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北極域の永久凍土の気温上昇と衰退が地球温暖化との関連で注目されている。その原因として、積雪の影響が気温よりも大きいことを、海洋研究開発機構地球環境観測研究開発センターの朴昊澤(パク ホーテク)主任研究員らが観測データの解析と数値モデルで示した。温暖化は一筋縄ではいかない複雑な現象ではあることを印象づけた。ロシア科学アカデミーシベリア支部永久凍土研究所と米アラスカ大学フェアバンクス校との共同研究で、10月14日に米科学誌Climate Dynamicsオンライン版に発表した。 近年、温暖化の影響で北極陸域の永久凍土の衰退及び地温上昇が急速に進行している。地温の上昇率は気温上昇よりも高く、その要因として積雪の影響がこれまでも指摘されていたが、その寄与率は未解明だった。今回、観測データを詳しく解析するとともに、コンピューターの数値モデルで定量的に分析した。東シベリアとアラスカの永久凍土域では、地
汗をかけない先天性無汗症患者の原因遺伝子が、細胞内のカルシウム濃度を調節しているイノシトール三リン酸(IP3)受容体であることを、理化学研究所脳科学総合研究センターの御子柴克彦(みこしば かつひこ)チームリーダーと久恒智博(ひさつね ちひろ)研究員らが初めて見つけた。発汗による体温調節の一端の解明や治療法に道を開く発見として注目される。スウェーデンのウプサラ大学との共同研究で、10月20日付の米科学誌The Journal of Clinical Investigationオンライン版に発表した。 ヒトは暑さや運動などで体温が上昇すると、汗をかく。汗は蒸発する際に体から熱を奪い、体温を下げる。汗をかけないと、熱中症やめまいを発症しやすく、重症化して、意識障害やけいれんなどを起こすこともある。このような無汗症の原因として、汗腺の形成不全や交感神経の異常などがこれまで報告されていたが、その他の
火山国の日本は火山災害と向き合わざるを得ない。日本列島で今後100年間に巨大カルデラ噴火が起こる確率は1%とする分析結果を、神戸大学大学院理学研究科の巽好幸(たつみ よしゆき)教授と鈴木桂子(すずき けいこ)准教授が10月22日都内で会見して発表した。日本列島で過去12万年間に起きた火山噴火の規模と発生頻度を統計的に解析してまとめた。日本の存亡にも関わるような巨大噴火への備えを警告する予測として注目される。その研究論文は11月11日の日本学士院紀要に掲載される。 研究グループは、日本列島で12万年前から発生した火山活動447回の規模と発生頻度を調べ、通常の山体噴火と、カルデラの形成を伴うような巨大噴火が異なる仕組みで起きることを突き止めた。山体噴火は、マグマだまりに新しいマグマが地下から供給されて、圧力や温度の上昇が原因と考えられる。これに対し、巨大カルデラ噴火は、巨大なマグマだまり内でマ
ハイブリッド自動車の駆動モーターとして使われているネオジム磁石よりも少ないレアアースで、同等以上の優れた磁気特性を持つ新規磁石化合物NdFe12Nxの合成に、物質・材料研究機構の宝野和博(ほうの かずひろ)フェローのグループが成功した。佐川眞人(さがわ まさと)博士が1982年に発明した世界最強のネオジム磁石の主成分の化合物に匹敵する新規化合物が32年ぶりに見つかったことで、さらなる新規磁石開発が夢物語でないことを示した。10月20日付の金属系材料の国際速報誌Scripta Materialiaオンライン版に発表した。 ネオジム磁石に含まれるネオジムやジスプロシウムはレアアース(希土類元素)で、その産出が特定国に集中しているため、レアアースに頼らない磁石の開発が求められている。ネオジム磁石はネオジム2:鉄14:ホウ素1という磁石化合物(ネオ鉄ボロン)が主成分で、高い異方性磁界と高い磁化のた
