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インタビュー
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トランプ政権が再始動した。政権発足から1カ月余りで、内政と外交にわたり多くの政策を矢継ぎ早に大統領令または大統領主導によって実現しようとしている。そのスピード感は、この政権が新政権ではなく4年前からの延長線としてスタートしていることを示しているかのようである。前回のトランプ政権4年間で培った様々な経験を反映し、アメリカ・ファースト、または「力による平和」を実現するための政策課題や政策手法に確信を持っているかのようにも見える。 前回の政権で当初入閣した者には、従来も政策決定に携わってきたような人々も多かった。しかし、今回はトランプ氏への忠誠心をもとに選ばれた政治家や専門家が政権で明確に多数派を構成する。トランプ2.0はトランプ1.0よりもワシントン政治のアウトサイダー、そして短期的な利益を徹底的に追求するという意味での「超リアリスト」としての性格を強めている。既にその影響は、ロシア・ウクライ
アジア経済研究所(以下、アジ研とする)図書館では、2020年8月に感染症対策の換気の影響で、一部書庫におけるカビ被害を経験した1。筆者はこの時、環境整備、特に湿度管理が非常に重要であることを痛感し、また、カビが発生してからの対処では多大な時間と費用を要することも身をもって経験した。 他の館での参考になればと、ライブラリアン・コラムに記載したこの話は、ありがたいことに多くの方々が読んでくださり、2022年には全国図書館大会群馬大会でお話しさせていただく機会も得た。筆者はここで「発生してからでは大変なので、予防に力を入れて」と強調した。が、今、「換気の仕方に気を付ける」以上の予防の話をしなかったこと、そして自分自身もそれ以上のことはあまり考えていなかったということを深く反省している。というのも、アジ研図書館では2023年10月に1階参考書架で最初のカビ被害が確認されてから、2023年12月から
アメリカは軍事力、経済力、技術力のいずれをとってみても世界で最も強大な国家である。中国との大国間競争が国際政治の焦点となって久しいが、アメリカの物質的な優位は揺るがない。これに日本や韓国、西欧諸国といった主要同盟国を含めた「西側」全体をみれば、その優勢は明確となる。 それにもかかわらず、アメリカ主導の「リベラルな国際秩序」には黄昏が迫り、その根幹たる西側同盟も大きく揺らいでいる。震源地はアメリカ、とりわけ2025年1月20日に成立した第二次ドナルド・トランプ政権であり、その焦点は米中競争の最前線たる東アジアにほかならない。 第二次トランプ政権発足後の東アジア、すなわち北東アジアから東南アジアにかけての地域秩序は、いかなるものになるのか。この小文では、歴史と理論を手がかりとして考えてみたい。 まず一般にトランプ外交とは何か、検討してみよう。これを理解するための鍵は、トランプ外交に特異な要素と
民主主義という言葉ほど扱いにくいものはない。政治学では「包括的参加」(成人市民がみな選挙に参加できる)と「多元性」(異なる意見を持つ集団・人々が自由に政治的競争に参加できる)が民主主義の基準として概ね合意されるところだが、そんなことはお構いなしに、民主主義をめぐる議論が噛み合わなくなることはよく経験するところだろう。ある政治家の行動を見て「非民主的だ!」と批判する人々もいれば、「民主的だ!」と支持する人もいる。近年、世界各地で見られる民主主義の後退を念頭に、こうした人々の認識のあり方に注目したのが、今回紹介する研究である。 民主主義を支持する価値観・規範を広く共有する社会において、なぜ非民主的な政治家の行動が許容・支持されるのか。これを解き明かすことは民主主義の後退を理解するうえで重要なカギとなる。それは、民主主義の後退が、民主主義があからさまに否定され、権威主義が称賛されるなかで起こって
2024年11月の米大統領選挙において、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が民主党のカマラ・ハリス候補を破り再選を決めた。トランプ次期大統領は、第2次政権では中国製品に対する60%以上の関税と、その他の国々に対する最大20%の関税を導入することを掲げている。これは2018年から2019年にかけて実施された第1次トランプ政権の対中関税政策をさらに強化し、中国以外のすべての国にも新たな関税を課すものである。本稿では、この関税政策が実施された場合の世界経済と日本への影響について、アジア経済研究所の経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)を用いた分析結果を報告する。 IDE-GSMは、空間経済学に基づく計算可能な一般均衡(CGE)モデルの一種であり、2007年からアジア経済研究所で開発が進められてきた。このモデルは、ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)、世界銀行やアジア開発銀
