サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
TGS2024
www.newsweekjapan.jp/hosaka
<研究者だけでなく、マニアやコレクターからも、共感(?)の意見を多くもらった。書いた私はといえば、またまた蔵書整理で相談を受けることになった> もう3年もまえのことだが、研究者の蔵書についてこのコーナーで雑文を書いたことがある(研究者の死後、蔵書はどう処分されるのか)。私の書いたものにしては珍しく、けっこう反響があり、いろいろなところから、読んだと読んだとの声を聞いた。 タイトルどおり、研究者の膨大な蔵書が、その主の死後どうなるのかという話を、私自身が関わった、とある著名な中東研究者の蔵書整理のケースを例に書いたものだ。研究者だけでなく、やはり膨大な収集品の行く末を憂慮する、いわゆるマニアやコレクターのかたも同じ悩みを抱えているとみえ、耳が痛いだの、つらいだの、また他人事とは思えないだの、共感(?)の意見を数多くいただいた。 後日談だが、結局、その研究者の蔵書の大半が、引き取り手がなく、古
番組を好きだったといわれるサウジアラビアビアのアブダッラー前国王(2007年) Dylan Martinez-REUTERS <女性、部族、官僚、宗教の問題を笑いの標的にした喜劇が、なんとサウジ国営テレビで放映され、大人気だった。「テロリズム・アカデミー」なるエピソードもあり、前国王も大ファンだったという。サウジ社会が変貌を遂げる前の話だ> サウジアラビアの著名な演出家アブドゥルハーリク・ガーニムがダンマームの病院で死亡した。63歳だった。しばらくまえから、前立腺癌で長期にわたって闘病中である様子がメディアで報じられていたので、多くのファンが心配していたのだが、結局、復帰はかなわなかったようだ。慎んでご冥福をお祈りします。 といっても、大半の人にとって、アブドゥルハーリク・ガーニムっていったい誰?という感じであろう。しかし、彼はサウジアラビアではもっとも著名なテレビ演出家の一人とみなされて
トルコのお土産品と言えば、邪視除けのお守り「ナザル・ボンジュウ(ナザール・ボンジュウ)」 lionvision-iStock. <トルコに旅行した人なら必ずと言っていいほど買う、邪視除けのお守り。絵文字にもなるほどトルコ文化を代表するものなのに......。邪視は中東では広く信じられている迷信で、クルアーン(コーラン)に邪視を指す記述もあるのだが> 少しまえのことだが、カタル(カタール)のジャジーラ放送(アルジャジーラ)英語オンライン版の報道を見て、びっくりした。トルコの宗務庁が、邪視除けのお守りである「ナザル・ボンジュウ(nazar boncuğu、ナザール・ボンジュウとも)」を禁止したというのである。 ナザル・ボンジュウとは、トルコに旅行したことのあるかたであれば、かならずといっていいぐらいお土産に買うほど有名なものだ。通常、円形のガラス製で、目玉のように青と白と水色の丸が描かれている
俳優のゲイリー・オールドマン(左)らと撮影に応じるジョン・ル・カレ(中央、2011年) Suzanne Plunkett-File Photo-REUTERS <ル・カレの小説には、実在した英ソの二重スパイ、キム・フィルビーからのインスピレーションがみられた。だが、話はそこで終わらない。日本で知る人は少ないが、20世紀初頭の中東にはある英国人がおり、サウジが石油王国になるきっかけもその人物だったと言えるかもしれない> 12月12日、英国の小説家、ジョン・ル・カレが亡くなった。89歳だった。個人的には熱烈なファンというわけではないが、自宅の書棚にも『寒い国から帰ってきたスパイ』『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』など何冊も文庫本があった。どれも学生時代に読んだものだ。 ル・カレの本のすぐそばにグレアム・グリーンとかブライアン・フリーマントルなど英国作家が並んでい
