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アメリカ大統領選
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この記事は、エネルギー・環境問題のジャーナリストであるカート・コブのブログ記事 "Uber, Moore's Law and the limits of the technofix" の翻訳です。 Uberはテック界に愛され続けている。個人用自動車とその所有者の未使用のキャパシティを認識したディスラプティブなスタートアップと見なされている。Uberは、携帯電話テクノロジーを使って世界中の都市でそのキャパシティを解き放ち、従来型のタクシーや公共交通機関を利用していたかもしれない顧客に安価な輸送サービスを提供したのだ。 スタートアップがたき火のごとく資金を燃焼させるのは当然のことだ。けれども、世界規模の企業となってから9年間経過して、Uberは未だに資金を燃やし続けている。直近の四半期では10億ドル、2017年全体では45億ドル[の赤字]である。 悲惨な財務状況にもかかわらず、なぜUberが投
おそらく、ここ数年出たAI・ビッグデータ関連本のなかでは最重要な本。個人的には、このブログを読むような人は、立場にかかわらず必ず読むべきだと思う。 あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠 作者: キャシー・オニール,久保尚子 出版社/メーカー: インターシフト 発売日: 2018/06/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 著者キャシー・オニールは、数学の博士号を取得した後、大学でテニュアを得たものの辞職して金融業界でクオンツとして働き、金融危機後にデータサイエンス業界へ転じた、現代の数学屋さんの理想とでも言うべきキャリアを進んできた人です。個人ブログとしてmathbabeを書いています。 そんな根っからの数学屋である彼女が書いた本の原書の題名は、"Weapons of Math Destruction" (数学破壊兵器)。大量破壊兵器 (Wea
以下は、ジャーナリストのCorey Pein氏による記事 "The singularity is not near: The intellectual fraud of the “Singularitarians” " の翻訳です。 シンギュラリティは近くない:「シンギュラリタリアン」の知的欺瞞 70年以上前、クリスチャンのアナーキスト哲学者であったジャック・エリュールは、テクノロジーは現代国家の真の公認宗教であると断定した。優れた男であり、ホロコーストからの避難民を保護したフランス地下レジスタンス運動のリーダーであったエリュールは、科学者とエンジニアによって可能となったグローバルなカタストロフィを生き延びた。それゆえに、これら同じテクニシャンたちが、これら偽司祭たちが今世紀を統べるだろうと気づいたのである。そして、エリュールは科学者とエンジニアをこのように嫌っていた。「とりわけ不安なのは
この記事は、ロドニー・ブルックス氏が自身のブログで発表した記事、[FoR&AI] The Origins of “Artificial Intelligence” – Rodney Brooks の翻訳です。 「人工知能」の起源 過去はプロローグである[原注1]。 私はこの言葉に2通りの意味を込めている。シェイクスピアが戯曲テンペストでアントニオに言わせたこの台詞に対する、2通りの解釈と同じである。 1つの解釈は、過去が今後進んでいく帰結をあらかじめ定めているというものだ。つまり、人工知能の研究でも、現在の場所にどうやって辿り着いたかが次に進む方向を定めるだろうと私は信じている。それゆえ、過去から学ぶことには意義があるだろう。 別の解釈では、実際のところ過去は重要ではなく、必要な仕事の大部分は目の前にあるというものである。-私はこれも正しいと信じている。人工知能の研究は始まってすらおらず、
以下は、カリフォルニア大学バークレー校のコンピュータ科学、統計学教授マイケル・I・ジョーダン氏の記事 "Artificial Intelligence — The Revolution Hasn’t Happened Yet" の翻訳です。 人工知能 — 革命いまだ成らず 人工知能 (AI) は現代の真言(マントラ)である。この言葉は、技術者、研究者、ジャーナリストやベンチャーキャピタリストによっても唱えられている。他の数多くの言葉と同様にテクニカルな学問分野から一般的な流通へと至るにつれて、言葉の用法に著しい誤解が伴っている。けれども、一般大衆が科学者を理解できないのは今に始まったことではない。—ここでは科学者もたいてい一般人と同様に混乱している。現代は、人類自身の知能と競合するシリコン製知能の出現を目撃しつつあるという考えは、我々みんなを楽しませるものだ。—我々を魅了し、また同じ程度
