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本論文は、2016年の米国大統領選挙の際にドナルド・トランプが開催した政治集会が、黒人に対する警察官の交通取り締まり活動に与えた影響を分析する。共和党候補者であったトランプはその選挙活動中、特定の人種や民族に関する社会問題を過激な言葉を用いて取り上げ支持者に訴えた。例えば、メキシコ人を強姦犯と決めつけメキシコに対する国境の壁の建設を提唱したことや、イスラム過激主義問題に触れイスラム教徒の入国禁止を訴えたこと、およびレイプという言葉を用い中国が不正な貿易慣行や知的財産権の侵害を行っていると主張したことなどは記憶に新しい。他にも、都市犯罪に言及することでアフリカ系アメリカ人コミュニティに対する否定的なイメージを助長する発言も行った。ただし、人々の対立を煽るトランプの発言の中心が必ずしも黒人でなかったことはここで述べておく。 分析に利用する主なデータは二つだ。一つは、2015年から2017年にか
という式で係数bが正か検定します。具体的には、統計プログラムなどでbを推計して推計値 b ^ を得ます。推計値 b ^ が正だったとしても、誤差で正になっている可能性もあるので、誤差を考慮しても正か、つまり、真の値bが統計学的にゼロと違うと判断できるか検定します1。なお、以下では本文は日常用語表現に努め、より正確な表現は脚注に記すことにします。 この統計学的推論では、 b = 0 が正しいと想定し、得た推計値 b ^ が( b = 0 からすると)どれだけ極端かを問います。真の値が b = 0 の場合に推計値 b ^ 以上の値を観察する確率が分かれば、得た推計値 b ^ がどれだけ極端かの判断材料になります。この「 b = 0 が正しいときに、得た推計値 b ^ 以上の値を観察する確率」をp値といいます2。p値が小さければ、
私は1972年の春半ばにラオスのポンサリーで生まれた。ベトナム戦争の陰でアメリカが秘密裏に爆撃を行って、「史上最も空爆を受けた国」といわれることになったラオス内戦終結の3年前である。そうした激動の時代だったためか、物心ついたばかりの記憶は、まったく知らない人、言葉が通じない人によく会ったりだとか、頻繁に長距離の引っ越しをしたりだとか、そういった目まぐるしいものしかない。また、親が仕事で遠出をすることが多かったため、首都ヴィエンチャンに引っ越してからの幼少期は祖父母と住んでいた。 叔母から聞かされた話では、私はどうやら好奇心が旺盛な子どもだったらしい。多くの人が幼い時分にするように、本棚を物色して、写真や挿絵が面白そうな本を見つけると、よく大人に読んでほしいとねだった。しかし、私の場合、それだけでは必ずしも読んでもらえなかった。ラオス語で書かれた本は当時まだ少なく、どの言葉で書かれたどの本を
2023年4月、アジア経済研究所図書館(以下、当館と略)のデジタルアーカイブの一部が装いを新たにした。新規デジタルアーカイブを公開したわけではないために特段周知することもなく、ひっそりとした改訂である。加えて、デジタルアーカイブ「戦前・戦中期日本関係機関資料」(以下、「戦前・戦中期」と略)にはこの数年で「南満洲鉄道株式会社」(以下、満鉄と略)関連の新規資料が掲載されている。そこで本コラムでは、満鉄関連の資料2点を紹介し、改訂版のデジタルアーカイブの使い方についても簡単に述べることにしたい。 ここで紹介するのは、『滿洲事變ニ於ケル鄭通線被害實景』と『會社實態調書』(以下では基本的に常用漢字を用いて表記)である。これらはともに、旧満鉄社員を中心とした財団法人満鉄会(1946~2016年)から当館に寄贈された(ただし、寄贈された時期は異なる)。 (1)『満洲事変ニ於ケル鄭通線被害実景』 本資料は
インドネシアのジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権は2期目の折返し点を迎えようとしているが、大統領に対する支持率は依然として高い水準で推移している。図にあるように各種世論調査の数字を見ても、2021年12月の段階で大統領の支持率は約70%を維持している。新型コロナウイルスのデルタ株による感染が急拡大して多大な犠牲者を出したことや、それに伴う社会活動制限が経済を圧迫したことで2021年中ごろに支持率の数値は一時的に低下したが、それでも政権運営を揺るがすほどまでに落ち込むことはなかった。 (注)ここでは「ジョコウィ大統領の業績に満足していますか」との質問に対して 「非常に満足している」「まあ満足している」と回答した人の割合を支持率としている。 (出所)世論調査機関Saiful Mujani Research & Consulting(SMRC)社と Indikator Politik Ind