約2億5200万年前の古生代末に生物は大量絶滅した。この史上最大の絶滅の後に、海の生態系が、これまで考えられていたよりも速やかに回復していた証拠を、ドイツ・ボン大学の中島保寿(なかじま やすひさ)博士研究員と東京大学大学院理学系研究科大学院生の泉賢太郎(いずみ けんたろう)さんが見つけた。 宮城県南三陸町の中生代初期の大沢層から脊椎動物の糞(ふん)化石を採集して、この中から小さな骨を検出し、当時の海洋の食物連鎖を示した。中生代初期に海洋動物が捕食した行動の記録としては国内初めての発見で、生物大量絶滅後の生態系の復元力を見る重要な成果として注目される。9月27日付の国際科学誌「Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology」オンライン版に発表した。 古生代末には、海の生物のうち95%の種が絶滅し、生物間の複雑な食物連鎖が一挙に失われた。恐竜
植物は意外な能力を秘めている。植物が根で土から窒素栄養分を効率よく取り込む仕組みを、名古屋大学大学院理学研究科の松林嘉克(まつばやし よしかつ)教授と田畑亮(たばた りょう)研究員、住田久美子(すみだ くみこ)研究員、篠原秀文(しのはら ひでふみ)助教らが見つけた。周りの土に窒素分が不足すれば、根はそのシグナルを新しいホルモンのCEPで葉に伝え、他の根に吸収を促す巧妙な制御の仕組みがあった。窒素飢餓に強い作物づくりなどにつながる発見といえる。10月17日の米科学誌サイエンスに発表した。 植物は窒素分を根から、主に硝酸イオンとして吸収し、タンパク質を作りだして育つ。しかし、自然界の土壌中の硝酸イオンの分布は極めて不均一で、植物は個々の根の環境に応じて、窒素分の取り込みを制御する必要がある。研究グループはシロイヌナズナの遺伝子情報を基に、根の周りの窒素分不足を関知するペプチドホルモンのCEPを
実りの秋は台風の季節。近年多発している大型台風に耐えられる作物の育成は重要な課題である。その研究に光を当てる成果が出た。最強のイネで知られる、倒れにくい品種「リーフスター」の遺伝変異を調べ、低リグニン性と茎が強い性質を併せ持つ謎を、東京農工大学大学院農学研究院の大川泰一郎(おおかわ たいいちろう)准教授らが解明した。倒伏しにくい強稈性の作物の品種づくりに道を開く成果といえる。名古屋大学、富山県農林水産総合技術センター、農業生物資源研究所との共同研究で、10月9日付の英科学誌サイエンティフィックリポーツのオンライン版に発表した。 地球温暖化で集中豪雨や大型台風が最近増え、風雨による倒伏被害が拡大している。茎が強くて倒れにくいイネの品種改良が世界中で必要になってきた。大川泰一郎准教授らは2008年、食味が良いコシヒカリと旧中国農業試験場(広島県福山市)で育成された中国117号をかけあわせて、強
都市の水辺に発生する「カビ臭」の原因物質が、食品のカビ臭の「2,4,6-トリクロロアニソール」であることを、東京工科大学(東京都八王子市)応用生物学部の浦瀬太郎教授らが初めて突き止めた。都市の水辺のカビ臭対策を進める手がかりになりそうだ。12月21日、甲府市の山梨大学で開かれる土木学会環境工学研究フォーラムで発表する。 憩いの場として親しまれている都市の水辺は、一見してきれいな水質でも、カビ臭を感じることがある。排水路があるところで発生しやすい。季節変動も少なく、人間の生活が影響しているとみられている。水道水のカビ臭の原因物質はすでに知られているが、都市の水辺のカビ臭の正体はわかっていなかった。 研究グループは、東京・多摩地区の多摩川や玉川上水など17カ所から、それぞれ3~6回、季節ごとに水を採取し、においをヒトの嗅覚で調べた。においの強さは、試料の水を無臭水で希釈して、においを感じる限界