以下は、ウィリアム・パターソン大学哲学教授のエリック・スタインハート氏の記事 "The Singularity as Religion" の翻訳です。 宗教としてのシンギュラリティ シンギュラリティにまつわる文化と言説のほとんどは、宗教的であると思う。この考えは、部分的には、デイヴィド・ノーブルの本『The Religion of Technology』とロバート・ゲラチの『Apocalyptic AI』を読んだことに基づいている。どちらも素晴しい本である。また、私はテクノロジーと宗教に関する書籍や記事のリストを編集して、ウェブサイトに掲載している。 宗教としてのシンギュラリティは、完全に悪いものではないかもしれない。宗教はいろいろな形でポジティブな力となりうる。少なくとも、シンギュラリタリアニズムは新たなタイプの興味深い宗教運動となりうるだろう。 なぜシンギュラリティは宗教であると考える
この文章は、Google社のソフトウェアエンジニア、機械学習研究者 François Chollet氏がサイトMedium上で公開したエッセイ "What worries me about AI" の翻訳です。 AIについて私は何を心配しているか 免責事項:これは私の個人的見解であり、雇用主の立場を表すものではない。この記事を引用する場合は、誠実さを保ってこの文の意図を保って提示してほしい。つまり、個人的で、スペキュレーティブな意見であり、読者自身の判断材料とするためのものである。 1980年代と1990年代ごろの人であれば、今や絶滅した「コンピュータ恐怖症」現象を記憶しているかもしれない。個人的には、2000年代始めごろまでは何度かそんな現象を目撃したことがある。-- 我々の生活に、職場と家庭にパーソナル・コンピュータが導入されるにつれて、少なくない人が不安や恐怖を示し、攻撃的な反応をす
この文章は、WIRED誌の創刊編集長ケヴィン・ケリー氏がwired.comサイト上で発表したエッセイ"The AI cargo cult - the myth of superhuman AI"の翻訳です。 超人的人工知能の神話 近い将来、コンピュータのAIが我々よりもはるかに賢くなり、AIが私たちのあらゆる仕事と資源を奪い、そして人類は絶滅してしまうかもしれないという話を聞きました。本当でしょうか? これは、私がAIについて話をする時、最も頻繁に受ける質問である。質問者たちは真剣だ。部分的には、彼らの不安は同様の疑念を抱いている専門家もいるということから生じている。AIに懸念を抱く人々は、現代における最高の知識人たちも含まれている。たとえば、スティーブン・ホーキング、イーロン・マスク、マックス・テグマーク、サム・ハリスやビル・ゲイツといった人たちであり、彼らはこのシナリオが本当である可能
これまでの記事で、私は現時点で既にカーツワイル氏の予言の大部分が外れていることを示しました。 今後、時間が経過するにつれて、ますます多くの予言が外れていることが明白となり、2040年、2050年代になっても「シンギュラリティ」なる事象が到来しないことが明確になるだろうと考えています。私は、未来学者を名乗るつもりはありませんが、その時にカーツワイル氏とシンギュラリティ教徒に起こることを予言します。 「予測が外れれば外れるほど、逆に彼らはシンギュラリティの到来をますます固く信じ、ますます強くシンギュラリティを宣伝するようになるだろう。」 一見すると奇妙な主張に聞こえるかもしれませんが、将来予測に関係した社会運動の帰結を考える上で、参考になる先行事例が存在しています。1950年代に書かれた宗教社会学におけるフィールドワーク研究の古典的名著『予言がはずれるとき (When Prophecy Fai
