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虎永はブラックソーンと鞠子を使って天下統一の野望を遂げようとする(『SHOGUN 将軍』より、COURTESY OF FX NETWORKS) <偏見だらけの歴史小説を、物語の筋は生かしつつ、日本視点の政治スリラーに衣替えして見応えのある作品に> 小説の映像化のように、既存の物語を別の媒体で作り直す場合の方法論はいろいろある。原作に可能な限り忠実に作るやり方もあれば、逆に原作をまるっきり改変する方法もある。前者の代表例が映画『ノーカントリー』なら、後者の代表例は『若草物語』を翻案した韓国ドラマ『シスターズ』だろう。 FXが6年をかけて制作し、現在ディズニープラスの「スター」で独占配信中の歴史ドラマ『SHOGUN 将軍』は、その中間を行く作品だ。原作はジェームズ・クラベルが1975年に発表した小説『将軍』だが、今回のドラマ化は見事の一言に尽きる。 ステレオタイプと東洋趣味が鼻につく原作を、そ
<漢字とひらがな、カタカナ、そして現在ではアルファベットも混ぜて使う点において、日本語は間違いなく世界でもまれな言語。なかでもカタカナが「躍進」している理由について> 柴崎友香の小説『春の庭』に、日本語がほとんどわからないアメリカ人夫婦が主人公に「コンニチハ」と挨拶する場面がある。 このように外国人の片言の日本語にカタカナがよく使われるのは、異国感を出せるからであろう。しかし、もっと言うと視覚的な効果が大きいように思う。 カタカナは見た目に滑らかでないため、たどたどしさが演出できるからだ。この「コンニチハ」を外国語に翻訳するにはかなりの工夫が必要だろうと翻訳者としては思う。 そんなカタカナの使い方として最近気になっているのは、「シン」だ。庵野秀明監督の映画『シン・ゴジラ』の「シン」は大きなインパクトがあった。 わたしは初代『ゴジラ』をリアルタイムで見ている世代である。そのせいか、「『新・ゴ
2018年、コンシューマー・エレクトロニクス・ショーで講演するマイケル・サンデル教授(ネバダ州ラスベガス)Rick Wilking-REUTERS <文化資本など「生まれ」で学歴が決まる問題が話題になっている。しかし、本当に「学歴」は「成功」へとつながる唯一の道なのか? 高学歴層に抜け落ちている視点について> 「公共性」について研究する谷口功一・東京都立大学教授は、地域社会を支える人々のネットワークが「夜の公共圏」、つまり酒場で築かれていることに着目する「スナック研究」の第一人者。 奇しくもコロナ禍で「夜の街」は法的根拠が怪しいままに批判対象となり、攻撃を受けた。 そのコロナ禍で地域を支える人々の記録と記憶を綴り、コミュニティ再生への道を照らすノンフィクション『日本の水商売 法哲学者、夜の街を歩く』(PHP研究所)より、3章「いわき、非英雄的起業家の奮闘」を一部抜粋する。 サンデル教授が囚
<日本人の「おもてなし」はナルシシズムに陥っていると、内閣府公認クールジャパン・プロデューサーを務めるアメリカ人が指摘。観光客は勉強しに来るのではなく、休暇を過ごしに来るだけ。勘違いすべきじゃない> 日本が世界市場で生き残っていくためには、海外の人たちが持つ日本のイメージとは何かを知り、本当のインバウンド需要に寄り添っていくことが必要だ――。 ニューヨーク州生まれの国際コミュニケーション・コンサルタントで、「クールジャパンのエキスパート」であるベンジャミン・ボアズ氏はそう主張する。 だが現状は、日本人視点の「マイ・ジャパン」にこだわってしまっており、多くの日本人が誇りに思う「おもてなし」でさえもナルシシズムに陥っていると、内閣府公認クールジャパン・プロデューサーを務めるボアズ氏は言う。 ボアズ氏はこのたび、『日本はクール!?――間違いだらけの日本の魅力発信』(クロスメディア・パブリッシング
<外国人からの意見で多いのは「クールジャパンという名称はおかしい」というもの。日本を愛し、内閣府公認クールジャパン・プロデューサーを務めるアメリカ人が指摘する、改善すべき点とは?> ニューヨーク州生まれの国際コミュニケーション・コンサルタント、ベンジャミン・ボアズ氏は「クールジャパンのエキスパート」だ。 日本を愛し、2016年からは内閣府公認クールジャパン・アドバイザー、コロナ禍の2022年10月にはクールジャパン・プロデューサーに就任した。東京都中野区の観光大使を務め、国内外の大学でクールジャパンに関する講演も多数行ってきた。 しかしボアズ氏は、「世界が見ている『日本』と、日本が見ている『日本』は異なる」と指摘し、クールジャパン戦略には改善が必要だと考えている。そもそも、クールジャパンという名称がおかしい。 「海外の人たちからの意見の中で最も一貫しているのは、クールジャパンという名称その