本論文は、2016年の米国大統領選挙の際にドナルド・トランプが開催した政治集会が、黒人に対する警察官の交通取り締まり活動に与えた影響を分析する。共和党候補者であったトランプはその選挙活動中、特定の人種や民族に関する社会問題を過激な言葉を用いて取り上げ支持者に訴えた。例えば、メキシコ人を強姦犯と決めつけメキシコに対する国境の壁の建設を提唱したことや、イスラム過激主義問題に触れイスラム教徒の入国禁止を訴えたこと、およびレイプという言葉を用い中国が不正な貿易慣行や知的財産権の侵害を行っていると主張したことなどは記憶に新しい。他にも、都市犯罪に言及することでアフリカ系アメリカ人コミュニティに対する否定的なイメージを助長する発言も行った。ただし、人々の対立を煽るトランプの発言の中心が必ずしも黒人でなかったことはここで述べておく。 分析に利用する主なデータは二つだ。一つは、2015年から2017年にか
という式で係数bが正か検定します。具体的には、統計プログラムなどでbを推計して推計値 b ^ を得ます。推計値 b ^ が正だったとしても、誤差で正になっている可能性もあるので、誤差を考慮しても正か、つまり、真の値bが統計学的にゼロと違うと判断できるか検定します1。なお、以下では本文は日常用語表現に努め、より正確な表現は脚注に記すことにします。 この統計学的推論では、 b = 0 が正しいと想定し、得た推計値 b ^ が( b = 0 からすると)どれだけ極端かを問います。真の値が b = 0 の場合に推計値 b ^ 以上の値を観察する確率が分かれば、得た推計値 b ^ がどれだけ極端かの判断材料になります。この「 b = 0 が正しいときに、得た推計値 b ^ 以上の値を観察する確率」をp値といいます2。p値が小さければ、
私は1972年の春半ばにラオスのポンサリーで生まれた。ベトナム戦争の陰でアメリカが秘密裏に爆撃を行って、「史上最も空爆を受けた国」といわれることになったラオス内戦終結の3年前である。そうした激動の時代だったためか、物心ついたばかりの記憶は、まったく知らない人、言葉が通じない人によく会ったりだとか、頻繁に長距離の引っ越しをしたりだとか、そういった目まぐるしいものしかない。また、親が仕事で遠出をすることが多かったため、首都ヴィエンチャンに引っ越してからの幼少期は祖父母と住んでいた。 叔母から聞かされた話では、私はどうやら好奇心が旺盛な子どもだったらしい。多くの人が幼い時分にするように、本棚を物色して、写真や挿絵が面白そうな本を見つけると、よく大人に読んでほしいとねだった。しかし、私の場合、それだけでは必ずしも読んでもらえなかった。ラオス語で書かれた本は当時まだ少なく、どの言葉で書かれたどの本を
2023年4月、アジア経済研究所図書館(以下、当館と略)のデジタルアーカイブの一部が装いを新たにした。新規デジタルアーカイブを公開したわけではないために特段周知することもなく、ひっそりとした改訂である。加えて、デジタルアーカイブ「戦前・戦中期日本関係機関資料」(以下、「戦前・戦中期」と略)にはこの数年で「南満洲鉄道株式会社」(以下、満鉄と略)関連の新規資料が掲載されている。そこで本コラムでは、満鉄関連の資料2点を紹介し、改訂版のデジタルアーカイブの使い方についても簡単に述べることにしたい。 ここで紹介するのは、『滿洲事變ニ於ケル鄭通線被害實景』と『會社實態調書』(以下では基本的に常用漢字を用いて表記)である。これらはともに、旧満鉄社員を中心とした財団法人満鉄会(1946~2016年)から当館に寄贈された(ただし、寄贈された時期は異なる)。 (1)『満洲事変ニ於ケル鄭通線被害実景』 本資料は
インドネシアのジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権は2期目の折返し点を迎えようとしているが、大統領に対する支持率は依然として高い水準で推移している。図にあるように各種世論調査の数字を見ても、2021年12月の段階で大統領の支持率は約70%を維持している。新型コロナウイルスのデルタ株による感染が急拡大して多大な犠牲者を出したことや、それに伴う社会活動制限が経済を圧迫したことで2021年中ごろに支持率の数値は一時的に低下したが、それでも政権運営を揺るがすほどまでに落ち込むことはなかった。 (注)ここでは「ジョコウィ大統領の業績に満足していますか」との質問に対して 「非常に満足している」「まあ満足している」と回答した人の割合を支持率としている。 (出所)世論調査機関Saiful Mujani Research & Consulting(SMRC)社と Indikator Politik Ind