この文章は、アメリカン・サイエンティスト誌の元編集長ジョン・レニー氏が、2010年11月にIEEE Spectrumのサイト上で発表したエッセイ"Ray Kurzweil’s Slippery Futurism"の翻訳です。 レイ・カーツワイルのあいまいな未来予測 今日、もしも自分のコンピュータを探して見つけられなかったとしても、パニクらないでほしい。それは、テクノロジーの専門家であるレイ・カーツワイルが予測していたことであり、今年[訳注:2010年]コンピュータは小型化により消滅するとされている。2005年2月に、彼がTEDのカンファレンスで述べていた通りである。 2010年までには、コンピュータは消えるだろう。コンピュータはとても小さくなり、洋服や環境に普通に組み込まれている。映像は我々の網膜に対して直接投影され、完全没入型のバーチャルリアリティ、強化現実 (オーグメンテッド・リアリテ
全脳エミュレーションの時代(上):人工超知能EMが支配する世界の全貌 作者: ロビン・ハンソン,井上智洋,小坂恵理 出版社/メーカー: エヌティティ出版 発売日: 2018/03/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 全脳エミュレーションの時代(下):人工超知能EMが支配する世界の全貌 作者: ロビン・ハンソン,井上智洋,小坂恵理 出版社/メーカー: エヌティティ出版 発売日: 2018/03/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 著者のロビン・ハンソン氏は、現在では経済学の教授を務めていますが、物理学と哲学の修士号も持ち、ロッキード社とNASAで人工知能開発のキャリアを積んだ後、社会科学の博士号を取得したという多彩な経歴を持つ人物です。本書『全脳エミュレーションの時代 (The Age of Em: Work, Love a
以下の引用は、フューチャリストのレイ・カーツワイル氏が、1999年 (邦訳は2001年) の著書『スピリチュアルマシーン』の中で発表した、20年後 (2019年) の将来予測です。 予測の評価結果は、以下の記事をご覧ください。 コンピュータ コンピュータはほとんど目に見えない。壁、テーブル、机、椅子、衣類、宝石、そして身体など、いたるところに組み込まれている。 人々はごく普通にメガネやコンタクトレンズに組み込まれた三次元ディスプレイを使用している。この「ダイレクト・アイ・ディスプレイ」はきわめてリアルな仮想環境をつくり出し、それを「現実の」環境上に投影する。このディスプレイ技術は、人間の網膜に直接イメージを投影するものだ。そのイメージは、人間の視覚感度の限界を超えるぐらい高品位なため、視覚障害の有無とは関係なく広く利用されている。 ダイレクト・アイ・ディスプレイには、つぎの3つのモードがあ
カーツワイル氏は、20年後には人類の平均寿命は100歳を超え、30年後には120歳を超えると主張しています。 ただし、これは1999年の『スピリチュアル・マシーン』の中の予測です。つまり、ここで言われている「20年後」は2019年、「30年後」とは2029年を意味しています。2018年現在の平均寿命を確認してみれば、先進国に限っても85歳程度に留まっており、近い将来において平均寿命が10年単位で伸びる合理的な理由を想像することはできません。 そして、カーツワイル氏は、更に大胆に「10年以内に、人間の余命は1年ごとに1年以上延長され、死は遠ざかっていくと信じている。」と発言しています。 これは、2002年の発言です *1。既にこの発言から15年以上経過していますが、裕福な先進国、あるいはもっと小規模で健康的な集団を考えてみても「1年間に余命が1年以上伸びていく」という現象は観察できません。
この記事は、ロドニー・ブルックス氏が自身のブログで発表した記事、"My dated predictions"の抄訳です。文意の変わらない範囲で意訳および省略、要約している部分があります。原文もご覧ください。 目次 私の将来予測 予測のルール 簡単なことと困難なこと テクノロジーの採用について 「常に想像よりも長い時間がかかる」ということについて 自動運転車に関する予測 ロボット、AIとMLに関する予測 宇宙旅行に関する予測 私の将来予測 あらゆる新しいテクノロジーには、人類にとってどの程度良いものになるのか、または悪いものになるのかという予測が付きまとう。私が眼にしてきたよくある脅威は、新しいテクノロジーのコンセプトデモンストレーションの後、現実に実用化されるまでの期間が過少評価される傾向にあるということだ。私の以前の記事『AIの未来予測に関する7つの大罪』*1の中で、7番目の誤りとして指