「演歌も好き」英バンド「スーパーオーガニズム」を率いる日本生まれのオロノが魅せる、ならず者の音楽とは? <「日本から逃げた」という彼女だが、「凱旋帰国」でその思いを祖国にぶつける。ベビーフェイスに騙されてはならない。反骨のならず者の音楽とその魅力について> オロノがフロントマンを務めるSUPERORGANISM(スーパーオーガニズム。以下スーパー)は、昨年、セカンドアルバム『World Wide Pop』をリリースし、世界ツアーを敢行した。豪州、ヨーロッパ、アメリカ各地の巡業は肉体的・精神的に重圧の日々だったが、これまでにない充実感で、手応えがあったという。 「一番印象に残っているのはユタ州。住民の7割近くがモルモン教の信者という土地柄だから、大半はドラッグもやってないし、酒も飲んでないはずなのにぶっ飛んでた」 危ない場面もあったらしい。 「アメリカは銃社会で、対応を間違えると乱射事件のよ
<どんな税金を払っているか、その税金は何に使われているか。例えば10月1日にはたばこ税の増税もあったが、日本人は総じて税金に対する意識があまりにも低い> 国が違えば、税制も違う。肥満防止を目的としたハンガリーの「ポテトチップス税」やロンドン中心部の渋滞緩和を目的としたイギリスの「渋滞税」。 さらに、アメリカのウェストバージニア州の、銃犯罪など凶悪犯罪の抑制を目的に花火や銃のおもちゃに対して税を課す「光るおもちゃ税」などなど、世界には知られざる、そして、なんともユニークな税制が存在している。 日本にもそんなユニークな税制があれば違ったのかもしれないが、大半のビジネスマンが各人でタックスリターン(確定申告)を行うアメリカなどと比べ、私たち日本人の税金に対する意識は総じて低い。 どんな税金を払っているか、その税金は何に使われているか――。これらをよく分かっていない日本人は多いだろう。 その理由は
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ヒオカ/1995年生まれ。地方の貧困家庭で育つ。noteで公開した自身の体験「私が“普通"と違った50のこと――貧困とは、選択肢が持てないということ」が話題を呼び、ライターの道へ。“無いものにされる痛みに想像力を"をモットーに、弱者の声を可視化する取材・執筆活動を行い、若手論客として、新聞、テレビ、ラジオにも出演 <なぜそんなことを言ってくるのか。貧困家庭の子は「生まれてきてはいけなかった」存在で、進学やあらゆる人生の選択肢をあきらめなくてはならないのか。貧困家庭出身の女性ライターが「可視化したい」ものとは> 貧困をテーマにした記事が公開されると、多くの人から理解を得られる一方で、目も当てられないようなコメントがたくさん付く。しかし、無理解の根源は、悪意よりも、単にごく身近に困窮している人がいないことからくる無知にあるのかもしれない。 地方の貧困家庭に生まれ育ち、現在はライターとして活躍す
「幼い子供が街中を1人で歩ける」ことが欧米の視聴者にとって新鮮な驚きでもある(ネットフリックス『はじめてのおつかい』第7話より) 「はじめてのおつかい」Netflixにて全世界配信中 <ネットフリックスが日本の名物番組『はじめてのおつかい』を全世界配信し、話題に。日本の駐車、移動と土地利用を研究する欧米研究者らはどう見たか> 日本でおなじみのリアリティー番組『はじめてのおつかい』が、3月から始まったネットフリックスの全世界配信で話題になっている。 各エピソードは1回10~20分ほど。タイトルのとおり、幼い子供が初めて1人で(実際はカメラマンと一緒に)お使いをする。近所の店を目指し、途中でお使いの内容を忘れてしまい、泣き出して、最後は買い物袋を手にママやパパの待つ家に帰ってミッション達成だ。 1977年に出版された同名の絵本にヒントを得たこの番組は、日本のテレビで1991年から30年以上、放
