱烈なトランプ支持者は健在だが、米社会では少数派にすぎない JOE RAEDLE/GETTY IMAGES <弾劾裁判で議事堂襲撃に関するトランプの責任は厳しく糾弾されたが、それでも共和党支持者のトランプ支持は強くなっている> 2月13日、1カ月余り前に起きた連邦議会議事堂襲撃事件で割られた窓がまだそのままの上院本会議場で、この事件をめぐるドナルド・トランプ前大統領の弾劾裁判の評決が行われた。予想されていたとおり、賛成票は3分の2に届かず、無罪評決が下された。 それでも、この弾劾裁判により、トランプはアメリカの民主政治に対する脅威として歴史的汚名を着ることになった。2度も弾劾訴追された大統領は過去に例がない。しかも、トランプの与党だった共和党から7人の上院議員が有罪に賛成した。 民主党にとって弾劾裁判の最大の目的は民主政治の原則を取り戻すことだったが、ほかに政治的動機もあった。弾劾裁判には
<増え続ける非白人を脅威に思う地方の貧しい白人層に働き掛け、共和党の政治家には多額の献金──アメリカ政治に絶大な影響を及ぼしてきたNRAが窮地に追い込まれている> 全米ライフル協会(NRA)は過去40年間、アメリカ政治と共和党に最も大きな影響を与えてきたロビー団体と言えるかもしれない。毎年約4万人が銃で命を落としているにもかかわらず、多くのアメリカ人が銃を「自由」の象徴と見なしているのは、NRAの力によるところが大きい。 だが今、NRAは最大の試練に直面している。1月15日、NRAはニューヨーク州司法長官が起こした訴訟から逃れるため連邦破産法11条を申請し、登記先をニューヨークからテキサス州に移転すると発表した。 合衆国憲法が保障する個人の「武器を保有する権利」を声高に主張する強硬派がNRAの主導権を握ったのは1977年。彼らはそれ以来、銃規制は「全ての個人の自由」を奪う行為だと主張してき
トランプと共和党が生み出した狂気による民主政治の破壊はまだ続く PHOTO ILLUSTRATION BY NEWSWEEK; JOE SOHM-VISIONS OF AMERICA-UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES <議事堂で「トランプ愛」を叫んだ暴徒に対し、警察の対応が弱腰だったのはなぜか。トランプが去っても「トランプ」は終わらない。変貌した共和党とQアノンの陰謀論は、この国の民主主義を今後何年も危険にさらし続けるだろう> (本誌「トランプは終わらない」特集より) 怒れるドナルド・トランプ大統領の支持者が米連邦議会議事堂を占拠した事件を目にしたアメリカ人は、催涙ガスや議事堂のバルコニーにぶら下がる暴徒の姿に衝撃を受けた。 まさに反乱と呼ぶしかない事態は、残り任期わずかとなった政権の内部崩壊と大統領の弾劾につながる可能性がある。(編集部注:1月13日
<最高の情報工作員とは、不道徳で冷酷な職業に生きる一流のモラリストのこと> ジョン・ル・カレと私を結び付けたのは、モラルの曖昧さだったのかもしれない。ル・カレは過去60年間、繊細なスパイ文学の第一人者であり続けた。その作品は、真実と思われていたものが幻覚に変わる情報工作の世界を舞台に「高邁な」はずの空虚な任務の中で堕落する男たちを描いていた。 私は以前、自分の著書『ザ・インテロゲーター(尋問官)』(邦訳未刊)の評論をル・カレに依頼したことがある。彼の作品と同様、道徳が相対的なものにすぎないスパイ活動の「グレーな世界」を描いた本だったが、同時にCIAの拷問についても書いた。 2001年の9.11同時多発テロ後の数年間、CIAとアメリカがやった行為をル・カレは軽蔑していた。2008年のインタビューではこう語っている。「私も尋問をやっていたから断言できる。拷問で情報を得るのは、自分自身を愚弄する