2023年5月現在、AIチャットボット“ChatGPT”は、あらゆる分野で影響を与えている。図書館も例外ではなく、ある図書館でこんな事例があったようだ。図書館利用者Aは読みたい本Bがあり、ChatGPTに所蔵状況を尋ねたところ、図書館Cに所蔵があるという情報が提示された。そこで図書館Cを訪問するが、図書館Cに目的とする本はなかった。上記の事例から図書館利用者が、有力な情報検索ツールとしてWikipediaやGoogle以外にもChatGPTを用いる可能性が出てきたことが分かる。本稿では、上記事例をもとにChatGPTと図書館の関係について考察していく。なお、詳しい技術や仕様について、ChatGPTの大元であるGPTやInstructGPT等の論文はプレプリント・サーバーであるarXivから原著を読むことができる。 また、本稿の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア
学生時代、司書になろうと思った時には、将来自分が海外に出張して本を仕入れたり、それらを苦労して日本に発送したりすることになるとは思ってもみなかった。アジア経済研究所のライブラリアンは、現地調査という名目で担当地域に出張し、資料収集や資料事情の調査を行う。筆者は、『2015年ニューデリー・ワールド・ブックフェア訪問とインド郵便局からの資料の発送』で海外赴任中の資料収集活動について報告を行った。本稿では、その続編として2019年11月と2023年1月の出張時に体験した変化を交えつつ、インドの政府関係機関や研究所、書店での資料収集と発送について綴ってみたい。 前回インドに出張したのは2019年の11月、コロナ禍で海外渡航が大きく制限される直前だった。約3年ぶりのインドの街並みを眺めていると、日本に比べてマスクをしている人の少なさが目についた。ホテルに着いて車を手配できるか尋ねると、大気汚染のレベ
2022年12月7日正午前、ペドロ・カスティジョ大統領は国民向けテレビ演説で、国会の解散と臨時政府の樹立を宣言した。午後には国会で同大統領に対する罷免決議案の採決が予定されており、カスティジョ大統領はこれを阻止するために先手を打とうとした。これに対しマスメディアは、大統領が自主クーデター(autogolpe)を試みたと報道した。また、ディナ・ボルアルテ副大統領が国会解散を否定したほか、首相をはじめとする主要閣僚や大統領の顧問弁護士もすぐに辞任を発表した。軍や警察も憲法の秩序を守るとして、カスティジョ大統領を支持しないことを発表した。 国会は午後3時から予定されていた開会を前倒しして大統領罷免決議案の採決に入り、道徳的不適格を理由に、罷免に必要な87票を大きく上回る賛成102票、反対6票、棄権10票でカスティジョ大統領の罷免を可決した。憲法の規定に従い、ボルアルテ副大統領が大統領に就任した(
発足から60年以上の時を経たアジア経済研究所において、その活動の足跡をたどるための史料があまり残されていないことについて、2021年9月に「研究所60周年記念誌発行の表すこと――研究所史料群の構築に向けて」と題したライブラリアン・コラムを通して述べた。本コラムでは、研究所における史料群の構築に向けたその後の動きをまとめる。 2021年度の後半は、翌2022年度からの体制づくりの準備に奔走した。足掛かりとして、60周年記念誌の制作を取りまとめた佐藤幸人氏と、研究マネジメント職の金信遇氏、そして筆者の3人で「発展途上国に関する研究活動の記録の収集・整理・発信――アジア経済研究所のこれまでとこれから」1と銘打った研究会を立ち上げた。各部署や職員の業務のなかで発生し、当初の目的ではほとんど利用されなくなったものの、別の価値があると考えられる記録の収集、保存体制づくりのほか、60周年記念誌の別冊的位
社会主義とは貧富の差がない社会の実現を目標とする思想・社会体制です。しかし実際には、社会主義国でも経済格差が生じています。たとえば中国やベトナムは社会主義国ですが、いずれの国にも世界的に億万長者と称される大富豪が存在します。中国ではジャン・イーミン(Tik Tokを運営するバイトダンスの創業者)やジャック・マー(Eコマースの巨大企業アリババグループの創業者)、ベトナムではファム・ニャット・ヴオン(不動産を中心とするコングロマリットのビングループ創業者)などが挙げられます。一方で、いずれの国でも僻地の農村には日々の暮らしにも困るような貧しい人々がいるのも実態です。 グローバル化が進展するなか、社会主義国に限らず世界各国で所得格差が拡大する傾向にあります。そこでまずは、一般的な格差の問題点や原因についてみてみましょう。経済発展を持続させるうえで、ある程度の格差が生じるのは仕方がありません。しか