池の水を抜いて底のヘドロや土砂を取り除く「かいぼり」は池の環境をリフレッシュする。東京都三鷹市と武蔵野市にまたがる「井の頭池」で2014年1~3月に行われた「かいぼり」の成果の一つとして、現地で絶滅したと思われていた水生植物が復活した。東邦大学理学部の西廣淳(にしひろ じゅん)准教授(保全生態学)と千葉県立中央博物館の研究チームが確認し、10月6日発表した。 井の頭池はもともと、武蔵野台地の湧き水によって清らかな水をたたえた池で、江戸時代から貴重な水源や憩いの場として活用されてきた。水生動植物の生息・生育場所としても重要だった。しかし、戦後、周辺の住宅開発に伴う湧き水の枯渇、外来種の導入、水質の悪化などで、貴重な水生植物の多くは姿を消していった。 自然再生の試みとして井の頭池の「かいぼり」が市民の参加で今年1~3月に実施された。その効果は予想よりも早く大きかった。夏には池の水の透明度が大幅
物質・材料研究機構(NIMS、茨城県つくば市)で、世界最高磁場となる超1GHz核磁気共鳴(NMR)システムの開発が大詰めを迎えている。超伝導磁石の磁場を8月から徐々に上げ、10月1日、ついに1GHzを超えて1001MHz(23.5テスラ)の世界最高磁場を発生させることに成功した。研究チームが10月2日発表した。 開発したのは、NIMSの強磁場ステーションを中心として、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター、神戸製鋼所、JEOL RESONANCEからなる20人以上の研究チーム。NIMS強磁場ステーションに新しいNMR磁石を設置して、より高性能、高分解能の解析ができるNMRの実現を目指して、研究開発と実験を重ねてきた。 この超伝導磁石の最大の特徴は、既存のニオブ系超伝導材料でなく、新しいビスマス系高温超伝導線を用いることで、より大きな電流を流して、従来の技術の限界だった1000MH
運動機能などに関わる後脳・小脳系の神経回路を正しくつなぐ仕組みを、慶應義塾大学医学部生理学教室の桑子賢一郎(くわこ けんいちろう)特任講師、岡野栄之(おかの ひでゆき)教授らがマウスで発見した。後脳から小脳への入力回路の接続の際に、細胞接着因子のカドヘリン7が働いて、神経回路の接続部位に作られるシナプスの形成を促し、同時に神経軸索の伸長を適切な場所・タイミングで止めて、正確な回路接続に寄与するという実体を突き止めた。 「止める」「つなぐ」の一人二役を担うカドヘリン7の機能は、脳神経系に存在する無数の神経回路を混線することなく正しく配線して機能的な回路網を構築するための基本原理の一端を示すもので、神経回路の異常によって引き起こされるさまざまな疾患の原因究明にも役立つと期待される。10月2日付の米科学誌セルリポーツのオンライン版で発表した。 哺乳類の精巧な脳神経回路網は、運動や知覚、学習、記憶
哺乳類はヒトも含め、Y染色体上のSRY遺伝子によって性が決まっている。いわば、哺乳類の性は「SRY遺伝子」の独裁政権だが、沖縄に生息するトゲネズミは、SRY遺伝子をもっているのに、機能しておらず、新しい遺伝子に性決定権が移行していることを北海道大学大学院理学研究院の黒岩麻里(くろいわ あさと)准教授と大学院生の木村竜太郎さんらが見いだした。 新旧の性決定遺伝子が共存する「性」権交代の瞬間を捉えたのは哺乳類で初めて。性決定の進化を探る新しい手がかりといえる。徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部の村田知慧助教、東北大学東北メディカル・メガバンク機構の黒木陽子准教授との共同研究で、9月29日付の米オンライン科学誌プロスワンに発表した。 約5000種ある哺乳類はほとんど、Y染色体上のSRY遺伝子によってメスからオスになるよう誘導される。しかし、ごく例外的に、SRY遺伝子の独裁が崩壊している種
