子供のころの記憶で、鮮明に覚えているもののひとつが、テレビが家にやってきたときのことだ。 昭和30年代の半ば。近所のオジさんオバさんたちが集まって、テレビを囲んでいる。見入っていたのは実写版の「鉄腕アトム」で、今見たらツッコミどころ満載のものだったろう。空中を飛ぶアトムの身体の上には、ぴかぴかするワイヤーのようなものが見えていた。ロボットなのに生身の感じに「これヘン、ねえねえ」何度も口にすると、父親は不機嫌に睨み返していた。高価な買い物にケチをつけられたとでも思ったのか。 じきに子供がテレビを見ていいのは30分と決められた。目がわるくなるからとテレビ画面にもう一枚スクリーン眼鏡のようなものを重ねたり、ふだんは大事に布をかけ、チャネルをカチカチ替えようものなら父親の拳骨をくらったものだ。 そんなふうに、テレビはメディアである以前に、居間に鎮座する財産だった。しかし、すでにあって当たり前のモノ
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