トルコが隣国シリアの難民を多数受け入れているのは周知の事実である。2010年3月にシリア内戦が勃発した翌月からシリア人を受け入れ始め、2022年11月現在でも約363万人のシリア人がトルコに滞在している1。彼らは命の危険を感じており、また同じムスリムという共通点もあることから、トルコ人はシリア難民を客人として受け入れてきた。当初、シリア難民は難民キャンプに滞在していたが、次第に難民キャンプを離れ、主に大都市もしくはシリアに近い南東部の都市に移り住むようになった。難民キャンプはシリア人だけの生活空間であったが、キャンプの外での生活は、トルコ人との共存を意味した。 しかし、シリア内戦が一向に収束しないなかでシリア難民に対するトルコ人の態度も変化してきた。図1はシリア難民の数に対するトルコ人の評価を集計したものである。2014年と2015年のデータは米国のシンクタンクであるジャーマン・マーシャル
2022年10月30日、ブラジルの今後を大きく左右する大統領選決選投票が実施された。電子投票を通じて集約された有権者の声は即日開票され、有効票の50.9%を獲得した労働者党(PT)のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領(以下、ルーラ)の返り咲きが決まった。しかし、有効票の49.1%を得た現職のジャイール・ボルソナロ大統領(自由党、PL)との差はわずかであり、選挙結果に不満を持つボルソナロ支持者が道路封鎖や通行の一部妨害を行った1 。また、すでに政権移行チームが発足し、2023年1月1日の新政権発足に向けた動きが進んでいるが、首都ブラジリアの陸軍総司令部前や各地の地域軍司令部前などでは軍の介入に期待するデモも断続的に発生している2 。 連続再選が可能になった1997年以降現職としては初めて落選したボルソナロであるが、選挙直前には現金給付策などによる上昇がみられたものの、政権支持率は
知り合いのTさんから聞いた話では、算数/数学ができるようになると、入試で合格できる学校の偏差値はぐっと高まるという。他教科よりも出題数が少なく部分点もないので、取りこぼしが大きくなる算数や数学では大きな点差がつく。だから、数学の理解を優先させると、難関校が合格圏に入ってくる。本当だろうか? 個人レヴェルだけではなく、社会全体でも数学力を高めることが望ましいと議論された時期がある。2000年代のアメリカでは数学優先政策を主張する運動があった。研究でも数学力の高い学生は賃金も高くなるという結果が示されていた(Levine and Zimmerman 1995; Rose and Betts 2004; Joensen and Nielsen 2009)。 では、大学の理系学部を志望しない小中学生も、算数/数学を優先して勉強すべきなのだろうか。もしも、大学卒業までに習得する学習内容ではなく大学「
ロシア・ウクライナ戦争の終わりが見えないなかで、ウクライナの隣国モルドバのなかに位置する沿ドニエストル共和国が注目されている。そのきっかけは、ロシア連邦中央軍管区副司令官ミンネカエフ少将の発言にある。彼によると、ウクライナにおける「特別軍事作戦」の第2段階は、同国東部のドンバス地方と南部の掌握であり、そこに沿ドニエストルを加えると、クリミアへと向かう陸の回廊が出来上がる1。それによって、ロシアはウクライナ軍や政府を弱体化させられるというものである(Шустрова 2022)。 もっとも、ロシア政府は公式の表明をしておらず、また本稿の執筆時(2022年5月18日)では、沿ドニエストル指導部も、今般の戦争に便乗して武力介入によるロシア編入を求めているわけではない。だが、この発言の真意は定かではないものの、戦況が一進一退するなかで、ロシアの視野に沿ドニエストルが入っていても不思議ではない。 ウ