2023年5月現在、AIチャットボット“ChatGPT”は、あらゆる分野で影響を与えている。図書館も例外ではなく、ある図書館でこんな事例があったようだ。図書館利用者Aは読みたい本Bがあり、ChatGPTに所蔵状況を尋ねたところ、図書館Cに所蔵があるという情報が提示された。そこで図書館Cを訪問するが、図書館Cに目的とする本はなかった。上記の事例から図書館利用者が、有力な情報検索ツールとしてWikipediaやGoogle以外にもChatGPTを用いる可能性が出てきたことが分かる。本稿では、上記事例をもとにChatGPTと図書館の関係について考察していく。なお、詳しい技術や仕様について、ChatGPTの大元であるGPTやInstructGPT等の論文はプレプリント・サーバーであるarXivから原著を読むことができる。 また、本稿の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア
学生時代、司書になろうと思った時には、将来自分が海外に出張して本を仕入れたり、それらを苦労して日本に発送したりすることになるとは思ってもみなかった。アジア経済研究所のライブラリアンは、現地調査という名目で担当地域に出張し、資料収集や資料事情の調査を行う。筆者は、『2015年ニューデリー・ワールド・ブックフェア訪問とインド郵便局からの資料の発送』で海外赴任中の資料収集活動について報告を行った。本稿では、その続編として2019年11月と2023年1月の出張時に体験した変化を交えつつ、インドの政府関係機関や研究所、書店での資料収集と発送について綴ってみたい。 前回インドに出張したのは2019年の11月、コロナ禍で海外渡航が大きく制限される直前だった。約3年ぶりのインドの街並みを眺めていると、日本に比べてマスクをしている人の少なさが目についた。ホテルに着いて車を手配できるか尋ねると、大気汚染のレベ
2022年12月7日正午前、ペドロ・カスティジョ大統領は国民向けテレビ演説で、国会の解散と臨時政府の樹立を宣言した。午後には国会で同大統領に対する罷免決議案の採決が予定されており、カスティジョ大統領はこれを阻止するために先手を打とうとした。これに対しマスメディアは、大統領が自主クーデター(autogolpe)を試みたと報道した。また、ディナ・ボルアルテ副大統領が国会解散を否定したほか、首相をはじめとする主要閣僚や大統領の顧問弁護士もすぐに辞任を発表した。軍や警察も憲法の秩序を守るとして、カスティジョ大統領を支持しないことを発表した。 国会は午後3時から予定されていた開会を前倒しして大統領罷免決議案の採決に入り、道徳的不適格を理由に、罷免に必要な87票を大きく上回る賛成102票、反対6票、棄権10票でカスティジョ大統領の罷免を可決した。憲法の規定に従い、ボルアルテ副大統領が大統領に就任した(
発足から60年以上の時を経たアジア経済研究所において、その活動の足跡をたどるための史料があまり残されていないことについて、2021年9月に「研究所60周年記念誌発行の表すこと――研究所史料群の構築に向けて」と題したライブラリアン・コラムを通して述べた。本コラムでは、研究所における史料群の構築に向けたその後の動きをまとめる。 2021年度の後半は、翌2022年度からの体制づくりの準備に奔走した。足掛かりとして、60周年記念誌の制作を取りまとめた佐藤幸人氏と、研究マネジメント職の金信遇氏、そして筆者の3人で「発展途上国に関する研究活動の記録の収集・整理・発信――アジア経済研究所のこれまでとこれから」1と銘打った研究会を立ち上げた。各部署や職員の業務のなかで発生し、当初の目的ではほとんど利用されなくなったものの、別の価値があると考えられる記録の収集、保存体制づくりのほか、60周年記念誌の別冊的位
社会主義とは貧富の差がない社会の実現を目標とする思想・社会体制です。しかし実際には、社会主義国でも経済格差が生じています。たとえば中国やベトナムは社会主義国ですが、いずれの国にも世界的に億万長者と称される大富豪が存在します。中国ではジャン・イーミン(Tik Tokを運営するバイトダンスの創業者)やジャック・マー(Eコマースの巨大企業アリババグループの創業者)、ベトナムではファム・ニャット・ヴオン(不動産を中心とするコングロマリットのビングループ創業者)などが挙げられます。一方で、いずれの国でも僻地の農村には日々の暮らしにも困るような貧しい人々がいるのも実態です。 グローバル化が進展するなか、社会主義国に限らず世界各国で所得格差が拡大する傾向にあります。そこでまずは、一般的な格差の問題点や原因についてみてみましょう。経済発展を持続させるうえで、ある程度の格差が生じるのは仕方がありません。しか