<全世界が驚いた共和党のしぶとさ──民主主義の土台を蝕み始めたアメリカ文化に潜む「悪魔」とバイデンは戦うことになる。本誌「米大統領選2020 アメリカの一番長い日」特集より> アメリカでは誰もが固唾をのんで大統領選の開票状況を見守り、ドナルド・トランプ大統領の──そして連邦議会選での共和党の──思わぬ強さに驚きを感じずにいられなかった。 最終的にどのような決着を見るにせよ、この選挙のダメージは後々までアメリカをさいなむだろう。だが、問題は今回の選挙で生まれたわけではない。アメリカの文化に潜む「悪魔」が社会と政治システムをむしばみつつあるのだ。この国の文化と政治でゆっくり進んできた変化にテクノロジーの影響が相まって、社会と政治が半ば機能不全に陥っている。 トランプが破壊を強力に推し進めてきたことは確かだが、アメリカの社会と政治が機能不全に陥った直接的な要因は、少なくとも約60年前、見方によっ
<自己イメージを揺るがす現実は一切受け入れず、都合の悪い真実は拒絶するか誰かのせいにするトランプ。その精神は既に国民のかなりの割合に伝播している> ドナルド・トランプの新型コロナウイルス感染が判明して1週間余り。この騒動に注目が集まるなかで、見落とされている問題がある。その問題とは、米国民のかなりの割合がいわばトランプ信者になっていることだ。それが原因で大統領選の円滑な実施が危うくなり、ことによるとアメリカが内戦状態に陥りかねない。 現職大統領の新型コロナ感染というニュースはたちまち、いかにも独裁者風の安っぽいお芝居の材料になってしまった。トランプはウォルター・リード国立軍医療センターに入院して程なく、医師の助言を聞き入れず、警護員を感染の危険にさらしてまで、病院の近くをドライブした。病院の前に集まった熱烈な支持者に謝意を示すために、ローマ法王のようにゆっくりと車を走らせるよう命じたのだ。
<リベラル派判事、「RBG」ことルース・ベイダー・ギンズバーグが死去。彼女の後任をめぐり国を分断させている衝突は、かつては急進的な変化とされ、彼女が生涯貫いてきた主張をめぐる新たな衝突でもある> 今年のアメリカは、疫病、山火事、暴風雨、干ばつ、洪水、そしてアメリカの民主主義を脅かす大統領選挙という政治的危機の最中にある。そこに9月18日、「RBG」の愛称を持つルース・ベイダー・ギンズバーグ連邦最高裁判所判事の死去が加わった。 慎重な判断と正確な言葉選びで知られるリベラル派の判事だった。 民主党と共和党は訃報から数時間後には、彼女の言葉とレガシーを各自の政治的な目的のために利用し、ねじ曲げ、非難合戦を始めた。大統領選と議会選挙に向けて政治闘争は悪化するばかりだろう。 ただし、争点は国の司法よりはるかに大きい。 民主党は、ギンズバーグのレガシーとこの国の民主主義の規範を守ろうとしている。 共和
<小児性愛者や人食い人種、陰の政府、民主党の重鎮らは国民を取り込もうと画策し、主流メディアがその凶悪な計画を全て隠している──こうした世界を救えるのはドナルド・トランプ大統領ただ1人だとQアノンは主張> QAnon(Qアノン)と呼ばれる狂気じみた集団が拡散している話を初めて聞いたとき、私は思わず声を上げて笑ってしまった。2016年、新生の狂気集団Qアノンはこんな主張を展開していた。当時、米大統領選を戦っていた民主党のヒラリー・クリントン候補と同党の幹部たちが、ワシントンにあるピザ屋の地下で小児性愛者向けの売春宿を運営している、と。 初めは笑い飛ばしていたのだが、2016年12月にQアノンの信奉者が子供を救おうとピザ屋に押し入り発砲した。幸いけが人は出なかったが、この事件でQアノンが笑い事では済まされなくなった。 Qアノンによる「運動」の発端は、ソーシャルメディア上に拡散される匿名の投稿だっ
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