ここまで、約7か月間(!)に渡って、主にカーツワイル氏の主張するシンギュラリティ論の根拠について検証してきました。このブログ、『シンギュラリティ教徒への論駁の書』で取り上げた論点は、非常に多岐に渡っています。けれども、私のシンギュラリティに対する懐疑論の根幹は、次の3点に要約できると考えています。 収穫加速の法則、科学技術全体が指数関数的に加速するという主張は、根拠が無い 汎用人工知能(AGI)の実現時期の見積もりは、過少である可能性が高い 仮にAGIが実現できるとしても、AGIが自身の知能を再帰的に拡大し、科学技術を高速で進歩させられるという仮定は、妥当ではない 指数関数的成長論と収穫加速の法則 もちろん、半導体のムーアの法則やゲノムシーケンシングの所要時間とコスト効率のように、ある特定の要素技術が、限られた期間において、指数関数的な (実際のところは、シグモイド関数的な) 成長を遂げる
引用元:Hubble Space Telescope Images | NASA カーツワイル氏によれば、知的生命体がシンギュリティを迎えた後、機械と融合した知性が光速ないし亜光速、もしくは超光速で宇宙へと拡大していき、宇宙が「精霊」で満たされると言われています。この「予測」は、あまり真面目に考える必要があるような主張ではないかもしれません。けれども、この予測を真剣に捉えた場合、一つの大きな問題が生じます。既にシンギュリティを迎え宇宙へ拡散していく地球外知的生命体の存在どころか、宇宙に何らかの知的生命体が存在しているという兆候が、これまでのところ一切発見されていないことです。 この宇宙には、10^24 (1𥝱、1兆x1兆) 個の恒星が存在しており、私たちの銀河系に限っても10^11 (1000億) 個の恒星が存在しています。そして、各々の恒星系にどれだけの惑星が存在するかは明確には分かっ
シンギュラリティ論においては、ひとたび人間を超える人工知能が作られると、その人工知能は自身の知能を再帰的に指数関数的に成長させるのみならず、物質的貧困や紛争といった社会のさまざまな問題までもたちどころに解決できると主張されています。 この種の根拠のない信念、すなわち、「知能の高さや思考の量のみが進歩におけるボトルネックである」という「思考主義」の考え方について、前回のエントリで検討し批判しました。 もちろん、純粋な思考力のみによっては科学研究や技術開発を進歩させることは不可能です。それだけではなく、開発されたテクノロジーを社会に展開し、テクノロジーが社会を変化させるためにも、やはり長い時間を要します。物理的な物体を置き換えるには時間とエネルギーを要し、現に存在する過去の進歩の成果が未来の進歩への障壁となるからです。 先進的なIT企業におけるプロダクト開発の事例においては、1年や1ヶ月といっ
シンギュラリティ論、特に知能爆発説のシンギュラリティ仮説においては、ひとたび人間を超える人工知能が作られると、その人工知能は自身の知能を再帰的に指数関数的に成長させることができると主張されています。 更には、その超人的人工知能は、自身の知能を指数関数的に成長させるのみならず、科学やテクノロジーの未解決問題、果ては貧困や紛争といった社会問題までもを、短期間のうちに解決することができると信じられているようです。 けれども、この信念、すなわち「進歩の障害となるものは思考力の量、あるいは知能の高さのみである」という考え方は、論理的には完全な誤りであり、ケヴィン・ケリー氏はこれに「思考主義(Thinkism)」という名前を付けています。実際のところ、科学やテクノロジーの進歩においては思考以外の要素が必要となるからです。 少し長くなりますが、ケヴィン・ケリー氏の言葉を引用します。 ガンを治す、あるいは
この文章は、Google社のソフトウェアエンジニア、機械学習研究者 François Chollet氏が、2012年にサイトSphere Engineeringのブログで公開したエッセイ "The Singularity is not coming On the speed of progress" の翻訳です。なお、原文はリンク切れのためアーカイブを用いました。 シンギュラリティは来ない もしもあなたがテクノロジーに精通しているならば、おそらくシンギュラリティのアイデア、レイ・カーツワイルやヴァーナー・ヴィンジのようなフューチャリストによって主張されている考えについて、既に出会っていることだろう。簡単に説明しておくと、我々が人間よりも賢い人工知能 (AI) を構築できるようになると、このAIは自分自身の設計を改善できるようになり、それが続くことによって、最終的には制御不能の「知能爆発」を