トルコが隣国シリアの難民を多数受け入れているのは周知の事実である。2010年3月にシリア内戦が勃発した翌月からシリア人を受け入れ始め、2022年11月現在でも約363万人のシリア人がトルコに滞在している1。彼らは命の危険を感じており、また同じムスリムという共通点もあることから、トルコ人はシリア難民を客人として受け入れてきた。当初、シリア難民は難民キャンプに滞在していたが、次第に難民キャンプを離れ、主に大都市もしくはシリアに近い南東部の都市に移り住むようになった。難民キャンプはシリア人だけの生活空間であったが、キャンプの外での生活は、トルコ人との共存を意味した。 しかし、シリア内戦が一向に収束しないなかでシリア難民に対するトルコ人の態度も変化してきた。図1はシリア難民の数に対するトルコ人の評価を集計したものである。2014年と2015年のデータは米国のシンクタンクであるジャーマン・マーシャル
2022年10月30日、ブラジルの今後を大きく左右する大統領選決選投票が実施された。電子投票を通じて集約された有権者の声は即日開票され、有効票の50.9%を獲得した労働者党(PT)のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領(以下、ルーラ)の返り咲きが決まった。しかし、有効票の49.1%を得た現職のジャイール・ボルソナロ大統領(自由党、PL)との差はわずかであり、選挙結果に不満を持つボルソナロ支持者が道路封鎖や通行の一部妨害を行った1 。また、すでに政権移行チームが発足し、2023年1月1日の新政権発足に向けた動きが進んでいるが、首都ブラジリアの陸軍総司令部前や各地の地域軍司令部前などでは軍の介入に期待するデモも断続的に発生している2 。 連続再選が可能になった1997年以降現職としては初めて落選したボルソナロであるが、選挙直前には現金給付策などによる上昇がみられたものの、政権支持率は
知り合いのTさんから聞いた話では、算数/数学ができるようになると、入試で合格できる学校の偏差値はぐっと高まるという。他教科よりも出題数が少なく部分点もないので、取りこぼしが大きくなる算数や数学では大きな点差がつく。だから、数学の理解を優先させると、難関校が合格圏に入ってくる。本当だろうか? 個人レヴェルだけではなく、社会全体でも数学力を高めることが望ましいと議論された時期がある。2000年代のアメリカでは数学優先政策を主張する運動があった。研究でも数学力の高い学生は賃金も高くなるという結果が示されていた(Levine and Zimmerman 1995; Rose and Betts 2004; Joensen and Nielsen 2009)。 では、大学の理系学部を志望しない小中学生も、算数/数学を優先して勉強すべきなのだろうか。もしも、大学卒業までに習得する学習内容ではなく大学「
ロシア・ウクライナ戦争の終わりが見えないなかで、ウクライナの隣国モルドバのなかに位置する沿ドニエストル共和国が注目されている。そのきっかけは、ロシア連邦中央軍管区副司令官ミンネカエフ少将の発言にある。彼によると、ウクライナにおける「特別軍事作戦」の第2段階は、同国東部のドンバス地方と南部の掌握であり、そこに沿ドニエストルを加えると、クリミアへと向かう陸の回廊が出来上がる1。それによって、ロシアはウクライナ軍や政府を弱体化させられるというものである(Шустрова 2022)。 もっとも、ロシア政府は公式の表明をしておらず、また本稿の執筆時(2022年5月18日)では、沿ドニエストル指導部も、今般の戦争に便乗して武力介入によるロシア編入を求めているわけではない。だが、この発言の真意は定かではないものの、戦況が一進一退するなかで、ロシアの視野に沿ドニエストルが入っていても不思議ではない。 ウ
戦没者追悼記念日(The remembrance day)も近づき、紙製の赤いポピーを胸につけた人を見かけることが多くなってきました1。街ゆく人々だけでなく、テレビをみても、政治家やニュースキャスターたちもほとんどこの赤いポピーをつけており、1日1日と日も短くなるこの季節は、どことなくしめやかな、そしてもの悲しい雰囲気を醸し出しています。 そのようななかで、さる10月20日に財務大臣George Osborneが議会にて報告したSpending review(事業仕分け)の結果は、相当に厳しいものでした2。たとえば、経済自由主義(自由市場・自由貿易)を標榜することで知られる英国の経済紙The Economistは、「痛っ!(Ouch!)」と題した特集を組み、「10月20日のイギリスの雰囲気は、サッカー杯決勝の雰囲気と、どなたかの国葬の雰囲気を、混ぜたものだった」と述べています(The Ec
スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、トルコのエルドアン大統領が反対の意向を表明している。反対の理由は、両国が「(クルド人の)テロリストを匿っている」ことと、2019年のトルコ軍による北東シリアへの越境攻撃を機にトルコへの制裁(武器の禁輸措置等)を行っていることの主に2点である。トルコが越境攻撃を行ったのは、PYD(クルド民主統一党)へ打撃を与えるためで、トルコは、PYDを米国、EUがテロ組織と認定しているPKK(クルディスタン労働者党)の姉妹組織とみなしている。すなわち、この2つの理由は「クルド人勢力の拡大に対する懸念」という点でつながっている。なかでもスウェーデンに対して、エルドアン大統領は、2022年5月16日の会見でテロ組織の「揺籃の中心地」(kuluçka merkezi)であると呼び、スウェーデンに(PKKと結びつきがあるとエルドアン大統領が考える)クルド系国会議員
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻に際して、イスラエルは一方で基本的に「中立」の立場を闡明せんめいしつつ、他方ではいち早くウクライナに対する人道的支援に着手するという曖昧な姿勢に終始することとなった。戦災を逃れた避難民への医療資材や生活必需品の搬入とともに、ウクライナ国内に野戦病院を設営し、交替制で医療チームを送り込むなどの迅速な行動は、必ずしも厳正中立を唱道する国家の施策ではない。実際、イスラエルは国連総会でのロシア非難決議(3月)や人権理事会でのロシアの理事国資格停止決議(4月)には賛成票を投じたが、拘束力を持つ安全保障理事会のロシアを非難し軍の即時撤退を求める決議案には署名せず、米国から批判されている(Daoud 2022; Abrams and Weiss 2022.)。 イスラエルのナフタリ・ベネット政権が心情的にウクライナを支えたいと考えているのは明らかである。国
紹介する研究は、この性比が極端に高い、つまり女性の人口が不自然に少ない中国のデータを使う。中国では、1979年から2015年まで実施された一人っ子政策が、不自然な性比の元凶と考えられてきた。男児を好む文化から、一人しかもてないならば、性選択的中絶によって男児をもつカップルが増えたのではないかといわれる。本研究は、一人っ子政策ではなく、中国の農村における土地改革が、不自然に高い性比の原因であることを実証し、従来の議論に一石を投じる。 インドにおいては、「ミッシングウーマン」現象は、母親一人あたりが産む子どもの数が減ったことで、悪化したといわれている。少ない数の子どもしか産まなければ、男の子を好む文化においては、最低これだけは欲しいと思う男の子の数を確保しようというインセンティブが働くため、性選択的中絶などによって性比が極端に高くなることは直感的にも理解できるだろう。ところが、本研究で対象とす
(注)バルクとは鉄や鉱石、石炭、穀物などを梱包せずに船に搭載する貨物のことを指す。 また、Break Bulkとはコンテナに搭載できない長尺貨物や超重量貨物、 ROROとは貨物を積んだ車両をそのまま船に乗せて移動して運ぶ貨物である。 (出所)Shipping Guides Ltd. (2020)より作成。 まず、海上港の位置関係について確認しておこう。アゾフ海はウクライナのほかに、ロシアが接している。また、アゾフ海はクリミア半島とロシアのタマン半島の間にあるケルチ海峡を通じて黒海とつながっている。ウクライナ侵攻後、アゾフ海はロシア軍によって封鎖されており、現在のところロシア側の管理下にあると言ってよい。世界有数の鉄工所があるマリウポリはアゾフ海に接しているウクライナの港湾のなかで、最大の取扱量を扱っている港湾である。 一方、黒海に面している国は南から時計回りで、トルコ、ブルガリア、ルーマニ