<日本人は「働き過ぎ」と言われるが、社員に「有給を取れ」と言うだけでなく、企業ができることがあるのではないか。経済アナリストの森永卓郎氏とSF作家の筒井康隆氏に聞いた> 高度経済成長期の「モーレツ社員」ではないが、半世紀を過ぎた今なお、日本人には「働き過ぎ」のイメージが強い。 転職サイト「doda」の2020年4~6月の調査によれば、残業時間は月平均で20.6時間とのことだが、この数字を実態より少ないと感じる人は多いのではないか。過労死や自殺をした人の残業時間が100時間を超えていたというニュースが珍しくない現状も、その印象に輪をかけているかもしれない。 2年に及ぼうとするコロナ禍は、一部で営業職などの時間外労働を減らしたとの指摘があるが、逆に長時間労働に拍車をかけていると懸念する声もある。自宅でのテレワークではオンとオフの境目を付けづらく、特に仕事部屋を確保できない人から「うまく集中でき
<旧作とはひと味違うエンディングによって『シン・エヴァンゲリオン』は終着点らしい傑作になった> その象徴性、そして影響力の大きさにおいて、アニメ史に燦然と輝く存在である一方で、非常に難解でもあるのが庵野秀明の「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズだ。 1995年に放映が始まったテレビアニメ版に97年の劇場版、今世紀に入ってから作られた「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」4部作──。物語の結末の描かれ方も1つではない。そして最新作にして真の完結編である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(アマゾン・プライムで配信中)は、シリーズ中の最高傑作であるとともに、シリーズ全体をどのように捉えるべきかについての庵野の新たな主張がうかがえる作品だ。 物語をざっと説明しておこう。碇シンジ、式波・アスカ・ラングレー、綾波レイの3人の少年少女は「エヴァンゲリオン」と呼ばれる巨大ロボットのパイロットを務めている。当初は特務機関
<日本から世界に普及したVTuber。そのスターである桐生ココの「卒業」発表に、外国のファンたちも騒然となった> 6月9日、衝撃の一報に世界中の若者が泣き、悲しげなミーム(ネット上でのはやりの画像やフレーズなど)をシェアし、ファンアートを投稿していた。日本のアイドルである桐生(きりゅう)ココの「卒業」を知って喪失感に襲われたのだ。 言っておくが、ココは「リアル」なアイドルではない。日本のカルチャーが生んだバーチャルYouTubeのスターだ(チャンネル登録者は120万人を超える)。バーチャルYouTubeの世界をさくっと紹介しよう。 バーチャルYouTubeとは 生身の人間ではなくアニメやバーチャルのキャラクター「バーチャル・ユーチューバー」、略してVチューバーをフォローするチャンネルだ。Vチューバーは2010年代半ばに日本で人気になり、今や世界中に普及している。 キャラは大抵、生身の人間の
左から『たまさか人形堂物語』(津原泰水、Edizioni Lindau)、『Lo scudo dell'illusione』(マッシモ・スマレ編、Atmosphere Libri[邦訳なし])、『お伽草子』(太宰治、Atmosphere Libri) <日本とイタリアには、文学や漫画・アニメを通じた40年以上の交流の歴史がある。イタリア人読者は日本文学の中に何を探すのか──現地在住「グレンダイザー世代」の翻訳家に聞いたイタリアにおける現代日本文学事情> ここのところ、日本の作家の欧米での紹介が進んでいる。昨年11月に柳美里『JR上野駅公園口』(『TOKYO UENO STATION』)が、アメリカでもっとも権威がある文学賞のひとつである全米図書賞を受賞したのは記憶に新しい。受賞直後から日本でも大きな反響があり、日販調べによると2021年上半期で"いちばん売れた文庫"となった。出版不況が言わ