<1963年『クレオパトラ』の主演はエリザベス・テイラーで、白人のユダヤ教徒、シオニストだった。ガル・ガドットを主演に新たなクレオパトラ映画の製作が発表され、批判も出ているが、話はそう単純ではない> 米国のパラマウント・ピクチャーズがクレオパトラの映画を撮るらしい。クレオパトラの映画といえば、1963年に20世紀フォックスがエリザベス・テイラーを主演に制作した超大作『クレオパトラ』を思い出す人も多いだろう。 1963年の作品は当時の金額で4400万ドルという破格の制作費をかけた作品で、これ1本で20世紀フォックスは破産寸前にまで追い込まれたことでも知られている。 古代エジプトの女王で、絶世の美女といわれるクレオパトラの波乱に満ちた生涯とカエサル(シーザー)やアントニウス(アントニー)といった彼女をめぐる男たちの愛憎の物語である。この映画をきっかけにエリザベス・テイラーは、映画さながら、アン
<Black Lives Matter運動のニュースはアラブ世界でも大きく扱われている。かつてマルコムXはイスラーム教は平等を唱える宗教だと感動した。しかしイスラームの神話では、呪いの結果、黒人から奴隷が生まれるとしていたし、黒人は動物に近く、生来の奴隷だと見る知識人もいた> 米国に端を発した「黒人の命は大切(Black Lives Matter)」運動は世界各国に波及している。アラブ世界においてもこの運動に関するニュースは大きく扱われており、関心の高さがうかがえる。 民族的、あるいは形質人類学的にアラブ人がどう定義されるのか、わたし自身アラブのことを専門的に研究しているにもかかわらず、実はよくわかっていない。アラブ人の多くはコーカソイドだと思うのだが、いわゆる肌の色でいうと、白人ではないだろう。 アラブ人自身はしばしば自分たちは「茶色」だと主張していた。これはおそらく多くの日本人にとって
<日本ではあまり知られていないが、多数の感染者・死者が出ているイランから中東各国に新型コロナウイルスの感染が広がっている。サウジアラビアにとって大きな問題は「巡礼」だ> 新型コロナウイルス感染拡大で、中東は、発生源である中国、そしてヨーロッパへの拡大の発端となったイタリアと同様、きわめて重要な位置を占めている。 中東で最初に感染者が確認されたのは1月29日、アラブ首長国連邦(UAE)においてだが、感染者はUAEを訪問した中国人家族であった。 UAEには、ドラゴン・マートという中国製品専門の巨大ショッピングモールが複数存在し、中国人も居住者、旅行者問わず、きわめて多い。その意味でUAEにおいて中国を媒介に感染者が出るのは十分に予想されたことであった。 しかし、その後の中東、湾岸地域での感染拡大は若干、様相を異にしている。とくに湾岸諸国では現在、急速に感染者数が増えているのだが、その大半は中国
民主党の大統領選・候補者選び初戦でサプライズを巻き起こしたブティジェッジ氏(写真は2月4日、ニューハンプシャー州コンコードで演説中) Brendan McDermid-REUTERS <アイオワ州で躍進した大統領選候補の名前は、米国人でもまともに発音できないだろう。父親がマルタ移民であり、ふしぎな姓をもつことから中東専門家として強い関心をもっていた> 米国大統領選挙まで1年を切って、米政界の動きが激しくなってきた。共和党候補は現職のトランプ大統領で波風は立たないのだろうが、野党・民主党の候補者選びは混とんとしている。 2月3日、民主党の候補者選びの初戦が中西部アイオワ州で行われ、穏健派の前インディアナ州サウスベンド市長、ピート・ブティジェッジが事前の予想を覆し、左派のサンダース上院議員、同じく左派のウォーレン上院議員、そして中道派のバイデン前副大統領を上回り、トップに立った(2月6日、州の