国際最大級の科学の祭典「サイエンスアゴラ2014」を11月7日(金)~9日(日)に東京のお台場で開催する、と科学技術振興機構(JST)が10月2日、その内容を発表した。今年で9回目のサイエンスアゴラは、子ども向けの理科実験、トップ科学者との対話、市民参加の科学議論など盛りたくさん。老若男女、子どもでも親子連れでもおとなでも、科学者も市民も交流を楽しめる。アゴラはギリシャ語で広場の意味。誰でも参加できる。 今年のテーマは「あなたと創るこれからの科学と社会」。科学技術の楽しさを体験するだけでなく、科学技術をめぐる課題、社会の未来像について、市民や研究者、産業界、政策立案者、科学コミュニケーションの担い手ら、さまざまな人々が集って対話する場とすることを掲げた。このアゴラで得た成果を市民や研究者たちで共有してもらい、科学技術と社会のギャップを解消し、新しい関係を構築することを目指している。 会場は
養殖用の生簀(いけす)を10mより深い低水温域に沈下させる効率的なシステムを、東京大学大学院農学生命科学研究科の潮秀樹(うしお ひでき)教授らの共同研究グループが開発した。この生簀を使って、海水温上昇のために出荷時期が7月中に限られていた養殖ギンザケを、市場にサケ類が出回らない8月中旬に出荷することに成功した。ニチモウグループ(東京)と宮城県漁業協同組合との共同研究で、「実用化にめどがついた」として9月末に発表した。 この浮沈式生簀は、8月初めから、秋サケの出荷が始まる8月下旬までの生鮮サケの出荷閑散期に、国産の生鮮サケ類を消費者に届けるシステムとして期待される。温暖化で海水温上昇が問題となっているほかの魚類養殖にも活用できる。共同研究は、東日本大震災の復興の一助と位置づけられ、「東北サケマス類養殖事業イノベーション」として取り組まれた。 養殖魚を飼育したまま、沈下させたり浮上させたりでき
「パブロフの犬」の条件反射は20世紀初めからよく知られている。この条件反射が報酬によって起きる脳内の仕組みを、東京大学医学系研究科の河西春郎(かさい はるお)教授と柳下祥(やぎした しょう)特任助教らが約100年の時を経てマウスで詳しく解明した。脳神経細胞で起きるドーパミン系の報酬作用はわずか2秒以内で起きることを突き止めた。さまざまな依存症や強迫性障害などへの理解を深める新しい手がかりといえる。9月26日号の米科学誌サイエンスに発表した。 犬にベルを鳴らしてえさを与えると、ベルを鳴らしただけで、犬がだ液を分泌するようになる。ロシアのパブロフ(1849~1936年)が実験で発見した生理現象で、「パブロフの犬」と呼ばれる。こうした条件反射は、ヒトの行動選択の基本として広く研究され、利用されてきた。この「条件付け」は、神経伝達物質のドーパミンがヒトや動物の報酬学習に関与して起きるが、ドーパミン
植物が葉と根の間でシグナル分子を交換しあって、双方向の調節をしている様子が初めてわかった。マメ科植物で植物ホルモンのサイトカイニンが、根から輸送される糖ペプチドの情報を受け取って葉で合成され、葉から根に長距離移動して根粒の数を制御していることを、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の大学院生の佐々木武馬(ささき たけま)さんと川口正代司(かわぐち まさよし)教授らが発見した。 この発見は、植物の地上の葉と地下の根の長距離コミュニケーションに関する理解を深める手がかりとして注目される。理化学研究所環境資源科学研究センターの榊原均(さかきばら ひとし)グループディレクターらとの共同研究で、9月19日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。 マメ科植物は、根の根粒に根粒菌を共生させて、大気中の窒素を固定し、養分として利用して、土壌中の栄養分が乏しい荒地でも繁殖できる。一方、根
素粒子ミュオンの反粒子の正ミュオンを中心にして、その周りを電子が回っている束縛状態をミュオニウムと呼ぶ。水素原子の陽子が正ミュオンに置き換わった構造で、その生成が素粒子物理学の謎を探る実験に重要と考えられている。そのミュオニウムを室温で従来の方法より10倍も大量に生成することに、理化学研究所の石田勝彦(いしだ かつひこ)副主任研究員と高エネルギー加速器研究機構の三部勉(みべ つとむ)准教授らが成功した。 このミュオニウムから作られる超低速ミュオンビームの精密測定は現在の素粒子の標準理論を超える新しい物理現象の発見に道を開く可能性があり、重要な成果といえる。TRIUMFカナダ国立素粒子原子核研究所など7機関との共同研究で、9月12日付の国際物理学誌Progress of Theoretical and Experimental Physicsに発表した。 ミュオニウムは反粒子の正ミュオンと電