この文章は、Google社のソフトウェアエンジニア、機械学習研究者 François Chollet氏がサイトMedium上で公開したエッセイ "The impossibility of intelligence explosion" の翻訳です。 知能爆発の不可能性 1965年、I.J.グッドは、人工知能 (AI) に関連して、「知能爆発」に関する考えを初めて提示した。 超知能機械を、いかなる賢い人間もはるかに凌ぐ知的な機械であると仮定する。そのような機械の設計も知的活動に他ならないので、超知能機械はさらに知的な機械を設計することができるだろう。それによって、必然的に知能の爆発的発展が起こり、人類の知能は置き去りにされるだろう。ゆえに、最初の超知能機械が人類の最後の発明となる。その機械が、我々に機械を制御し続ける方法を教えてくれるほどに素直なものであると考えるならば。 数十年後、「知能爆
ナノテクノロジーについての歴史が書かれる際には、遡及的に、物理学者リチャード・ファインマンによる1959年の講演『底にはたっぷり空きがある』から始められる場合が多いようです。 けれども、概念としてのナノテクノロジーの起源はもう少し以前にまで遡り、またそこには極めて奇妙な系譜が存在しています。歴史学者・文学史家であるコリン・ミルバーン氏は、著書『Nanovision』の中で、ナノテクノロジーのアイデアは、実のところ、ファインマンの独創ではなく、既に当時サイエンス・フィクションの中に存在していた微小機械のアイデアであったと指摘しています。その他にも、漫画『銃夢』を描いた漫画家の木城ゆきと氏も、漫画の後書きの中でファインマンに対するハインラインの影響を指摘しています。 ミルバーンによれば、ナノテクノロジーのアイデアについて直接的な関連が認められるものは、ファインマンによるリモコンロボットハンドの
新薬の開発は、2329年には完全に停止します。 製薬業界の研究開発コストに対するリターンは、過去60年間、定常的に指数関数的に低下し続けてきました。シェフィールド大学物理学科教授リチャード・ジョーンズ氏によると、西暦2339年には1件の新薬開発に要するコストが (2013年時点での) 全世界のGDPを超えてしまい、新しい薬品を作ることが完全に不可能となってしまうのだそうです。 2010年までに、失敗に終わった新薬開発の費用を含めて、1つの新薬を開発するために平均で21億7,000万ドルの研究開発費用が費されていました。新薬開発の費用は、収穫加速の法則よりはむしろプランクの原理に従っており、1950年以来、1年に7.6%の割合で指数関数的に増加しています。単純計算では、9〜10年で新薬開発に要する費用が倍になるということを意味します。 もちろん、(ジョーンズ氏自身が認めている通り)、こんな外
近年のシンギュラリティに関する議論ではほとんど注目されることはありませんが、ヴァーナー・ヴィンジ氏が1993年に提唱したシンギュラリティ論においては、いわゆる汎用人工知能の発明以外にも、薬剤や遺伝子工学による人間の知能増強が、シンギュラリティを引き起こす仮説上の超知能の発生方法として提唱されていました。 近年では、CRISPR-Cas9など、生物のゲノムを人工的に操作し、人為的に意図した通りに単独の遺伝子を編集する技術が開発されています。既に2015年には、中国でヒトの受精卵に対するゲノム編集が行なわれています*1。(ただし、これは純粋な学術実験であり、妊娠・出産を目的としたものではありません) 2017年現在のゲノム編集技術からすると、明日にでもゲノム編集を受けたデザイナーベビーが妊娠中である (または既に誕生した)、というニュースがあってもおかしくありません。 もちろん、この種のゲノ
以下はイギリス、シェフィールド大学物理学科教授リチャード・ジョーンズ氏のブログ Soft Machines の記事 "Brain interfacing with Kurzweil" の翻訳です。 シンギュラリティ大学におけるレイ・カーツワイル氏のやや誇張された計画について [訳注:ジョーンズ氏の過去記事コメント欄にて] 進行中の議論において、私はもう一度彼の本『シンギュラリティは近い』を読み返すように薦められた。また、ダグラス・ホフスタッター氏のやや侮蔑的なコメント、ガーディアン紙上で公表され私も以前の記事で引用した文について、その全ての文脈を見返すようにも薦められた。ホフスタッター氏の発言は、このインタビューで読むことができる。[リンク切れ] 「それは確実で優れたアイデアと狂ったアイデアの奇妙な混合物である。まるで、素晴しい食事と犬の排泄物を混ぜ合わせ、何が良くて何が悪いものであるか見