<少し前、カナダのトルドー首相の昔の「黒塗り」写真が問題になった。『アラジンと魔法のランプ』の主人公アラジンに扮した写真だったが、実はこの話、お世辞にも由緒正しいアラブ文学とはいいがたい> もう20年以上昔の話である。クウェートに住んでいた友人のパレスチナ人と話をしているとき、白人や黄色人種といった言葉が話題になった。 そのとき、アラブ人は有色人種なのか、白人なのか、有色人種なら何色なのかという議論となり、そのパレスチナ人は、アラブ人は形質人類学的にいえば、いわゆる白人と同じコーカソイドであるが、肌の色としては有色人種であり、色は茶色であると主張した。20年以上昔のことなので、ポリティカル・コレクトネスの考えかたも希薄で、こちらもふーん、そうなんだと適当に相槌をうっていた記憶がある。 なんでこんな話を突然思い出したかというと、これまたちょっとまえの話で申し訳ないが、カナダのジャスティン・ト
<1920年代後半から1930年代にかけ、大半の中東諸国で日本は最大の貿易相手国の1つになっていた。日本とイラクの外交関係樹立80年に振り返る、知られざる歴史> 今年は日本とイラクの外交関係樹立80周年に当たる記念すべき年である。1939年11月30日、イラクの首都バグダードに日本の公使館が開かれたのだ。といっても、大半の人にとってはどうでもいいことかもしれない。日本国内でとくに大きな盛り上がりがあるわけでもなく、私の周りの中東に関わる人たちのあいだですら、ほとんど話題にものぼらない始末である。 ちなみに今年は日本とイランの外交関係樹立90周年でもある。10年分古いだけあって、まだ、こちらのほうが注目度は高いかもしれない。あちこちでチラホラとイベントが開催されているようだ。イランを専門とする研究者も多いし、さすが中東の大国という感じだろうか。 安倍首相も、90周年とは関係ないかもしれないが
<亡くなった研究者やビブリオマニアの蔵書はどこへ行くのか。必要としているところに受け継がれるシステムはできないものか。数カ月前、ある亡くなった研究者の蔵書処分を手伝うことになった> 「大きな研究成果を上げて将来を期待されながら、自ら命を絶った女性がいる。享年43歳。多くの大学に就職を断られ、追い詰められた末だった」 これは、今年4月10日に朝日新聞が報じた、ある女性研究者の自殺に関する記事冒頭である。記事によると、彼女は東北大学で日本の仏教史研究で博士号を取得し、受賞経験もある、将来を嘱望された研究者だったという。彼女の自殺自体は2016年で、直近の話ではなかったものの、事件の痛ましさもあって、記事は、似たような境遇にある人、また似たような経験を経た研究者たちに大きなインパクトを与えた。 私も大学の教員やシンクタンクの研究員という研究の道を歩んできたので、事件は他人事ではない。彼女のように
<1922年にツタンカーメンの墓から発掘されたエンドウ(豆)の種子が発芽し、日本で今、そのエンドウが広く栽培されている――という話がある。これは果たして本当なのか。日本のメディアも罪深い> 去年10月に庭に植えたエンドウ(豆)が成長し、3月末からときおり収穫しては家で豆料理を作って楽しんでいた。今回はその顛末。 私がカイロに住んでいた2001年のこと。たまたまNHKラジオから出演依頼があり、「ツタンカーメンのエンドウ」について訊きたいといってきた。何でも、1922年、英国の考古学者ハワード・カーターがエジプトでツタンカーメンの墓を発掘したとき、副葬品だかでエンドウの種子が発見されたんだそうだ。 その後、それが発芽し、成長して、どんどん増えていき、今では多くの日本人がそのエンドウを育てて楽しんでいるのだという。わが家の庭に植えていたエンドウというのは実はそのツタンカーメンのエンドウなのである
フレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレック自身、マイノリティーであり、自分のアイデンティティに悩んだ時期があったという(ロンドンで行われた『ボヘミアン・ラプソディ』ワールドプレミアにて) Eddie Keogh-REUTERS <フレディ・マーキュリーはインド生まれの両親のもと、アフリカのザンジバルで生まれた。両親はインドに住むゾロアスター教徒「パールシー」だった。映画にはフレディの父が信仰を引き、息子をたしなめる場面がある> 遅ればせながら、日本でも大ヒットした映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観た。といっても、出張の飛行機のなかで観たので、おそらく航空会社(しかも中東系)用に大幅に編集されたものである。したがって、作中の刺激的な要素はかなりカットされていた可能性が高いので、作品としての評価は避けておこう。 さはさりながら、クイーンのファンでも、フレディ・マーキュリーのファンでもないわり
<アカウントを停止され、ヘルプセンターに苦情を言った。最終的に永久停止されるまでの、不毛なやりとりの記録> 今年の6月のことである。自分のFacebookアカウントにアクセスしようとしたら、できなくなっていた。そして「アカウントが停止されました」のメッセージが......。 自分のアカウントが停止されたのはこれで2度目である。心当たりがないので、ヘルプセンターに苦情をいった。以下はその不毛なやりとりの記録である。 前回、2015年にも似たようなことがあったが、そのときは若干、心当たりがあったので、やばいなあと思いながら、心を入れ替えて二度と怪しげなことをいたしませんといって、再開してもらった。もちろん、怪しげなといっても、違法なことをしていたわけではない(もちろん、Facebookの規定に違反していた可能性は否定しない)。 当時はテロ組織イスラーム国(IS)のテロが猖獗(しょうけつ)をきわ
イスタンブールのサウジアラビア領事館に入っていくジャマール・ハーショグジー(ジャマル・カショギ)の映像 Reuters TV/via REUTERS <メディアを騒がせている、トルコで殺害されたサウジ人ジャーナリストの名前表記が本来の発音から相当かけ離れている。メディアの皆さん、何とかなりませんか> 「ギョエテとはオレのことかとゲーテいい」というコトバがある。ドイツの文豪ゲーテを日本語でどう表記するのかについては明治以来、いろいろな試みがあり、結局ゲーテに落ち着いたのだが、なかにはギョエテのように本来の発音からはだいぶ乖離してしまうケースも少なくなかった。 ちなみにいうと、この現象は日本語だけではない。英語話者にとっても、ゲーテの名は発音しづらいらしく、ガータとかグータなど英語でもさまざまに読まれている。 さて、こんな話からはじめたのは、今メディアを騒がせている、トルコで殺害されたサウジ人
<18歳のイラン人女性がダンスをして逮捕され、「ダンスは犯罪ではない」と連帯を示す人々が現れた。そんななか思い出したのは、その昔、日本人のイラン近代史専門家から聞いたコトバだった> 通貨リヤールの暴落やら、経済の不振やらで、それにトランプ米大統領の対イラン制裁再開もあって、イランではあちこちで暴動が起きているようだ。イスラーム共和国成立以来、40年近くたち、国内あちこちで制度疲労的な不満が溜まっているのだろうか。 こうした最近のイラン情勢をみながら、その昔、日本人のイラン近代史専門家から聞いたコトバを思い出した。といってもその人も別の日本人研究者から聞いたので、又聞きになる。いわく「トルコ人には文化がない、アラブ人には秩序がない、そしてイラン人には信仰がない」と。 この語が発せられたのが、1979年のイラン・イスラーム革命でイラン人のあいだに宗教心が高揚した時期だったのがミソである。多くの
ルカ・モドリッチ率いるクロアチア代表は、なぜフランスやベルギーと違ってムスリム選手が(おそらく)いなかったのか Antonio Bronic-REUTERS <先のロシアW杯で、フランスとベルギーには多くのムスリム選手がいた。一方、ドイツ代表のエジルは激烈なコトバで代表引退を宣言し......> サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝ではフランスがクロアチアを破り、20年ぶりの優勝を果たした。また、3位決定戦ではベルギーがイングランドに勝利した。結果的には、ベスト4はヨーロッパ勢同士の戦いであり、決勝トーナメントに出場したのも、日本を除けば、ヨーロッパと中南米の国だけである。 筆者の専門分野である中東あるいはイスラーム諸国でいうと、決勝トーナメントに進めた国は残念ながらなかった。ちなみに今大会では、中東諸国からはイラン、サウジアラビア、エジプト、チュニジア、モロッコの5か国が出場し
