戦後の「部落史」研究では、社会経済史から運動史、そして「地域支配」論と研究の重点が移っても、「部落差別」とはなにか、という根本的な問題が、歴史学的には充分に議論されてこなかった。そこで、一九八○年代からフェミニズム、「在日」コリアンの研究者たちから、斬新な「差別」論が提起されるなかで、「部落史」研究は、どちらかといえば守勢にまわり、若い研究者の心を充分につかむことはできなくなった。もちろん、その背景には、一九六八年の五月革命、八九年以降の社会主義体制の崩壊などによる、マルクス主義歴史学の衰退という大きな問題がある。 このような状況のなかで、筆者の黒川みどり氏は、果敢にも近代「部落史」に、新しい理論を持ち込み、体系的な叙述を試みようとする研究グループ(都市下層と部落問題研究会)のリーダーの一人である。すでに『異化と同化の間』(青木書店、一九九九年)という学位論文をまとめられたが、それを一般