私は以前、従業員を時給で呼ぶ社長のもとで働いていた。 「おい、千円!」 社長がそう叫ぶと、部屋の隅にいた青年が、はい、と返事をして立ち上がった。 千円というのは、彼の名前ではない。彼の時給である。 彼には立派な名前があった。親が考え、役所に届け、学校では毎朝それを呼ばれ、恋人もおそらくその名を口にしたであろう。しかし会社では、千円であった。 「千円、これコピーして」 「千円、今日あと二時間いける?」 「千円、ちょっとコンビニで水買ってきて」 まるで千円札に手足が生え、コピー機を動かし、残業をし、水まで買いに行くような具合であった。 私は最初、冗談なのだと思った。 社長というものは、時々、冗談と侮辱との境目に立ち、どちらにも逃げられるような言葉を好む。 「いやあ、愛称だよ、愛称」 叱られれば、そう言えばよいのである。人間を傷つけておきながら、傷ついた側に冗談を理解する知性がないことにしてしま