ヒトの頭皮から採取した毛根の細胞に、脳の細胞と共通する遺伝子が発現していることを、理化学研究所脳科学総合研究センターの前川素子(まえかわ もとこ)研究員と吉川武男(よしかわ たけお)チームリーダーらが見つけた。これらの遺伝子の発現量の変化が、統合失調症や自閉症などの精神疾患の早期診断を補助するバイオマーカー(生体の指標)として使える可能性も示した。 脳の疾患の客観的な診断に道を開く発見といえる。東京都医学総合研究所、浜松医科大学、山口大学、慶応義塾大学との共同研究で、9月11日付の米科学誌Biological Psychiatryオンライン版に発表した。 統合失調症は生涯罹患率が人口の約1%と高く、自閉症も年々増加している。これらの精神疾患は早期に発見して治療することが特に重要なため、バイオマーカーの確立が求められているが、簡単で信頼性の高いものはなかった。血液の検査も、採血時の体調や直前
ヒト幹細胞研究で新しい突破口が開けた。胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)など既存のヒト多能性幹細胞に2 つの遺伝子を発現させて、より発生初期に近いナイーブ型多能性幹細胞を作製するのに、英ケンブリッジ大学の高島康弘研究員とオースチン・スミス教授らが初めて成功した。ヒトの生命の発生初期に迫る発見である。安定して培養できるため、再生医療の有用なツールにもなりそうだ。欧州バイオインフォマティクス研究所のポール・ベルトーネ博士、英ベイブラハム研究所のウルフ・レイク教授との共同研究で、9月11日の米科学誌セルに発表した。 多能性幹細胞は私たちの体を構成するあらゆる細胞や組織になる能力を持つが、ナイーブ型とプライム型に大別される。より未分化な状態のナイーブ型は、マウスでキメラ(同一個体内に遺伝的に異なる細胞が混ざること)を作ることもでき、遺伝子改変マウス作製に用いられている。これに対
脳の働きに必要なカルシウムチャネルを阻害して、制御する新しい仕組みを、理化学研究所脳科学総合研究センターの御子柴克彦(みこしば かつひこ)チームリーダーと濱田耕造(はまだ こうぞう)研究員らが発見した。認知症など脳の病気の発症原因を探るのにも役立つ成果として期待される。9月8日の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。 このカルシウムチャネルはイノシトール3リン酸(IP3)受容体。細胞内の小器官である小胞体の膜上に局在するタンパク質で、神経伝達や記憶・学習を担っている。この受容体は4つサブユニットが組み合わさって、中心部にカルシウムイオンを1つだけ通す小さなイオン透過口を形成し、カルシウムチャネルとして働く。 脳の神経細胞に信号が伝わると、細胞膜からIP3が切り出され、細胞内に遊離してIP3受容体に結合する。IP3が結合すると、チャネルの構造が変化して、小胞体からカルシウムイオンが細胞
9月10日はWHOが決めた世界自殺予防デー。自殺企図の再発予防にきめ細かい支援プログラムが有効なことが日本の大規模な研究でわかった。厚生労働省の「自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究」(通称・ACTION-J)の結果で、自殺予防に役立つ対策として医療現場で普及させる必要がありそうだ。成果は、国際的精神医学専門誌のThe Lancet Psychiatry8月号に発表された。 自殺のリスク要因のうち、最も明確なのが「自殺未遂の既往」である。自殺未遂者が自殺を再び企図し、自殺に至ることがないようにするため、多くの介入研究が世界中で試みられてきた。しかし、その有効性が科学的に検証された支援法は報告されていなかった。自殺企図者の大半は救急医療で治療を受けるので、精神科との連携が課題だった。 この研究は、横浜市立大学の平安良雄(ひらやす よし