2022年2月24日、ロシアはウクライナへの侵攻を開始した。この侵攻は世界に強い衝撃を与え、戦争をどのようにすれば止められるのかが一大関心事となった。戦況の行方と並んで多くの観察者が注目したのはロシアの国内情勢であった。観察者は政権中枢やオリガルヒ(新興財閥)の動向などから分裂の兆しやクーデターの可能性を読み取ろうと、またロシア国民が今回の侵攻をどのように受け止めているのかをつかもうと、さまざまな努力を重ねてきた。しかし、その核心に迫ることは容易ではない。なぜなら、ロシア国内では政府の公式見解からの逸脱に対しては厳しいペナルティが科されるようになっており(OVD-info 2022)、人々の「本音」を知ることがこれまで以上に困難になっているためである。 このような状況のなかで、侵攻直後の時期においてとりわけ関心が高かったのがロシア国内の反戦デモであった。一般市民が当局からの厳しい抑圧にもか
2022年3月31日、スリランカの最大都市コロンボ郊外のミリハーナにあるゴタバヤ・ラージャパクサ大統領私邸付近で、デモ参加者と警察が衝突し(ミリハーナ事件)、翌日非常事態宣言・夜間外出禁止令が発令された。政府は抗議行動の拡大を阻止しようとソーシャルメディアをブロックしたが、その後も全国で反政府デモが多発し、4月4日には首相以外の全閣僚が辞任するに至った。それを受けて大統領は「全政党による暫定政府を作り、問題解決にあたるので全政党は協力すべき」と主張したが、事態は収まっていない。 今回の抗議デモの原因が経済危機にあることは間違いないだろう。一部ではその要因を中国による「債務の罠」に求める報道もあるが(森 2022)、それは問題の本質ではない。国際ソブリン債の返済問題、大幅な物価の上昇、新型コロナウイルス感染症拡大の影響、外貨や燃料不足による停電など、独立以来の経済危機に生活苦を強いられた都市
ロシア・ウクライナ戦争が勃発しているなかで、こんにちヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(2019年―)ほど、知名度の上がった人物はいないだろう1。ゼレンスキーは、軍事介入に及び腰な西欧諸国の指導者達とは対照的に、ロシアのウクライナ侵攻に徹底抗戦する姿勢を示しながら、自国民の前だけでなく、米国や英国、そして日本の議会でも、Tシャツ姿でウクライナの窮状や支援の必要性を訴える。その姿は「西欧の道徳的リーダー」と言われるほど、大きく注目されている。 ゼレンスキーは社会運動家や著名人としての活動はあるものの、政治家としての経験がなく、人気タレントから大統領になったという異色の経歴を持つ。彼は1978年に東部のドニプロペトロウシク州で生まれ、大学卒業後、テレビ番組やイベントなどを手掛ける「第95街区」(KVARTAL 95)の共同創業者となり、数々のメディアに出演した。なかでも国営放送のドラマ「人民の
2021年2月1日のミャンマー国軍によるクーデターを機に、日本の外交姿勢に対してミャンマー国民の間で厳しい批判が巻き起こった。欧米諸国が国軍やその関連企業に対して標的制裁(targeted sanctions)を発動したのに対し、日本は厳しい措置をとらず、むしろ「独自のパイプ」をいかして国軍幹部への働きかけを重視したからである。つまり、日本の姿勢はミャンマー国軍に宥和的過ぎるとの批判であった。 なかでも日本がミャンマーに供与しているODAについて、クーデター後も実施中の案件を継続し、完全には止めなかったことは厳しく批判された。さらに、ODAによる建設事業の一部が国軍関連企業に発注されていたことがわかると、ミャンマー国民の不信は増幅した。ミャンマー国民の批判や不信は、国軍関連企業とビジネスをしていた日本企業にも向けられた。 (少なくとも一部の)日本のODAや日本企業のビジネスは、ミャンマー国
第1節 海洋、国家、遠隔地交易 第2節 近世商業資本主義の展開と海上遠隔地交易 第3節 大航海時代における海上遠隔地交易と異界幻想 第4節 水平線とフロンティア—西洋正解の活性化 第5節 制海権の思想 第6節 遠距離航海の実像とアジアにおける白人社会 第7節 西洋諸国の主要輸出品としての武器と銃器テクノロジーの発達 第8節 テラ・アウストラリス・インコグニア(未確認南方大陸) 参考文献 第1節 西洋人の登場 第2節 太平洋交易の開幕と太平洋諸島における政治・社会変動 第3節 ビーチ・コーマーの出現 第4節 寄港地の誕生と島嶼王国 第5節 島嶼王国の政治構造 第6節 キリスト教と宣教団 第7節 太平洋交易の拡大と寄港地社会の展開 第8節 太平洋島嶼における白人入植活動の開始 第9節 入植者の増大と白人社会の変容 第10節 白人入植者による土地集積と島嶼王国の変容 第11節 伝統的貢納体系とし
