そのスーパーは果物の品ぞろえが充実していた。売り場を眺めていると、女性店員が笑顔で話しかけてきた。 「いま特別セールをやっているんです。よかったらどうですか?」。薦められるがままにミックスジュースを手に取った。店内に響く買い物客のざわめき。鼻の奥をくすぐるフルーツの甘い匂い――。 きっと、そうだ。あの日もこんな午後だったに違いない。 数千件の爆発、そしてパニック 昨年9月17日午後3時半のことだ。レバノンの首都ベイルート南部にあるこの店では、ちょうど私がジュースを手に取った売り場付近で、野菜を袋に詰めていた男性客のポケットベル(ポケベル)が爆発した。 防犯カメラがその瞬間をとらえていた。ズボンのポケット辺りから激しく煙が上がり、男性は倒れ込んだ。周りの客は驚いて様子を眺めている。数メートル離れた場所には、小さな女の子も2人いた。 この日、レバノンでは各地で数千個のポケベルが一斉に爆発し、…