戦没者追悼記念日(The remembrance day)も近づき、紙製の赤いポピーを胸につけた人を見かけることが多くなってきました1。街ゆく人々だけでなく、テレビをみても、政治家やニュースキャスターたちもほとんどこの赤いポピーをつけており、1日1日と日も短くなるこの季節は、どことなくしめやかな、そしてもの悲しい雰囲気を醸し出しています。 そのようななかで、さる10月20日に財務大臣George Osborneが議会にて報告したSpending review(事業仕分け)の結果は、相当に厳しいものでした2。たとえば、経済自由主義(自由市場・自由貿易)を標榜することで知られる英国の経済紙The Economistは、「痛っ!(Ouch!)」と題した特集を組み、「10月20日のイギリスの雰囲気は、サッカー杯決勝の雰囲気と、どなたかの国葬の雰囲気を、混ぜたものだった」と述べています(The Ec
スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、トルコのエルドアン大統領が反対の意向を表明している。反対の理由は、両国が「(クルド人の)テロリストを匿っている」ことと、2019年のトルコ軍による北東シリアへの越境攻撃を機にトルコへの制裁(武器の禁輸措置等)を行っていることの主に2点である。トルコが越境攻撃を行ったのは、PYD(クルド民主統一党)へ打撃を与えるためで、トルコは、PYDを米国、EUがテロ組織と認定しているPKK(クルディスタン労働者党)の姉妹組織とみなしている。すなわち、この2つの理由は「クルド人勢力の拡大に対する懸念」という点でつながっている。なかでもスウェーデンに対して、エルドアン大統領は、2022年5月16日の会見でテロ組織の「揺籃の中心地」(kuluçka merkezi)であると呼び、スウェーデンに(PKKと結びつきがあるとエルドアン大統領が考える)クルド系国会議員
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻は、21世紀の国際政治のターニングポイントとなるのだろうか。ウクライナをめぐるロシアの対応は、20世紀の遺物として忘れ去られていた冷戦期の分断された世界や核の脅威を改めて我々に思い起こさせることとなった。ロシアと隣接し、北方領土問題を抱える日本にとってもウクライナ危機は対岸の火事ではない。 日本と同様、黒海を挟んでロシア、ウクライナと隣接するトルコも今回の危機は他人事ではなかった。1949年の北大西洋条約機構(NATO)の発足時から加盟に積極的であり、1952年の第1次拡大でNATOの一員となったトルコの基本的なスタンスは、他のNATO加盟国同様、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、ウクライナを擁護するというものである。 その一方で、ロシアはトルコにとって必要不可欠な国であるという事実がある。トルコはシリアやリビアでロシアが支援するアサド政権やリ
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻に際して、イスラエルは一方で基本的に「中立」の立場を闡明せんめいしつつ、他方ではいち早くウクライナに対する人道的支援に着手するという曖昧な姿勢に終始することとなった。戦災を逃れた避難民への医療資材や生活必需品の搬入とともに、ウクライナ国内に野戦病院を設営し、交替制で医療チームを送り込むなどの迅速な行動は、必ずしも厳正中立を唱道する国家の施策ではない。実際、イスラエルは国連総会でのロシア非難決議(3月)や人権理事会でのロシアの理事国資格停止決議(4月)には賛成票を投じたが、拘束力を持つ安全保障理事会のロシアを非難し軍の即時撤退を求める決議案には署名せず、米国から批判されている(Daoud 2022; Abrams and Weiss 2022.)。 イスラエルのナフタリ・ベネット政権が心情的にウクライナを支えたいと考えているのは明らかである。国
紹介する研究は、この性比が極端に高い、つまり女性の人口が不自然に少ない中国のデータを使う。中国では、1979年から2015年まで実施された一人っ子政策が、不自然な性比の元凶と考えられてきた。男児を好む文化から、一人しかもてないならば、性選択的中絶によって男児をもつカップルが増えたのではないかといわれる。本研究は、一人っ子政策ではなく、中国の農村における土地改革が、不自然に高い性比の原因であることを実証し、従来の議論に一石を投じる。 インドにおいては、「ミッシングウーマン」現象は、母親一人あたりが産む子どもの数が減ったことで、悪化したといわれている。少ない数の子どもしか産まなければ、男の子を好む文化においては、最低これだけは欲しいと思う男の子の数を確保しようというインセンティブが働くため、性選択的中絶などによって性比が極端に高くなることは直感的にも理解できるだろう。ところが、本研究で対象とす
