「東京から富士山頂の野球のボールを見分けられるようなものです」。以前ハワイに設置された日本の大型望遠鏡「すばる」の性能を尋ねたとき、天文学者から返ってきた答えである。絶句したが同時に、富士は「すばる」で見るものではないと思った。 ▼当時から登山者の増加でもたらされるゴミや山肌のキズが問題化していた。当初目指していた世界自然遺産登録のネックともなった。ボール一個見分けられるなら、そんなゴミやキズまで目に飛び込んできてしまう。富士山への憧れも吹き飛ぶ気がしたのだ。 ▼文化遺産登録で登る人が一段と増えれば、ゴミなどのほかに無謀登山による事故の懸念も強まる。むろん「頂上を極めた爽快感や絶景は忘れられない」という登山者も多い。しかし山登りが苦手な抄子などには、遠くから美しい姿を仰ぎ、崇(あが)めている方がいい。 ▼逆に遠くから崇めるのではなく、生々しい実態を見るべきだったという歴史も多い。日本人にと