アラブ世界を代表する選手、エジプト代表のムハンマド・サラーフ(モハメド・サラー) Lee Smith-REUTERS <断食中だったかもしれないサウジ人選手、制裁でナイキにスパイク提供できないと言われたイランチーム、2026年北米大会や2022年カタール大会に影響するアラブ情勢......ムスリムがサッカーをするのはこんなにも大変> サッカー・ワールドカップ(W杯)・ロシア大会が6月14日からはじまった。栄えある開幕戦はグループAのロシア対サウジアラビアであった。結果はロシアが5対0で大勝。実はこの日はロシアを含む世界各国でラマダーン月の終了に当たっていた。ご存知のとおり、ラマダーン中は日の出から日の入りまでムスリムは一切の飲食を断たねばならない。 試合開始時間は予定だと夕方6時だったので、試合途中から水を飲むぐらいできるようになるのかと思っていたら、試合会場のあるモスクワだと日没は何と夜
黒人客が逮捕され騒動になった米フィラデルフィアのスターバックス店舗で抗議活動を行う人たち(4月18日) Mark Makela-REUTERS <米スタバが人種差別的と批判される騒動があったが、アラブ諸国では以前から「シオニスト」呼ばわりされている。レッテルを貼られ、批判を受ける企業はスタバだけではない> 今年4月、米フィラデルフィアにあるスターバックスの店舗で客と店員のあいだで小競合いが起きた。黒人客が注文まえに、トイレを使用したいと店員に求めたところ、店側がそれを拒否、両者のあいだで口論となったため、店が警察を呼び、黒人客が警察に逮捕されたのである。 黒人客は事情聴取後、すぐ釈放されたが、他の客が逮捕現場を撮影し、それをSNSに投稿したため、たちまちスターバックスは人種差別的だとの批判が拡散していった。そのため、スターバックスは、米国内の全直営店を一時閉鎖し、17万人以上の従業員に研修
サウジのムハンマド皇太子はイランとどう対峙するのか(写真は昨年11月にリヤドで開催された国際フォーラムの会場に掲示された皇太子の姿) Faisal Nasser-REUTERS <対テロ戦争は新たな局面に入り、勢力図の変化が次なる争いの火種を生む> 2017年の中東ではいくつもの大きな変化があった。最大の事件は、イラクとシリアにまたがってカリフ国家樹立を宣言していたテロ組織ISIS(自称イスラム国)がモスルとラッカという拠点を失い、勢力を減退させたことだ。 これによって国際社会共通の課題だった対テロ戦争は新しい局面に入っていく。ISISと共に戦っていた外国人戦闘員の移動や帰国で、テロの危険性が世界各地に拡散。新たな対策が必要になってきている。 もちろん外国人戦闘員が消えてもイラクとシリアが平和になるわけではない。イラクでは、クルディスタン地域で独立の是非を問う住民投票が行われ、独立支持派が
<日本でほどんと報じられなかった昨年12月末の「サルマーン国王早指しチェス世界選手権」。女性の服装や外交問題など、いかにもサウジという問題が起こったが、そもそもチェスは「ハラーム(禁止)」だ> 昨年12月末、サウジアラビアで「サルマーン国王早指しチェス世界選手権」が開催された。字面だけみれば、ああそうですかというぐらいで、どうってことはないかもしれない。 だが、実際にはこのイベントをめぐっていろいろ事件が起き、そのいずれもがいかにもサウジアラビアらしいというので、メディアでも大きく取り上げられた(ただ、残念なことに、日本のメディアでは、将棋の藤井四段や羽生永世七冠などのニュースで手一杯のためか、サウジアラビアでのチェス選手権のことはほとんど報じられなかったし、あまり評判がよくない日本チェス協会のウェブサイトでも一切触れられていない)。 ドレスコードでひと悶着あったが、結局は... サウジの
