新書という媒体で出版された本書は日本軍「慰安婦」問題について詳しい知識を持たない、一般の読者を主な読者層として想定していると考えられるが、ならばこそ河野談話(1993年)発表以降の研究成果については幅広く目配りをして、読者に日本軍「慰安所」制度についてのより正確な歴史記述を提供することが期待される。『朝日新聞』が「慰安婦」問題報道の一部を撤回したことなどをきっかけに新たにこの問題に関心を持った読者が、2014年に刊行された本書で最新の知見が紹介されていることを期待するのは当然であろう。しかしながら、極めて重要な先行研究のいくつかが本書では完全に無視されてしまっている。 その代表的なケースとして、永井和・京都大学教授の業績が無視されていることに由来する問題点を指摘しておきたい[i]。 日本軍「慰安所」制度とドイツ軍の軍管理売春制度とを比較した箇所で、同書は秦郁彦の「日本軍の慰安所関与は、輸送