ヒトの耳介の裏側よりほんのわずか採取した軟骨前駆細胞と、胎児のへその緒からとった血管内皮細胞を一緒に培養して、ヒト軟骨を効率よく再生する手法を、横浜市立大大学大学院医学研究科の武部貴則准教授と谷口英樹教授、神奈川県立こども医療センター形成外科の小林眞司部長らが開発した。従来全く着目されていなかったアイデアで軟骨の再生医療に新しい可能性を開いた。9月9日付の米科学誌The Journal of Clinical Investigationオンライン版に発表した。 研究グループはまず、成体では血管や神経のない単純な組織の軟骨も、発生や再生の初期段階では血管が一時的に存在することを見いだした。この発見をヒントに、軟骨前駆細胞は血管の存在によって、増殖や分化が促進されると推定した。実際に、ヒト軟骨前駆細胞と、へその緒から分離した血管内皮細胞を混ぜて培養する方法を試みて、2日間で血管様構造を有する直
分子が自発的に集まる自己組織化を利用して極めて容易に、2つの分子が1次元で連なった新物質の1次元2量体の合成に、大阪大学大学院理学研究科の高見剛(たかみ つよし)助教と分析機器測定室の川村和司(かわむら かずし)技術職員が成功した。この新物質は室温で極めて優れた水素吸蔵特性を発揮する。既存の単純な物理吸着や化学吸着とは異なる吸蔵方式の可能性があり、将来の水素社会の礎となる水素吸蔵の効率化に新しい道を開く発見として注目される。9月4日付の米科学誌APL Materialsオンライン版で発表した。 研究グループは、ギ酸銅・4水和物の粉末を固体の単結晶にして、弱塩基性のピリジンの有機溶液に加えて反応させた。熱や圧力を加えずに分子の自己組織化で反応が進んで、2つの分子が連なって細い針状の構造を形成する1次元2量体が合成された。この研究はもともと、新しい超伝導体を探索するために行われた。新物質は、当
室温から絶対零度近くの極低温(0.08K=Kは絶対温度ケルビンの略、-273℃)まで2時間以内で冷やす小型の物性測定用冷凍機(ADR、断熱消磁冷凍機)を、東北大学金属材料研究所の青木大(あおき だい)教授らと低温物性装置メーカーの日本カンタム・デザイン(東京)が共同で開発した。通常の冷凍機と異なり、磁気を用いて冷却し、従来の50~100倍も速い世界最速の冷却速度を達成した。簡便な極低温冷凍機として研究現場で新しい材料の開発などに役立ちそうだ。9月5日に東北大学で発表した。 物性研究や材料開発では、極低温の条件が重要である。超伝導や磁性など物質の基本的性質の多くは極低温で明らかになるためだ。通常、0.1K以下の極低温を得るには、高価で大型の冷凍機を使う。この冷凍機では、室温から極低温まで温度を下げるのに数日から1週間程度の長時間を要する。新しい超伝導体や磁性材料の開発などの競争激化で、極低温
ヒグマは秋に川を遡上するサケを大量に食べるとみられていたが、知床のヒグマは意外にサケを食べず、栄養源に占めるサケの貢献は5%程度に過ぎないことを、北海道大学大学院農学研究院の森本淳子准教授らが詳しい食性分析で突き止めた。最もサケを利用しやすい知床の結果だけに「衝撃的」と受け止められている。京都大学生態学研究センターの大学院生の松林順さん、北海道立総合研究機構環境・地質研究本部の間野勉課長、ニュージーランド・マッセー大学のAchyut Aryal研究員、北海道大学大学院農学研究院の中村太士教授との共同研究で、クマ類に関する米科学誌URSUS(今年12月発行)に論文を掲載する。 北海道にはヒグマとサケが共存している。サケが海から運ぶ窒素やリンといった元素は陸の動物にとって貴重な栄養源となる。研究グループは、ヒグマによるサケの利用がどのような条件で変動するかを調べるため、知床半島を対象に安定同位