<著名投資家を含む200人以上が腐敗・汚職などの容疑で逮捕され、世界中のメディアの注目を集めているが、捕まったとみられる人物1人1人を見て行くと、いまだ不可解な点が多い。ムハンマド皇太子の権力基盤強化のためとの分析が多いが......> サウジアラビアのサルマーン国王は11月4日、ムトイブ国家警備隊相、アーデル・ファキーフ経済企画相、アブダッラー・スルターン海軍司令官を解任、さらに腐敗防止最高委員会を設置し、実子であるムハンマド皇太子(以下MbS)をその議長に任命した。 この委員会の最初の仕事は200人以上を腐敗・汚職などの容疑で逮捕することであった。このなかには11人の王族を含む多数の政財界の要人が含まれているという。具体的な容疑は詳らかにされていないが、サウジ公式メディアでは南西部の都市ジェッダでの洪水、感染症のMERS(中東呼吸器症候群)対策などで捜査がはじまったことが指摘されている
<27年前には女性のデモも――。世界で唯一、女性の自動車運転が許されなかった国サウジアラビアの「最高命令」発布はニュースになったが、なぜ長らく免許交付が許されなかったのか。これまでの紆余曲折を振り返る> サウジアラビアのサルマーン国王は9月26日、来年6月から女性に自動車運転免許証の交付を許可する最高命令を発布した。ほとんど聞いたこともない「最高命令」などという大仰な語が用いられたことからも、この問題が、世界で唯一、女性の自動車運転が許されない国サウジアラビアにとって、いかに重大な意味をもっているのか想像できる(もっとも、ターリバーン時代のアフガニスタンやテロ組織イスラーム国の支配地域で女性が運転できたかどうかは不明だが)。 なお、運転できないという言いかたは正確ではない。正確には、運転免許が交付されないということだ。付言すると、それに関する明文化された法律はなく、単に慣習上女性には自動車
プロデューサーのハーイーム・サバーンの名がハリウッドの「ウォーク・オブ・フェイム」に加わることになり、パワーレンジャーのコスプレをするファンたち Mario Anzuoni-REUTERS <日本の特撮戦隊ヒーローから生まれたアメリカの「パワーレンジャー」は湾岸諸国の子供たちにまで人気だが、実は中東と深く関係している> 7月15日に米国製映画『パワーレンジャー』が日本でも公開となり、それなりにヒットしているらしい。この映画が日本の特撮戦隊ヒーローものを換骨奪胎したことはよく知られている。 わたしは世代的に上なので戦隊ヒーローもパワーレンジャーも同時代的には見ていないのだが、1990年代からアラブ諸国に出張にいくたびに、街のおもちゃ屋などでパワーレンジャーのおもちゃがどんどん増殖していくのには気づいていた。とくに湾岸諸国では、子どもの世界であっても、米国の流行がすぐにそのまま波及することが多
2016年10月23日、陸上自衛隊朝霞訓練場で行われた自衛隊記念日観閲式に参加した稲田朋美防衛相 Kim Kyung-Hoon-REUTERS <自衛隊の南スーダンでのPKO活動をめぐって国会で議論が続いているが、そもそもの原因は、90年代の湾岸戦争時の日本の貢献をめぐる「インチキ臭いロジック」にあったのではないか。日本は本当に感謝されなかったのか?> 自衛隊の南スーダンにおけるPKO活動をめぐっては、「戦闘」という語のあるなしから「日報」のあるなし、はては日報に関する「報告」のあるなしまで稲田防衛相は文字どおり防戦一方で、7月27日にはとうとう辞任を表明した。自衛隊としても自分たちの本務とは直接関係ないところで、活動が評価されてしまうのは本意ではないだろう。 だが、自衛隊がこうした視点でばかり見られがちなのは、海外派遣のはじまった1990年代初頭の議論がそもそもの原因になっているような気