<ストレス解消の方法は人それぞれ。だが喫煙だけは「個人の自由」といかず、日本の社会から敵視され、規制が強化されてきた。それで本当によいのか、この先に何が待ち構えているのか。非喫煙者からも疑問の声が挙がっている> 3度目の緊急事態宣言が発令されるなど、新型コロナウイルスの猛威は収まるどころか、さらにその勢いを増しているように感じられる。 そんな出口の見えないコロナ禍であらゆる制限が課されている現在、強いストレスを感じている人も多いのではないか。メディアでは「コロナストレス」なる言葉を見かけることも多くなった。 ストレスの怖さは周知の通り。ストレスを原因とする病気も多く、長期間の我慢や放置は禁物だ。 どうやってストレスを解消すればいいか。適度な運動や十分な睡眠など、誰にも共通するアドバイスはよく聞くが、ほかにも飲食や買い物など、人それぞれの方法がある。その根本にあるのは「好きなことを楽しむ」と
コーシャ認証を取得した舩坂酒造の「深山菊」を手に笑顔のエドリー(中央左)と有巣(中央右) COURTESY OF BINYOMIN Y. EDERY <「日本のシンドラー」杉原の功績で岐阜はユダヤ人観光客にとって特別な土地に、地元も「コーシャ認証」の日本酒で彼らを歓待する> 岐阜県高山市。市場の裏手にある居心地のいい酒場で、筆者は舩坂酒造店の有巣弘城社長(36)と一緒にグラスを掲げた。つがれているのは、ユダヤ教の戒律に基づく食の規定「コーシャ」の認証を得た特別な日本酒だ。 「カンパイ!」。こちらが日本語で言うと、有巣は目を丸くして、満足そうにヘブライ語で応じた。 「ルハイム!」 よき酒があれば言葉の壁も文化の壁もどこへやら。そんな光景と言えなくもないが、実はこの乾杯は、「日本のシンドラー」と呼ばれた杉原千畝の功績に由来する。 時は第2次大戦中、1940年のこと。リトアニアの日本領事館領事代
<戦後復興期まで日本の基幹産業だった石炭産業。だが、政府が石炭企業の撤退を推進し、全国で炭鉱の閉山が相次いでいく。その後、そこに暮らしていた人々はどうなったか。「故郷喪失」が過去の出来事と切り捨てられない理由とは> かつて国内に1000以上もあった炭鉱も、現在では北海道釧路市のただ1鉱を残すのみとなった。それゆえ「終わった産業」だと思われがちだが、実はそうではない――という記事を以前掲載したところ、予想を遥かに超える反響があった(日本の炭鉱は「廃墟」「終わった産業」──とも限らない)。 これは、日本の炭鉱とそこで生きた人々の歴史的意義、そして今日における可能性に光を当てた『炭鉱と「日本の奇跡」――石炭の多面性を掘り直す』(中澤秀雄/嶋﨑尚子・編著、青弓社)を取り上げた記事で、炭鉱という存在が、今なお人々の関心を呼ぶことを窺わせた。 2020年、これと対をなす本が新たに刊行された。 前作とも
元米大統領は「ユニボール・ビジョンエリート」とシンプルな黄色いリーガルパッドがお好み LARRY DOWNING-REUTERS <筆記具に「強いこだわり」がある元米大統領が選んだ製品の評判と使い心地は?> バラク・オバマ前米大統領は先日、お気に入りの筆記具を明らかにすることで、アメリカ人の生活の中でも特に論争の多い分野に参戦した。 オバマはニューヨーク・タイムズ紙に対し、新著『プロミスド・ランド(約束の地)』のような長文を執筆するときはパソコンではなく、手書きで草稿をまとめるのが好きだと告白。さらに筆記具には「強いこだわり」があり、法律家がよく使う黄色いリーガルパッドの用紙と、三菱鉛筆の黒の水性ボールペン「ユニボール・ビジョンエリート」の組み合わせが好みだという。 紙については、もっといい候補がありそうだ。確かにオバマは法律の専門家だし、長年の習慣はなかなか消えるものではないが、ベーシッ
『プリズナー・イン・マイ・ホームランド』のワンシーン COURTESY OF THIRTEEN PRODUCTIONS LLC <プレイヤーはアメリカ人として戦争に協力するか、不当な扱いに抗議するかといった選択を迫られる> 「ミッションUS」シリーズは、PBS(公共テレビ放送網)が提供する無料のインタラクティブ歴史教材。黒人奴隷やアメリカ先住民、ユダヤ人移民など、アメリカ史における難しい問題を、ロールプレイングゲームの形で10代の子供たちに「体験学習」してもらう試みだ。 この9月公開のシリーズ最新作『プリズナー・イン・マイ・ホームランド』は、16歳のヘンリー・タナカの目を通して、第2次大戦中の日系アメリカ人の苦難を紹介する。 真珠湾攻撃によって太平洋戦争が始まると、多くの日系アメリカ人はそれまで住んでいた家から立ち退きを命じられ、強制収容所での生活を強いられた。ワシントン州のベインブリッジ