図書館司書はどのような仕事をしていると思うか。様々な機会を通じて図書館司書になりたい人や司書資格取得を目指す学生に聞いてみると、図書館の本の管理や貸出返却、利用者への対応といったサービスが最初に挙げられる。もう少し聞いてみると、目録の整備や図書館でのイベントの企画をしているという。検索エンジンで図書館司書の仕事を検索しても似たようなことが書かれている。ここまで図書館司書の仕事として挙げられたものは重要なものである。いずれにおいても図書館システムに関する話はほとんど出てこない。今回は、図書館システムを始めとしたシステム全般を扱う図書館司書について書いてみる。 図書館システムを取り扱う図書館司書は「システムズライブラリアン」と呼ばれることもある(宇陀 2006)。しかし、「システムズライブラリアン」の専門性や役割について議論をする以前に、冒頭で述べたとおり、そもそも図書館司書とシステムが関係な
2019年末に中国武漢市で発生した新型コロナウィルス(COVID-19)感染症は、人の移動により飛沫感染等を通じて短期間で全世界に拡がった。2020年8月1日時点で、感染者数は1780万人、死亡者数68.3万人に上り、その勢いは未だ留まることを知らない。 人類史上未曾有のパンデミックと化したCOVID-19だが、世界史を紐解くと、疫病との闘いは、古から今日まで幾度となく繰り返されてきた。交易、探検、遠征、植民等による民族の大移動の裏には、必ずと言っていいほど、外部の侵入者がもたらす感染症に罹患し、命を落とす夥しい犠牲者が存在した。 なかでも、1492年のコロンブスによる「新大陸発見」とスペインによる征服と植民地化がもたらした病原菌は、アメリカ大陸・カリブ海地域の先住民社会に壊滅的な影響を与えた。 『物語ラテン・アメリカの歴史――未来の大陸』は、文化人類学者増田義郎による古代から20世紀半ば
マレー半島の先端に位置する都市国家シンガポール。ダボス会議の主催者として知られる世界経済フォーラムが発表した『2019世界競争力報告』では、世界1位にランクインした屈指の先進都市国家である。海上交通の要衝であるマラッカ海峡に面していることから、古くからゴムや錫などの交易地として栄えてきた。2019年はイギリス東インド会社のトーマス・スタンフォード・ラッフルズによるシンガポール上陸200周年であり、貿易中継地としてスタートした発展の歴史を振り返るイベントが多く開催されている。 シンガポールはまた、東京23区の1.2倍ほどの狭い国土でありながら多民族国家として知られる。2019年6月の発表によれば、総人口(国民、永住権者の総数)402万6209人のうち、中華系が299万3708人(74%)で最も多く、マレー系54万783人(13%)、インド系36万2637人(9%)と続く。公用語も英語、マンダ
Milan W. Svolik. 2020. "When Polarization Trumps Civic Virtue: Partisan Conflict and the Subversion of Democracy by Incumbents." Quarterly Journal of Political Science 15 (1):3-31. doi: 10.1561/100.00018132. 「民主主義は大切だと思いますか」と尋ねれば、おそらく多くの人が「そう思います」と答える。しかし、自分にとって経済的な利益がもたらされるような政策を推進する政治指導者が、敵対する野党の言論を弾圧したり、自らの権力を抑制する司法手続きを無視したりしたとき、この「民主主義は大切と思う」と答えた人たちはどうするだろうか。民主主義的な価値に反する行動をとるこの政治指導者を批判し、自分の経済的
Ellora Derenoncourt and Claire Montialoux, "Minimum wages and racial inequality," Quarterly Journal of Economics, 136.1 (2021): 169-228. 広がる経済格差の対策として最低賃金を使う。先進各国で最低賃金の引き上げが相次ぐなか、このアイディアは今日的だ。しかし、格差を縮める効果はあるのか。ドレノンクールとモンシャルーの研究は、この今日的課題に歴史的な回答を示している。最低賃金は格差縮小の強力な手段であり、その効果は10年以上消えることはなかった。 本研究で取り上げる米国では、1960~70年代に白人と黒人の所得格差が半減した。とくに、1967年と1968年に大きく減少している。先行研究では公民権運動、黒人向けの教育の改善、所得移転などが検討されているが、いずれも
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