<サウジアラビアやUAEなどがカタル(カタール)との外交関係を断絶したニュースは世界を驚かせたが、5月下旬からメディアでの戦いははじまっていた> 6月5日、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バハレーン(バーレーン)、エジプトの4か国が突然、隣国カタル(カタール)との外交関係を断絶した(断交した国はその後さらに増え、現時点では8か国〔あるいは7.5か国?〕になっている)。今「突然」と書いたが、実はしばらく前から予兆はあり、その意味では今回の事件、けっして「突然」ではなかった。 わたしが異変に気づいたのは5月23日昼すぎごろだったと思う。わたしのiPhoneにはドバイを拠点とするサウジ資本の衛星放送アラビーヤのアプリが入っているのだが、そのアプリからプッシュで速報が流れ、カタル国営通信(QNA)を引用し、カタルのタミーム首長がすごいこといってると伝えてきたのである。 内容は、国家元首
英マンチェスターの爆発事件の現場近くで警戒にあたる警察官(2017年5月23日) Andrew Yates-REUTERS <ラマダーン期間中には、毎年のように大規模なテロが発生している。今年もイスラーム国(IS)がテロを呼びかけ、日本の外務省も注意喚起を出していた最中、英マンチェスターで爆発事件があった> ※犯行声明が出たため、内容を更新しました(2017年5月24日) カレンダーどおりだと、今年は5月27日がイスラーム暦第9月のラマダーン月開始の日にあたる。ラマダーン月は断食月と呼ばれ、この月には、ムスリム(イスラーム教徒)は夜明けから日没まで太陽の出ているあいだ、一切の飲食を絶たねばならないのはよく知られているだろう。 ラマダーンはイスラームの暦のなかで宗教的にきわめて重要な月ではあるが、イスラームの聖なる月だとする表現は誤解を招きやすい。イスラームでは「聖なる月(アシュフルルフルム
<イランという共通の敵ができ、天敵のはずの両国が歩み寄っている。だがイスラエルは長年、サウジアラビア関連情報をあまり重視していなかった> 米国の中東政策を形成するのに重要な役割を果たすのは当然、国務省の近東局というところで、責任者は通常近東担当次官補になる。このポジションは政治任用だが、実は4月25日現在きまっておらず、したがって、米国の中東政策の概要がみえてこない。 ティラーソン国務長官は、石油会社出身のくせに、失礼ながら中東のことを理解しているとは思えず、独自の中東政策を打ち出せるとは考えづらい。 たまたま在京米大使館員と話していたら、政治任用はかならずしも専門家である必要性はなく、政治的影響力(大統領との距離など)のほうが重要なことが多いといっていて、たしかにそのとおりなのだが、火薬庫みたいな中東に、火炎放射器をもって乗り込んでいくような人はやっぱりご遠慮いただきたい。 肝心要の近東
<ワイドショーまでもがサウジアラビアの話題を取り上げた、先週のサルマーン国王ご一行騒動記。取材をたくさん受けたが、ほんとにガックリだった。一番驚いたのは元AKBの高橋みなみのラジオ番組だ> 3月12日から15日、サウジアラビアのサルマーン国王一行が日本を訪問した。ふだん、サウジアラビアをメディアが取り上げることはめったにないのだが、今回ばかりはちがっていた。一行の到着前から報道番組だけでなく、何とワイドショーまでもが積極的にサウジの話題を取り上げてくれたのである。 こちらも中東でテロや戦争が起きたときしかメディアに呼ばれることはないので、昔住んでいたことのあるサウジアラビアについてメディアでしゃべれるのはけっこううれしかったりする。 とはいえ、いやな予感がなかったわけではない。随行員の数が1000人、あるいは1500人になるとか、ハイヤー借り上げ400台、エスカレーター式の飛行機のタラップ
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『www.newsweekjapan.jp』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く