発光ダイオード(LED)照明によるスマートフォン(スマホ)カメラの盗撮防止システムのプロトタイプを、立命館大学理工学部電子情報工学科の熊木武志(くまき たけし)講師らが開発した。可視光を利用して、一定の空間で盗撮を防ぐシステムは世界初という。スマホカメラを使った盗撮は急増しており、その対策に将来役立ちそうだ。9月3日に京都市で実演して発表した。 警察庁の集計によると、現在の盗撮事件の3分の2はカメラ付携帯やスマホによるもので、スマホの普及に伴い、その割合と数は増加傾向にある。着用できるウェアラブル端末が普及すれば、盗撮はさらに巧妙化し、増加すると予想されている。盗撮を制限するために、撮影時にシャッター音を鳴らしたり、端末の角度を検知して撮影できなくしたりするなどの方法はあるが、決め手となっていない。 研究グループは、プライバシーを保護したい空間内で送信機(LED照明)と受信機(スマホ)の信
非常に安定なベンゼンの「炭素-炭素結合」を室温で切断することに、理化学研究所先進機能触媒研究グループの侯召民(コウ・ショウミン)グループディレクターと島隆則(しま たかのり)上級研究員、胡少偉(フー・シャオウェイ)特別研究員が成功した。従来困難とされていた、ベンゼン環(芳香族化合物)の炭素-炭素結合の切断による新しい物質変換に道を開く成果として注目される。8月28日付の英科学誌ネイチャーに発表した。 ベンゼン環を含んだ芳香族化合物(6個の炭素原子が環状に連なった6員環)は石油やバイオマスなどの天然資源に豊富に含まれている。これらの芳香族化合物の炭素-炭素結合の切断は、石油などの天然資源からガソリンや基礎化学品などを作る際に出発点となる重要な反応だが、ベンゼン環は非常に安定で、その炭素-炭素結合を切るにはゼオライトなどの固体酸触媒を使って500℃程度の高温で行う必要があり、エネルギーの消費も
固体有機材料のブレークスルーとなる新物質ができた。水素結合ダイナミクスで電気伝導性と磁性を同時に切り替えることができる純有機物質の開発に、東京大学物性研究所の上田顕(うえだ あきら)助教、森初果(もり はつみ)教授らが初めて成功した。この物性切り替えが、熱による水素結合部の重水素移動と電子移動の相関に基づく新しいスイッチング現象であることを解明した。 水素結合を基にした新しい低分子系純有機スイッチング素子や薄膜デバイスの開発につながる発見として期待される。高エネルギー加速器研究機構の村上洋一教授、熊井玲児教授、中尾裕則准教授、総合科学研究機構の中尾朗子副主任研究員、岡山理科大学応用物理学科の山本薫准教授、東邦大学理学部の西尾豊教授らと共同研究で、8月15日付の米化学会誌Journal of the American Chemical Societyオンライン版 に発表した。同誌の Spot
学習能力の発達を調節する遺伝子とタンパク質を、国立遺伝学研究所の岩里琢治教授と岩田亮平研究員、理化学研究所脳科学総合研究センターの糸原重美(しげよし)シニアチームリーダー、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らが見つけ、8月21日付の米科学誌セルリポーツに発表した。 研究チームは「αキメリン」というタンパク質が脳の機能にどのような影響を与えているかを調べた。このタンパク質は、「左右の手足をそろえて歩く」というユニークな突然変異マウスで、原因としてその欠損が見つかり、脳の高次機能との関連に興味が持たれていた。 αキメリンには1型と2型がある。それらのタンパク質の遺伝子をさまざまに改変したマウスを作り、行動実験を実施した。両方の型のαキメリンがまったく働かないマウスは夜も昼も、正常マウスの20倍も活発に活動し、生後2カ月のおとなになってからの学習能力が高いことがわかった。 次に、
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