(注)バルクとは鉄や鉱石、石炭、穀物などを梱包せずに船に搭載する貨物のことを指す。 また、Break Bulkとはコンテナに搭載できない長尺貨物や超重量貨物、 ROROとは貨物を積んだ車両をそのまま船に乗せて移動して運ぶ貨物である。 (出所)Shipping Guides Ltd. (2020)より作成。 まず、海上港の位置関係について確認しておこう。アゾフ海はウクライナのほかに、ロシアが接している。また、アゾフ海はクリミア半島とロシアのタマン半島の間にあるケルチ海峡を通じて黒海とつながっている。ウクライナ侵攻後、アゾフ海はロシア軍によって封鎖されており、現在のところロシア側の管理下にあると言ってよい。世界有数の鉄工所があるマリウポリはアゾフ海に接しているウクライナの港湾のなかで、最大の取扱量を扱っている港湾である。 一方、黒海に面している国は南から時計回りで、トルコ、ブルガリア、ルーマニ
2022年2月24日、ロシアはウクライナへの侵攻を開始した。この侵攻は世界に強い衝撃を与え、戦争をどのようにすれば止められるのかが一大関心事となった。戦況の行方と並んで多くの観察者が注目したのはロシアの国内情勢であった。観察者は政権中枢やオリガルヒ(新興財閥)の動向などから分裂の兆しやクーデターの可能性を読み取ろうと、またロシア国民が今回の侵攻をどのように受け止めているのかをつかもうと、さまざまな努力を重ねてきた。しかし、その核心に迫ることは容易ではない。なぜなら、ロシア国内では政府の公式見解からの逸脱に対しては厳しいペナルティが科されるようになっており(OVD-info 2022)、人々の「本音」を知ることがこれまで以上に困難になっているためである。 このような状況のなかで、侵攻直後の時期においてとりわけ関心が高かったのがロシア国内の反戦デモであった。一般市民が当局からの厳しい抑圧にもか
2022年3月31日、スリランカの最大都市コロンボ郊外のミリハーナにあるゴタバヤ・ラージャパクサ大統領私邸付近で、デモ参加者と警察が衝突し(ミリハーナ事件)、翌日非常事態宣言・夜間外出禁止令が発令された。政府は抗議行動の拡大を阻止しようとソーシャルメディアをブロックしたが、その後も全国で反政府デモが多発し、4月4日には首相以外の全閣僚が辞任するに至った。それを受けて大統領は「全政党による暫定政府を作り、問題解決にあたるので全政党は協力すべき」と主張したが、事態は収まっていない。 今回の抗議デモの原因が経済危機にあることは間違いないだろう。一部ではその要因を中国による「債務の罠」に求める報道もあるが(森 2022)、それは問題の本質ではない。国際ソブリン債の返済問題、大幅な物価の上昇、新型コロナウイルス感染症拡大の影響、外貨や燃料不足による停電など、独立以来の経済危機に生活苦を強いられた都市
ロシア・ウクライナ戦争が勃発しているなかで、こんにちヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(2019年―)ほど、知名度の上がった人物はいないだろう1。ゼレンスキーは、軍事介入に及び腰な西欧諸国の指導者達とは対照的に、ロシアのウクライナ侵攻に徹底抗戦する姿勢を示しながら、自国民の前だけでなく、米国や英国、そして日本の議会でも、Tシャツ姿でウクライナの窮状や支援の必要性を訴える。その姿は「西欧の道徳的リーダー」と言われるほど、大きく注目されている。 ゼレンスキーは社会運動家や著名人としての活動はあるものの、政治家としての経験がなく、人気タレントから大統領になったという異色の経歴を持つ。彼は1978年に東部のドニプロペトロウシク州で生まれ、大学卒業後、テレビ番組やイベントなどを手掛ける「第95街区」(KVARTAL 95)の共同創業者となり、数々のメディアに出演した。なかでも国営放送のドラマ「人民の
2021年2月1日のミャンマー国軍によるクーデターを機に、日本の外交姿勢に対してミャンマー国民の間で厳しい批判が巻き起こった。欧米諸国が国軍やその関連企業に対して標的制裁(targeted sanctions)を発動したのに対し、日本は厳しい措置をとらず、むしろ「独自のパイプ」をいかして国軍幹部への働きかけを重視したからである。つまり、日本の姿勢はミャンマー国軍に宥和的過ぎるとの批判であった。 なかでも日本がミャンマーに供与しているODAについて、クーデター後も実施中の案件を継続し、完全には止めなかったことは厳しく批判された。さらに、ODAによる建設事業の一部が国軍関連企業に発注されていたことがわかると、ミャンマー国民の不信は増幅した。ミャンマー国民の批判や不信は、国軍関連企業とビジネスをしていた日本企業にも向けられた。 (少なくとも一部の)日本のODAや日本企業のビジネスは、ミャンマー国
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