<新型コロナウイルスで売り上げ激減、未曽有の危機を迎えている業界だが、それだけではない。4月1日から、改正健康増進法により飲食店は全て「原則屋内禁煙」となったからだ。喫煙客が多い業態の店には打撃だが、実は禁煙には「例外」もある> 日本の飲食店が悲鳴を上げている。緊急事態宣言は5月末まで延長され、新型コロナウイルス危機の収束にはまだまだ時間がかかりそうだ。観光業界やエンターテインメント業界、航空業界など、あらゆる産業が影響を受けており、飲食業界が受けたダメージもこれまでにないほど甚大である。 首都圏において飲食店への客足が遠のき始めたのは、まだ国内の感染者数が1ケタ台に留まっていた1月下旬頃。最初に影響を受けたのは、通常なら中国からの観光客が多い店舗だったようだ。 「ここ新宿南口店は新宿駅からほど近く、また近隣にホテルがあることもあって、以前から外国人観光客、なかでも中国人観光客のお客様が多
<今年の英ブッカー賞候補6作品に選ばれた小川洋子の『密やかな結晶』は、今の時代を予見するかのように日常が少しずつ壊れていく世界を描く> また一つ消えた――。サンフランシスコに発令された外出禁止令の詳細を読んで、そんな思いに駆られた。 最初は、運動のためや必需品の買い物で外出が許されるなら、そこまで厳しくない措置に思えた。しかし外に出るたびに、いちいち警官などに呼び止められずに済む自由を失ったのは大きなことだと思い直した。 そんなふうに考えたのは、小川洋子の小説『密やかな結晶』をちょうど読み終えたところだったからだ。 日本人作家の小川が書いた本作(日本での出版は1994年だが、英訳は昨年出たばかり)を読まなければ、新型コロナウイルスの感染拡大でさまざまな物や人が日常から消え去っていることは筆者にとって、もっと信じ難いことに思えたかもしれない。しかし今となっては、どこか既視感のある光景だ。 作
中国人観光客が大挙して押し寄せ買い物をしていた銀座(上)に彼らの姿はない MASSIMO RUMIーBARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES <中国バブルを謳歌した観光業者が払う爆買いの代償とは。本誌「観光業の呪い」特集より> 中国の農村はまだまだ発展の余地がある。故に、中国人観光客はこれからも日本に来て、旺盛な消費活動を続けるに違いない──。かつてバブル時代に「土地の値段は上がり続ける」と信じて疑わなかった人々と同じ過ちを、われわれは犯していたのかもしれない。 新型コロナウイルスの影響で瀕死状態となった日本の観光地を巡ると、そんな教訓が見えてきた。 筆者は、爆買いブームが健在だった2017年夏、中国人観光客のツアーガイドとして東京近郊の現場を巡った経験がある(詳細は『ルポ中国「潜入バイト」日記』〔小学館新書〕を参照)。それらの観光地は今どんな状況にあるのか。日本政府の要請に
Why Carlos Ghosn's allegation of an unfair Japanese justice system is unjustified <日本の刑事司法制度は2000年代以降、制度改革が進められてきたーー制度に根本的な不正があるとするゴーンの批判は当たらない> 日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が2019年12月、一連の不正資金疑惑などについて無罪を主張し、日本からレバノンへ逃亡した。そして、自分が逃げたのは日本の刑事司法制度に対して不信感を抱いているからで、「不正と政治的迫害から逃れるため」だとする声明を明らかにした。 私はここ1年ほど、日本やイギリスの研究者とともに、日英両国の司法制度において被疑者がどのように扱われているのかを調査してきた。そこで、日本では公正な裁判を受けられないのではないかというゴーンの疑念をきっかけに、その主張が正当か否か考察してみた。
