数日前、産経新聞の大阪夕刊に興味深いニュースがあった。ベテランの浪曲師、松浦四郎若さんが台北で台湾の人たちに、浪花節を披露したというのだ。東日本大震災で台湾から寄せられた義援金に感謝するための「浪曲を楽しむ会」である。 ▼企画した元衆院議員、西村真悟さんらによれば、台湾には今でも浪花節ファンが少なくない。むろん日本統治時代に日本語の教育を受けた世代が中心である。戦前、学校の授業で浪花節を教えたことを示す教科書も残っているという。 ▼松浦さんが初日かけたのは「赤穂城明け渡し・矢頭右衛門七(えもしち)誠忠録」だった。いわゆる赤穂義士伝のひとつで、主君を失った浪士たちが初め、城で切腹・殉死の方針をとる。このとき10代ながら殉死を希望する右衛門七と、これを留(とど)めようとする大石内蔵助のやりとりがヤマ場だ。 ▼あくまで主君の「恩義」に報いたいとする右衛門七の忠義に泣かされる。人情のはざまで揺れる