最近のシンギュラリティに関する議論ではあまり注目されることはありませんが、カーツワイル氏は、コンピュータと人工知能の進歩のみによってシンギュラリティという事象が発生すると主張しているわけではありません。 彼がG・N・Rと呼ぶ分野、すなわち遺伝子工学 (Genetics)、ナノテクノロジー (Nanotechnology*1 ), ロボティクス (Robotics*2 ) の3つの分野が同時並行で指数関数的に発展していくことによって、人間と社会の革命的な変化が進んでいくのだと主張しています。 以前のエントリで私が指摘した通り、カーツワイル氏が主張するあらゆるテクノロジーの指数関数的成長は現在のところ実証的には観察できず、指数関数的に成長しているものは情報テクノロジーに限られています。けれども、ここでは遺伝子工学は生命を、ナノテクノロジーは物質そのものを情報テクノロジーの配下に置き、指数関数的
シンギュラリティ論における重要な論点は、ひとたび汎用人工知能が作られると、何らかの形で「超知能」が発生し、それが科学技術や社会を高速で変化させることによって、予測不能かつ断絶的な進歩が起きるという仮定です。 前回のエントリでは、主にカーツワイル氏の説である「収穫加速派」における超知能について検討しました。 今回は、残りの「事象の地平線派」および「知能爆発派」における超知能の出現について扱います。この2つの派閥に分類されるシンギュラリティ論においては、だいたい以下のようなプロセスを通して「シンギュラリティ」が到来すると主張されています。 超知能体の出現 テクノロジーの進歩により、何らかの「人間よりも優れた超知能」を持つ存在が作り出される。 超知能体による超々知能体の設計 「人間よりも優れた超知能」を持つ存在は、「自身よりも更に優れた超々知能」を設計し、作り出すことができる。 知能爆発と断絶的
シンギュラリティ論における重要な論点は、ひとたび汎用人工知能が作られると、何らかの形で「超知能」が作られ、それが科学技術や社会を高速で変化させることによって、予測不能かつ断絶的な進歩が発生する、という仮定です。 なお、この超知能に関する議論においては、以前に私が取り上げたユドコウスキー氏の分類における「事象の地平線派」および「知能爆発派」と、主にカーツワイル氏が唱える「収穫加速派」のそれぞれに対して別の議論が必要となります。 ここでは、まずカーツワイル氏の「収穫加速派」について扱います。 カーツワイル氏は「シンギュラリティ」を「生物学的な人間の脳の限界を、機械と統合された超越的な知能が超えていく点」とイメージしており、それは2045年に発生すると考えられています。 以前にも取り上げた通り、カーツワイル氏は、汎用人工知能の設計と実装について何ら具体的な方針を示していませんでした。ゆえに、20
以前の記事で、私は2種類のシンギュラリティ、すなわち人間を超える超知能が作られる時と、超知能がテクノロジーを高速かつ断絶的に発展させる時を区別しました。 私は、第一のシンギュラリティは起きてもおかしくはない (ただし時期は分からない) けれども、本来の意味でのシンギュラリティというような事象が起きることは全くありえない、と考えています。 実際のところ、いわゆる汎用人工知能、人間と同等の人工知能の実現を目指し、研究開発に従事している人であっても、同様の見方をしている人は珍しくありません。 その中の一人が、ジェフ・ホーキンス氏です。ホーキンス氏はPDA (携帯情報端末) を開発したパーム社の共同創業者ですが、現在はGoogleに所属しているほか、自身で創業した人工知能企業であるヌメンタ社の代表を務め、人工知能に関する研究開発をしています。ホーキンス氏が開発したアルゴリズム「階層型時間メモリ (
これまで何度か述べてきた通り、私は必ずしも「人間と同様の知能を持つ人工物」が不可能であるとは考えていません。けれども、人間と同様の知能を持つ「人工物」は、おそらく現在の「コンピュータ」ではなく、また、それが実現されるまでには現在想像されているよりも長い期間を要するでしょう。 これまでの人工知能研究が、なぜヒトと同等の知能を作り出せていないのかという問題は、回答が非常に難しい問題です。けれども、人間と同等の人工知能を作成するために必要であると考えられ、また、現在の人工知能研究ではあまり着目されていないと思われる点を三点挙げたいと思います。 まず、人間は後天的に得られる情報だけをもとにして学習しているわけではないということです。 精神転送に関する連載の中で、生後数日の新生児にすら人の顔を認識し識別する能力が備わっていることを示した研究を紹介しました。あるいは、母語獲得の過程において、子供が耳に
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