世界最古の企業「金剛組」は1400年以上も事業を継承してきた(写真は1930年1月に撮影された金剛組棟梁ら) Public Domain <創業から何世紀も続く老舗企業が日本に数多く存在するのは、同族経営によって企業理念を次世代へと継承しているから> 現在も続く世界最古のホテルがあるのは、パリでも、ロンドンでも、ローマでもない。ギネス世界記録によれば、世界最古のホテルは日本の山梨県にある「西山温泉慶雲館(けいうんかん)」だ。 その創業は、飛鳥時代にさかのぼる慶雲2年(西暦705年)。さらに、世界で2番目、3番目に古いホテルも日本の温泉旅館で、それぞれ兵庫県城崎温泉の「古まん」(717年創業)と、石川県粟津温泉の「法師」(718年創業)だ。 ホテルだけではない。日本には世界最古クラスの老舗企業がたくさんある。 神社仏閣を建設する大阪の建設会社「金剛組」は、飛鳥時代の578年に創業された世界最
『進撃の巨人』なども手掛ける翻訳家ドルヅカの新訳も素晴らしい UMEZZ PERFECTION! 8 HYORYU KYOSHITSU ©2007 KAZUO UMEZZ/SHOGAKUKAN <連載開始から半世紀近くが過ぎた今も衝撃度満点の『漂流教室』が英訳「完全版」で発刊> 子供への暴力は多くの学校で現実の問題かもしれないが、芸術作品の中で描かれることはまれだ。そんなタブーをぶち壊したのが、楳図(うめず)かずおのホラー漫画『漂流教室』(小学館)だった。その衝撃は、1972年に週刊少年サンデーで連載が開始された当時から、今に至るまで色あせない。 アメリカでは既に全11巻のペーパーバック版が出版されているが、ここにきて日本の漫画を数多く英語圏に送り出してきた米ビズ・メディアから新装ハードカバー「完全版」の刊行が決定。10月に第1巻が発売された。 『漂流教室』は、ぞっとするがシンプルな設定で
<飲食店からアパレル店、美容室まで、客から厳しい視線が注がれるのはサービスの内容や接客態度だけではない> 小売業界に長らく根付く「お客様は神様です」という意識なのか、あるいは、先のラグビー・ワールドカップで海外が称賛した「おもてなし」の精神なのか、その理由はともかく、日本の接客業では高いレベルのサービスが求められている。 チップがモチベーションとなっている欧米の接客業とは違い、そうした直接的な見返りのない日本流のサービスは、ややもすると過剰ではないかと見る向きもある。 しかし、アパレル店や美容室では店員が頭を下げて客を1ブロック先まで見送り、居酒屋など低価格帯の飲食店でも水やおしぼりを無料で提供するなど、日本では商品同様にサービスが重視されていることは事実。私たち客の側も、無意識にそれを求めていることに異論はないだろう。 そんな、日本人のサービスに対する意識の高さを表すアンケート結果がある
<ポルノ先進国の日本が放ったネットフリックス最新作――20世紀のジェンダー観は「世界の青春物語」になり得るか> できれば手放しで褒めたかった。『全裸監督』の感想を聞かれると、そう答えている。 ストリーミング配信サービス・ネットフリックスのオリジナルドラマのことだ。80年代に「ハメ撮りの帝王」と称されたAV監督・村西とおると、彼の監督作でデビューした黒木香を主人公に据えた作品である。 かつて婦人誌編集者として日本のポルノ業界に取材を重ねた筆者は、なじみ深い題材を扱った日本発の意欲作に、大いに期待を寄せていた。配信と同時にニューヨークの自宅で全8話を視聴し、はや2カ月がたつ。 数字の上では、非常に好調である。シーズン1の配信開始は今年8月8日、同16日には早くもシーズン2の制作が発表された。今まで国内で制作された同社オリジナル作品の中で最も多く見られたタイトルとなり、新規顧客獲得にも大きく寄与
10月6日、ナミビアとの試合を前に「ハカ」を披露するニュージーランド代表の「オールブラックス」(東京スタジアム) Matthew Childs-REUTERS <各国から訪れるラグビーファンたちを、どのようにもてなすか。組織委員会や各試合会場での工夫と努力は、来年の東京五輪に向けても参考になるかもしれない> 9月20日に開幕した、アジア初開催の「ラグビー ワールドカップ 2019 日本大会」。北海道から九州に及ぶ12地域の試合会場で世界最高峰の戦いが繰り広げられ、日本が世界ランク2位のアイルランドを破る「静岡の衝撃(Shock of Shizuoka)」を実現するなど、大変な盛り上がりとなっている。 そんななか、試合内容以上に各国の選手やメディアから称賛されているのが、出場国チームに対する「おもてなし」だ。 事前キャンプ地の千葉県柏市入りしたニュージーランド代表「オールブラックス」に対し、
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